第三十一話 きちんとカッコ良い所を見せてくれるのだと私達は信じていますからね
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よくわからない宣言で男子達の支持を集めていた風見三兄弟を他所に、僕達は既に食堂から離れて目的の場所である模擬戦が行われる運動場へと向かっていた。
移動する前に最後まで主張を聞いてあげなくても良いのかと僕は尋ねるが、桃瀬さんと桔梗院さんはあれ以上は付き合いきれないとうんざりした表情で、離れた所で様子を見ていた南野さん達を呼んで、目の前に人だかりが出来てそちらに意識が向かっていた景志さん達を置いて行く事にした。
移動しながら南野さん達は、彼等について桃瀬さんに尋ねている。
「いやー、凄く印象的な人達だったねぇ。同じ顔してるのにあそこまで性格が違うもんなんだねー」
「日和さん達も大変だったでしょ。今日だけでも色んなヒーロー達を見て来たけど、皆日和さん達相手だとあんな風になるんだね」
上田さんがヒーローについての感想を呟く。上は支部長から下はトレーニングルームで倒れていたヒーロー達と、僕達と一緒に色んなヒーローを見て来た彼女達は、滅多に見る事が出来ない光景に驚いていた。
「ふ、普段は皆が見て来た感じじゃ無いのよ? 日和さんと桔梗院さんにカッコいい所を見せようとして、張り切り過ぎたってだけなの、私が自慢し過ぎちゃったのかなぁ……」
「うーん、なんていうかさぁ、張り切り過ぎって部分ならまるで入学式の時のチュンちゃんみたいな感じだったね。この話支部長さんにもしたけど」
ヒーローに幻滅しないように、桃瀬さんが慌てて彼等のフォローをするのだが、それが今度は入学式の時のようだったと南野さんから改めて本人に指摘が入る。
「えっ!? う、嘘! 私もあんな風だった!? あの時はとにかく日和さんと仲良くしたいって一心だったから、周りの事あんまり意識出来ずに暴走しちゃってたんだぁ……」
「やっぱり若いと皆そうなっちゃうのかな? トレーニングルームの時もAクラスの三人も皆私達と歳が近そうな人ばかりだったから、そこはポジティブに捉えるべきかもね」
落ち込む桃瀬さんに、中島さんが建設的な意見を述べて励まそうとしている。あんまり深く追求すると桃瀬さんが模擬戦を見守るどころでは無くなってしまいそうだったので、この話はここで切り上げると丁度運動場が見えて来る。
運動場に到着すると、既に生徒達が複数人いる他に、模擬戦の場所をセッティングしている職員やトレーニングのし過ぎで倒れていたヒーロー達もいた。
「うわぁ、朝来た時も思ってたけど、改めて来てみるとやっぱりとっても広いね」
「そうだよね吉田さん。倒れてたヒーロー達も見学に来てるみたいだけど、もう動ける位には体調も回復したんだ」
僕の他にも中島さんもその事に気が付いており、気が付いていない上田さん達に聞かれてどこにいるのか教えている。
ここにいるのは数人ではあるが、シャワーで汗を流したのかさっぱりとした様子で制服にも着替えている。
回復速度に個人差があるのはヒーローも同じなのだなと思いつつも、それでもまだ疲労が残っているのか怠そうにしている姿を見て、支部長も言っていた活動への影響はどれ程の物かを考えていると、桔梗院さんに声を掛けられる。
「日和さん、彼等について何か気になる事でもあるのかしら?」
「はい、支部長さんも懸念していたように、活動への影響とはどれ程あるのでしょうか? それが少し気になってしまいまして」
「それは、まあ、わたくし達は彼等に護られている立場ですものね。ですが責任はあの方が全て自分にあるとおっしゃっていましたし、心配し過ぎるのも宜しく無いですわ」
気にし過ぎるのも良くないと桔梗院さんから言われ、僕は考えるのも程々に止め上田さん達と一緒に周りを眺める事にする。見覚えのある人影が混じっている事に気が付いた桃瀬さんが、途端に表情を変えて一人歩き出していく。
僕達も慌てて追いかけると、そこには竹崎さんの姿があり、作業を中断して一息ついて休もうとしていた彼はすぐ側に僕達が来ている事に気が付くと、桃瀬さんを見て驚くのだった。
「見つけたわよ! 竹崎さん! 土曜日にアイツ等とコソコソと話してた時から、一体どういうつもりだったのかきちんと説明してよね!」
「桃ちゃん!? ど、どういうつもりって言うのは一体何の話の事だ……?」
「とぼけないで下さい! 私、支部長から説明されるまで今日の模擬戦の事全く知らなかったんだから! 関わっていないなんて言わせませんよ!」
桃瀬さんからの急な追及に、何の話かと慌てながら尋ねてしまう竹崎さん。その様子がまるでとぼけられているかのように感じたのか、ムッとした顔になりながら桃瀬さんの勢いは更に増していく。
しどろもどろになってしまう竹崎さんに、尚も桃瀬さんは機嫌を悪くしていく所に、声が聞こえたのか青峰先輩と林田先輩が急いで駆けつけて来て制止に入る。
「落ち着け涼芽、今回の件は確かに竹崎さんにも相談に乗って貰ったが、最終的にお前に何も説明しない方が良いと判断したのは俺達だ」
「だからって、私が何も気が付かないとでも思ってたの? せめて言えない事があるなら言えないって教えてほしかったわよ! こんな仲間外れにする事なんてないでしょ!」
ガンバルンジャーの今後に関わる事情でもある話なだけに、桃瀬さんは仲間外れにされたと感じて青峰先輩に怒りをぶつけていく。
先輩達はその事に申し訳無さそうな表情をしながらも、どうしてそうしたのかを桃瀬さんに説明していく。
「すまない涼芽……まずはお前に謝るべきだったな。今回の件を知れば、日和さんと桔梗院さんと仲良くしているお前には、絶対に悪影響が出ると思ったんだ」
「そ、それは、その通りかもしれないけど……ホントにそれだけの理由で黙っていたって言うの?」
「それもあるが、風見さん達は涼芽の事も狙っている節があると竹崎さんから聞かされてね。しょっちゅうちょっかいをかけられているようだから、それが主な理由だよ」
青峰先輩が謝罪し、隣にいる林田先輩から主だった理由はこれだと説明される。その理由を聞いて僕達も先程出会った彼等にとても強烈な印象を受けた事を思い返す。
桃瀬さんもその理由には非常に困った表情になり、直前に宣言された事もあってかある程度理由には納得をするものの、それでも腑に落ちない部分もあるようだった。
「言いたい事はわかったわよ……でも、どうして私も狙ってるの? 一応ヒーローとして結構な実績は持ってるつもりよ」
「桃ちゃんは自覚が薄いみたいだが、実際の所、若くて才能もあり容姿も優れている君も、他のヒーローからすれば日和ちゃん達同様にとても魅力的なアイドルだからな」
「ええっ!? な、何よそれ! 私アイドルだなんて柄じゃ無いんですけど!?」
竹崎さんから周囲の印象を聞かされ、流石に困惑してしまう桃瀬さん。それを聞いて上田さん達も納得してしまう。
「成程、アイドルかー、日和さんと桔梗院さんはお姫様だけど、方向性が違うってだけでチュンちゃんも十分そう呼ばれてもおかしくないレベルだしね」
「小さい頃はとっても可愛かったし、将来はそっち方面に進むのかなって私達思ってたんだけどね、ヒーローとしての才能が開花するんだもん」
「今ではとんでもなく強くなったけど、もしそうじゃ無かったら日和さん達同様に護衛対象になってたかもね」
この中で誰よりも桃瀬さんとの付き合いが長いであろう上田さん達が、悪意無くそう言い切る。
「ちょ、ちょっと、皆、アイドルってあれでしょ? 大勢の人達の前で歌ったり踊ったりしてる感じのやつよね? 私、そう言うのは苦手だからそっち方面じゃきっと落ちこぼれてたわよ」
「人助けの為に悪い奴と戦うのは得意なのに? A組の皆の前で日和さんの騎士になるっていう宣言は堂々とやってのけたのに、それとは違う感じなんだ?」
「だって、お姫様を護る騎士はとってもカッコいいイメージでしょ? それとは違ってアイドルってなんかカッコよさより可愛さが必要なイメージじゃない。だから苦手なのよ!」
アイドルは苦手だと言う桃瀬さんに、南野さんからの疑問が入る。僕達もどういった部分で苦手意識を持っているのか気になったので、その理由を待っていると桃瀬さんは独特な価値観でそれを説明する。
桃瀬さんの言いたい事は何となくは理解は出来た。土曜日に吉田さんを含めて三人で話した事も含めると、付き合いが長い分言い辛い事もあるのも知っている。
上田さん達の印象を見るに、桃瀬さんに可愛らしい部分があっても別に問題は無いようにも思える。でも、それは本人的にはすぐに泣いていた頃も含まれているので、恥ずかしい時の状態の印象が強いのだろう。僕もおおよそ男には使わないであろう表現で褒めちぎられて恥ずかしい思いをした経験があるので、恐らくそれに似たような心境なのではと考えてしまう。
なので僕はどうして桃瀬さんがそんな風に見られているのかを、竹崎さんに尋ねる事にした。
「まだ出会って日が浅いですが、桃瀬さんは桃瀬さんなりに考えてヒーローとして私達に接してくれています。確かに初めて出会った時は私も、健康的でスタイルも良い綺麗な人だと感じましたけれど、それだけでアイドル扱いは少し妙では?」
実際、桃瀬さんの戦闘能力自体はウルフさんも、仕掛けた攻撃が躱されてしまうとかなり評価していた。僕には全く出来ない周囲への威圧も行えるので、シャドウレコードとしての視点からすると、依然脅威的な存在である相当な実力者なのには変わりは無い。
そんな桃瀬さんの実力を知っている人物ならば、彼女もキチンとしたAクラスのヒーローである事は理解出来る筈だ。
僕がそう思いながら尋ねると、竹崎さんの代わりに青峰先輩達が答えてくれる。
「俺達は普段、街中で暴れる能力者相手では無く、外に発生する地球外敵性生物と戦うのが主な戦場なんだ。役割も分担していて、涼芽はその能力で相手の急所を分析する役目をして貰っている」
ウルフさんと交戦した経緯を考えれば、青峰先輩の説明には何も不自然な部分は無いと言える。ヒーロー活動記録室では機密保持の為なのか、ガンバルンジャーの具体的な活動内容は曖昧な表現になっていたのを思い出す。
僕と桔梗院さんが彼等の護衛対象だからなのか、そんな重要そうな秘密でも明かしてくれている。青峰先輩の隣にいる林田先輩が自分達の役割を説明する。
「まず俺が攻撃を受け止めて、彰が陽動して隙を作った所に翠が動きを封じつつ、涼芽が分析するんだ。そして最後に焔が止めを刺してが一連の動きになるね」
場合によっては役割が変わる事もあるみたいだが、基本はこうだと林田先輩は話してくれる。
皆興味が乗らなかった為に生物資料室には向かわなかったけれど、そうなって来るとガンバルンジャーが倒した地球外敵性生物の情報があったのかもしれない。シャドウレコードが持っている情報と照らし合わせれば、彼等のより正確な実力が把握出来ただろうか。
でも僕がそこに向かうのは絶対に変に思われる。吉田さんも怖がってしまっていた為、どこまで情報が公開されているのか把握出来ていない今は、余り迂闊な行動はしない方が良いのかもしれない。
その話を聞いても、南野さん達はいまいちガンバルンジャーの強さを把握出来ずにいる。桔梗院さんもそんな様子なので、林田先輩は困ったような顔をしていた。
「うーん、困ったね……やっぱりこの説明じゃあ、引っ越して来た日和さんと護衛を務めている影野さん位しか把握出来無いか……それ位今の俺達の活動はわかりにくいって事なんだ」
「本部からAクラスとしては認められてはいるが、現状、職員ですら俺達の活動をあまり把握出来ていない者もいる。そんな状況の中で賑やかな涼芽を見れば、地味な活動をさせるには惜しいと思われているのだろう」
そんな事情があったとは。確かに賑やかな桃瀬さんならそんな風に見られるのかもしれない。でもそれは目指している物とは違っているので、桃瀬さんは納得がいかない様子だった。
「それで妙な扱いをされたり、狙われてるなんて納得出来無いわよ。でもそっかぁ、私も日和さん達に対してこういった感情を向けちゃってるし、あんまり人の事言える立場でも無いか……」
自身の扱われ方に対して納得がいっていないものの、上田さん達からも言われた為か僕達に対して似たような事をしたという自覚もあり、桃瀬さんは途端に落ち込んでしまう。
そんな桃瀬さんを見て、桔梗院さんも納得していない様子であり、青峰先輩の方に顔を向ける。
「翠様、これが本当に桃瀬さんに対しての最善の方法だったとは思えませんわ。風見様達は桃瀬さんの事をわたくし達のお世話係か何かと思っているのか、何処か軽んじているようでした。まさか翠様達もそう思ってはいませんわよね?」
「そんな事は無い、涼芽は俺達の大事な仲間だ。戦闘での実力も評価していなければここまで一緒にやって来なかった」
「そうですのね、わかりましたわ。ですが、隠し事をして何も伝えないというのは、それだけで寂しさを感じるものですわ」
桔梗院さんからの言葉で、先輩達や竹崎さんの表情が曇る。そして、その言葉は僕の胸にも鋭く届いてくる。
この場で周囲に一番多く隠し事をしているのは、恐らく僕になるだろう。頭の中で一つ一つそれらを数えていくとどれだけあるのだろうか。
元々の性別が男だった事から始まって、シャドウレコードの四天王である事に、潜入任務の事に、回復能力以外の能力の事、赤崎君との関係の事もある。
ここまで隠し事をして来て、自分は一体何をしているのだろうかと何だか次第に感情を抑えきれなくなってしまうのだった。
「桔梗院さん、確かに隠し事をされると仲間外れにされたと思うかもしれません。ですが、先輩達はそんなつもりで桃瀬さんに隠し事をしたのではありません」
「日和さん、何が違うと言うのですか? 実際に桃瀬さんは落ち込んでいますわよね?」
「誰だって隠し事をしたい時はある筈です。現に私だって皆さんには言えないような事は幾らでもあります。それは自分の事であったり他の人との事であったりと、色々ありますけれど、親しい仲だから言えないような事もあるんです」
僕は自分の事をここにいる皆に一体どれだけ明かせるだろうか? そして正直に明かした所で、どこまで信じて貰えるのだろうか? 悪い事をしている自覚を持ってここに来た筈なのに、どうして苦しく感じてしまうのか。
「もし、青峰先輩達が正直に今日の件を桃瀬さんに話すのであれば、私達にも話す必要があった筈です」
「そ、それは、支部長もそうおっしゃっていましたし、そうでしょうね」
「そうなれば桃瀬さんは私達を楽しませようと考えたり、他の生徒達を上手く歓迎出来る余裕があったのかどうかわかりませんよね? 私達もクラス委員長としての役目もありますし、本当に教えて貰った方が良かったのでしょうか?」
僕の考えを話すと、桔梗院さんも思う所があってか口元に手を当てて考え事をし始める。
「正直に話されていたら、私はきっと模擬戦の事ばかりに気を取られていました。ですので、そんな心配をさせまいと赤崎君達はそう考えてくれたんだと、私は信じたいです」
今朝ここに向かう時の赤崎君は、いつになく僕に対して心配させまいとしてくれていたように感じる。あの時の僕は既に別の事で不安でもあり、その上で模擬戦の事を知らされていたらと思うとどうなっていたのか。
「そうですわね、彰様もC組で浮き気味のわたくしの事を考えていたのかもしれませんわ。知っていたらわたくしは本来の役目を無視して、全力で彰様を止めていたでしょうし」
桔梗院さんが僕の考えを聞いて頷いてくれる。彼女も彼女で何か大きな事をしてしまい教室内でのあれこれがあるようで、それが思う所に上手く嵌ってくれた。
次は桃瀬さんをどうにかして励まさなければと考えると、突如誰かが僕の目元にハンカチを当てて来る。いつの間にか泣いていたのだろうか、ここで僕は視界が滲んでいたのに気が付く。
一体誰なのかとハンカチを持つ手をよく見ると、それはすっかり調子を取り戻した桃瀬さんだった。
「ごめんね日和さん。私達がしっかりしてないせいで泣かせちゃって、隠し事をしているだなんて、普通中々周りに言いたく無いものね」
「も、桃瀬さん。いえ、言えない事情があるような私がいけないんです……」
「もう、そんな事無いわよ! 日和さんみたいな子はどう見ても色々と訳ありな子じゃない、そんな子を泣かせる事自体ヒーローとしてダメダメだわ!」
そう言って桃瀬さんが突然僕に抱き着いて来る。僕はびっくりしてしまうが、いつものような勢いは無くどこかゆっくりとした動きで、締め付けられそうになる訳でも無かった。
そして桃瀬さんは、僕と桔梗院さんにのみに聞こえる声量でお礼を言ってくるのだった。
「二人共ありがとう。私が柄にも無く変に落ち込んじゃったから、一生懸命になってくれたんだよね?」
「だって、余りにも桃瀬さんが不憫でしたから、わたくしも何か言ってやらねば気がすみませんでしたの」
「あはは、でも、私にだって翠達や春風達にも言えない事や、隠してる姿もあるのよ? どんなに親しい関係でも、全てを話し合える存在なんてそうはいないものなんだから」
そう言って桃瀬さんは抱き着くのを止めて僕から離れていく。そしてそのまま桔梗院さんにも抱き着いて良いかと尋ねて、案の定断られている。
「先程は追い詰めてしまってごめんなさい日和さん、桃瀬さんの言う事程ではありませんが、貴女の事情も考慮するべきでしたわね」
「いえ、私が隠し事をしている事自体は変わりません、皆さんに明かせるような物でも無いですし、どうしようも出来ないのも事実ですから……」
隠し事をしている僕に桔梗院さんが謝って来る。何だか申し訳無く思ってしまったので、せめて僕は何も言えない事を伝える。
それで何か解決出来る物があるのかと言われれば何も無いのだけれど、桔梗院さんはそういう物もあるのかと、どこか割り切った表情になってくれた。
そうして僕達は無事に落ち着いた所で、今度は三人で青峰先輩達の方に向き直す。
桃瀬さんを真ん中に据えて、僕は先輩達の顔を見るべく視線を上に向ける。
「そういう訳ですので、何も伝えてくれ無かった分それだけ赤崎君と萌黄君が、きちんとカッコ良い所を見せてくれるのだと私達は信じていますからね」
僕がそう言って微笑むと、青峰先輩はドキリとした表情になりながら急に姿勢を正していく。
「事が全て終わりましたら竹崎様を含めた五人で、桃瀬さんに改めて誠意を示すべきですわよ?」
桔梗院さんも続けてそう言うので、先輩たちの後ろにいた竹崎さんがその身を強張らせている。林田先輩が苦笑いで了承していく。
「ハハハ、それは全くその通りだね。うんわかったよ、この事はきちんと焔と彰にも伝えておくよ」
竹崎さんも恐る恐る先輩二人の横に並んで来て、林田先輩が青峰先輩の背中をばしんと叩いて正気にさせている。桃瀬さんがそれを見て満足そうに笑いだしたので、僕達もつられて笑顔になるのだった。
そういう訳で、桃瀬さんへ何も伝えなかった件は解決し、上田さん達も僕達に寄って来る。
「日和さん、大丈夫なの? 急に泣き出した時は心配しちゃったよ」
吉田さんが心配して僕に尋ねてくる。あまり意識しないで出て来た物だったので、今はもう大丈夫だと笑顔で伝えると、吉田さんは安心してくれた。
「日和さんが泣いた時はこっちもハラハラしちゃったけどさぁ、それよりもその後の方が驚いちゃったよね?」
「私は信じたいです。だっけ? 良いなぁ赤崎君。私も日和さんみたいな可愛い子に全幅の信頼を寄せられたいなぁ」
先程僕が言った事を、少し大げさに真似をする上田さんに、それを見て下橋さんが笑い出して中島さんも僕をからかうような目を向けている。
「ホントそれだよねえ。周りで見てた子達もそれ聞いて大騒ぎしてたし、これで不甲斐無い結果は出せないよー?」
「あははは、今も男子達は打ちのめされてるし、いつだったかユリが一撃必殺って言ってたけどホントだったね」
南野さん達の話が一体どういう事なのかわからず、僕は辺りを見渡すといつの間にか大勢の人だかりが出来ていた。
ここに来た時はまだ人がまばらな状態であった筈なのに、竹崎さんに話し掛けた時よりも数倍の人数になっている。
「い、いつの間にこんなに大勢の人が……? 模擬戦の事がありますし、人が来るのは当たり前なのですが」
「チュンちゃんが落ち込んじゃった辺りかなぁ? 結構騒いでたのに全く気が付かなかったの?」
「流石にわたくしは気が付きましたわよ、ですので桃瀬さんの抱き着きは断りましたし」
改めて周りを見れば、どういう訳か絶叫している男子達に、僕を微笑ましい物を見ている目を医務室の職員達や、あちこちで盛り上がっている女子達の姿が見える。
考え事やあれこれでその事に僕だけが全く気が付いていなかったようで、どうしようかと何か言い訳を考えようにもそれすらも思いつかず、どんどん顔が熱くなる。
「ちょ、ちょっと、日和さん! 顔が真っ赤だよ!? 大丈夫なの!?」
「今日は周りに医務室の職員達もいるから、もし倒れちゃっても大丈夫でしょ。その後ベッドの周りであれこれ聞かれる事になるかもだけどね」
顔を赤くする僕を心配してくれるのは吉田さんだけで、他の皆は周りの人だかりに全く気が付かずに大胆な事を言ってしまった僕が悪いと言いたげで、もうどうしようも無くなり僕は両手で顔を押さえてその場にしゃがみ込むしか出来なくなる。
「全く、私達の大好きなお姫様はホントに可愛いわねぇ。……良いわねっ! アンタ達っ! 日和さんにここまでさせたんだから、これで男のアンタ達が不甲斐無い結果を見せよう物なら、どうなるか覚悟しておきなさいよ! 手助けなんてしてあげないんだから!」
そう言って青峰先輩達に釘を刺す桃瀬さんの声が聞こえ、彼女は吉田さんと一緒に僕を立ち上がらせてくれるのだった。
僕が落ち着いて正気を取り戻す頃には、人だかりも解消されていてもうすぐ模擬戦が始まる頃になるのであった。




