エルフは皆美しい! ……だってそれはそうなるべくして、そうなったのだから!(ナ、ナンダッテー!)
エルフは美しい者しかいない。
我々人間を見て見れば、皆、個性あふれる姿形、顔立ちをしている。
60億の人間がいても世界には3人程度の似た顔しかいないと言われる程、その差は大きい。
そしてそれだけ違う顔立ちには残念なことに美醜が存在する。
『昔はもっとひどい顔がいた』なんて事を耳にすることもある為、もしかすると生存戦略として美醜の醜を切り捨てる進化は続いているのかもしれないが、美醜というのは、そもそもにして清潔感の有無による印象で左右されることもある。
不衛生な状態がままあった昔であれば、それも納得で、進化の可能性と結論付けることは難しい。
人類の顔は、今をもってなおバラエティに富んでいる。
さて、では何故、人とエルフは活動が似通っているにも関わらず美しい者ばかりとされるのだろうか?
顔立ちが整っている? 清潔に保たれている? 一体何がエルフをそうさせたのか。
そうなっているからには、そうなる為の理由が存在するはず。
そう。
その理由とは……惑星に辿りついた人類がそう望んだからだった――
――我々の宇宙ではない別の宇宙。
魔素という元素を含んだこの宇宙の中、地球によく似た惑星からオーバーテクノロジーと共に旅立った人類は長い時間の後、いよいよ目的である惑星に辿りついていた。
後のなろう主転生・転移による異世界物語の舞台となる惑星上空に到着した宇宙船内は、長い沈黙から解放され、これまでに無い活気に満ちていた。
コールドスリープから目覚めた人間が宇宙船内で活動を開始していたからだ。
この宇宙船には2000人程の乗組員がいるが、まだ全員が目覚めたわけではない。
母星への連絡は毎日欠かさず行われているが、なにせ1万年という移動距離。
通信の為の光線、電磁波を発信できても返信をキャッチする事は難しい。なにせ距離が距離だけに電磁波のやり取りだけでも非常に多くの時間がかかるのだ。
故にこの宇宙船における意思決定は、人類の頭脳の集う母星の宇宙ステーションから完全に宇宙船内に移行しており、全ての主導権を握るのは宇宙船の艦長となる。
惑星をどう扱うかは、母星の上官からのコンタクトがあるまでは艦長の意思一つだ。
さて、この宇宙船の乗組員は艦長含め全員がエリートであり個人個人の性質の差はあれど規律を乱す様な人間は存在しない。
我々の地球における宇宙飛行士のように、乗組員全員があらゆるエキスパートであり品行方正。そしてなにより自分に対して自信と誇りを持っている。
惑星接近が近づきコールドスリープを解除された艦長は、まず20名の乗組員のコールドスリープを解く。
なぜここまで少数しか目覚めさせないかといえば、惑星上空到着はゴールではないのだ。第一段階のゴールではあるのだけれど新たなスタートでもある。
最終的なゴールである宇宙船の最終目標達成の為に、貴重な人員の時間を無駄にする事は出来ないからこそ、少数を目覚めさせた。なにせ最終目標達成まで、どれくらいの時間がかかるか分からないのだ。
少数である理由は他にもある。宇宙船内で人間が活動を開始すれば消費も大きくなることが上げられる。
船内栽培システムで循環可能な必要最低限の人数だけを起こし、雑事はロボットやアンドロイドを稼働させる。
だから食料の補給と目標達成が確実にならない限り全員を目覚めさせる事は無い。
さて、目覚めた20名は艦長の指示に従い行動を開始する。
後の物語の舞台となる惑星の呼称を仮に『魔素惑星A』としよう。
魔素惑星Aの衛星軌道計算し起動に乗って安定した宇宙船は、まず観測をはじめる。
X線、電磁波、紫外線、赤外線。ありとあらゆる方法で観測地点が人間が住む事のできる環境に近いかを確認する。
もちろん魔素惑星Aにとって太陽となる恒星。赤色矮星の調査も欠かすことは出来ない。
調査により人類が魔素惑星Aで、おおよそ生存できるだろう可能性を確認出来た事で静止軌道に人工衛星を置きはじめた。
これは惑星規模で、より詳細な気象観測を行う事と地表に降りた際の通信の為だ。
惑星は大規模な噴火などで地球上の生命が途絶える事も多い。だからこそ観測は惑星規模で行う必要がある。
効率的に惑星全体の把握を行い、地表、海水、植物等の生育状況から、当該惑星が活動が活発な時期を過ぎ、温暖環境に移行している事をデータから確信し、艦長は早速、調査員の派遣を実行した。もちろん母星に向けての情報発信は逐次送信している。
まず地表に投入された調査員は『ロボット』だ。即時の人員派遣は行わない。
一度地上に降下すると再度大気圏外に脱出する際に膨大なエネルギーを要する為、最悪、破棄して良い物から始める。
調査ロボットを地表に下ろし通信操作により更に詳細な外気や環境を調査する。
投下したドローン型ロボットや無限軌道型ロボットは通信衛星を有効に使い、リモートコントロールにより操作可能。逐次上がってくるデータにより調査に弾みがついた。順調にデータが集まり、調査はこのまま順調に進むかに思えた。
だが、ある日ロボットは破壊される。
惑星に強い攻撃力を持った生命体が存在したのだ。
艦長はロボットを破壊できる程の攻撃力を有した生命体が居ることを知り、まずそれの把握に取り掛かる。同時に安全と思える場所、セーフティーゾーンも探した。
基本的に食料となる物が少ない土地であれば、そこでの食物連鎖は小さな規模で終わる。
惑星規模で情報を集めている人類にとって、該当するセーフティーゾーンを探すことは比較的容易だった。
緑の辛うじて残る海に面する小さな列島を艦長はセーフティーゾーンに選定。
島々は多少の緑があり、一見して大きな生命体が居ない。
ここにコールドスリープさせていた実験用の鶏、豚、牛、猿を其々別の島々に投入。
地球由来の生物が惑星で生息できるかという実験だった。
もし生き延びる事が出来れば、おおよそ人類も生き残る事が出来るだろう。
それに繁殖に成功すれば、食し慣れた家畜の生産も可能になる。
猿については仮想人間という立ち位置だ。
人類は衛星軌道上で調査と実験を行い始めた――
――そして1年が過ぎた。
1年の時間が過ぎ、幸いな事に災害も無く、鶏、豚、牛、猿は、それぞれ投入された島で繁殖に成功していた。
もちろん野生化したが地球由来の生命であっても、この魔素惑星Aで生存し繁殖できる事を確認し生物実験での検証ができた。
だが1年もの長い時間が過ぎる事になった大きな理由は、経過観察に必要だったからではなく、魔素惑星Aにおける目立つ生物の調査があまりに盛り上がったからだ。
なにせ衛星で捕えた生物の中には恐竜にも似た存在が空を飛び口から炎を吐いたり、木に擬態する動物とも植物ともつかない生命体がいたりと調べれば調べる程これまでの常識では信じられないような生物が発見される。
「こんなのが居たよ!」
「いやいやそんなのより、こっちを見てみろよ!」
「なにこれスゴイ!」
「いやそっちもスゴイやんか!」
的な感じだ。
これまでにない新鮮な驚きに好奇心が刺激され、惑星の生命体に対する調査が捗りすぎ、気が付いたら1年経っていたのだ。
その中に、人類が殊更気になる生命体もあった。
『人型をした生命体』の存在。
この頃の『人型をした生命体』は明確に『道具』を使い、そして集団での生活を営んでいた。すなわち知性があるということ。
なにより地上2足歩行動物の収斂進化か、既に『人間』といって問題ない形を取っていた。
この発見により、宇宙船内では『魔素惑星A』における生命体の扱いについての議論が大いに活発になった。
オーバーテクノロジーを有する人類は、そこまでの技術に至る過程、知識の積み重ねにより環境保護や生態系の有り方について造詣が深い。
だが、この宇宙船の役割は『新たな地球』を『移住可能な惑星』を『多くの資源』を手にする事にある。
つまり宇宙船の人類は、侵略者なのである。
だが、人類の負の歴史遺産から現地人型生命体の虐殺などをすれば、後世に不名誉な形で名が永遠に残る事になるかもしれない事を乗組員達は理解していた。なにせ宇宙船のレコードには、はっきりと記録が残されるのだ。
乗組員は全員、不名誉の泥を被る覚悟はある。だが、それでもやはり英雄的行動をとれる選択肢があるのであれば英雄の名誉を取りたいと考えるのが人間だろう。
艦長は決断した。
「まずは人類と、魔素惑星A人でコミュニケーションをとってみよう。そして可能であれば共存共栄を図ろう」
こうして人類と魔素惑星A人の長きにわたる関係の方針が決定されたのだ。
さて、この魔素惑星A人とされる生命体には、その分布地域によりそれぞれ大きく違う特徴があった。
森林地域に生息する魔素惑星A人は、日陰を好み隠れるように罠を張って獲物をしとめ、ひっそりと静かに暮らした。食用植物の栽培にも着手し始めていた。
熱帯付近に生息する魔素惑星A人は、狩りをよく行い、その強い日差しから身を守る為、肌の色が濃かった。
荒野や岩石の目立つ地域に生息する魔素惑星A人は、穴の中で生活を営んでおり低身長の者が多かった。
寒冷地域に生息する魔素惑星A人は、その身から毛皮を手放すことが無かった。
そう。
後のエルフ、ダークエルフ、ドワーフ、そして獣人の祖先達である。
人型の知的生命体。そして人類が屋外活動可能な惑星といった大きな好奇心の後押しにより、宇宙船人類はいよいよ衛星軌道から人間を魔素惑星Aに投入を始めた。
幸いな事に魔素惑星A人は、場所によって農耕を始めている所もあり文化生活を営んでおり、接触を計る事は可能なはずだ。
宇宙船の人類は様々な観測と、これまでに貯えた知恵から知識を得ているが、この魔素惑星Aは未だ未知の惑星。その魔素惑星Aで、魔素惑星A人達は経験から生き抜く知恵を得ている。つまり生きる星の羅針盤だ。接触できて初めて得られる知恵も多い。
各地方にいる魔素惑星A人の付近を選び、其々の地域に人類を5人ずつ投入し、魔素惑星Aに降り立った人類は合計で20人。全員が決死隊を覚悟したエリートだ。
もちろん人員だけではなく滞在の為の食料やアンドロイド、ロボットに車両、太陽光発電装置、様々な機材や、鶏、豚といった家畜、沢山の物も一緒に比較的安全な地帯に降り立った。
人類は早速その場で基地を作り始める。
魔素惑星に人類の拠点『家』が完成し、生活が始まった記念すべき日だ。
拠点での生活が始まると、その影響は広まる。
なにせ通信衛星による警戒網等もあり、外敵が現れた場合は射撃による威嚇を行う。
夜も電気を利用した明かりが灯り非常に目立つ。
当然のように魔素惑星A人達も人類の存在を知るところとなり、とうとう人類と魔素惑星A人は接触した。
だが、それぞれの地域における人類と魔素惑星A人のファーストコンタクトは最悪の形となった。
魔素惑星A人は射撃できる武器の存在を知らず、そして人類もまた魔法攻撃を目にするのが初めてだった。
お互いに似ている姿ではあるが、言語体系は全く異なる。コミュニケーションを取る事が出来ない。
身振り手振りをつかってボディランゲージや、餌付けに使えそうな甘い菓子などを使うのだが、簡易な戦闘が起きてしまった。
人類のオーバーテクノロジーを利用した防御は強固。だが初めてリアルに目にする魔法という脅威。殺傷の意思はなくとも威嚇攻撃は強力な物となった。
人類の力を目の当たりにした魔素惑星A人達は、即座に人類が竜などの近づくべきではない存在であると認識し距離を取りはじめ去ってゆく。
この頃の常識は危ない物には近づくな。逃げろ。だ。
不本意な結果となってしまった人類は方針を転換し魔素惑星A人を捕獲して研究する事にした。
さて、森林地域に生息する魔素惑星A人の捕獲について陣頭指揮を執った者が居た。
彼の名は『サン・ドノ・メシヨ・リエルフスキー』
彼の指揮を切っ掛けにエルフの祖先達は進化の舵を切る事になったのだ。
魔素惑星A人の分類『エルフ』には『サン・ドノ・メシヨ・リエルフスキー』が非常好ましく思う姿をしている者があった。
この時代のエルフには多種多様なエルフが存在していた。顔が違ったのだ。
彼はその中の好ましいと感じるエルフだけを丁寧に捕獲。そして保護した。さらに潤滑なコミュニケーションを取るべく教育まで施した。
この捕獲を通して、エルフはやがて自分達にとって人類は便利な存在であると理解し、生存戦略として利用する事にしたのだ。
そう。
我々地球人に理解しやすいように例えるならば、人間と狼の関係が近いだろう。
我々の宇宙の昔の地球には犬はいなかった。存在したのは狼だけだ。
その狼の中で人と共に歩むようになり、人の好む姿に改良された種が犬へと変化したのだ。
犬はその犬種ごとにどれも似た様な特徴を持ち、そしてその見た目の差は僅かだ。
エルフは、男女問わず見目麗しい者が捕獲の対象となった。
なにせ『サン・ドノ・メシヨ・リエルフスキー』が自分の好みのエルフばかりを保護しているのだ。他の人類だって自分の好みに近しいエルフを捕獲する。
どうせならイケメンや美女を眺め、教育したいと思うのは人情だ。
この動きはエルフの居た森林地域だけではなく、熱帯付近に居たダークエルフ。荒野や岩石の目立つ地域に生息したドワーフ。そして寒冷地域の獣人全てが同じ方策を執った。
ちなみに、熱帯付近の陣頭指揮を執ったのは『カッショ・クマジ・サイコー』
岩石地域は『ロ・リシ・コウ』、寒冷地域は『ケ・モナー』という名の人類だ。
こうして、人類の手厚い保護を受けたエルフ、ダークエルフ、ドワーフ、獣人は種としての生存戦略としてその特徴を引き継いだのだ。
そして人類を避けた同種達は人類を避け続け、緩やかにその数を減らし、最後の時まで避け続けた。
こうして各拠点において、人類を頂点とした魔素惑星A人達の生活基盤は築かれていった。
艦長は人類の惑星定着に大きな一歩を踏み出した事を確認し、数年は魔素惑星A人達と人類のお互いを知る為の時間が必要になるだろうと考え、その時が来るまでコールドスリープに着く事にした。
そして5年の月日が過ぎた時、宇宙船内を揺るがす事件が発覚した――




