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第二十一話 この勝負にも学べる物はあると思っています




◆◇◆




 午後の授業も終わり、僕は家へと帰ってメイさんを呼んで明日着て行く服はどんな物が良いか見て貰っている。学校での出来事も話し、桔梗院さんとの勝負で彼女の家が経営しているゲームセンターに向かう事も伝えてある。


 家で着る普段着にはショートパンツやズボンの類いは用意して貰っているのだけれど、出掛ける時用の服はスカートばかりになる。女物の服に慣れるには、やっぱり印象からしてわかりやすいスカートが手っ取り早いとのグレイスさんからの意見になる。


 前回遊びに行った時は、桃瀬さんはジーンズを穿いていたのを思い出したので、僕はジーンズを穿いてはいけないのかとメイさんに尋ねると、メイさんは僕の脚を見て、細めの物なら合うかもしれないが、詳しい事は今度グレイスさんが来た時に相談してみましょうと、月末にこの話は持ち越される事になった。


 色々考えてひざ下まであるスカートに、万が一の時の為にその中にももう一枚下着が隠れる物を穿いていくという形で落ち着く。


「これで良いかなメイさん? それと、メールでも吉田さんに教えてあげたいんだけれど」


「はい、宜しいかと。所で前回は事前に服装について連絡等は行わなかったと記憶しておりますが、一体いかがなさいましたか?」


「あはは、実は僕も少しそうなんだけれど、何故か明日はガンバルンジャーも総出で勝負を見に来るらしいから、吉田さんがどうしたら良いのかって緊張しちゃって……」


「そうでございましたか。それは桜様も、そのお友達の方も大変な気苦労をされているようで」




 結局お昼休みだけでは話し合いの時間が足りず、放課後に少し残って話し合いの続きになった。ガンバルンジャーが総出で来る事に緊張する吉田さんに、桃瀬さんはそんなに畏まらなくても良いと宥めていた。


 主役はあくまでも僕と桔梗院さんなのだから、追加で来る赤崎君達には気を遣わなくても別に良いと桃瀬さんはそうは言うけれど、一緒に残って話を聞いていた南野さん達含む他の女子達からは、吉田さんみたいなガンバルンジャーに免疫の無い普通の女子なら相当なプレッシャーになると反論される。


 僕も彼等に制服姿を見られる事には大分慣れては来たけれど、私服姿を見せるのはこれが初めてになる。護衛対象という立場になっている以上、今後学校の外でも交流する機会は増えていくのかもしれないと思うと、僕も緊張してしまう。それでも、僕の側には相談出来るメイさんがいるので、多少は緊張は和らぐけれど吉田さんはそう言う訳では無い。


 南野さん達からの話を聞いて、それもそうかと桃瀬さんも頷き、それならばそれぞれが家に帰った後、携帯端末で連絡し合って妥当なラインを判断してあげると吉田さんに提案してくれた。


 吉田さんもそれで納得し、僕も予め着て行く服を吉田さん達に教える事になっていると、メイさんの疑問に対して説明する。


 話を聞いていたメイさんは静かに頷き、そして微笑みを浮かべながら僕を見つめている。


「異性からどのように思われるかそのような意識を考えるのも、今後の為にも必要な訓練になるので頑張って下さい桜様」


「い、異性って……それは確かに身体はそうなっちゃったけれど、僕もそういう事になっちゃうの……?」


 産まれた時から女性の吉田さんならば、その意識はとても大切な事だと思うけれど、今の僕はどうなんだろうときちんと考える間も無く自分でも良くわからない曖昧なままに、周囲が目まぐるしく動いていく。以前の身体の感覚はもうおぼろげとなってしまったが、僕が男だったという記憶は消えた訳では無い。




 今の僕は男女どっちなんだろうと悩んでいると、メイさんの顔がやや真剣な物になり、僕は思わずメイさんの方に意識が向いてしまう。


「いいですか、桜様。これはグレイス様もおっしゃられていた事になりますが、次の会議では桜様が自分でお選びになられた洋服をレオ様達にもお披露目するのでしょう?」


 メイさんからそう言われて、僕は入学式が終わった次の日にグレイスさんとメイさんと一緒に服を見に行った時の事を思い出す。あの時僕が選んだ服を、次の会議の時にレオ様達にも見せると引っ越しする前から話し合っていた大事な事だ。


 女の子になった最初の頃の会議ではこの意味を全く知らなくて、僕が服を選んだ時も、女物の服の構造を勉強する事に意識が向いていた為、レオ様達にも見せるという事を頭の中では記憶していても、その事について深く考える余裕が無かった。


 生活も落ち着いてきた為か、今この時になって途端にその事について意識し始めてしまうと、何故か僕は顔が熱くなってきてしまい戸惑ってしまう。


「そ、そう言えばそうだったよ……! ど、どうしよう!? あの時もちゃんと考えながら服を選んだつもりなんだけれどね、今になってもっと良い服があったんじゃないかなって思い始めて来ちゃったよ……!」


 どうしようか一人で慌て始めた僕を見て、メイさんがクスリと笑い出す。


「ふふっ、大丈夫ですよ桜様。洋服を選んでいる時の桜様のお顔は真剣そのものでしたし、私もグレイス様も良く似合っておいでだと思いましたから」


「ほ、本当に……? 二人はそう思っていても、レオ様達には似合っていないと笑われないかな……? だって、二人じゃなくて僕が選んだんだよ……?」


 僕が不安になってメイさんに聞いて見ると、彼女は笑顔を僕に向け、尚も笑い続けている。こうなるメイさんは珍しいなと感じつつも、不安な僕を見て笑う事に少しムッとしてしまう。


「もう、僕は真剣なんだよ? メイさんも何時までも笑わないで、ちゃんと答えてよ」


「ふふふ、申し訳ございません桜様。ですがご安心下さい、何せあの洋服は桜様ご自身がきちんとお選びになられたのですよ? それをレオ様が笑う等と言う事など、そんな筈はございませんから。こういった感情が桜様に芽生えると言う事は順調に今の生活に馴染んで来てますね」


 笑顔のメイさんから、全く問題など無いと太鼓判を捺される。レオ様は決して笑わないとそうきっぱりと言い切られてしまっては、それを信じるしか無い。


 それよりも、僕が取り乱してしまったのに順調とはどういう事なんだろう? この身体になってから、僕自身たまに変な事を考えてしまうし、本当に上手く馴染めているのだろうか?


 僕が頭の中で考え事をしていると、メイさんが立ち上がりキッチンに向かい始める。


「そろそろ時間ですし、私はこのまま夕食の支度をしますね。その間に桜様もお友達にご連絡の方を」


 メイさんに言われ、僕は吉田さんにまだ連絡をしていない事に気が付き、急いでメールを打ち込み始めた。すぐにメールを送り、数分後に返信が返って来て吉田さんからの感謝の文章を見ると、安心したのかお腹がなってしまう。


 お腹が空くと良くない事ばかり考えてしまうのは僕の悪い癖だ。これ以上は考えると余計にお腹も空くし良い事も無い。僕はすぐさまメイさんの晩ご飯の支度を手伝う事にした。




◆◇◆




 その後は何事も無く、土曜日となる。集合の時間は午後の一時半と、お昼を過ぎる時間帯な為、僕達は各自自宅で食事を済ませてから出掛ける事にしていた。メイさんと一緒に少し早めにお昼を食べて、着替えもして家を出る。


「それじゃあ行ってくるねメイさん。今回も色々と話し相手になってくれてありがとうね」


「何時も側に仕える身ですので、これ位はお安い御用ですよ桜様。それではお気を付けて行ってらっしゃいませ」


 玄関でメイさんに見送られ、僕は桃瀬さん達との何時もの待ち合わせ場所に向かう。時刻は一時前で、少しすると時間通りに桃瀬さんが来たのでそのまま二人で吉田さんとの待ち合わせ場所に向かう。




 三人揃い、ゲームセンターへ向かう道のりで今日の心構えや、服装についての話になる。桃瀬さんは先週もそうだったけれど、女の子にしては格好良くてヒーローとして凛々しさも感じさせる服だった。


 僕と吉田さんは動きやすさを考えて、先週と比べて少し落ち着いた服にしてある。その事について桃瀬さんはそんなに不安に思わなくても今の二人共も可愛いから大丈夫よと、笑顔で吉田さんを励ましている。


 吉田さんも調子が良くなり、今日は一生懸命頑張ると僕に気合の入った姿を見せてくれた。吉田さんには楽しんで貰いたい為、元気でいてくれると僕も笑顔になる。


「そう言えば桃瀬さんは、私と日和さんの服を可愛いと褒めてくれるけど、こういったデザインの物って持って無いの?」


「うっ……! い、いやー……可愛い子が可愛い格好してくれる分には私は大好きなんだけどね、ほら、私って性格的にそういった服って似合わないって思わない?」


 普段僕達を可愛い可愛いと褒める桃瀬さんに、こういった服が可愛いと思うのなら、持ってはいないのだろうかと疑問に思ったのか吉田さんが問いかけると、何処かぎこちない表情になる桃瀬さん。


 普段の桃瀬さんはとても明るくて活発な印象だと感じる。それにヒーローとしても活動もしているので、赤崎君達に自然と合わせようって思うと動きやすさや格好良さを重視した服装の方が好みなのだろうか。


「普段の桃瀬さんの印象は、確かに明るくて活発とは思いますが、ですが似合わないなんて事は無いと思いますよ。女の子なんですから、格好良さの中にも可愛らしさがあっても良いじゃないですか?」


「そうだよ! カッコ良さと可愛さのどっちかを犠牲にしなきゃいけないってルールは無いんだよ? 桃瀬さんだって日和さんと同じ位綺麗だし、私よりも絶対可愛くなれるよ!」


 僕達は何処か自信が無さそうな桃瀬さんに、そんな事は無いと否定する。それを聞いて桃瀬さんは照れ臭そうに観念した顔になる。


「いやぁー……あはは、此処に春風達がいなくて良かったわぁ……いたら絶対からかい混じりに私が泣いてる時なら似合うって言いそうだもん。私だって本当は興味が無い訳じゃ無いんだけどね、でも今更焔達にもそんな姿見られるのも恥ずかしいじゃない?」




 何時もの活発さが消えた桃瀬さんが、俯きがちに顔を下げて話し出す。親しい人達から活発な印象を持たれている分、桃瀬さん自身もそういう風に意識してしまっているのだろう。


 何だか僕も似たような経験をした気がする。僕の場合はひ弱で頼り無いと一人で思っていたのが、周りはそう思っておらず、価値観を大きく変えられてしまったという物だけれど。


 上手く言葉には出来ないが、意識して思い悩んでしまうという点では同じかもしれない。


「桃瀬さんも意識して思い悩んでしまうんですね。実は私も此処に引っ越してくる前に思い悩んでいた事がありましたが、周りはそんな事は全然思っていなくて、逆に私自身が自分の価値観を大きく変えるような出来事がありました。そのせいで周りとの距離を測り間違えてナンパ染みた事をされまして、あはは」


「えっ? もしかしてそれって入学式の時に初めて出会った時に話してた事……?」


 僕自身の経験談を話すと、桃瀬さんは驚いた表情で僕の顔を見て来る。男から女の子にされてしまい、その素顔が周りからして見ればとても好ましい物だっただなんて、一から説明してしまえば大変な事になりかねないので、ぼかして話さないと。


「えっと、なんて言いますか、私自身は髪の色を奇妙だと思っていましたし、孤児院から引き取られた後は、素顔もとある理由で周りに見えないように隠していたんです。その時の私は、自分の事をなんてひ弱で頼り無い存在なんだと一人で思い悩んでいました」


 桃瀬さんと吉田さんは僕の話を興味深げに静かに聞いている。この後の話を考えると最終的にお姫様と呼ばれ慣れてなくて泣いてしまったという話になる。それをそう呼び始めた張本人の前で話すのは気が引けるし恥ずかしいので、その手前で止める事にする。


「よ、要するにですよ、自分では思い悩んでいても、周りはそんな事は思って無いって事を言いたいんです私は。ですから、私をお姫様と呼ぶ人なら、きっと可愛らしい一面があっても変に思われませんよ」




 僕は無理矢理自分の経験をかいつまんで、桃瀬さんにそう伝える。話している途中で恥ずかしくなって来て顔も熱くなるが、此処でそっぽを向いてしまう訳にもいかない。


 僕が言いたい事が伝わったのか、桃瀬さんの表情はぱあっと明るくなり、嬉しそうに僕の手を握り締めて来る。


「ありがとう日和さん! そう言って貰われちゃったら、もうこの話でうじうじ悩んでもいられないわね! 吉田さんもありがとう! 私二人と仲良くなれてホントに良かったわ、でも、この話はまだ春風達には内緒にしててね?」


「うん、わかったよ。でも、二人も意識して思い悩んじゃう事ってあるんだね。私一人だけ意識し過ぎちゃってたのかなって思ってたけど、そうじゃないんだって思うと安心しちゃった」


 吉田さんからの言葉に、桃瀬さんは頷いて皆一緒だねと笑い出す。三人で話し合った結果、何処か足取りも軽くなったような気がしてそのまま目的地まで向って行く。




◆◇◆




 約束の時間まで十五分程余裕を持って、僕達は目的のゲームセンターに到着する。土曜日の午後という事もあってか、結構な人数が辺りを移動している。桃瀬さんが少し早く着すぎたかなと呟き辺りを見ると、少し離れた人混みが少ない所に赤崎君と青峰先輩が二人で一緒にいるのを発見する。


 僕もそうなのだけれど、二人も髪の色がとても目立つ為か容易に発見できてしまう。服装も髪の色に合わせた色合いを所々に取り込んでいて、身長も体格も良い彼等は立っているだけでも様になっている。


 青峰先輩の姿を見た吉田さんが少し緊張して、僕達の後ろに隠れてしまう。それを見た桃瀬さんは彼女を宥めつつ、今日の事について何か言いたそうな顔になり二人に近付きつつ声を掛けた。


「アンタ達そこにいたのね! ちょっと今日の事で言いたい事があるのよ」


「なんだ、涼芽か。お前も今来たのか、側にいるのは日和さんと、彼女の後ろにいるもう一人の子は……?」


 青峰先輩が桃瀬さんの後ろにいる僕達に視線を向ける。初対面な為に一体誰だと視線を向けられた吉田さんは、緊張で肩をびくりと震わせてしまい、僕が大丈夫だと声を掛ける。


「もう、吉田さん怯えてるじゃない! 折角今日の為に日和さんのお手伝いをしに来てくれた吉田さんに何してんのよ! 翠、桔梗院さんにちゃんと今日何をするのか、アンタ聞いて無かったの!?」


 桃瀬さんが吉田さんの為に、青峰先輩を叱り出す。先輩も何かを思い出したのか、しまったと言いたそうな表情になり、少し申し訳無さそうな顔でそのまま桃瀬さんの文句を静かに聞いている。


 もう少し詳しく話を聞いてから許可を取りなさいとか、先輩達は一体何の為にわざわざここに来たのか等、勝負以前に色々と大変だったと、思っている事を素直に話す桃瀬さん。


 反論する気が無いのか、桃瀬さんが話し終わるまで静かに聞く側に徹していた青峰先輩は、一言ずつ桃瀬さんに反省の言葉を述べている。そんな二人の横から少し気まずそうな顔をした赤崎君が僕達に近付いて来る。




「ハハ……日和さんと、吉田さん、今日は二人で桔梗院と例の勝負をするんだってな。吉田さんも申し訳ない……翠から今日は俺達全員参加って言われてさ、涼芽だけに任せずに俺ももっと気を遣うべきだったな」


「えっ? い、いや、教室にいる時に赤崎君に気を遣われたら、クラスの皆から余計に注目を浴びちゃってたと思うから、それこそもっと緊張しちゃうよ!?」


「あっ! そ、そうか……! 吉田さん、ほ、本当にすまない! どうも、こういう事は目立つようになってからは途端に難しくなっちまったな……」


 吉田さんに謝罪をする赤崎君は、自分が考えていた対応方法が余計に周りを混乱させると指摘され、何処かしょんぼりとした顔で落ち込み始めた。慌てながら返事をした吉田さんも、彼の落ち込み具合にきょとんとした顔になる。


 そんな姿が僕は何だか気になってしまい、赤崎君に挨拶をしつつも、尋ねる事にする。


「こんにちは、赤崎君。能力者と言う事もあるのでしょうけれど、今と昔でそんなに大きく違うんですか?」


「あ、ああ、日和さん。いや、髪の色はガキの頃に変わっちまったから、ヒーローになる前まではそんなにだったんだけどさ、中学で背が伸びて強くなってから一気に注目されるようになってさ」


 能力者になったからというよりは、ヒーローとして大出世した頃から注目され始めたと言う赤崎君。大々的に情報は秘匿されてはいても、こんな見た目をしていたら周りはすぐに彼が何か凄い事をしていると察してしまうだろう。


 人の何倍も注目を集めてしまう事を、少し悲しそうに笑いながら話す赤崎君の顔を見て、そういえば僕が此処に来た理由もガンバルンジャーの情報を集める事なのを思い出す。シャドウレコード内でも注目されるようになってから行動に出たので、理由が理由なだけに僕はそこから何も言えなくなってしまう。


 孤児院時代の事もあって、向こうは僕を忘れず覚えていたのに、僕の方は唯一優しく接してくれていた男の子が、赤崎君かどうかもちゃんと判断出来ずにいるせいで申し訳なくなってしまう。


 お互い気まずい空気感になってしまい、僕達の事情を良く知らない吉田さんも困ってしまっていると、赤崎君の後ろに桃瀬さんが近づいて来て、そのまま背中を強めにばしんと叩き出した。




「いっ!? ってぇなぁ! 何だよ涼芽!? なにすんだよっ!」


「アンタこそ何二人を困らせてるのよ! それに大体、焔が注目されるのは、普段から愛想が良く無いのにたまに誰かに声を掛けちゃうからでしょ! もっと周りとコミュニケーションを取りなさいよ、全く」


 背中を叩かれて、その痛みで桃瀬さんに詰め寄る赤崎君、しかし、変に注目されるのは周りとのコミュニケーションが足りていないと、僕達との話を聞いていた桃瀬さんから指摘されてしまう。


 愛想がそんなに大事なのかと桃瀬さんに聞く赤崎君。それを聞いて、あたり前でしょと返事をして、桃瀬さんは自分と萌黄君と林田先輩は現に周りと上手くやっていっていると例を挙げている。


 その説明で納得したのか、赤崎君はそのまま何の反論もせずに、どうやったら愛想を良く出来るのかと桃瀬さんと話し合いになっていく。そして今度は、手が空いた青峰先輩が僕達に話し掛けて来た。


「日和さんと、その友達の吉田さんだな。俺の配慮が足りなかったせいで今日は色々と迷惑をかけてしまって申し訳ない」


 そう言って青峰先輩が頭を下げて来る。ヒーローで生徒会長でもある先輩に初対面で突然そうされてしまっては、一体どうしたら良いのかわからないのは当然で、吉田さんは赤崎君の時よりも混乱してしまう。まずは頭を上げてもらわなければ。


「あ、あの、青峰先輩、頭を上げて下さい。私達も緊張はしましたけれど、今日は勝ち負け関係無しに全力で遊ぼうって桃瀬さんと三人で話し合って来ましたから。この前遊びに来た時には出来なかった事をやれる良い機会だと思っていますので」


「二人共、そんな調子で良いのか? だが、君と桔梗院さんとの大事な勝負を、俺が勝手に許可をしてしまった訳で……」


「それも大丈夫です。私も吉田さんも今回に関しては共に初心者ですので、桃瀬さんも事前に今回の件だけで勝敗が決まる訳では無いと確認を取って下さいましたし、そんなに重く受け止めないで下さい」




 僕との会話で、青峰先輩もようやく頭を上げる。ひとまずはどうにか出来たのかなと、ホッとしていると、落ち着いた吉田さんが挨拶をしようとしている。


「あ、青峰先輩、はじめましてですよね! 私、吉田 幸江って言います。日和さんとはお友達で、同じクラスの桃瀬さんとも仲良くさせて貰ってます!」


 緊張で顔を赤くしながらも、吉田さんは挨拶と軽い自己紹介を済ませている。その姿を見て、青峰先輩は不思議そうな顔になる。


「え、えっと……先輩? 何か私が変な事を言いましたか……?」


「いや、涼芽がこんな雰囲気の子と仲良くなるとは珍しいなと思って、君みたいに御淑やかな印象の子とはあまり接点を持てないと、何時も涼芽は嘆いていたから。だがそれも、日和さんの友達と言われれば納得がいく」


「ちょっと、どういう意味よそれ! それは確かに吉田さんと最初にお友達になったのは日和さんだけど、ただ接点が無いってだけで、慕われる事は多いんだから私だって仲良く出来ない訳じゃ無いわよ」


 青峰先輩との会話に割って入って来た桃瀬さんが反論する。そしてそのまま左右の手でそれぞれ僕と吉田さんの手を繋ぎながら先輩にムッとした表情を向ける。


「二人はようやく出来た、私にとっての癒し系のお友達なのよ? 今日だって此処に向かう途中で悩み事を聞いて貰ったし、桔梗院さん共々優しくしてあげないと私が許さないからね?」


「そ、そうか、わかった……それじゃあ吉田さん今日はよろしく頼むよ。それと今後も涼芽とも仲良くして貰えると有難いな」


 吉田さんは手を繋いで貰えてからは緊張も解け、桃瀬さんににこやかにお礼を伝え、先輩にも返事をして和やかな空気になる。その後は桃瀬さんが改めて赤崎君達へのコミュニケーション能力について問いただし、先程の青峰先輩への指摘も行い始めた。


 そんな話を僕は吉田さんと少し離れた場所でお互い苦笑いしながら聞いていると、街中に備え付けられている電子時計が約束の時刻を表示した。




「あら、もう約束の時間になっちゃったの? 桔梗院さん達は着いているのかしら」


 僕達が時間を確認していると、話をしていた桃瀬さん達三人もそれに気が付いて反応する。改めてゲームセンターの入り口に向かうと、僕達が来た道と反対方向から左右に結んだ青紫色の髪を揺らしながら上品に歩く桔梗院さんが、護衛役の萌黄君達を連れてやって来た。


「ごきげんよう、皆さん。日和さん、わたくし今日は絶対に貴女に勝ってみせますわよ」


 挨拶をしながら堂々とそう言ってのける桔梗院さん。しかし、ゲームセンターで遊ぶにしてはその服装は動きにくそうな印象を受ける。


 女物の服について勉強中の僕ですら、そんな印象を持ってしまったのだから、当然吉田さんと桃瀬さんも驚いていて、意を決した桃瀬さんが僕達に代わって桔梗院さんに尋ねだした。


「えっと、桔梗院さん? 今日はこれから貴女のお家が経営しているゲームセンターで勝負するのよね?」


「ええ、そうですわよ? ふふん、わたくしこう見えても得意な分野の筐体も幾つかございましてよ? ただそれですとわたくしだけ有利になってしまいますから、きちんとそれ以外の物も考えてありますわ」


 桃瀬さんの質問の意図は伝わらず、桔梗院さんは堂々と胸を張って自慢をしている。その反応に少し戸惑いながらも桃瀬さんは質問の内容を詳しく話していく。


「いや、そうじゃなくてね、私も此処に来て中の物で遊んだ経験があるんだけど、結構身体を動かす物もあったと記憶しているのよ。桔梗院さんの着ている服って、腰の辺りとか結構固定されちゃってるように見えるけど、大丈夫なの?」


 桃瀬さんからの指摘を受け、ようやく質問の意図が伝わったのか桔梗院さんはウッとした表情になる。あれこれ考えて服装を決めた僕達を見ながら、若干悔しそうな顔になる桔梗院さんが応える。


「し、仕方がありませんでしたの、わたくしだってもっとお手軽なお洋服を着てみたくはありましてよ? ただ、何処のお店に向かえば宜しいのかわかりませんし、影野もわたくしに合わせて生きて来たので礼服等の知識は一通りあっても、普段は使用人の服で間に合わせているようですし……」


「申し訳ありませんエリカ様。この影野、このような場面に相応しい服装の知識に乏しかったようです。それに、桔梗院家に仕える身の者は、主に仕える際はこの姿でいる事が必要条件でございます」


 桔梗院さん達が、自分達の事情を告白している。どうやら影野さんの服は桔梗院家から支給されている物らしい。メイさんも僕の部下になった時から似たような服を普段から着ているけれど、あれは本人曰く半分趣味になる。


 不審者騒動の時に目立ってしまった際に、グレイスさんからも目立ち過ぎていたと指摘され、それ以降は僕と一緒に出掛ける時には私服に着替えて出掛けてくれている。




「まさか、わたくしの方から不手際を晒してしまうとは……ですが、今回の勝負はあくまでもわたくしの見識の広さを披露する事も重要な目的の一つですわ。その為にわざわざ翠様達もお呼びしましたのよ!」


 桔梗院さんが赤崎君達まで呼んだ理由を説明する。彼等は呼ばれた理由を初めて聞いたようで、四人ともそれぞれ反応に困っている。


 僕達三人はA組でのやり取りで、桔梗院さんがどのような考えをしているのかは把握出来ていたし、僕も話を聞いていた時は自分なりに思う所もあったので、今日は精一杯やるつもりだ。僕は自分の想いを伝える為に桔梗院さんの側に近付く。


「桔梗院さん、正直に言って私は世間について知らない事だらけですが、それでも今日のこの勝負にも学べる物はあると思っています。貴女との勝負を通じて様々な事を学ばせて貰いますよ」


「あら、それは良い心掛けですわ。やはり対峙する者はそれ位の意気込みを持って挑んでくれませんと、張り合いも産まれませんわ。日和さん、貴女をライバルとして認めたのは正解でしたわ」


 僕の意気込みは、桔梗院さんにとって理想的な物だったらしく、彼女も楽しそうに笑みを浮かべている。桃瀬さん達も僕の側まで来て、吉田さんも今日は一緒に頑張るよと張り切ってくれている。


 僕達はとても盛り上がっているが、教室でのやり取りを知らない男子達四人はいまいちこの雰囲気についてこれてはいない様子だった。そんな彼等を桃瀬さんが無理矢理引っ張って、全員でいざゲームセンターに入ろうとすると、入り口から誰かがやって来た。




「なんだぁ? 警備員から目立つ髪の色した凄い美少女二人が入り口で何か言い合ってるって聞いて見に来たら、何だ桃ちゃん達じゃねえか。それに今日は焔達も勢揃いなのか」


「もう、桃ちゃんって言うのやめて下さいよ竹崎さん。それと、今日も巡回中なんですか?」


「おう、先週も言ったと思うが、ここいらは俺達ダイナマイトボンバーズの担当箇所だぞ。それにしても日和ちゃん達は今日も可愛いが、そっちの青紫の子も例の子か……あー、ったく、何で焔達だけこんなに可愛い子達に恵まれてんだー! ズルいぞ!」


 突如現れたオレンジ色の髪の色をしたとげとげの奇抜な髪型の筋肉質な男性は、桃瀬さん達と知り合いで、今も親しく話し合っている。それもその筈で、彼もれっきとしたヒーローの一人であり、その情報もシャドウレコード内でも把握している実力者の一人になる。


 彼の名前は竹崎と言い、ダイナマイトボンバーズというヒーローチームに所属している。Bクラスにはなるのだけれど、情報によるとその特殊な戦闘スタイルによる瞬間的な戦闘能力はガンバルンジャーを上回り、Aクラス上位以上になるという。


 僕と吉田さんは彼と出会うのはこれで二回目になるが、初対面の桔梗院さんは、竹崎さんの勢いに押されてしまっている。


 ガンバルンジャー以外の正式な他のヒーローと直に出会うのは先週が初めてになり、そこで今まで半信半疑だったヒーローが特別な女の子に弱い云々の話が、本当だったと言う事を身をもって体験する事となった。


 先週の僕相手にもそうだったが、今日の竹崎さんは桔梗院さんにも挨拶をしている。彼の顔はとてもにこやかな物ではあるけれど、赤崎君と同じ位の背で筋肉質な体型は、僕の時以上に身長差があり桔梗院さんは逃げるように萌黄君の後ろに隠れてしまい、影野さんも彼を警戒し始めた。


「あ、彰様っ! わたくしをお助け下さいまし、彰様達のお知り合いの方なんでしょう? あの方は何だか桃瀬さんに近い雰囲気を感じますのよ!」


「すげえ……生のお嬢様言葉だ、良いなぁ、俺もあんな風に可愛い子に頼られてぇなぁ……焔だけじゃなくて彰も出会いがあったのか。翠、お前だけが最後の希望だ」


 そう言って竹崎さんが青峰先輩に絡んでいる。先輩は何時もの調子とは変わって、慌てた様子でツッコミをしている。この独特な展開に桃瀬さんは笑っていて、他のガンバルンジャーの面々も楽しそうにしていた。


 萌黄君の後ろに隠れている桔梗院さんは尚も警戒しているが、彼女の警戒を解くように萌黄君が説明をし始める。


「あはは、大丈夫だよエリカちゃん。あの人は竹崎さんって言って、俺達の先輩で今まで何度もお世話になった事もある、とっても頼りになる人なんだよ」


 そのまま萌黄君が説明を続けようとしている所に、様子を見に来た警備員までやって来て、竹崎さんに状況説明を求め始めた。周りを見れば、既に何人かが僕達が気になってこちらを見ていた。


 赤崎君達もそれに気が付いて、彼等全員がしまったと言いたげな顔になる。竹崎さんもやっちまったと大笑いして、僕達は今度こそお店の中に入る。

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