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変身ヒーローin異世界  作者: 鯨尚人
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第60話 新たな力

「ど、どういうことだッ!? それは、貴様が使っていたクリスタルか……?」

「あ、ああ……」


 自分の体内からクリスタルが出現したことに、流石に不死身を自称するラファエルであっても周章狼狽している。俺も驚いた。

 クリスタルが死亡していない相手から出てきたのは、多分、初めてのことだった。ラファエルが敗北を心の中で認めてしまった為に現れたように感じられたが……。


 もし、敗北を認めるという条件でクリスタルが出現するというなら、特訓中の模擬戦でなら何度もそういう状況はあったし、魔物相手でも敵が逃亡することはあった。逃亡した敵は敗北を認めていなかったのかも知れないが。

 今まではたまたま出なかったのかも知れないし、人間相手だと出ないのかも知れない。そもそも、『ヒューマンクリスタル』なんてあるのかな? 『ゴロークリスタル』はあるから、人間の場合は個々人のクリスタルが出るのかも……。


 そうすると一人一人のクリスタルをカルボが考えてるとは思えないから、人工知能とかが考案するのかも知れないな……。必殺技の名前には俺や他の人の願望も入ってるって言ってたし、もしかしたら今までのクリスタルもそうなのかも……。


 それに、敗北を認めるだけじゃなくて、命懸けの戦いじゃないとダメなのかも知れない。それなら出てこなかったことも頷けるけど、クリスタルの出現率ってのもあるのかもなー。人間のクリスタルは出にくいとか。


「おい。説明してくれぬのか?」

「あ……」


 物思いにふけってしまった。

 待っていたのだろう、腕組みをしているラファエルに、魔装の力で戦った相手のクリスタルを手に入れられるときがあるということにして、そう話した。敗北を認めた為だという推論は言わないでおいた。言ったら面倒なことになりそうなので。

 ラファエルは驚いてはいたが、思ったよりすんなりと納得したような様子だった。ラファエルは彼なりに俺の力に思うところがあったのだろう。

 コンスタンティアには俺が別の世界から来たことは秘密にしておいてほしいと後で頼んでおいたのだが、ラファエルには話していいとは言っておいたので、後で知ることになるとは思うが。


「それで、吾輩のクリスタルはどういうものなのだ?」

「ラファエルのっていうか、ヴァンパイアのだと思うけど……」


 リクエストに応えるべく、変身してベルトに説明を求める。俺も早く知りたかったし。

 ラファエルから出てきたクリスタルは、こんな感じだった。



『ヴァンパイアクリスタル』

・赤紫色のクリスタル。

・自己修復能力(体力を消耗する)

・必殺技(レバー1回)『バットマン』

 身体を多数の蝙蝠こうもりに変える。

 スライムクリスタルと違い、変化前に例えば骨や内蔵があったところの蝙蝠こうもりが倒されても、その部位が損傷するわけではない。部位に関係なく、蝙蝠こうもりが倒された数で怪我の度合いが変わる。

・必殺技(レバー2回)『クリエイト』

 物質生成。食物は作れない。

・必殺技(レバー3回)『ヴァンパイアブラッド』

 自分の血を消費し、一定時間パワーアップ出来る。ある程度の時間を空けずに2回使うとその後、貧血になる。



「ほほう……! ヴァンパイアの再生能力と蝙蝠こうもり化、それに物質生成能力を手に入れたのか。しかし、ヴァンパイアブラッドなる力は、吾輩には無いものだぞ!? おもしろいな……!」


 自分の力を取られたら気分を害してもおかしくないだろうに、牙を露わにして楽しそうにラファエルは笑っている。正直、ほっとした。


 ヴァンパイアブラッドの能力はヴァンパイアにはないのか。まぁでも、今までの必殺技もそんな感じのものばかりだったしなぁ。

 しかし、期待していたラファエルが使ったビームは無かったな……。俺がそう話すと、「あれは、吾輩が長い歳月をかけて編み出したものだからな。そう簡単に手に入られては困る」とのことだった。そういうのは手に入らなそうだな。もしかしたらヴァンパイアクリスタルではなく、ラファエルクリスタルだったら手に入ったのかも知れないが、そもそもそんなものは無いのかも知れない。


「物質生成能力は凄いな……。ラファエルが造ったという素晴らしい館や家具なども作れるということか……?」

「ほう、そこな男魔法使いよ、素晴らしいとはわかっておるではないか!」

「名乗りがまだだったな。ディアス・リングバレイだ」

「貴族であったか」

「ああ。ヴァンパイアの様式美には前々から興味があってな。それで、ゴローたちに同行してきたのだ」

「ほほう、そうかそうか! ヴァッハッハ! 素晴らしいだろう? 買い揃えたものも多いがな、作り出したものも多いぞ。好きなだけ見ていくといい!」

「そうだ、ゴロー。試しにこれなど作ってみたらどうだ? ヘルハウンドの彫刻だ。これは、ラファエルが作ったものなのだろう?」

「うむ。吾輩が作った彫刻の中でも、それはなかなか気に入っておる」

「やはりか。これはヘルハウンドをよく見ている者の手によるものだと思った。躍動感があって素晴らしいな」

「ヴァーッハッハッハ! そうだろう、そうだろう!」


 そのまま彫刻談義を始めてしまったふたりを横目に、じゃあ早速やってみようと、俺は黒いヘルハウンドの彫刻を観察してから、レバーを2回下げた。


『クリエイト』


 どうやって作るかはよくわからないが、両手を前に広げ、彫刻が出来るように念じる。すると、両の掌か白い光がいくつも湧き出てきて集まっていく。


「わあ~~っ!」


 その光景を眺めていたフリアデリケがはしゃいだ声を上げた後、集まった光が弾けて消え、中から黒いいびつな石の塊が現れた。そして、ゴトンと落下してゴロゴロと彼女の足元に転がって止まる。


「…………」


 顔を上げると、笑顔のまま大きく口を開けたまま固まっているフリアデリケと目が合った。


「あ、や、えと、その、ゴロー様……っ」

「ククッ、まぁ、最初はそんなものだろう」

「そっ、そうなんですね!? 最初はこんなものなんだそうですよっ、ゴロー様っ!」

「う、うん……」


 これ、練習が必要そうだな。そして、思ったより体力を使うぞ。キックグレネードくらい使ってるんじゃないのか?


「その彫刻作れるようになるには、どのくらいかかるかな?」

「そうだな……。絵画を描くのと同じで、人によるが……。吾輩の場合は20年ほどでそこそこの物は作れていたぞ。ここまでの物を作るには、更に長い年月が必要であったが、どの程度かけたのかはわからぬな……」

「わからないのか……。ラファエルって確か400年生きてきたとか言ってたよな」

「うむ。正確には417歳だ」


 …………。俺、一生かけてもラファエルみたいには作れないかも。

 まぁでも、色々使い道はありそうだよな。


「ククク……! しかし、今宵はなんと血が騒ぐ夜であることか……! 素晴らしいぞ。こんな日は血が飲みたくなるな……!」

「昨日飲んだじゃない……」

「そうだがな、こんな日に飲めぬというのは……」


 酒みたいなこと言ってるな。


「ん? そういえばクロクィヴァよ。貴様、先程、血を吸わなくともグラスに入れたものならよいのだろうと吾輩に聞いておったな。あれはどういう意味だ?」

「ああ、あれは……」


 俺はリヴィオを振り返る。リヴィオがきょとんと小首を傾げて見えた首筋に、ちょっとドキリとした。


「どうした? ロゴー」

「ええっとな……。その、俺の能力を使ってリヴィオの血を採取して、ラファエルに分けてやってもいいかな?」

「そういえば、人相手に試してみたいと言っていたな。構わないぞ」


 そう、俺は少し前にその能力の幅に気付いた技を、人相手に試してみたいと思っていたのだ。


「その、もしも痛かったらやめるから」

「少しくらい構わん。体力は平気か?」

「ああ、まだ大丈夫だ」


 それから、ラファエルに持ってきて貰ったワイングラスをテーブルに置き、近くの真紅のソファにリヴィオを座らせる。そして、『スライムクリスタル』にモードシフトした。


『アブソーブ』


 レバーを下げ、スライムの必殺技を使う。技名は吸収するとかって意味の英語のabsorbだろう。アブソーブって少しハブハブに似てて、ばぶばぶおぎゃーの刑を思い出すな。

 この必殺技は、相手の体から栄養分などを吸収して自身に取り込むという技で、以前、試しに使ってみたときは漫然と使っていたのでわからなかったが、『栄養分など』というだけあって、吸収したいものを念じることによって、選択することが可能だった。そして、吸収したものを自身に取り込まずに排出するという行為も出来た。

 なので、腕だけスライム化した俺は、その腕でリヴィオの腕に触れて血液だけを吸収し、取り込んだスライムの腕からワイングラスに血を注ぎ入れてみた。


「おお、出来た……!」

「やはり、ロゴーの力は不思議なものだな……。前々からわかっていたことだが……」

「痛くなかったか?」

「ああ、痛みは全く感じなかった」

「そりゃよかった。大成功だな」

「……む、むぅ……」


 あれ、ラファエルの顔色があんまり宜しくない。


「……吾輩、それを飲むのは嫌なのだが……」

「えっ」

「外傷なしで、身体や服を汚すことなく血を取り出したのは凄いのだが……。それでは情緒もないしな……」

「……贅沢言わない……」


 そうたしなめたコンスタンティアが、テーブルから血の入ったワイングラスをラファエルへと持っていって押し付けた。彼はそれを渋々手に取り、口を付ける。


「……美味い。物凄く美味いのだが……」

「なら、いいじゃない……」

「いや、だがな……」

「決闘では彼女の血は吸えなかったのだから、飲めるだけよかったじゃない……。不覚を取ったのでしょう……? 我慢して……」

「だからその不覚というのはだな……!」

「何……?」

「ヌゥウ……グヌゥ……。わかったわかった、これでよい!」


 ラファエルはそう吐き捨てるとそっぽを向き、リヴィオの血の入ったグラスを傾けた。


 ……物凄く美味いのか……。むぅ……。

 ラファエルが直接リヴィオの血を吸うのは嫌だと思ったが、こうして間接的に血を飲まれるのも、やっぱり少し嫌だと思ってしまった。

 実は、リヴィオに血を分けて欲しいと相談する前から、ちょっと自分の気持ちを我慢している自覚はあったが、見ない振りをしていた。なんだか変だと思ったのだ。好きな相手の血を飲まれるのを嫌がるのは。スライムの必殺技を試してもみたかったし……。


 そう考えて、気付いてしまった。好きな相手の……? 俺は……俺の、この気持ちは……?

 真紅のソファに座った、淡紅色の髪をしたリヴィオを見た。彼女は自分の血が飲まれていることに、どこか落ち着かなさそうにしている。その様子を見ていたら、胸の辺りが締め付けられるような感覚があった。

 俺は、リヴィオのことを……? この好意は、恋愛的な意味なのだろうか……。

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