第三十五話 その考え方はとても素敵だと私は思いますよ
「ほ、焔っ!? お前もう起き上がって来ても大丈夫なのか!?」
意識が戻り完全に目が覚めて、こちらにやって来た赤崎君。どうにか一人でも歩けている程の体調であり、その後ろにはいつでも補助を行えるようにと職員も着いて来ている。
思っていたよりも症状が軽くて、僕は内心どこかで良かったと安堵している。萌黄君が誰よりも早くに赤崎君に駆け寄り無事を確認している。
「ああ、目が覚めてこっちに来る途中に、部屋の方にも俺が気を失った原因の一部が聞こえていた。知らなかったとは言え俺がそうしろって頼んだんだ、お前が悪い訳じゃ無い、彰」
僕が行った説明を聞いて、萌黄君はどこか追い詰められた表情をしていたのが、赤崎君の言葉を聞いてそれもようやく晴れていく。
そして赤崎君はそのままゆっくりと支部長の前まで近づいて来る。
「今回の件、俺達が不用意な行動に出てしまったから、日和さんはやむを得ず自分の知っている情報を明かす事になったんです。ならば今は別の理由で問い詰めるべきでは無いです」
「うむ……そうではあるのだがね……赤崎君が起き上がって来た以上、君までそういうのならば私も何も明かさないままでは、この件で動く事は出来ないか」
自らの意思を払おうと首を振りながら納得する支部長。そこに赤崎君が続けざまに話す。
「それに日和さんは回復能力者です。更にはこことは違う場所から引っ越して来たんですよ。命に関わる事案についてなら、ヒーローの情報網とは違う情報の集め方があるのかもしれません」
「それならば詳細を言えない事情を含めて、強化付与の能力の事を知っていたという説明が付くと? そう思わせるような出来事が、日和君と共に過ごして来てあったというのかね?」
思い詰めた表情から立て直すものの、その話を聞いて今度は訝しげな顔になる支部長。そこに、直近の出来事で思い当たる節があるのか、桔梗院さんと桃瀬さんが話に加わる。
「どれ程納得させられるのかはわかりませんが、先週わたくしの家が経営しているアミューズメント施設のゲームセンターにて、日和さんは勝負の一つとして用意していたクイズゲームで難問のみを正答しておりましたわ」
「そう、そうですよ! 桔梗院さんも集計が終わった後に知識に偏りがあるって驚いてましたし、命に関わるって理由なら、勉強熱心な日和さんなら多少は知っていても変じゃありません」
二人の熱の篭った説明に、これには支部長も流石に押されてしまう。
「な、成程……日和君がどういう子かは、桃瀬君も普段から積極的に報告してくれているようではあるし、桔梗院君の実家が経営しているという施設なら、その難問がどのレベルの物かも把握済みか……」
土曜日に遊びに行った事を思い返し、問題を解いている時は意地悪な問題ばかりだと僕は思っていたが、桔梗院さんの反応を見る限り想像以上に難しい物だっただろう。支部長に向かって彼女達は頷いている。
皆からの説得を受け、深く息を吐いて支部長にもようやく落ち着いて貰えた。
二十年前に一体何が起きたのかは全く知らないけれど、元Sクラスのヒーローですら様子がおかしくなってしまう程の事なのだから、余程壮絶な事情なのだろう。
落ち着いた支部長は、僕に面と向かって頭を下げて来る。
「民間人である日和君相手に、個人的な都合を押し付けようとして申し訳ない。何の心構えもさせず何の確証も取らずに、こちらの事情も話さないまま一方的過ぎた」
「いえ……突然肩を掴まれた時は驚いてしまいましたけれど、何か大きな事情があるのは伝わりました。その出来事と私の生まれが関わりがあるかもしれないのは気になりますが、その事を知るのにも今はまだ時間を頂けませんか?」
こんな事、余りにも大きな出来事過ぎて僕一人だけではとても判断が追い付かない。もしかしたらレオ様達は僕の生まれの事情を知っていて、それで孤児院から引き取ったのかもしれない。
でも、レオ様も二十年も昔の頃はまだ幼かった筈だ。四天王の中で唯一の獣人であるウルフさんの正確な年齢はわからないけれど、見た目的には皆そう歳は離れていないような雰囲気を感じる。
こうなると会議で報告と相談を行い、一度シャドウレコードで把握している情報を教えて貰う必要がありそうだ。当事者であるピースアライアンスに直接教えて貰う方が正確なのだけれど、僕にはまだそれを聞く度胸も無く、一人だけでは心が耐えられる内容なのかすらもわからない。
それらを考えて、僕がその事を知るにはまだ時間が欲しいと正直に伝えると、頭を上げた支部長はどこか気を引き締めたかのような表情をしていた。
「ああ、了解した……今は君が知ろうとしてくれている意思を示して貰えただけでも有難い。もし、話を聞く心構えが出来たのなら、一度ガンバルンジャーにその旨を伝えて欲しい」
そう言って支部長は赤崎君達に一人ずつ目線を向け、改めて僕を見つめて来る。
「昔の話を日和君に伝える際には、護衛役を務めるガンバルンジャーも知る必要があると私は考えている。この件は君達も覚えていてくれたまえ」
「おいおい、ちょっと待って下さいよ支部長! その話の流れで思い出したが、俺達は仲間外れなのかよ!?」
「いや、前もって勝敗関係無く彼女達の護衛役にガンバルンジャーは外さないって言われてたし」
支部長が言い放った護衛役という言葉を聞いて、今まで静かに話を聞いていた景志さんが声をあげ、その横にいた千里さんが彼を抑えるかのようにため息を吐くのだった。
「その後の模擬戦で二人共一撃で倒されてるんじゃ、どこに選ばれる要素があるんだ?」
「な、何を言うか千里!? お前はどっちの味方なんだ! 赤崎達が勝てたのは、良くわからんが危険な強化付与の真似事をした結果なんだろ! もう一度戦えばそれが無い分俺達だってもっとやれる筈だ!」
「鈴斗……お前は確か体力は満タンだったのに、萌黄の攻撃一発で倒れたよな?」
慌てて鈴斗さんが景志さんの擁護に回るのだけれど、呆れた表情の千里さんに簡潔に結果を言い放たれてしまうと押し黙ってしまう。
「雷攻撃は風で動きを強化しても避け切れなかった速さだから、真っ先にお前を攻撃して、その後赤崎を攻撃しようとする景志を捕まえてからそのまま倒す手段もあった筈だぞ?」
「そ、それも理解した上で目くらましで萌黄も纏めて封じただろっ!? 俺達だって対策した!」
「いつもお前等がやってる趣味の悪い後輩いびりだな。身体を汚されても動じなかった所か、逆に大物の名前を出されて、それすらも止めて挑発に乗せられた時点で負ける運命だったんだよ」
青峰先輩も言っていた通り、敢えてウルフさんの名前を出されてその挑発に乗り、全力を出してしまったと千里さんも同様の考えを述べている。
「というかお前、景志の強化に能力の大半を使って何も出来ない所を、目くらましの中から攻撃されてただろ。大声出したら大体の位置は特定されるのに、隠れる場所が無いのはお前も同じだったって事忘れて無いか?」
千里さんの指摘に、鈴斗さんは沈黙してしまい、景志さんも反論出来る余地が無く静かになってしまう。その光景に僕は呆気に取られてしまい、桃瀬さんも意外な物を見ているのか驚いていた。
「せ、千里さんっていつもは勢いに押されてる印象だったけど、こういう時には二人に強いのね……」
「まあ、普段は訳わかんない持論を展開されるけど、戦闘となったらそうはいかないでしょ。今の戦術も二人が考えた合体技を、俺がどうにか実用出来るようにしたからな」
そう言って千里さんは、スペースから少し離れた所に設置されてある椅子まで移動して座り込む。医務室へ入る前の景志さん達との会話からして、彼等の戦い方にも思う所があったようで、わざわざ僕達に関わらないように自分から距離を取る行動で、彼なりに配慮している感じがした。
自分の言いたい事は全て言ったという様子の千里さんに代わり、今度は模擬戦が始まる前の雰囲気に戻った支部長が景志さん達に話し掛ける。
「今回の護衛に関する件だがね、先程の日和君とガンバルンジャーとの会話で、問題に直面した時にどう乗り越えられるのかという面で見た場合、お互いにある程度の信頼関係を構築出来ていると私は判断した」
「そ、それが、どうしたって言うんですか? 信頼関係なら、俺達だってこれから日和さん達と仲良くしたいって結構アピールしてたじゃないっすか」
景志さんが信頼関係について反論すると、支部長は少し困った風な顔をしている。
「追加の護衛役として考えていた君達が信頼関係を築く必要があるのは、ガンバルンジャー相手にもなのだよ」
「うっ……涼芽ちゃんだけなら良いけど、赤崎達ともかよ……」
「彼等は選んだ手段こそ適切では無かったが、君達の戦術を熟知して人となりを知ろうとしていた節が見られる。君も模擬戦で最後は赤崎君に意識が向いていたと千里君が言っていたが、今はどうかね?」
「空を飛んで来た事が気に入らねえし、腹に一撃入れられてそれでやられる俺自身も気に入らねえ。勝った事は認めてやるが、あんな方法じゃ、俺が実力で完全に負けたとは思いたくないな」
支部長に心境について問われ、景志さんは思っている事を正直に告白する。納得出来ていなかったのは赤崎君も同様であり、起きたばかりの身体でゆっくりと近付いていく。
「俺もこんなロクに検証もせずに、彰を落ち込ませ日和さんにまで心配をかけてしまった今回の勝負には納得がいってない。再戦の機会があればまた受けて立つつもりだ」
「おぉう? フラフラの癖に随分と強がるじゃねえか。当たり前だ、次はこっちが新しい合体技を編み出してお前らを一撃で倒してやる!」
お互いに真剣な顔を向けて、あっさりと再戦を誓い合うのだった。そんな意気込む二人の間に支部長が割って入り、それぞれに注意事項を話していく。
「まずは景志君からにしようか、今の所、有事の際には護衛の協力を申し出る候補としては最有力ではあるが、正式に護衛任務に就きたいのなら桃瀬君以外の子とも仲良くしたまえ」
「それは、赤崎達が完全に俺達三人を唸らせる実力を見せてくれれば考えてみますよ。こっちも伊達にAクラスのヒーローをやってる訳じゃないんで、先輩としてのプライドもあるんですよ」
「ふむ、それは理解出来るがね……君達も先輩として尊敬されたいなら、相応の立ち振る舞いを覚えるべきではあると、私はそう思うよ」
支部長が困ったように苦笑し最後に一言を加えると、図星を突かれた景志さんはバツが悪そうな顔になる。その表情を見てから支部長はそのまま今度は赤崎君の方を向くのだった。
「次は赤崎君だな。皆、十分反省も後悔もしているようではあるが、私からも改めて今回の強化付与は二度と使用すべきではないと命令をしておこうか」
「は、はい。リスクがあるとわかった以上、日和さんを悲しませる訳にもいきませんから、今後は絶対に使用は考えません」
「うむ、それと君達にはどう見えているかはわからないが、風見君達のチームワークは本物だ。事実、ここの支部の中でも現状は彼等がその分野ではトップになる」
支部長が赤崎君に向けて風見三兄弟のチームワークの良さを説明する。その評価だけで、ガンバルンジャー全員の顔がハッとなったような気がした。そして、突然褒められた景志さんも驚いた顔になっている。
「本部のヒーロー達でもここまでの練度の高さを持っているのはそうはいないと、私は考えている。君達はいずれ更なる昇格を目指せる程の実力者だ。期待しているよ」
支部長からの評価を受けて、二人は気を引き締めた顔をして大きな声で返事をする。
元Sクラスのヒーローだった人が、きちんと見て来た上でそれ程の判断をしたという事実に、僕は支部長の目利きと、シャドウレコードへの脅威になり得る存在だとレオ様達の判断が合ってしまった事に内心驚いてしまう。
模擬戦を観戦していた職員達はガンバルンジャーの実力をあまり把握出来ていなかった為か、その評価に、どういう訳か見ている人はちゃんと見ていたのだなという安堵してしまっている気持ちと、報告するべき懸念事項が増えてしまったという思考が、同時に湧きあがり僕は混乱してしまいそうになる。
混乱する自分の感情に戸惑ってしまい、ふと赤崎君を見つめてしまうと、彼の様子が少しおかしいと気が付く。急いで近寄ると、赤崎君はふらついてしまい今にも倒れそうになっていた。
「あ、赤崎君っ、大丈夫ですか!?」
倒れてしまわないように、僕は慌てて赤崎君の肩を支えようとすると一気に体重が掛かって来て、僕ごと床に倒れ込んでしまいそうになる。
そうならない為にどうにか耐えていると、そこにすかさず桃瀬さんが赤崎君のもう片方の肩を支えてくれて、力強く引っ張ってくれたので二人掛かりでどうにかする事が出来た。
「ちょっと! 焔、しっかりしなさいよ!? 日和さん一人じゃ、アンタの体重に耐えられる訳無い位わかるでしょ!」
「す、すまない涼芽……気を引き締めたら、途端に力が抜けちまって……頭じゃわかってても身体が怠くなって」
「おいっ! 何やってんだ赤崎の奴!? 日和さんだけじゃなくて涼芽ちゃんにまであんなに密着して貰って、アイツわざとじゃないんだよな!?」
赤崎君が突然倒れ込みそうになった事態に、景志さんが騒いでしまっている。最初に支えた僕がこの力の抜け具合はただ事では無いと感じたので、決して故意では無い事を伝えると、突如景志さんは床にあおむけに寝そべり始めた。
「あー、やべぇー。何か俺も急に力が抜けちまったよぉー。日和さーん、涼芽ちゃーん。俺も起こして欲しいなー」
倒れることは無く床に腰を下ろしていたり、頭を打ち付けないようにゆっくりとした動作で床に寝そべっていたので、どういう訳か意図がわからず景志さんに尋ねようとしたら、先に千里さんが両足を掴んでそのまま引きずり始めるのだった。
「あっ!? じょ、冗談だって千里! 二人に支えて貰ってる赤崎が羨ましかったんだよぉ! わ、悪かったって、だから引きずるのはやめろおおおおおおっ!?」
「アホが。さっき支部長にも立ち振る舞いを覚えろって言われたばかりじゃねえか……お前は今日、これ以上日和さん達に関わるな。流石にやって良い事と悪い事位考えろよ」
「ちょっ!? 無表情で怒んなって! 俺が悪かったって言ってるだろぉ!? わかったから、立ち振る舞いも直すし、頼むからみっともなく引きずるのだけはやめてくれよぉおおおおっ……!?」
謝ろうとする景志さんを無視して、千里さんは終始無言になり彼を引きずり続けていく。その姿はどんどんと遠ざかっていき、廊下の角を曲がっていき完全に見えなくなってしまう。
これが彼等の普段の姿なのだろうかと僕は考えていると、職員に声を掛けられ正気に戻る。
「あちゃぁ……千里君完全に怒っちゃってるよあれは……風見君達三人は私が様子を見るから、こんな事を頼むのは申し訳無いんだけど、日和さんは赤崎君の方をお願いしちゃって良いかな?」
「は、はい、わかりました。このまま赤崎君が寝ていた部屋まで彼を送ります。その後はどうすれば良いでしょうか?」
「ベッドに寝かせてあげたら、少し程度なら皆でお話位はしても良いからね? そのまま部屋から出ちゃうのは赤崎君も寂しいだろうし、今は励ましてあげて欲しいかな」
職員の説明に、頷きながら返事を返すと、彼女はそのまま鈴斗さんと一緒に景志さん達を追いかけに行く。
僕と桃瀬さんは、赤崎君を支えて言われた通り寝ていた部屋まで連れて行く事にする。移動する前に支える役を変わろうかと先輩に尋ねられるけれど、そこまで遠い距離でも無いので僕はどうしても自分で送って行きたいと思ってしまい、桃瀬さんにも無理を通して付き合って貰うのだった。
◆◇◆
赤崎君を部屋の中まで連れて行き、先輩達にも手伝って貰ってベッドにも寝かせる事が出来た。そのすぐ後に、支部長は模擬戦の事後処理があると言って竹崎さんを連れて医務室から退出して行く。
ベッドで横になった赤崎君がガンバルンジャーの皆と、今後についての軽い話をしているのを部屋の隅っこで見ていると、少しして話が終わったのか先輩達は離れていき桃瀬さんは僕の側まで近づいて来る。
「お話の方はもう済んだのですか、桃瀬さん?」
「うん、私達が今するべき話はある程度済んだかなー? と言う訳で、最後は日和さんの番よ!」
普段見せてくれる笑顔になった桃瀬さんが、ポンっと僕の肩を叩いて来る。いつの間にか桔梗院さんも側にいて、その顔は何だか興奮しているみたいだった。
「ど、どうしたんですか? 二人共、何でそんなに楽しそうにしているので……?」
「どうしたもありませんわ! 日和さん、ここからが貴女の頑張り所なのですから、もっと気合を入れませんと!」
「が、頑張りっ……!? え、えっと、確かに励ましてあげてと職員さんからも頼まれましたけれど……」
「うっふふ、まあ、日和さんにはいきなりは無理そうだろうけど、焔が寝ちゃう前にお話位はちゃんとしてあげて欲しいかなって。アイツとは朝から色々あったんだし、言いたい事があるならここで言ってあげてね?」
最後に二人に頑張れと言われて、桃瀬さん達は医務室の外で待たせている南野さん達と合流して、皆でガンバルンジャーの専用階に向かうと言って部屋を出るのだった。
十分に赤崎君と話をして、彼が眠りそうになったら迎えに来るから連絡してと、別れ際に桃瀬さんから言われる。
そうして、今この部屋にいるのは僕と赤崎君の二人だけとなるのだった。
僕は部屋に用意されてある椅子を赤崎君の側まで持って来て、そこに座る。今朝から色々と話す事はあったけれど、一体どの話からすれば良いのか僕は悩んでしまい、言葉が出てこない。
少しの間沈黙が続いていき向こうもそうなのだろうかと、何か話題を振るべきかと赤崎君の方に顔を向けると、顔を赤くして何かを言い淀む赤崎君の姿があった。
「ど、どうしたんですか赤崎君? 顔が赤くなっていますよ!? 何か容態が変わりましたか!?」
顔を赤くする赤崎君を見て、どこか身体の調子が悪くなったのだろうかと思い、僕は職員を呼ぶべきか迷っていると、誰も呼ばなくても良いと止められてしまう。
「日和さん、こ、これは、体調が悪いとかじゃないんだ……アイツ等から二人きりにされるとか聞いて無かったから……」
「そ、そうでしたか……もし、急に身体のどこかが痛み出したらすぐに言って下さいね。その、二人きりの今なら、私も回復能力で診てあげられますから」
どう励ましたら赤崎君に喜んで貰えるのかがわからないので、僕はとりあえず、どこか調子が悪い所が無いか尋ね、いつでも回復能力も使えるのだと提案してみる。
「それは大丈夫だ。ここはヒーロー支部の医務室だから、俺が寝ている間に必要な処置は済んでる筈だと思う」
「あっ……そ、それもそうでしたね……職員さんも色々とやっていたと言っていましたし、あ、あはは……」
赤崎君からやんわりとそれはしなくても良いと言われてしまう。僕もそう言った後で、果たしてこれは励ますという行為とは違うのでは無いのかと感じ始め、なんだか顔が熱くなって来る。
「ははっ、今回は痛みを堪えて強がる余裕も無く倒れてしまったからな……ひ、日和さんっ! そ、その、今回の件は涼芽や桔梗院含めた三人に黙ってて悪かった……! ごめんっ!」
突然赤崎君から頭を下げられる。桃瀬さん達は既に部屋から退出してしまっている為、その事で僕だけに頭を下げられてもと困ってしまう。
「赤崎君、その事は私一人に謝られても困ります。ですが、黙っていたのは全部私達の事を考えてくれていたのだと、私を含めた桃瀬さんも桔梗院さんもそう信じています。体調が戻ったら、二人にもそうしてあげて下さい」
「わ、わかった。……そうか、三人は俺達の事をそこまで怒っていないのか……こう言っては何だけどさ、それを教えてくれてありがとう。頭のもやもやが晴れた気分で凄く楽になれたよ、身体の調子が戻ったら絶対にそうする」
赤崎君が頭を上げて僕にお礼を言ってくる。その顔はいつもより穏やかな顔をしていると感じられ、僕も自然と微笑んでしまう。
そうしていると、赤崎君の顔も赤く無くなっていて、僕も顔の熱さを感じなくなっていた。
二人して落ち着いて来ると、今度は僕はあれこれと赤崎君に尋ねてしまいたくなってしまう。でも、今の赤崎君に色んな事を聞くのは体力的に辛いと思われる。
折角起きられる程に回復したのに、ここで無理をさせてまた寝込むような事にはしたくは無い。なので、僕が一番聞いておきたい事を尋ねる事にした。すると恥ずかしさとは違う感情が押し寄せて来て、なぜだか胸の鼓動が早くなる。
「あの、赤崎君。今から私が尋ねる事に答えられるようでしたら答えてくれますか? どうしても貴方に聞いておきたい事があるんです」
「ああ、わかった。聞かれて俺が言える事なら」
僕に対して、力強く頷いてくれる赤崎君。僕はそれに息を呑んで、決心した事を話していく。
「私が赤崎君に尋ねておきたい事は、その、孤児院での事なんです……私はいつも虐められていて、泣いていた時に側にいてくれた男の子の事で赤崎君に聞きたい事があるんです。答えてくれますか……?」
僕は鼓動が早くなる胸を押さえつつ、赤崎君に質問する。大切な思い出の中にいるホムラ君と目の前にいる赤崎 焔君は何か関係があるのでは無いのかと、ずっと思い悩んでしまっている。
頭の中ではそうであって欲しいと既に思っていて、それさえわかればその先にある謎の感情に対しての答えになるのでは、とすら考えている。
もしかしたら二人きりの今なら何か教えてくれるのでは無いのかと、淡い期待を寄せて赤崎君の顔を見つめるのだけれど、どういう訳か彼の顔はとても辛そうな顔をしていた。
「ごめん、日和さん……それは、今は言う資格が俺の中には無いんだ……」
「資格……資格って何ですか……? そ、それだけでは私にはわかりません……」
資格とは一体何なのか、僕は赤崎君のその言葉の意味がわからず頭が真っ白になってしまう。
その資格が何なのかをどう尋ねたら良いのかわからないけれど、悔しそうにベッドのシーツを握り締めて震えている赤崎君を見ると、正直に言いたく無くてはぐらかしているようにはとても見えなくて、僕はいつの間にかその手をそっと両手で包むように握っていた。
僕の手が彼の手に触れると、すぐに震えは収まりシーツを握っていた手にも力が抜けて行く。
「本当にごめん……日和さん……危険な事だと知らずに、いけると思って強行した作戦で日和さんを悲しませてしまった俺には、今はまだ何も言う資格が無いんだ……」
「赤崎君……いえ、私の方こそ自分の感情だけを優先して、赤崎君が何に思い悩んでいるのか知らずに、答えを知ろうと求め過ぎてしまっていました」
「もっと、もっとさ、俺の中で自信がついて人間として立派になれたら、堂々と胸を張れるようになれたらさ、その時が来たって言えるようになれたらきちんと答えるから、今はまだこれ位しか言えないんだ」
落ち着いた赤崎君は、僕に今は何も言えないのだと謝罪をした後、僕の方に顔を向けてもっと自信が付いたら言えるようになれると答えてくれた。
具体的な答えでは無いのだけれど、僕を見つめるその目はとても真剣な物であり、既にヒーローとして大成していて将来性も支部長に見込まれている赤崎君に、ヒーローでは無く人間としてなのかと思ってしまうと、どうしてだろうかその答えが何だか良い物に感じて微笑んでしまう。
「ヒーローとしては既に立派ですけれど、人間としてなんですか……その考え方はとても素敵だと私は思いますよ。それなら私も赤崎君に釣り合うように立派な人物になる努力をしませんとね」
「いや、俺としては日和さんに釣り合うような人間に成長したいっていう思いなんだけどな。既に日和さんは立派な人間だよ。涼芽がお姫様って呼んで入れ込む程には」
ここに来てお姫様が来るとは……
僕からして見ればその肩書きとは程遠い存在であった筈なのに、それが今の僕を一言で言い表す表現になってしまうだなんて。
「立派というにはまだまだ私にも不出来な所だってありますよ? 一人で出来ない事なんてそれこそ山のようにありますし、いつも周りの人達に助けて貰わないと何も出来ませんから」
「そう自覚して周りに感謝出来るだけ既に立派だよ。俺も、出来ない事だらけなのは今が正にそうだな。一人でこの部屋に戻る事すら出来なかった訳だからな」
そう言って赤崎君は自分が言った事で笑い始める。自虐的な笑いなのかと様子を伺っていたが、どうやらそうでは無く、自分で言って面白くなってしまったようだ。
その笑い声は明るく楽しそうな物だったので、僕もそれを見て笑顔になってしまう。
「ありがとう、日和さん。他の人からすれば何を言ってるのかわからない俺の持論を、ちゃんと聞いてくれた上で素敵な物だって褒めてくれて。涼芽あたりにこんな話をすれば、Aクラスのヒーローは立派じゃ無いのかと怒られてたかもな」
「そんな事は無いと思いますよ? 桃瀬さんだって、赤崎君が真剣に思い悩んで言う言葉には、きちんと向き合ってくれる筈です」
「ああ……そうかもしれないな。そういえば、思い当たる事もあったかもな……今度謝る時に、お礼も言ってやらないと……」
そう言うと赤崎君の様子が変わっていく。またもや力が抜けていくような感じだったので、慌てて身体を支え声を掛けるが、今度の物は眠気から来るもののようだった。
「悪い、日和さん。笑ったら今度は急に眠気が来た……安心すると眠くなるって本当だったんだな……」
「わかりました、このままお休みするんですね。いつの間にか励ます事が出来たみたいで私も良かったです」
赤崎君を横にして布団を掛けてあげると、そのまま目を瞑ったと思ったらあっという間に寝息が聞こえて来る。
僕が聞きたかった事については何も変わらないままだけれど、赤崎君自身が立派な人間になれたら答えてくれると言ってくれたので、今は待つ事にした。
どうして赤崎君がそんな考えを抱く事になったのかは、僕の記憶の中では当時孤児院に、赤い髪で赤い目をした男の子なんていなかった事が、恐らくの理由なのだろうと考える。
「赤崎君が本当にホムラ君だったなら、あの時から既に立派な人間だって、助けてくれてありがとうって言ってあげられたのになぁ……だって僕が辛かった時にずっと側にいてくれたんだよ……?」
誰も聞いていないだろうと思い、つい素の喋り方をしてしまう。一人称も僕になってしまっていて今日だけでも相当疲労が溜まっているのだと感じる。
これ以上独り言を呟かないように注意しながら、僕は鞄からメモ帳を取り出し使用していないページを手で千切り赤崎君への書き置きを残しておく事にした。再び起きて来る頃にこの部屋で僕と何を話し合ったか等、後で誰かに尋ねられた時に簡単に思い出せるように記載しておく。
強化付与の能力の後遺症で、例えば記憶が曖昧になっていてもこうして書き置きを残しておいてあげれば、赤崎君も困る事は無いと思われる。
静かに部屋を出て、医務室の職員に赤崎君が眠りに就いた事を伝えてから僕も退出する。そして、言われた通りに携帯端末で桃瀬さんに連絡を入れて迎えを待つのだった。




