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第二十四話 あんな顔していたんだって自分でも驚いてしまって




◆◇◆




 ゲームセンターから自宅に帰る時に予めメイさんにこれから帰る旨のメールを送り、必要なら合鍵を使って貰っても良いとも伝えてあり、桃瀬さん達と別れて帰って来る。


 ドアを確認すると鍵が開いているのでそのまま中に入ると、家の中で待ってくれていたメイさんがすぐにやって来る。


「おかえりなさいませ、桜様。あら、その袋は一体どうしたのですか?」


「ただいまメイさん。これはガンバルンジャーの皆が僕に、ってくれた物なんだ」


 そう言って僕はメイさんに袋の中身が見えるように両手で開く。覗き込むメイさんは中に入っている動物のぬいぐるみを見て興味を持つ。


「大変可愛らしいぬいぐるみでございますね、桜様。少しばかりお話を伺ってもよろしいでしょうか?」


「うん、出かけた先で色々とあったんだ。中にはメイさんにも関わる話もあってね? 今日はもう時間も時間だし晩ご飯を食べた後で聞いて貰いたいけど、良いかな?」


 家の中に入り、手洗いうがいや着替え等をしつつ時間を確認するともう晩ご飯の支度をしないといけない時間だった。


 メイさんが既に下ごしらえを済ませており、後は調理するだけとなっていたので僕は頭の中で話す内容を纏めつつ手伝いをした。


 食事も済ませお風呂にも入り、後は眠る時間を待つだけのゆっくりとした時間に僕は今日の出来事をメイさんに話していく。




 話をするだけの纏まった時間がここだけしかなかったので、今日もメイさんと一緒に寝る事になる。寝室に貰ったぬいぐるみを置き、動物の着ぐるみパジャマ姿のメイさんがそれを眺めている。


 まずは何から話そうかと考えたらやはり竹崎さんの話からになるだろうと思い、時間を少し遡って不審者騒動の頃の話をメイさんに伺う事にする。


「ねえ、メイさん。入学式が終わってお昼を過ぎた後に、不審者が出たのは覚えているよね?」


「はい、例の筋肉集団の事ですね。我々も独自に彼等を調査しているのですが、潜伏されて何の手がかりも得られませんでした」


「えっとね、話をするのはそっち側じゃなくてヒーロー側の話なんだけれど、グレイスさんと二人で出掛けてたよね」


 僕は桃瀬さんから聞いた話から、二人がヒーロー側に認識され話題にもなっていると話し、ゲームセンターで出会った竹崎さんというヒーローが、メイさんに惚れていて、僕が何か知っていないかと尋ねられた事を話す。


 大丈夫なのかなと僕は心配だったのだけれど、話を聞いた案外メイさんは余裕そうに僕に微笑んでいる。


「そういう訳なんだけれど、余裕そうだねメイさん。ヒーローに好かれてるのに驚かないの?」


「ふふっ、これまで何度も一緒にお出掛けをしていた際にそういう視線が私に向いて来る事がありましたし、既にシャドウレコードの方にも私から報告をして情報共有はしておりますから」


「ええっ!? そんな視線が向けられてたの!? で、でも僕は何にもわからなかったよ……?」


「桜様は戦闘系の技術は得意ではありませんから、ある程度の能力が無いと気が付かないと思います。寧ろガンバルンジャーと他のヒーローに詰められても必要以上に情報を話さなかったのは流石です」


 僕の知らない間に高度なやり取りがあったようで、それなのに逆にメイさんから褒められてしまい困惑してしまう。


 僕があまりペラペラとその場にいないメイさんの事を話してしまうのは良く無いと思ったから、話さなかっただけだと言うと、メイさんはクスクスと笑いだす。


「そんなに変な事かな? 竹崎さんはヒーローで桃瀬さん達の先輩だけど、僕はまだ余り良く知らない人で聞かれたのもメイさんの事だから」


「ありがとうございます桜様。ですが、桜様と私は上司と部下の間柄です。桜様が円滑に交友関係を広める為でしたら私の事もお伝えしてもよろしいかと」


「でも、僕が知らなかったヒーロー達からの視線もあったんでしょ? 僕も今日直接目撃情報を教えて貰うまで何もわからなかった訳だし……」


 僕達が普通の一般市民だったら、監視が行き届いてるんだなと思う程度だけど、生憎敵対している組織の関係者なのでここがある意味で危険地帯だったことを思い出し震えてしまいそうになる。


 今まで何もされなかったという事はヒーロー側から見た僕達は、警戒すべき危険人物では無く護るべき庇護対象なのだと言うのは理解出来るけれど、それが何時攻撃に向けられるのかと意識してしまうと途端に怖くなって来る。


 もう寝る前なのに、眠れなくなりそうな事を考えてしまうと、メイさんが僕の手を握って来た。


「大丈夫です桜様。私が言った事は桜様の今後には一切影響はありません。私は表向きはS&Rグループから派遣された民間のホームセキュリティサービスの人間だと思われている筈ですから」


「そ、そうなの? その割には随分と親密な関係だと思われない?」


「そうですね、四天王になられる前からの間柄ですからより親しい関係と思われても、今は女同士ですし一緒に住むのでしたら寧ろより自然に見えると思いますよ?」


 それだけ長い間護衛を務めていると思われる方が、周りから見られた時により自然に溶け込み易いとメイさんは力説する。


 現に今はほぼ全く監視されているといった視線は感じないらしい。もしかしたらメイさんでも気が付かない位置から監視されているのかもしれないけれど、それ程遠く離れた距離からだと今度は僕達が何を話しているかまでは判別出来無いから、自然に仲良くしている姿を見せれば僕の容姿でどうとでも誤魔化せるとメイさんは言う。


「ですので、その竹崎と言うヒーローに私の事をお伝えしても全く問題にはなりません。現にあの時そういう奇妙な戦い方をしていたヒーローはいましたし、私も自然と笑みを向けていたのかもですね」


「うん、わかったよメイさん。今日はもう夜遅いから明日の朝にでも桃瀬さんにメールで教えるね。でもヒーロー一人一人が僕達のような子に惹かれるなんて少し大変だね」


 僕といい、桔梗院さんといい、メイさんといい、ヒーローの事情にため息が出てしまう。そう言えばグレイスさんもそんな事を言っていたのを思い出していると、ふと自分を自然に女の子の枠に入れている事に戸惑ってしまう。


「どうかしましたか桜様? そう言えば今日は色々とあった様子ですが、お話に疲れましたならもうお休みになられますか?」


「あっ、そ、そうだった……ごめんメイさん。ちょっと自分の中で戸惑っちゃうことがあって……話す事はまだあったんだった」




 僕に対抗意識を燃やしている桔梗院さんをどうしようかと悩んで色々とやっている内に、今度はヒーロー側からもガンバルンジャーに対抗意識を燃やすヒーローがいる事をメイさんに伝える。


「これは僕が直接どうこうって言う訳じゃ無いんだけれど、ガンバルンジャーと同じAクラスの風の三兄弟っていうヒーロー達が、護衛について何かして来るんじゃないかって竹崎さんが」


「あの風の三兄弟がですか……こちらの三人も若手の実力者でありますし、そんな事態とは」


「来週に学校の授業としてヒーロー支部に社会科見学に行くんだけれど、その日に護衛の件で何か一悶着起こりそうだから気を付けろって竹崎さんが赤崎君達に忠告しててね」


 桔梗院さんが護衛対象になった時同様に僕から彼等に何か出来る訳では無いけれど、やっぱり不安ではあるのでメイさんに相談する。


 その桔梗院さんとは今日ようやくお互いの連絡先を交換して仲良くもなれた所なのに、また問題が起こりそうで僕は再びため息をつくと、メイさんはそっと僕に近付いて来て肩に手を触れる。


「それは流石に困りますね。ですが、桜様が何か失敗をした訳ではありませんから落ち込まないで下さい」


「うん、そうなんだけれどね……これでもし僕か桔梗院さんのどっちかが護衛を変えられるなんて事になるのかなって……折角桔梗院さんとも仲良くなれそうなきっかけが出来た所なんだよ?」


「成程、桜様も頑張っていらっしゃいますね。そうでしたら尚の事心苦しいと感じるのもわかります」


「一度レオ様達に報告をした方が良いのかな? 作戦そのものに影響が出るかもしれないと思うとレオ様達も怒るんじゃないかなぁ……」


 もしそうなってしまうとどうすれば良いのか悩む僕に、メイさんが抱き着いて来た。


「め、メイさん? 急にどうしたの?」


「いけません、それこそ悩み過ぎですよ桜様。ご自身に一切非が無い状態ですのにレオ様達がそんな事でお怒りになる筈はありません。それに、今はガンバルンジャーを信用しても良いと私は考えております」


 メイさんの突然の言葉に僕はどういう事か気になってしまう。彼女の視線は寝室に置かれたぬいぐるみに向いていた。


「あのぬいぐるみを見ていると、私は彼等を信じても良いと思います。確か桜様に、と下さったものでしたよね?」


「う、うん、色とデザインが何だかガンバルンジャーに似てて可愛いなって皆に言ったら、赤崎君や桃瀬さんが急にやる気になっちゃって」


 最初に赤崎君が難無くぬいぐるみを手に入れてしまい、それを今日の勝負を有耶無耶にしてしまったお詫びだと言って僕に手渡して来て、それが嬉しくてお礼を言い後は自分が揃えてみせると決意した所、何故か他の四人も代わる代わる順番にぬいぐるみを手に入れて渡して来た事をメイさんに話す。




「僕は帰って来たらメイさんとお小遣いの相談をして手に入れようと考えていたんだけれどね、気が付いたら全部揃っちゃってて、皆一回で手に入れてるからお金の負担にもなって無さそうで、僕はわがままを言ったのではと気にしたら、これは自分達がやりたくてやっていると押し切られてしまって」


 ぬいぐるみを貰えた事は嬉しいけれど、何かお返しをするべきではと考えてしまう。でも、僕はまだ皆と出会ってまだ知らない事ばかりでもあり、返せそうな物は何かと悩んでしまう。


 ぬいぐるみを貰った経緯を知ったメイさんは、そんな僕の顔を見て優しく微笑み僕の頬に手を添えてきた。


「こんな事を言うのは敵に塩を送るようで癪ですが、向こうも桜様を大切にしたいという事は伝わりました。それでしたら桜様は堂々とするべきです」


「そ、それで良いの? それだけで僕は皆へのお返しに釣り合う物なの?」


「はい、是非そうしてあげて下さい。彼等を信じる事が桜様が今出来る最大級のお返しになります」


 確かに来週の話を聞かされた赤崎君達は何処か気合に満ちた感じだった。そんな彼等を信用出来ずに、勝手におろおろしてしまうのは凄く失礼な事だと思う。


 メイさんの言うように堂々と信じてあげるのが僕の今やるべき事なのだと、ぬいぐるみを見てそう決心する。


「うん、わかったよ! 僕は赤崎君達を信じる。大事な事を教えてくれてありがとうメイさん」


「はい、ですが一番最も桜様を大切にしているのは私達シャドウレコードですからね。なので今日は私を抱きしめて寝て下さい。ぬいぐるみのようにふかふかで、更には人肌の温かさもあって、柔らかくてリラックス出来て気持ち良く眠れますよ?」


 ぬいぐるみに触発されたのか、キリっとした顔で着ぐるみパジャマ姿のメイさんが手招きして来る。その姿は大きなぬいぐるみみたいで可愛らしいけれど、僕が年上の女性であるメイさんに抱き着くのは何だか恥ずかしく感じてしまう。


「だ、駄目だよメイさん……それは流石に恥ずかしいというか、一緒に寝るのも男だった頃には考えもしなかったんだよ?」


「それもそうでした、申し訳ありません桜様。今の桜様はとても可愛らしい為どうしても甘やかしてしまいたくなってしまうんです」


「もう、なんなのそれ? 今日はもう寝ようよ。沢山話を聞いてくれてありがとうね」


 そう言って僕は部屋の明かりを消す為に立ち上がり、メイさんも一言返事をして寝床に移動している。明かりを消して僕も横になり桃瀬さんへの連絡と、レオ様達への報告の事を考えていると次第に意識が遠くなって眠りに就く。




◆◇◆




 日曜日になり、僕は桃瀬さんにメイさんの事を伝え、レオ様達にも風の三兄弟の件を報告をしておく。


 桃瀬さんにメールを送る際に、一体何処まで教えたら良いのかとメイさんに確認を取りながら名前や年齢や表向きの職業等、おおよそ竹崎さんが知りたがっている情報を書き込み、僕がお世話になっている人と同一人物である事も明かす。


 桃瀬さんからは大いに盛り上がったような文章が送られて来て、それならメイさんと一緒にいたグレイスさんも僕の知り合いなんだろうと興味津々の返信が届く。


 文面にはグレイスさんの事も知りたがっている雰囲気を感じるが、メイさん以上にヒーローにそのままの情報を教えてはいけない存在である為、あまり人に教えてしまうと迷惑になってしまう職に就いているとそれとなく誤魔化すしかなかった。


 桃瀬さんもヒーローとして所属してまだピースアライアンスによってその情報を秘匿されている立場である為か、僕がそう返信するとあっさりと納得した文面が返って来た。


 でもまたいつグレイスさんの事を聞かれてしまうかわからないので、週末の連休に会いに来てくれる時に話し合って色々と考える必要があるかもしれない。


 そうメイさんと話し合っているとレオ様達からも返信が届き、まだ事が起きていないので何とも言えないけれど、それぞれから僕に対する労いの言葉が綴られていてそれだけで悩みが吹っ飛びそうな位に嬉しい物だった。


 お昼前にはそれらの事が済み、その後はメイさんと一緒にゆっくりと過ごした。




 休日も終わり、月曜日になる。社会科見学は明日であり、朝のホームルームでも先生からその説明がなされる。


 赤崎君と桃瀬さんはヒーロー側なので、当日は僕達とは別行動になってしまうらしい。その為クラス委員長は僕一人となり、集合時の点呼や団体行動での気を付けるべき事のあれこれを先生から細かく説明を貰っている。


 僕が把握出来ていないだけで、他にも各組からヒーロー側として何人か別行動をとる生徒がいるようだった。C組も萌黄君がその例で、なんと青峰先輩達もガンバルンジャーとして集まるという。


 お昼休みの時間に、先生に職員室へ呼び出されていた僕は話を聞き終えて退出する。扉を開けると膨らんだトートバッグを持つ桃瀬さんが待ってくれていた。


「いやー、ごめんね日和さん。クラス委員長なんて推薦しちゃって。しかも焔もその日は別行動だから私が選んでおいて全く何の役にも立たないっていうね」


「いえ、ヒーロー支部に社会科見学だなんて、皆どうしても浮かれてしまうでしょうからこれは私がクラス委員長で良かったのかもしれません」


 実際、職員室には他の組のクラス委員長も話を聞いていて、先生達と一緒に重苦しい表情をしていた所もあった。


 僕に話をしていた担任の山田先生は、僕なら大丈夫だと完全にのほほんとした顔で話をしていて、他の先生から羨ましそうに見られていた。A組の他にも桔梗院さんがいるC組も彼女がクラス委員長として選ばれていて、山田先生程では無かったけれどC組の担任の先生も比較的楽そうな顔つきであった。


 僕と桃瀬さんが話をしていると、桔梗院さんを待つ影野さんの姿を見つけたので挨拶をすると、職員室から桔梗院さんも出て来る。


「あら、日和さん達ですの、ごきげんよう。明日はお互いクラス委員長としての務めを果たそうではありませんか」


「こんにちは、桔梗院さん。そちらも一人という事は男子のクラス委員長はひょっとして萌黄君なんですか?」


 僕の問いに桔梗院さんは頷いて答える。向こうも僕へ尋ねて来るので、赤崎君がそうだと答える。


「お二人共、ヒーローとしての務めとクラス委員長を両立なされるのは大変そうですわね。良いですか、日和さん。こういう時こそわたくし達は周りの手本となり、彼等を陰ながら支えてあげるべきなのですわ!」


「おおっ、やる気十分ね桔梗院さん。うんうん、お姫様達が率先して動いてくれるなら私も安心出来るわ。頑張ってね!」


 向かう場所が場所なだけに何だかやる気に満ち溢れている桔梗院さんを、全力でヨイショする桃瀬さん。ゲームセンターでの出来事もあってか、何だか僕達への対応も少し穏やかに感じられる。


「はい。竹崎さんから聞かされた例の件もありますし、私達もしっかりしませんとね。それはそうと、桔梗院さんはこの後お昼はどうするんですか?」


「そう言えばそうよね。あっ、そうだ、桔梗院さんが良かったらこれからはA組で皆で食べない? 吉田さんも大喜びすると思うわ」


 桃瀬さんがそう提案すると、桔梗院さんは少し困った表情になる。


「その、折角のご提案なのですが、わたくし今まで影野と学食で済ませておりましたので、お弁当の類いは持参していませんの。それに、貴女方とは多少交友の機会はありましたが他の方もとなると、わたくしにも心の準備という物が……」


「そっか、そんないきなり誘われても急には無理よね。桔梗院さんの事情や予定も考えずに提案しちゃってごめんなさいね。でも、吉田さんも含めた私達三人となら良いんだ?」


 少し時間を欲しそうにしている桔梗院さん相手に、諦めまいと桃瀬さんは尚もグイグイと詰め寄っている。


「じゃあさ、明日の社会科見学は私達三人と桔梗院さんと影野さんとで一緒にお昼を食べない? 支部にだって食堂はあるから当日は学生向けに開放するのよ! 良いアイデアだと思わない?」


 桃瀬さんの提案に少しばかり桔梗院さんは興味を持っている。先生からの説明にも明日はヒーロー支部の方でもそのようにしてくれるとの話もあり、お金を用意すれば幾つかのメニューから食事も提供してくれるとも聞かされている。


 上手く言葉を出せずにいる桔梗院さんに、後ろにいる影野さんがその提案に乗る様に桃瀬さんに返事を返してくる。


「成程、それは良案だと思います桃瀬様。ガンバルンジャーの皆様が普段どのような物を好んで食事なされているのか知るのにも良い機会ですね。エリカ様もそうお考えでしょう」


「そ、そうですわねっ! 良い着眼点よ影野。この後の連休には彰様と一緒に出掛ける予定もございますし、好みの物を知るには良い機会ですわ。教えて下さいますわよね、桃瀬さん?」


「それ位もっちろんよ! なんなら彰だけじゃなくて私の好きな食べ物も教えてあげるよー? 話は決まったわね桔梗院さん」


「ええ、わかりましたわ。吉田さんを含めたそちらの三人とわたくし達とで明日はお昼を頂きますわ。ですので、ぜ、是非とも彰様の件をお忘れなきようお願いしますわね」


 赤い顔になりながら桔梗院さんが了承してくれる。もしかしたら、ヒーロー達は僕とは違う食事内容で肉体が強くなる秘訣があるのかもしれないと思うと、僕も気になってしまう。


 桃瀬さんは単純に食べる量が僕とは比べ物にならないけれど、それならば赤崎君達はどうなのかずっと気になっていた事が判明するかもしれない。


 彼等の強さの秘訣を知れるかもしれないと思うと、桃瀬さんがニヤついた顔で僕を見ていた。


「おやおやー? もしかして日和さんも焔の好きな物が気になってる感じかなぁ? ひょっとしてアイツにもようやくチャンスが訪れるの?」


「えっ、ええっ? ど、どうして赤崎君限定何ですか……? それは、身体づくりに食事は欠かせませんから桃瀬さんの事も気になっていますよ?」


「ホント? うふふ嬉しいわね! 私の事も考えてくれてありがとね、普段から沢山食べてる姿を見せてるけど私だってちゃんと好きな物もあるのよ」


 僕に話を振られた事で、僕達はA組に、桔梗院さん達は学食に向かう流れになる。別れ際に明日の事で何か聞きたい事があれば、何時でも連絡してくれていいと桃瀬さんが僕や桔梗院さんに伝えて解散する。




◆◇◆




 教室に戻ると、吉田さんと南野さんが僕達の帰りを待ってくれていた。待っている間二人共食事に手を付けていなかったどころか、南野さんが土曜日の事について吉田さんにあれこれ聞いていたようだった。


「へぇー、それで三人共桔梗院さんと仲良くなってそれぞれの連絡先も教え合ったんだ」


「うん! 桔梗院さんが凄く落ち込んじゃって勝負どころじゃ無くなってたんだけどね、やっぱり二人には仲良くなって欲しいから結果的にはこれで良かったんじゃないかなって思うんだ」


「二人共待たせちゃったわね、ところで何の話をしているの?」


「あっ、桃瀬さんに日和さん。えっとね、土曜日の件で桔梗院さんとお友達になれた事を今話してたんだよ」


「そうそう、前の日まで吉田さん凄く緊張しちゃってたじゃない? それでこの結果だもん。一体どんなミラクル起こしちゃったのチュンちゃん?」


 この事は朝にも少し尋ねられたのだけれど、それよりも僕がクラス委員長として明日の社会科見学で忙しくしていた為か、桔梗院さんの話はお昼までお預けになっていたらしい。


 僕達が席に座って少し経ってお昼を食べ終わり食後の話をしようとすると、興味があるのか教室に残っている他の生徒達も聞き耳を立てているようだった。


 三人を代表してようやくこの話が出来ると桃瀬さんがいきいきとした表情で話し出す。




「と、いう訳で、日和さんの説得と吉田さんの活躍によって、私達は桔梗院さんと連絡先を交換出来たって訳よ!」


「概ねの話は吉田さんから聞いてたけど、やるじゃない二人共。あの桔梗院さんでしょ? ツンツンしてて気難しそうな感じの子って印象なんだけど、実際はどんな子なのさ?」


 南野さんは単身教室に乗り込んで僕に勝負を挑んで来る彼女しか知らないので、まさか仲良くなるとは思っていなかったみたいだ。


「そんな事はありませんよ? 寧ろ私が競うべき相手だと認められているから勝負を挑まれている訳でして、お話自体はお互いしていますから」


「うん、そうだよね。桔梗院さんって色んな事を知ってるからびっくりしちゃったよ。私達の知らない事でも気前良く教えてくれるから、皆が思ってるような感じの子じゃないと思うよ?」


 僕が桔梗院さんの印象を話すと、吉田さんもそれに同意して頷いてくれる。そしてそのまま彼女の良い所を挙げて、周囲のイメージを変えようと南野さんにあれこれ話をしている。


 その話に桃瀬さんも相槌を打ち、如何にして仲良くなりたいかと僕の時と同様にその熱い感情をアピールしている。その途中で先程職員室の前でした約束を吉田さんにも説明していた。


「そうそう、明日のお昼なんだけどね、日和さんと私と吉田さんの三人で、桔梗院さん達と一緒にお昼でもどうかな? って約束したら向こうも賛成してくれたのよ」


「えっ!? ほ、本当なの、桃瀬さん? 日和さん? 私も一緒で良いの?」


「はい、桃瀬さんがその話を提案したら、桔梗院さんも私達となら構わないと楽しみにしていました」


「えー? それ私は入って無いんだー。ちょっとチュンちゃーん、私を一人にしないでよー」


 明日の約束の話をすると吉田さんは喜んでいて、自分は加わって無いのかと桃瀬さんに文句を言う南野さん。


「あははゴメンね春風、私達がもっと仲良くなれたらその時は絶対私の友達として皆を紹介するから」


「まあ、向こうはお嬢様育ちだろうから、始めに仲良くするなら日和さんや吉田さんみたいに女の子らしい子の方が良いかー。チュンちゃんはこっち側だけどー」


 自身の扱いに南野さんが軽口を言うと、そのまま桃瀬さんとじゃれ合い始める。僕は僕で女の子らしいと言われてそれに戸惑いながらも、土曜日に僕達に複雑な心境を密かに告白してくれた桃瀬さんの事が気になった。


 そんな僕の考えが顔に出ていたのか、隣の席の吉田さんも少し困った顔をしている。けれど、今はまだ内緒にしていて欲しいとも言われているので、お互い口には出せずにいると、今度は周りで僕達の話を聞いていた女子達から話を掛けられる。




「ねえ、日和さん、土曜の話なんだけどさ、その……赤崎君達とは何か無かったの?」


「赤崎君達とですか? 確か最初は私達の勝負を見てくれていましたが、勝負がうやむやになった後は男子と女子とで別れて遊んでいましたね」


「えぇー……何も無かったって言うの? 折角日和さんと遊べる機会だって言うのに赤崎君は何もしないってどういう事?」


「いえ、何も無かったという訳ではありません。帰り際に私がクレーンゲームを気にしていたら、赤崎君達が代わりにぬいぐるみを手に入れてくれたんです」


 メイさんにも話したみたいに、周囲の女子達にも土曜日の出来事を話す。皆から貰ったぬいぐるみは可愛くて僕は気に入っていてメイさんも興味を持ってくれたけれど、桔梗院さんには子供っぽいとはっきりと言われたので少し照れてしまう。


 それでも女子達はその話に興味を持ち、具体的な話を聞いて来る。するとそこに得意げな顔で桃瀬さんが話に加わる。


「皆、よく聞いてくれたわね! 日和さんがクレーンゲームのぬいぐるみを見て、まるで私達だと言った瞬間にもうプレゼントしてあげたいって思っちゃったの!」


「それでそれで? 桃瀬さんもそんなにうきうきする程なんだ」


「ええ! ほら見て、実際にぬいぐるみを抱き抱える日和さんの姿! 目の前でこんな顔されちゃったら、もう私もギュって抱きしめたくなるのを我慢してたんだから」


 そう言って桃瀬さんは、携帯端末でいつの間にか撮影していた僕の姿を、周りにいる女子達に見せている。


 周りは一気に盛り上がり、南野さんも写真を見てニヤニヤしている。いつ撮られた物なのか気になって僕も確かめてみると、林田先輩達からぬいぐるみを受け取って、店内の音で撮影音にも意識出来ない程に気を取られていた際の姿だった。


 写真に写る僕の姿は、目を輝かせながらぬいぐるみを抱き抱え、とても嬉しそうな笑顔をしている。


 改めて今の自分の姿を客観的に見せられてしまうと、凄く恥ずかしく感じてしまう。普段の僕はこんな風に見えているのかと尋ねると、周りから何を今更といった顔をされる。


「だって、それは……私の顔は普段どんな顔をしているのかは自分ではわかりませんし、嬉しかったり楽しかったりは感じますけれど、私、ずっとこんな風だったんですか? 桃瀬さん?」


「最初に焔から赤い猫ちゃんのぬいぐるみを貰った時からこうだったわよ? そうよね、吉田さん?」


「うん! 日和さん凄く喜んでて私も可愛いなって思っちゃったよ」


「焔が抜け駆けしたせいで、危うく日和さんの笑顔をアイツが独り占めしちゃう所だったのよ? 日和さんも後は自分で手に入れるなんて言うもんだから、私達もつい本気になっちゃったわ」


 最初は僕の話を聞いた桃瀬さんが手に入れようとしたのだけれど、そこに赤崎君が割り込んで一番目になったのだと桃瀬さんが話し出す。


 そこから僕に喜んで貰いたくてその一心で流れるように、順番に自分の色と同じぬいぐるみを手に入れて手渡して行ったと説明すると、南野さん達はとても羨ましがっていた。


「良いなぁ、凄く良いわ。ぬいぐるみは好みが分かれるけど、シチュエーションとしてはチュンちゃん達の気持ちはわかるわ」


「うんうん、ヒーロー達から直接手渡されるのも、微笑ましいし羨ましいなぁ。でも、私が同じ立場だったら、日和さんみたいにちゃんと喜んであげられるかなぁ」


「そうだよねー、正直そんな風に大事にされてるのは羨ましいけど、私達が欲しい物をねだっちゃうとどんどんエスカレートしそうだしね。謙虚さも無いと向こうもしてあげたいとは思わないだろうし」


「でもやっぱ見た目お姫様な子が、ぬいぐるみで大はしゃぎするってそのギャップも大事じゃない? しかも、最初に興味を持たせたのは日和さんからだし、赤崎君達と同じカッコで同じ色合いというのも大きいわ」




 彼女達の話す会話の内容で、僕は思わず顔が熱くなってしまう。各々の感想を言い合うのは否定はしないけれど、せめてそういう話は恥ずかしいので僕がいない所でして欲しい。


 動きが固まってしまう僕に、桃瀬さんがニコニコ顔で近付いて来る。


「そんなに恥ずかしがらないでよ。私達全員がやりたくてやったんだから、日和さんはその側でいつも笑顔でいて欲しいなぁ、なんて」


「ご、ごめんなさい……でも、私、あんな顔していたんだって自分でも驚いてしまって」


「ふっふふー、そのお姫様の笑顔を守るのが私達の仕事よ。そう言えば、ぬいぐるみは今どうしてるの?」


 皆から貰ったぬいぐるみは、寝室に飾ってある。自分でもとても気に入ってしまっているので、今日も目が覚めて着替える前にぬいぐるみに挨拶をしてしまっていた。


「えっと、今は寝室に飾ってあります。皆さん可愛らしくて、思わず今朝も挨拶してしまいました」


「なるほどー、おはようからおやすみまでってやつね。そんなに大切に思ってくれてありがとう。でも、まるで私達だって言ってくれたぬいぐるみをそんな所に置いてあるなんて、焔達には内緒にしておいた方が良いわよ?」


 桃瀬さんから言われた言葉に僕はどういう事かと考えて、目の前で着替えをしていた事に気が付いてしまう。それを意識してしまうと余計に顔が熱くなるが、ぬいぐるみと赤崎君達は何だか似ていると思えただけで決して同じでは無いので、彼等に着替えを見られている訳では無いと自分の頭に言い聞かせる。


「その顔を見てると、何だか既に盛大にやらかしちゃった感じ? ご、ごめんね、またデリカシーの無い事言っちゃったかも……」


「いえ、大丈夫です……問題は無いですから。ぬいぐるみに罪はありませんし、これからも寝室に置いておきます。忠告ありがとうございます桃瀬さん」


 僕のせいで皆との思い出を変にしたくは無い。清い思い出は清いままでいて欲しいし、ぬいぐるみにも彼等にも罪は無い。でもこれから着替える時は、ぬいぐるみを後ろに向けた方が良いのかな? それとも僕が変に意識しているだけなのかな?


 そんな風に一人で内心慌てていると、見かねた桃瀬さんが僕の手を握ってくる。


「私の方こそ、そこまで私達の事を思ってくれてありがとう、日和さん。風の三馬鹿なんかには絶対日和さんも桔梗院さんも手は出させないからね」


 メイさんから言われた事を思い出す。今更ぬいぐるみの置き場所で一人で慌てふためくだなんて、それこそガンバルンジャーを信じていないようなものかもしれない。


 シャドウレコードの四天王としては、ヒーローを信じるのは未だにピンとこない部分もあるけれど、日和 桜として、僕個人としてならば赤崎君達を信じてあげたい気持ちがある。


 それがお互いにとってどんな結果になるのかは、想像は出来ないけれど、幸い僕には相談に乗ってくれる頼れる大人達もいる。そんな人達が考えた作戦であるし、その人達が決して僕を独りにする事は無いとも信じている。


「はい、頼りにしてますよ、桃瀬さん。何て言ったって皆さんは私達の騎士達ですからね、まだしばらくはお姫様だってやめるつもりもありませんから」


 堂々とするという事はこれで合っているかは解らないけれど、僕は僕に出来る限りの表現で返事をする。それを聞いた桃瀬さんは、ぱあっと目を輝かせて喜んだ後にとても凛々しい表情になり頷く。

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