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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第四話

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現れし敵

 賊の数はそれなりではあったし、籠城する面々ならばそう対処は難しくない――ユティスがそう思った時、ある事に気付いた。


「……魔具を、所持している」

「の、ようだな」


 シャナエルが同意する。騎士達もその言葉により少しばかり警戒の度合いを強めるのがユティスにもわかった。


「一人ならまだしも、騎乗している面々全員がそうである所を見ると、パトロンのようなものがいるのだろう」

「だと思う……こうなると、賊であっても厄介な相手かもしれない」


 シャナエルの言及にユティスは返答しつつ、周囲の面々を見る。

 騎士とラシェンが雇った勇者傭兵の混成部隊。連携などを取ることは難しいだろうし、なおかつ個々の戦力もバラバラなのは間違いない。


 人数的には、この場にいる者で十名程――対する賊もほぼ同数――いや、後続からさらなる蹄の音が聞こえてくる。


「……打って出たい所だが、人数的にもこちらが不利のようだ」


 騎士の一人――この遺跡調査にも同行した、ロランが告げる。ユティスもそれには黙って頷き、剣を構えたまま沈黙を守る。

 やがて、賊達が遺跡入口近くへと接近してくる。彼らは遺跡入口でわだかまっているユティス達を見て、笑みを浮かべつつ剣を向ける。


「そんなところに引きこもっていないで、外に出たらどうだ?」


 その中で一人、リーダー格と思しき人物が問い掛ける。白い外套かつフードを被り、手に握るのはやや湾曲した剣――ユティスにはそれがシミターに見えた。他の者の武器を見れば全員が直剣であったため、おそらく武器自体が魔具の一種なのだろうと見当をつける。


 彼はそこでフードを脱ぐ。特徴は濃い茶髪にいかつい目つきをしている点。風により外套がはためき、革鎧を身に着けていることも確認。傭兵という雰囲気が抜けきっていないが、リーダーとしての風格は存在し、引き連れてきた賊の中で一番烈気を放っている。


「ま、いいや……えっとだな、ここに来たのは当然お前達に用があってのことなんだが……今から言う人間を、俺達の目の前に出してくれればそのまま帰るぞ?」

「聞く耳を持つと思っているのか?」


 侮蔑するような態度でロランが問う。他の騎士や魔術師達も彼の言葉に応じるように剣や武器を構え、臨戦態勢に入る。

 が、当のリーダー格の男はおどけた声で返答した。


「おいおい、俺達はまだ何もしていないだろ? せめて話くらいは聞く気にならないのか?」

「問答する気もないな」


 切って捨てるロラン。それに賊はため息をつき、


「やれやれ、ま、仕方がないな……それじゃあ要求だけ言うぜ。この場所に、聖女様がいるはずだ……そいつを寄越せ」


 聖女――その言葉を聞いたユティスは訝しげな視線を向ける。


(聖女……イリアのことだよな?)


 胸中呟き、他の可能性が無い以上そうとしか考えられない。だが――賊達がなぜその言葉を知り、なおかつ彼女を要求するのか。


「……お前、その言葉をどこで知った?」


 ロランが問う。けれど賊は卑しい笑みを浮かべるだけでそれ以上の反応を示さなかった。


「……わかったよ。お前達が誰かと手を組んで仕掛けているのは」

「だとしたら、どうする?」


 挑発的な問い掛けにロランは、切っ先を相手へ向け、


「ここで、叩き潰すまでだ」

「ずいぶんと好戦的な騎士だな……まあいいさ」


 リーダー格の男が語ると同時、後方にいた賊の一人が右手を掲げた。その手には杖。どうやら魔術師――

 ロランの隣に控えていた魔術師はそれに応じるように腕をかざす。おそらくは、結界を構築する準備。


 リーダー格の男は相変わらず笑っている。ユティスは勝機があるためなのかと思ったのだが――次の瞬間、相手の顔に別のものを感じ取る。

 それは言ってみれば、これから起こることによりユティス達が驚愕する――その表情を期待するような雰囲気。


 ユティスが賊達を注視する間に、部下の面々が遺跡の入口を取り囲むように移動を行い、なおかつ魔術師らしき人物だけは杖を掲げたまま動かない。

 一方騎士達は剣を向け威嚇する――完全な膠着(こうちゃく)状態に陥ろうとした時、


「――やれ」


 冷酷な賊の声が聞こえた。


 刹那、杖を掲げていた魔術師が魔法を繰り出す。それはシンプルな火球であり、味方側の魔術師が結界を構築しようとした。

 だが、その狙いはユティス達ではなかった。とあるテントの一角――ユティスもその場所が何であるか即座に理解する。


 それは、発掘品が収められていたテント。


 爆音が轟く。次いでこの遺跡調査を無に帰すような絶望的な爆発と煙が、ユティス達の視界に入った。


「……お前ら」


 爆音が轟いた後、ロランが口を開く。所作を見て、理解できないという態度だった。


「何を……している?」

「俺達の目的が理解できるとも思えないけどな」


 リーダー格の男が、先ほどロランが切り捨てたように告げる。


「そもそも、裏で手を引いている人間がいるって認識はしているんだろ? なら、それでいいじゃないか」

「……なるほど、よくわかったよ」


 ロランは全てを押し殺すように呟くと、相手を眼光鋭く見据えた。


「ならお前らを叩きのめして、それから事情を訊くことにするさ」

「ああ、どうぞ」


 自信を持っているのかリーダー格の男が呟き――


 ユティス達は戦闘を開始した。



 * * *



 サフィと共に遺跡の中へ進むイリアは――姉の指摘があるまで一つ忘れていたことがあった。


『ところで、それいつまで持っているの?』


 ――状況の変化に対処しきれず、気付けば発掘品から手に取った物を抱えているのを完全に忘れていた。

 サフィに言おうか迷った時、イリア達は開けた空間に出た。そこには状況を知り右往左往する調査員や、崩落した場所を確認してきた騎士など、混沌とした光景があった。


「サフィ王女!」


 その中で調査員の一人が声を掛け近寄っていく。それに合わせるように遺跡内にいた面々が彼女へ近寄り、イリアはなんだか引き気味になってそのまま後ずさりした。


『イリア、気を付けて』


 そこでアリスが警告する。何のことかと首を傾げていると、アリスはさらに言及。


『このどこかに通路を爆破した奴がいるって話……相手の目的が何なのかわからないけど、ユティスさん達の近くにいる私達は特に注意した方が――』


 そんな時、サフィが距離を置いたイリアの存在に気付く。


「あ、イリアさん……って」


 そこで彼女も持っている物に気付いたらしい。


「あの、これ」

「ひとまず、発掘品を集積している場所に置いたらどうでしょうか」


 脇から調査員の一人が進言。それにサフィは頷き、


「そうね……イリアさん」

「は、はい」


 言葉と共に学者に連れられ脇道へと入る。さらに兵士の一人が護衛のつもりかイリア達に伴い、三人で進む。

 先ほど姉に言われた通り、イリアは多少ながら警戒――その時、


『ねえイリア。さっき光ったそれだけど……魔力を込めたんだよね?』


 ふいにアリスから質問が来る。そうだということでイリアが無言で頷くと、


『ふーん。ならこの騒動が解決した後報告してみたら? ガラクタと一緒に置かれていたということはきっと調査の人もそれを把握していないと思うし、イリアの手柄になるんじゃない?』

(手柄……)

『ユティスさんだって喜ぶかもよ?』


 その言葉に、ほんの少しだけ食指が動かされたイリア。すると機敏に察したアリスはさらに語る。


『イリア……ユティスさん相手は結構大変じゃない? ライバル多いし』

(……お姉ちゃん、言っておくけど――)

『恩を感じているから、でしょ? でもさあ、私としてはそれは違う気がするんだけどね

ー』


 呑気に言うアリスに対し、イリアは文句の一つでも言いそうになった――が、それを姉は気付いたらしく、


『はいはい、わかっていますよ。恩義だよね』

(……何でそんなに投げやりなの?)

『何でだろうね?』


 とぼけた感じで彼女は答える。


 イリアとアリスは同じ体の中に意識を共有させているが、決して心を読めるわけではない。だからイリアがどう考えているか姉にもわからず、だからこそこうしてカマをかけているわけだが――


(ともかく、その話は無意味だからしないよ)

『はいはい、わかりました』


 アリスがさらに投げやりに答えた時、通路の一番奥へと辿り着いた。そこは、四角い小部屋。

 発掘品を集積している場所――とは、よく言ったものだとイリアは思う。正直な所外にあるテントの中とさしたる違いは見受けられないくらいに雑然としていた。


 彼らは片付けるのが下手なのだろうか――などと考えている間に、研究員から指示が出される。


「適当に、置いておいてください」

「……はい」


 イリアは言われるがままに抱えていた発掘品を床に置く。それを見た調査員は「戻りましょう」と端的に告げ、兵士と共に小部屋を出た。


 イリアもそれに追随しようとした――が、ふと室内を見回して違和感を抱いた。


(……ねえ、お姉ちゃん)

『なあに?』

(ここには魔力が感じられるんだけど……)

『ん、そう? となるとさっきのガラクタ置き場とは違うんじゃない?』

(けど……)


 何かが引っ掛かった。その魔力は、イリアが感じたまま表現すると小部屋全体から発しているような気がしていた。


(遺跡の中には、こうした場所が点在しているということなのかな?)


 そう推測をしつつ、イリアは踵を返し立ち去ろうとした。

 けれど、違和感は消えない。喉の奥にものが引っ掛かったような気持ちを抱えたまま、イリアは来た道を戻る――


『イリアが納得するように行動すればいいんじゃない?』


 ふいに、アリスから提案がやってきた。


『正直、何が正しくて間違っているかなんて誰にもわかんないし……別にあれを持っていても誰も不利になんてならない以上、納得できるようにしたらいいんじゃない?』


 姉の提言――確かにとイリアは胸中で呟き、調査員達の後を追わず元来た道を引き返す。

 それに後方からの呼び掛け。兵士達だろうと思いつつもイリアの足は止まらず、再び小部屋へと逆戻り。


 まずは持っていた発掘品を手に取る。魔力を込めれば何か変化が起きることはわかったので、ひとまずそれをサフィに報告するとして――

 今度は小部屋全体を見渡した。やはり淡くではあるが魔力が感じられる。


『……何か、おかしなところがある?』

「うん」


 イリアは姉の問い掛けにそう答えると、何気なく壁に手を置いた。手先から石壁特有の冷たさと、やはり魔力。

 やはり遺跡に存在しているものなのか――と考えて通路には一切の魔力がなかったことに気付く。他の部屋を調べてみなければ断定はできないが、それでも違和感が残るのは事実。


 この魔力は果たして何を意味しているのか――考えた時、壁に触れていた手に、無意識ながら魔力が走る。それはほんの僅かだが発露して壁に触れ、


 突如、魔力が膨れ上がった。


「っ……!?」


 何が起こったか瞬時に理解できなかった。けれど、全身が警告を発していた。

 イリアは即座に小部屋を出ようとする。けれど膨れ上がった魔力がさらなる反応を起こす方が圧倒的に早く――


 イリアが右往左往する間に、小部屋の中が光に満たされ――爆音が轟いた。


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