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第二十二話 今後も良い好敵手として申し込んで来て下さい




 建物の入り口付近で僕達が大人数で固まっていた事に対して、竹崎さんが周囲に軽く謝罪を行い皆でお店に入っていく。


 特徴的な髪の色をしている能力者の集団ではあるが、名の知れたヒーローである竹崎さんと仲が良いと言う事はその手の関係なのだろうと周囲は納得し、特に騒ぎ立てるような事にはならなかった。


 ゲームセンターの中に入ると、改めて人通りの少ない隅っこの方に集められて、竹崎さんとの会話が続く。


「それで竹崎さん、俺達を引き留めるって事はまだ何か用でもあるんですか?」


「おう、焔、二つばかし話があってな、一つはお前ら来週、学校の行事でうちの支部に見学に来るだろ?」


「まあそうっすね、でも俺等専用の階は見学の為に予め開放の許可は貰ってますよ?」


 赤崎君が話に答えていく。それにしても、ガンバルンジャーは専用の階なんていうのが与えられているんだ。ホームルームでも先生からそう言った話は聞いた事は無かったから、それが決まったのはほんの直前なのかもしれない。


 今は目の前の事に集中しなければいけないけれど、来週も来週で大きそうな出来事が待ち構えているとは。見学については日程表に記されていたから事前に心構えはしていたが、まさか専用の階まで見る事が出来る機会が訪れるなんて。流石に機密情報までは探れるとは思わないが、彼等の更なる人となりを知るきっかけを得られればと思ってしまう。


 僕が内心そんな事を考えていたら、どうやら目の前の人の話とは違っていたらしい。気さくに話し掛けていた竹崎さんの顔が少し険しくなる。ヒーローとして鍛えられた身体もあってか迫力が増してしまう。


「見学にお前らの階を使う事は別に問題じゃないんだ。実は、お前らと同じAクラスの風の三兄弟がお前らに対抗心を燃やしていてな……」


「えぇ……あの三人が? そんなの絶対日和さんと桔梗院さん目当てじゃない」


 険しくなった顔に影響したのか、桃瀬さんも少しムッとした顔で竹崎さんに返事をする。頷いて返事が返されると、慌てた様子で桃瀬さんが僕の腕に抱き着いて来る。


 完全に警戒モードに入った彼女を見て、苦笑いしながら指で頬を掻きながら竹崎さんが話を続ける。


「あいつらの言い分だと『同じ歳とは言え、可愛い子が二人も護衛対象になるなんてズルい! 俺達も歳は近いから護衛を務められる!』だそうだ。俺も三人の気持ちはわかるが、こればっかりはなぁ……」


「何よそれ! 歳が近いって言ってもあの人達二十歳でしょ!? 高校生と大学生位離れてるのよ! そんな男三人に護衛とは言え付きまとわれたら、噂になって変な報道されるでしょ!」


 女の子のプライバシーも守りなさいよと、尚も僕の腕に抱き着きながら桃瀬さんはご立腹の様子だった。それを、これは変な噂にはならないのかと言いたげな表情で桔梗院さんが見ている。


 話を聞いた途端に、赤崎君達の表情も複雑な物になっていく。ヒーロー特有の職業病みたいな物だと前に桃瀬さんと話していた時に感じたが、此処まで来るとまた別の理由で作戦行動に支障が出るかもしれない。僕がヒーロー達にとって大切にされるのも何だか奇妙な気分がして、今度の全体会議できちんと報告出来るかどうか、身体がムズムズしてしまう。


 それにしても、ガンバルンジャーと同じAクラスの風の三兄弟まで出て来るとは。今の話をシャドウレコードの情報とも合わせてみると、確かにそのヒーローは存在している。ただ、表で活動した事の無い僕では彼等の顔写真でしか情報を知り得ていないので、一度は会ってみて姿を確認する必要があるかもしれない。念の為にこの件も桔梗院さんの時と同じくレオ様達にも相談しておこうと思う。


 僕も少し警戒しながらも、赤崎君達の話は尚も続いている。




「成程……わかりました、竹崎さん。用心するように忠告して下さってありがとうございます。あともう一つの話も俺達関連の話ですか?」


「え? あ、い、いや、もう一つの話は俺の個人的な都合の話なんだけどな……そっちのお嬢様の付き人の子に聞きたい事なんだ」


「あら、影野に? ですが、わたくし達貴方と出会ったのは今日が初めてでしたわよね?」


 竹崎さんから突然話を振られて、桔梗院さん達はお互いの顔を見合わせて不思議そうにしている。影野さんも問いかけに対して、初対面ですと返事を返しているので、僕達も疑問に思ってしまう。


 まさか初対面の影野さんに気が有るのでは? と、桃瀬さんが尋ねると、竹崎さんは赤面しながらも困り顔でそれを否定する。


「ち、違う! 俺はただ、そっちの子がメイドっぽい格好をしているから、ひょっとしたら俺が探している女性の知り合いなのかと……!」


 その反応を見たガンバルンジャー一同が、先輩にあたる竹崎さんの色めく話に一斉に食いついてしまう。


 桔梗院さんも、自分の使用人と似たような格好の女性の話に興味を惹かれ、このままでは話が気になってしまい勝負に支障が出るとそのまま会話に加わっていき、吉田さんも普段は滅多に聞く機会が訪れないであろう、ヒーローの恋愛事情の話に興味を示している。


 先程の話と打って変わって、急に明るい雰囲気の話題になり僕は少し戸惑いながらも話は進んでいく。


 曰く、竹崎さんがその女性と出会ったのは、例の不審者騒動の日の事であった。ぬるぬるてかてかのマッチョ軍団相手に、先陣を切って正々堂々と取っ組み合いの勝負を行った彼は、敵の策略(?)に見事に嵌ってしまい、そのまま見るも無残なぬるぬるてかてかの姿にされてしまったという。


 戦闘服ごと全身を汚されてしまった竹崎さん達ダイナマイトボンバーズは、戦闘続行不可能という事になり、早々に戦闘不能にされてしまう。それでも、彼等が狙っていた女性達の救出には成功しており、皆から感謝の言葉を述べられていた。


 その中に、一際目立つ二人組の美人の女性達がいて、その内の肩の辺りで切り揃えた黒髪の女性に一目惚れしたそうだ。暴漢達に群がられても凛とした姿を崩さない所に目を惹かれ、女性達を救出した際には心配させないようにと元気におどけて見せると、竹崎さんを見て一瞬だけクスリと見せた笑顔に心を奪われたという。


 その話を聞いて周囲は盛り上がりを見せるが、僕は内心ヒヤヒヤしてしまう。間違いなくその女性は僕が知っている人、つまりメイさんなんだと思う。


 前に僕にその話をした事がある桃瀬さんは、今の話を聞いて何かピンと来たらしく、目を輝かせながら僕に尋ねて来る。


「ねえ、日和さん! 私前にこの話した事あるよね? ほら、焔が馬鹿やって手を怪我してた時の日に」


「は、はい、そうですね。確かにあの時して貰った話と竹崎さんの話に出て来る女性は、同じ人なんだと私もそう思いますけれど……」


「でしょ! それでね、もしかしたらなんだけどさ、その人って日和さんと何か関係がある人なんじゃないの?」


「な、何!? それ本当なのか桃ちゃん! 俺の探してる女性が日和ちゃんに関わりがある人なのか!」


 竹崎さんが僕に勢い良く詰め寄って来る。ど、どうしよう。あの時は赤崎君の手の怪我が本題だったから桃瀬さんも軽く話すだけで流していたけれど、今回はこっちが本題過ぎて曖昧な返事で受け流す事は出来ない。


 彼は一目ぼれしたメイさんを探す為に、メイドの服を着て客に従事するお仕事をしている喫茶にも足を運んだそうだ。他の方面の見回りをしているヒーローにも目撃情報を聞き込みもしていて、特徴が一致する女性が私服姿で、銀髪の女の子と一緒に楽しそうに買い物をしている姿を目撃しているとの事。


 銀髪の女の子なんて思いっきり目立つ存在を、特殊な事情を抱えているヒーロー達が放って置く訳が無く、ある程度調べられてそれが僕じゃないかとの大方の予想もなされていた。


 ただ、ヒーローにも立場という物があり、街で悪さをする悪者達を何時でも取り締まれるように常に目を光らせている彼等が、初対面の女の子に根掘り葉掘り直接問いただすなんてそんな真似は出来る訳が無かった。


 かといってまだ学生であるガンバルンジャーに尋ねてそれとなく僕に探りを入れるような、セキュリティーに悪影響を及ぼしかねない行為も当然ダメであり、僕と初めて会った先週から直接尋ねられる接点を求めて、竹崎さんは悶々とした日々を過ごしていた所に、影野さんの格好を見てもしかしたらヒーローの護衛では対応出来ない、細かな生活面をサポートする職業の人が探し人なのではと考えに至ったという。


 熱意に圧されて、此処で何も知らないとは言えない。けれど、メイさんの了承も取らずに僕があれこれと伝えてしまうのは、上司と部下の関係以前に人として良く無いとは思うので、前に桃瀬さん達にも説明して既に知っている程度の範囲の事だけを話してみる。




「……という訳で、確かに私にも心当たりはあります。服装についても、本人曰く趣味で何着か持ってはいますし、一度私からも尋ねてみますね」


「本当か! あ、ありがとう日和ちゃん! もしかしたらあの日の事はぬるぬるにされ過ぎて、夢か幻を見てたんじゃないかって不安だったんだ……」


「何言ってんですか竹崎さん、あの日は俺達もいましたし二人組の凄い美人さん達は確かに本物でしたよ。あっはは」


 萌黄君が竹崎さんの不安を、確かに実在したと否定しながら気さくに話し掛けている。彼の口から美人という言葉が出た辺りで、側にいた桔梗院さんが少しキツめな眼で僕を射貫いて来た。


 僕がメイさんに尋ねて、後日に結果を桃瀬さんに知らせてくれれば良いと言う。僕としては、僕以外の情報がピースアライアンス側に渡ってしまうのは不安ではあるけれど、件の竹崎さんは今は本人かどうかだけわかればそれで良いとの事だった。


 なんでも、メイさんがこの街で暮らしている事が判明するだけでも、その生活を護ろうと思う事で力が漲って来るのだそうだ。ヒーローの身体の仕組みは僕が想像している物とは少し違うのかもしれない。


 僕達との会話で、半月近く思い悩んでいた事が解消されるきっかけが生まれた事で、清々しい顔になって竹崎さんは巡回に戻って行く。別れ際に桃瀬さん以外のガンバルンジャーを集めて彼等の耳元で何やら話をして、それを聞いた赤崎君達は真剣な顔で一つ頷いて返事をしていた。


 桃瀬さんも含めた僕達は訳がわからずキョトンとしていると、青峰先輩が今日の予定を桔梗院さんに改めて尋ねて来る。


 気になっていた恋愛事情の話も一区切り着いたので、桔梗院さんは張り切った顔で僕の方を向く。


「少々時間を取られてしまいましたが、事情を鑑みればそれもまたわたくし達がこうして護衛対象となるきっかけの話でございましたし、ここからが勝負ですわよ日和さん」


 勝負開始の宣言をされて、僕も一旦目の前の事に集中し直して事に挑む。吉田さんも隣で可愛らしく気合を入れていて、微笑ましさと頼もしさを感じる。


 桃瀬さんはすっかり応援モードに切り替わっていて、僕達の勝負を楽しみにしているようで、赤崎君達もこれから何をするのか気になっているようだ。


「さあ、準備は宜しくて? まずはわたくしが最も自信があるゲームにて貴女達に圧倒的な実力の差を見せて差し上げますわよ。フフフ」


 余程自信があるのか、桔梗院さんは不敵に笑い出し、勝負が始まる。




◆◇◆




 自信満々に先導する桔梗院さんに連れられて、僕達はある筐体の前まで来る。どういった勝負をこれから行うのか青峰先輩が尋ねると、彼女はそれに返事をする。


「わたくしこの勝負を思い付く中で、お姫様に相応しいと思える要素とは何かと改めて考えておりましたの。そしてまず最初に思い浮かんだのが音楽の感性と言う事ですわ」


「成程、この辺りは音楽の要素を取り入れた筐体が多いな。それで桔梗院さんが一番得意なゲームを選んだと」


「ふふ、そうですわ翠様。幼い頃からピアノを習っておりまして、この店に並べるゲームの一部もわたくしが試遊して選んだ物もございますもの」


 そう言って桔梗院さんが選んだゲームは、操作を行うコントローラー部分にピアノの鍵盤を模したデザインが取り込まれた物だった。


 僕と吉田さんはピアノを習うような機会は無くて、お互い筐体の前で堂々としている桔梗院さんを見て息を呑んでしまう。桃瀬さんはアウトドア派らしく、静かでかしこまった場所で発表を行う印象がある分野には苦手意識があるみたいで、ゲームセンターの中だというのにギクシャクしていた。


「うわぁ……私、小さい頃に音楽の授業で先生に演奏中は静かに聞きなさいって注意された事もあったりもして、成績も良くなかったんだよね。ピアノの特技があるなんて桔梗院さん凄いわね」


 自分には不向きな部分が得意だという事で、素直に感心している様子の桃瀬さん。それを見て少し照れくさそうにしながらも桔梗院さんは話を続ける。


「ま、まぁ、これ位は淑女としての嗜みの一つでもありますもの。それに、わたくしが最初にこれを選んだのは、わたくしにだって得意な物位あると言う事を皆様に教える為ですわ」


 そう言ってプイっと背を向けると、桔梗院さんは手慣れた手付きでゲームの選択画面を操作し始め、クラシックの曲を選択する。選択した難易度が高いのか思ったよりも複雑な譜面が流れて来て、速度も速いと思う中、まるで本物のピアノを演奏するかのように滑らかに指先を動かして、譜面通りにタイミング良く操作していく。




 皆が静かになりながら見守っていると、演奏はあっという間に終わってしまう。結果を表示する画面を見ると全ての数字がパーフェクトと表示されていて、とんでもない高得点を出している。


 僕は素直に感心してしまい、隣にいる桃瀬さん達も同様の顔をしている。影野さんが流石エリカ様と軽く拍手をし始めてようやく我に返った。


「す、凄いね桔梗院さん……でも、この後私達の順番なんだと思うと、勝ち目なんてあるのかなぁ……? どうしよう、日和さん……」


「そ、そうですね、何とか初心者の私達でもどうにか出来無いかやるだけやってみるしか無いのでは?」


「ゴメンねぇ……私こういうジャンルは全然ダメなのよ……カラオケとかだったら、お腹から声を出す方法とかアドバイス出来るんだけどさぁ……」


 吉田さんも桔梗院さんの腕前に圧倒されてしまい、すっかり震えてしまっている。僕も同様にどうしたら良いのか困ってしまい、苦手分野で尚且つ実力差も認識してしまって、桃瀬さんも上手く励ます事が出来ずにいた。三人揃っておろおろしてしまう姿を見かねて、赤崎君が詰め寄って来る。


「なあ、桔梗院。俺はゲームは素人なんだが、余りにも実力差があり過ぎなんじゃないか? 勝敗を決めるにもどうするんだ?」


「ええ、それはわたくしも重々承知しておりますわ。ですので、このゲームに関しては特別にルールを設けようと思いますの」


 特別ルールとして、桔梗院さんが幾つかの条件を僕達に提示する。まず、このゲームには二人で同時に遊べるようにもなっており、二人の得点を足して合計点にする事を提案してきた。


 更に二回も曲を選択して良いと言う事になり、選べる曲が二つで得点も二人分ならば、上手く演奏する事が出来れば一番簡単な初心者のコースでも、桔梗院さんの出した点数にも対抗出来ると影野さんから補足で説明がなされる。


 大きなハンデを貰ってはいるものの、頑張れば初心者でもどうにか出来ると言われ、吉田さんと桃瀬さんも落ち着きを取り戻している。


 そのルールに納得した桃瀬さんから背中を押され、僕達はチュートリアルを終えて挑戦する事になる。




◆◇◆




 結果としては、僕達二人の点数は桔梗院さんとは極端という程では無いとは思うけれど、それでも結構離れていて負けてしまった。


「うわぁ、ごめんね日和さん、私しょっちゅうミスしちゃって全然点数増えなかったよ」


「結構難しかったですね、謝らなくて大丈夫ですよ吉田さん。私も思ったよりも全然指が動かせなくて、失敗する度に慌ててしまいましたから」


 チュートリアルをやった所で、今回が初めての初心者が二人。僕も吉田さんも指の動きが慣れずに所々ミスをしてしまった。その結果コンボを上手く稼ぐ事は出来ずに点数の伸びも良くなかった。


「私自身、流行りの曲もわからずに吉田さんに選曲を任せっきりになりましたし、ゆっくりとした曲でも実際に操作すると指が攣りそうで大変でしたね」


 指を上手く動かせなかったり、譜面を一つ二つ飛ばしてしまうなんてしょっちゅうで、僕は疲れた指をほぐそうと両手を合わせて指を反らしながら吉田さんに話し掛ける。


「日和さんもそうだったんだぁ、一回でもミスしちゃうとそれだけでパニックになっちゃうよね。私も少し指の感覚変になっちゃったかも」


 僕の手を見て指のストレッチ方法なの? と、吉田さんが交互に手を開いて閉じながら尋ねて来るので、筐体から離れながら教えていく。真剣な顔で僕の教えた方法を真似して手をうにうにと動かす吉田さんを見ていると、何だかおかしくなってついクスリと笑うと、吉田さんも釣られて笑い出す。


「あはは、思いっきり負けちゃったのに、楽しかったね日和さん! 始める前は上手に出来るって思ってても、全然下手っぴで自分でも驚いちゃった」


「ええ、意外とそう思えるのは二人一緒だったからかもしれませんね。一人ずつやっていたら落ち込んでしまっていたかもですね」


 終わってみれば始める前までの不安や緊張は何処かへ行ってしまい、案外結果を引きずるような事にはならなかった。当初の目的通りにまずはちゃんと楽しむというのも忘れずにやれている。其処に安堵した表所の桃瀬さんがやって来る。


「焔達も皆冷や冷やしながら見てたけど、二人共楽しそうにして帰って来たから良かったわぁー」


 後ろで全員で冷や冷やしながら見ていた事を桃瀬さんに言われて、僕が赤崎君達に視線を向けると、彼等は何処か照れくさそうにして僕に笑いかけている。心配してくれていた事にお礼を述べそれに大丈夫だと軽く微笑み返すと、林田先輩以外には何故かそっぽを向けられてしまう。


「オイオイ、お前達……それじゃあ日和さんに失礼じゃないか。ゴメンよ日和さん、これには悪気は無いんだ」


「もう、だらしないわねぇ、こういう時に素直に喜べなくてどうするのよ!」


 林田先輩からの謝罪と桃瀬さんの三人への喝が飛んでいると、桔梗院さん達も寄って来る。最初の勝負には圧倒されてしまったけれど、その顔は余裕はあるが油断はしていないといった感じだ。


「まあ、結果は目に見えておりましたが、案外楽しんでいらっしゃる様ですわね」


 僕と吉田さんを見つめると桔梗院さんは視線を逸らし、赤崎君達の方に向けている。先程の僕への対応を見て、彼等に少しムッとした視線になったかと思うと、改めて僕達の方へ向き直して来る。


「当然わたくしもこれだけで決着をつけるつもりはありませんわよ、この後も幾つか勝負を考えてますし、是非とも堪能させてあげますわ」


 この後も幾つもあると言われ、僕は最後まで疲れてしまわないか少し緊張しながらも返事をする。其処に桃瀬さんもやって来て桔梗院さんに近付いている。


「桔梗院さんもとても手慣れてて堂々としていてカッコ良かったよ~。私不器用だから手先が器用な人に憧れちゃうのよねぇ、焔達の分も私が褒めちゃうから皆頑張ってね!」


 笑みを浮かべて全員を応援する桃瀬さん。何時も影野さんが割って入って止めに来る距離間を掴めたのか、程良い位置で桔梗院さんを褒めている。手放しで褒められる事に満更でも無かったようで、彼女は少し照れた様子で次の場所へ先導し始めた。




◆◇◆




 次の勝負の場所へと向かい、筐体を見た途端に桃瀬さんが驚いている。そんなに大変な物なのかと注目する中、桔梗院さんの説明が入る。


「音楽と続くとなると、やはりダンスだとわたくしはそう思いましたの。お姫様たる者踊りも必要でしょう?」


 僕達の目の前にあるのは身体を丸ごと使って遊ぶような大型の筐体で、影野さんからの説明によると、床部分に専用のパネルが搭載されており、目の前の画面から流れて来る音楽に合わせて指示された方向に向かってステップを刻みつつ、要所要所でカメラに向かってタイミング良く指定されたポーズを取るという物だった。


 隅には安全の為にクッションが巻いてある、ポーズを取る時用の支えにもなりそうな柵が設けられており、筐体毎のスペース感覚も相応に開かれている。


 桃瀬さんは南野さんと一緒に先週このゲームを遊んでおり、その時の感想を思い出していた。


「うわー、桔梗院さんがこれを選ぶなんて思いもしなかったわ。私は楽しかったけど、一緒にやった春風なんて最後の方結構キツそうにしてたわよ?」


 僕も桃瀬さん達が遊んでいる姿を眺めていたけれど、選択していたコースは難しめな方だったと思う。南野さんは運動部にも入っていて、何なら体力測定の結果は僕よりも上だった筈。


 やるならなるべく簡単な難易度でやって欲しいなと思っていた所、疑問の目になりながら桔梗院さんが桃瀬さんの感想に返事をする。


「もしかしてとは思いますけど、結構上の方の難易度で遊んでらっしゃいませんでした? どうもヒーローの方のご感想ですと、体力の方に開きがございますし」


 その指摘に、桃瀬さんは春風もいけるって自信ありげに言ってたからつい、と頷きながら軽く返事をする。それを聞いて桔梗院さんは思わずため息を吐いてしまう。


「そんなに激しい難易度は選びませんわよ、そうなると踊りの種類まで変わってしまいそうですもの。優雅さや気品を兼ね備えてこそのお姫様ですわ」




 そこまで難しい難易度の物は選ばないとの事なので、僕は内心安堵しつつも筐体の中へと向かう。この勝負は僕と桔梗院さんだけで行う為、吉田さんは桃瀬さんの側で僕を応援してくれている。先程と同じように操作説明を聞いてチュートリアルを済ませてから勝負となる。


 桔梗院さんが曲を選択すると、少しして目の前の画面から軽快な音楽が流れて来て僕達はステップを刻んでいく。操作に集中すると動きがぎこちなくなりそうで、見た目を気にすると足元がおぼつかなくなってしまい、簡単な難易度であっても結構忙しい。


 僕は滑稽な姿を桃瀬さん達に晒してしまっていないか気になりつつも、画面を見ながら指定されたポーズを取る。片手を上げたり、片足を前に伸ばしたりと指定される物は軽めの物ではあるけれど、慣れない動きで支えについ手も伸びてしまう。


 真剣に挑みながら少し呼吸を整えつつも何とかプレイしていると、終盤に差し掛かったであろう所で隣の桔梗院さんがいる場所から息の上がった声が聞こえて来る。


「くぅ……! や、やはりこの服ではお腹周りが……!」


 桔梗院さんが苦しそうに小声で呟いていた。そして、途端に動きが鈍くなりミスをしてしまっている。それでも懸命に動き続けているが、曲が終わったと同時に支えにもたれて咳き込んでしまう。


「桔梗院さん!? だ、大丈夫ですか!?」


 点数よりも桔梗院さんの方が気になって、僕は彼女の筐体に駆け寄る。同時に影野さんも駆け寄っていて、そこで大丈夫だと言いたげな影野さんの静止を受け、彼女だけが中に入っていく。


「やはり、この勝負は日和様の方が分がありましたねエリカ様。ストレッチを始めてから数日ではまだ早いと私は止めましたが、得意そうな分野で負けたくないと意地を張るのはあまり良くありませんでしたね」


「い、一々……そんな事をバラさなくても、良いのよぉ……影野ぉ……ただ、お腹周りが苦しくて息が上がってしまっただけですから、大丈夫ですわぁ……日和さんも、皆さまも……」


 大きく息を吐きながら、自身の負けを認める桔梗院さん。まだ振り出しに戻っただけだと僕に強がって見せるが、すぐに咳き込んでしまっている。僕達は桔梗院さんが落ち着くまで少し休憩する事にした。




◆◇◆




 店内に備え付けられているベンチに桔梗院さんを座らせて、どうしたら良いか尋ねる桃瀬さんに影野さんはお水を用意して貰えないかと答え、すぐさま自動販売機の元へと向って行った。


 何処か身体を痛めた所は無いかと僕も尋ねるが、ただの疲労で少し休ませればすぐに調子を取り戻すと言われ、吉田さんと様子を見守る事にした。


「はい、影野さんお水買って来たわよ。それで桔梗院さんはどう?」


 帰って来た桃瀬さんがペットボトル入りの水を手渡す。影野さんはそれを受け取り、蓋をひねって開封して桔梗院さんに一言掛けて口元に運ぶ。


「大丈夫ですか? エリカ様、お水です。ゆっくりとお飲み下さい」


 一口、二口と水を飲むと、後は自分で出来ると影野さんからペットボトルを受け取り、桔梗院さんはゆっくりと水を飲んでいく。三分の一程の量を飲むと、蓋をして深く呼吸をしていく。


「申し訳ございませんわ、日和さん。何時もわたくしから勝負を提案しておきながら、醜態ばかり晒してしまって全く自分が不甲斐無いですわ」


「い、いえ、私も毎回内心では知らない事ばかりでいっぱいいっぱいですし、それを言えば最初の勝負はハンデを頂いて尚私の方がボロボロな結果ですよ?」


 何だか落ち込んだ様子の桔梗院さんをどうにか自信付けようと、僕は本心を正直に告げる。それでも彼女の様子は依然戻らず仕舞いである。


「どうやら本当にそのようなのでしょうけど、ですが貴女の周りにはそれでも認めて下さる方が沢山いらっしゃいますわ……」


 そう言って寂しそうな目で俯く桔梗院さん。見かねた影野さんが彼女の隣に座り、そっと背中に手を触れている。


 体調は良くはなっているけれど、このままでは勝負を再開する気配が訪れ無さそうで、どうしたら良いのかわからず話し掛ける事が出来なくなってしまった。落ち込む桔梗院さんをどうにかしたくて、桃瀬さんも何とか励まそうとあれこれ考えている。


「そうだ、こういう時には彰の出番かも……って、そう言えば彰ってばこんな時に何処に行ってるのよ!? 焔と翠もいないじゃない!」


 そう言えばそうだと、僕と吉田さんも辺りを見渡す。すると少し離れた所から様子を見ていた林田先輩が申し訳無さそうに桃瀬さんに話し掛ける。


「ごめん涼芽、焔達は桔梗院さんがただ疲れただけだと思ったらしくて、それで回復するまで時間を潰して来るって言って……」


「はぁ!? あのバカ達、それで自分達も遊びに行ったって事!? 少しは桔梗院さんを心配してあげなさいよ!」


 赤崎君達の行動に桃瀬さんが怒り出す。自分に向けられている怒りでは無いのに吉田さんはすっかり怯えてしまい、おろおろとしてしまう。僕も慌てて彼等を探すと、三人を発見する事が出来た。




 赤崎君は萌黄君と一緒にパンチ力を計測する筐体にいて、交互にグローブをはめて順番に計測器を殴っている。お互い三桁台の見た事の無い数値を叩き出しながら、ああでもないこうでも無いと言い合っている雰囲気だった。


 青峰先輩はメダルゲームのコーナーにいて、とても真剣な顔でこれから画面に出て来る数字が、最初にランダムに選ばれた数字より大きいか小さいかを当てるゲームの画面とにらめっこをしていた。顎に手を当ててぶつぶつと数秒呟いた後、大きいか小さいかを選択してはことごとく外している様子だった。


 そのどちらも後ろに人が集まっていて、見つける事自体は容易になっていた。僕達のいるベンチから離れた所にいるので、それぞれ何を言っているのかはわからないけれど、とても熱中している雰囲気だ。


「焔達は竹崎さんに何か言われて、それで来週に向けて対策しているって所かしら……? 何よ、まさか三人共日和さんと桔梗院さんを護る為に、三兄弟と争うつもりじゃないでしょうね……?」


 三人の姿を見た桃瀬さんがそう呟くと、おもむろに林田先輩に視線を向ける。珍しく動揺する先輩を見て、桃瀬さんは何かを察してため息を吐く。


「あいつ等なりに色々考えての行動なのは理解したけど、それでも目の前の桔梗院さんを放っておくのは間違いでしょ? ただ、翠のあれは一体何をやってるの?」

 

 その言葉を聞いて、桔梗院さんが顔を上げて彼等の方を見る。自分の為に何かをやり始めたと言われて少し目に興味を示すが、ただそれでも元気は無い。


「彰様達は凄いですわね、ヒーローだけあって周りに人が集まる華がありますもの。きっと此処にあるどんなゲームをやらせても、確実に人の目を集めますわよきっと。……ふふ、圧倒的過ぎてわたくし達の勝負どころじゃありませんわね」


 僕は何となくだけれど、桔梗院さんが落ち込んでしまった理由を察してしまった。確かに運動神経も反射神経も色々と高水準のスペックの彼等と比べると、腕前の良し悪しよりもとても映えのある動きになるだろう。


 ダンスの勝負で、桃瀬さんに対してため息を吐いてしまったのも、今思えば彼女も何となくその予感はしていたのかもしれない。それでも僕は何かを言わずにはいられなかった。




「あの、桔梗院さん。私が言うのも変な話かもしれませんが、確かにヒーローの身体能力には敵わないですが、その彼等は私達を見て夢中になると言いますか、何と言うのが正しいのでしょうか……」


 護りたくなるような特別な女の子だとか、お姫様のような子だという独特な表現に、あの日の会議でちゃぶ台に顔を突っ伏してしまう程の言葉を投げかけられた事を思い出してしまい照れ臭くなってしまう。


「正直に言って、私は今も戸惑ってはいるんですけれど、ガンバルンジャー以外にも今日会った竹崎さんも、話しに出て来た風の三兄弟って人達も、私達に興味深々なんですよ」


 自分の事をそう言ってしまう恥ずかしさで、顔が熱くなって頭の中の考えが上手く纏められない。でも落ち込む桔梗院さんが僕を見ている以上、きちんと伝えたい事は伝えなければ。


「わ、私がそう扱われているように、桔梗院さんだってそうなんですからっ、そんなに落ち込まないで下さい……だって、私達どちらがよりお姫様か競い合うライバルなんでしょう……?」


 僕は元々男だって自覚がある以上、やっぱりまだどうしても慣れる事が出来ずにいるこの単語。好意が含まれているのは理解はしているけれど、身体がもじもじしてしまいそうになってしまう。


 僕からそう言われた事に驚く桔梗院さん。視線が逸れ少し考えた後にまた僕の方に目を向けて来る。


「ですが、わたくしは自分から提案した勝負事を自分から訂正したり、今日もまともに勝負を進行出来無い程に勝手に落ち込んでしまったりと、貴女のように人を惹き付ける物なんて……」


「あ、あるよっ! 桔梗院さんにもちゃんと魅力的な所はあるよ! 日和さんも桔梗院さんも、わ、私にとっては憧れの存在なんだよっ!」


 少し大きめな声を出して吉田さんが割って入る。憧れの存在と言われてしまい、僕も驚いてしまう。


「え、えっとね、私が小学生の頃の話なんだけど、クラスにピアノが弾ける子がいてそれに憧れた事があったんだけど、今日の桔梗院さんのピアノの腕前はもっと上手で私驚いたんだ」


 吉田さんの話を桔梗院さんは静かに聞いていて、彼女の話は尚も続いていく。


「それだけじゃなくて、昨日A組で話してくれたよね? 私が一番得意な料理の事だって私が知らないような事を沢山知っていて、もっと詳しく聞きたくなったり、その他の事も色々知っていて凄いなあって思ったよ! それに、桔梗院さんは何時も自信満々で堂々としているから、臆病な私とは違ってカッコ良く見えるもん」


 今の桔梗院さんには、吉田さんの言葉がストレートに届いたのか、顔に手を当てて戸惑いながらも徐々に顔をほころばせていく。


「あの、わたくしが無理矢理巻き込むような形で呼んでしまいましたのに、吉田さんは嫌ではありませんの?」


「そ、そんな事無いよ!? それは最初は赤崎君達も来るって言われて緊張しちゃったけど、日和さんだけじゃ無くて、桔梗院さんとも遊べる事は嫌じゃ無いよ?」


 笑顔を向けてそう答える吉田さんを見て桔梗院さんの戸惑いはより一層強くなり、遂には顔を赤くして固まってしまう。そこに何かを思い付いたのか、吉田さんは自らの携帯端末を取り出す。


「え、えっとね、それで何だけどね……私もっと桔梗院さんの事知りたくて、今日だけじゃ無くて今後もこうやってお休みの日に会える日があったら良いなって思ったから、その……連絡先を教えるから、私とお友達になってくれませんか?」


 桔梗院さんは大きく目を見開いて、吉田さんを見ている。勇気を出して携帯端末を取り出した吉田さんは、依然固まり続けて反応が無い為か、次第に小さくなってしまいそうでいる。


 それを見ていた桃瀬さんは、彼女達に何かしてあげたくてうずうずしていて、僕の方に強い視線を向けていた。僕もこの場を何とかしたいとは思っているので、桃瀬さんに頷いて返事をして携帯端末を取り出す。


「えっ……? 日和さんに、桃瀬さんまで……よ、宜しいんですの? わたくし今まで貴女方にはあまり良い態度ではありませんでしたのに」


「最初、初めて会った時は驚きましたけれど、桔梗院さんなりに考えての事なのは伝わります。今日も勝負はうやむやになってしまいましたが、今後も良い好敵手として申し込んで来て下さい」


「私も二人の護衛なのだから、当然教え合っていても問題無いでしょ? それに、日和さんみたいにお友達にもなってくれるのも何時でも大歓迎よ!」


 僕達も吉田さんと揃って微笑む。立場とか任務とか報告するべき事とか色々と考えずに、今は心の思うままに動いてしまう。笑顔で待っていると、桔梗院さんが勢い良く立ち上がった。その顔は恥ずかしそうにしているけれど明るいと感じられて、桃瀬さんも喜んでいる。


「良かったぁ、元気になってくれたわね! 私達これからもっと仲良くなれちゃうね」


「か、勘違いしないで貰えるかしらっ! 貴女は護衛と言う事だから必要で、日和さんもライバル同士としての今後の為に必要なだけですわ。今日お友達になるのはあくまで吉田さんだけですの!」


 そう言って桔梗院さんも自身の携帯端末を取り出して、順番に連絡先を教え合う。満面の笑みで喜ぶ吉田さんを見て照れる桔梗院さんに、桃瀬さんが話し掛ける。


「ねえ、さっきのさぁ、今日お友達になるのは吉田さんだけって言葉の意味って、私達とはこれからお友達になっていくって意味で良いの~?」


 ニヤついた笑顔の桃瀬さんに、慌ててそっぽを向いてしまう桔梗院さん。ついには影野さんもわざわざハンカチを持って泣き真似までして話に加わる。


「ううー、良かったですねエリカ様。今日は一度に三人もお友達が出来まして、この影野も嬉しく思いますー。ぐすん、ぐすん、うっ、うっ」


「そういうのではありませんわよ影野ー! わざわざ泣き真似までして良い度胸じゃないですの!」


 騒ぐ二人が何だかとても微笑ましくて、つい笑顔になってしまうと桃瀬さん達も笑い出す。本来の思惑とは別に仲良くなれるきっかけが出来た事で、僕の中の桔梗院さんに対する印象も最初の頃から比べると、随分と柔らかい物になっている気がした。

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