表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
変身ヒーローin異世界  作者: 鯨尚人
24/121

第23話 泣いたリヴィオ

 夜の闇の中、エステルの耳は非常に頼りになる。彼女が周辺の物音に警戒している中、俺の治療が続いていた。

 俺はさっき得た知見を皆に聞かせる。


「ストーンゴーレムはロックゴーレムより賢かった。防御してくるぞ」

「そうなのかー、わかった!」

「ふんっ、ぶっ壊してやるわい!」

「いや、どうだろうな……。ストーンゴーレムというのはロックゴーレムと違い、メデューサが作った人形に過ぎないんだ。それに魔力を注ぎ込んで命令を与えて動かしている」

「へぇー。流石、ディアスはメデューサに詳しいんだな。じゃあ防御したのも身を守るように命令されてるのか」

「だろうな。メデューサにとっては重要な盾だ。壊されにくくしているのだろう」


 成程ね~。そういえば、さっきトアンと一緒に攻撃したときには防御しなかったな。視覚外の攻撃とか遠距離攻撃とかにまでは、対処できるようにできていないんだろう。


「よし、治癒終了だ。もう痛む箇所はないか?」

「ああ、ありがとう。ディアスの魔力は大丈夫か?」

「心配するな。まだ3分の2は残っている。メデューサと一戦交えるくらいなら余裕だろう」

「そっか、よかった」

「ロゴー、変身しておけ。いつ敵が襲ってくるやも知れん。ストーンゴーレムだけではない、メデューサは夜目が効くという話だ」

「ああ、そうだな」


 リヴィオに促されて立ち上がり、変身を――っと、そうだ。ミルクチョコレートはポケットから取り出して荷物の中へ……っと。

 すると、トアンが俺のポロシャツの袖をくいっくいっと引っ張った。


「なあなあ、アタイ、さっきは活躍したよな! なっ!」

「…………」


 俺はトアンが言いたいことを察して、ミルクチョコレートを手渡す。


「やったー! あんがと、ゴロー!」


 まぁ、さっきはトアンのおかげで助かったからな。


「ふん、終わったらワシらの分もあるんじゃろうな?」

「わたしも、終わったらお祝いに食べたいなぁ~」

「……こほん。私も、お前に治癒魔法をかけてやったわけだが」

「ロゴー、パーティの誰かだけを特別扱いするのは士気に関わるぞ」


 おおう、全員が不満を口にしてくるとは。こりゃパーティ内で気軽に誰かにあげたりしないほうがいいな。


「終わったら皆の分も用意するよ」


 皆の顔に喜色が灯る。リヴィオが他の皆に見えないところで小さくガッツポーズをしているのが印象的だった。


 さて、と。俺はベルトに自分の名前の入った『ゴロークリスタル』をセットする。このネーミングどうにかならなかったのかと思いながら。


「変身!」


 ベルトの魔法陣を、握った拳の小指側の側面で叩く。魔法陣が割れ、身体が金色の輝きに包まれ、それが最も輝いた状態になったときには既に姿は変わっている。ファンタジックな銀の紋様の入った黒のボディの体貌たいぼうへと。


 俺の変身の様子を見ていたディアスが「格好いい……」と小さく呟いた。

 マジで!? う、嬉しい。今まで変身をそう言ってくれた人っていなかった気がする。

 続いて、メデューサ戦用に『ドラゴンクリスタル』に入れ替え、能力を変更した後にディアスを見ると、顎に手をやり「ふむ……」と呟いていた。むぅ……炎をカッコよく出して見せればよかったか……。今度、研究してみよう。


 態勢を整えた俺たちは、メデューサが潜むと思われる坑道へと向かった。いよいよだ。

 闇夜で視界が悪い中、俺たちはエステルの耳を頼りに進んでいく。さっきあれほどの騒ぎを起こしたし、ストーンゴーレムが壊れたことがメデューサに伝わるようになっている可能性もある。なので、メデューサには気付かれているかも知れないが、そうでない可能性を考慮して直前までは明かりをつけずに行き、奇襲をかけることにした。ディアスの魔法の、あのもちもちした光の球は手も塞がるからな。いつ敵が出てきてもいいように、皆、武器を構えながらの移動だ。俺は手ぶらだけど。


 やがて、坑道の手前までやってきた。真っ黒な入り口の穴が不気味だな……。


「坑道の中は真っ暗だな……。こんな全く光の届かないところでもメデューサは見ることができるのか?」

「どうだろうな……。そこまでは私でもわからない。ともかく、ここから先は小さな明かりを頼りに進もう。メデューサに気付かれないようにな」


 リヴィオの問いに答えたディアスの呼びかけに、全員が頷く。そして、ディアスが魔法であの小さな光球をふたつ作り出したとき、それは起きた。


「ああ……メ……デュゥ……」


 坑道の側面の森のほうを向いたトアンが、みるみる石になっていったのだ。


「トアン!」


 トアンの名を叫んだのはゴドゥと俺だ。それから、すぐにディアスの声が飛ぶ。


「――っ! 森を見るな! 目が合えば石にされるぞ!」

「さっき少しだけ見てたけど、森は暗かったぞ。こっちから見えなくても目が合えば石化するのかよ!?」

「わからん。だが、近くにはいる! 距離が離れていれば目があっても石化はしないからな」

「音なんて聴こえなかったよ! ゴローは?」

「俺も聴こえなかった」

「エステル、トアンの視線の先を狙え! 潜んだまま動いてないなら、そこにいるハズだ!」

「そ、そっか!」


 リヴィオの言葉に、エステルが目算をつけてメデューサがいると思われるところへ目線を逸らしながら矢を射かけた。

 すぐにそちらから大きな葉擦れの音がした。おそらく、メデューサだ。移動し、矢を躱したようだ。


「ああぁ……トアン、トアンが……。おい、ディアス。ポーションを使ってくれい!」

「それは……まだダメだ。これから何人、犠牲者が出るかわからないからな。それに、短時間でメデューサを倒せば頭の蛇から石化は治せる」

「ぐぅ……っ。トアンは魔法耐性が低いんじゃ! 長くは持たん、ワシは行くぞ! しくじったらポーションを使え! あ、ワシよりトアンを優先するんじゃぞ!」

「ま、待て、ゴドゥ!」


 ゴドゥが森へと駆け出した。こんなに狼狽したゴドゥを見るのは初めてだった。山脈でブランワーグたちに囲まれたときのゴドゥは、トアンに冒険者だろうにしっかりしろと言っていたのだ。そのときの感じから、トアンがやられてゴドゥがこんな風に取り乱したのは意外だった。


「なあ! 森が火事になったらマズイか!?」

「え? ゴロー、何する気?」

「炎の竜に攻撃させる!」

「わ、わかんないけど、メデューサ倒せるなら少しくらいいいんじゃないかなっ」

「わかったっ!」


 俺は炎の剣『ブレイズブレイド』を出現させ、さらにそれを炎の竜『ブレイズドラゴン』へと変身させる。


「ドラゴン、メデューサを見つけて攻撃しろ! 頭は避けてな! あと、なるべく森も燃やさないように!」


 俺の命令を受け、炎の竜が森へと飛んでいく。

 この攻撃は、メデューサ戦用に考えておいたことだった。


「わたしたちも行こう!」


 全員で、森の中へと入っていく。視界はなるべく下側で、顔を上げないようにして。視界の上側で、メデューサを探して炎の竜が飛び交う明かりが見える。

 少し奥へと進んだところで、俺の傍にいたエステルが耳をビクビクっと激しく動かしながら、急に後ろを振り返った。


「どうした!?」

「ストーンゴーレムだと思う。3体、足音がする」


 俺も振り返って見ていると、坑道の穴の中からストーンゴーレムが2体、外に出てきた。こちらまでは距離がある。今はメデューサを優先して放っておくか、そうエステルに言おうとしたとき、そのストーンゴーレムたちがこちらではなく、石化したトアンの元へ向かっていくのに気付いた。

 ゾッとした。マズイ、間に合うだろうか。

 俺は踵を返してトアンの元に走る。俺の後ろのほうにいたリヴィオも走り出していた。

 リヴィオの剣はストーンゴーレムを斬れるのか? しかし今はもうどちらか1体をリヴィオに任せるしかない。坑道の入り口からは、更に3体目のストーンゴーレムが出てくるところだった。


「リヴィオ! 右のヤツを頼む!」

「わかった!」


 俺はリヴィオの頭上を飛び越え、そのまま左のストーンゴーレムに飛び蹴りを浴びせた。ストーンゴーレムのガードした両腕に、両足で蹴りを入れて砕き割る。両足を使ったため、みっともなく地面に落ちたが、反撃されないためだった。反撃されて吹っ飛ばされたりしたら、トアンは砕かれてしまうだろう。もう、それくらいストーンゴーレムたちはトアンの近くに迫っていた。


「っ!?」


 すぐに起き上がろうとしたが、リヴィオに任せたほうのストーンゴーレムが、今まさに俺に拳を振り下ろそうとしているのが視界に映り込んだ。転がって避けようと身をよじったが、間に合わなかった。リヴィオがいなければ。

 俺に迫るストーンゴーレムの拳は軌道をずらし、地面を叩いた。見ると、リヴィオがストーンゴーレムの体を斜めに真っ二つに切り裂いていて、そのおかげで体がズレて軌道が逸れ、助かったのだ。

 といっても、それを見たのは両腕を失くしたストーンゴーレムがトアンを射程に捉え、脚でトアンを攻撃しようとしていたところに蹴りを入れ、破壊した後だったが。それくらい、ギリギリだった。


 リヴィオはそのまま、3体目のストーンゴーレムを斬り伏せに走った。両腕でガードの姿勢を取ったストーンゴーレムの側面に素速く回り込み、その腰へと斬撃を放つ。

 バキン、と大きな音がした。今度はストーンゴーレムの硬い体を切り裂くことができず、リヴィオの剣が折れてしまったのだ。そのまま呆然と立ち尽くすリヴィオ。


「おい! 危ない!」


 ストーンゴーレムの拳がリヴィオに迫った。咄嗟に折れた剣でガードしたが、吹っ飛ばされ地面を転がるリヴィオ。


「リヴィオ!」


 俺は弾けるように駆け出し、ガードの姿勢を取ったストーンゴーレムに拳の連撃を叩き込み、両腕を破壊し、そのまま胴体を殴り壊した。

 このゴーレムが特別、硬かったわけではなかった。リヴィオの剣にはヒビでも入っていたのだろうか。

 殴ったためにストーンゴーレムの硬さで拳が痛んだが、気にせずリヴィオの元に駆け寄った。リヴィオは女の子座りのまま、地面で呆然としていた。


「リヴィオ、大丈夫か!?」

「あ、ああ……」


 擦り傷はあるが、大きな外傷はないようだ。よかった……。


「うええええん」

「えっ!?」


 急に、リヴィオが子供のように泣き出してしまった。


「どっ、どうした!? どこか痛むのか!?」

「うえええーん。うえぇええぇん」

「け、剣か? 剣が折れたからか!?」

「うんん。うええぇーん」


 泣き喚きながらも、こくこくと頷いてみせるリヴィオ。そ、そんなに大事な剣だったのか……。


「か、悲しいのはわかったけど、今は……。しっかりしてくれ、リヴィオ」

「す、ずまないい~。でも、涙ががっでにででぎでぇ~」


 大粒の涙をぼろぼろと零しながら、整った顔立ちをぐんにゃり歪めて泣くリヴィオに戸惑っていると、坑道の入り口から足音がするのに気付いた。再びストーンゴーレムがそこから3体出てくる。


「一体、何体いやがるんだよ!」


 ストーンゴーレムたちへと突っ走って、今度は蹴りを見舞っていく。下腿部の装甲は拳の装甲よりも厚いのだが、そこで蹴っても少し痛い。痛みを感じるのは俺の願望が反映された結果なのだろうか……。そう考えながら再び出てきたストーンゴーレムを全て倒した。


「うぇ、ヴぅ~~。ロ、ロッゴー……」


 ロゴーと言いたいんだろう。ロッゴーだとロックゴーレム略したみたいだな。


「ト、トアンにボーションがけろ~。あぶないがら~」

「あ、ああ、うん。そうだな」


 俺はディアスから受け取っていたポーションの小瓶を蓋を開け、石になったトアンに振りかけた。ポーションのかかった部分が淡く発光し、光が広がっていく。やがてそれが全身に広がり、光が消えると元に戻ったトアンの姿があった。


「あぁ……あ……! な、治った! こ、怖かった~~」


 トアンは思わずといった感じでその場にへたり込んだ。そして大きく息をついて、それから泣きじゃくるリヴィオを見てぎょっとする。


「ええ!? な、何があったんさー!」

「リヴィオの剣が折れちまったんだ」

「えぇえ? それでこんなに泣くかぁ? って、他の皆は? アタイが石になってからどうなった!?」

「森にメデューサを倒しに入った。俺たちも行こう。リヴィオ、行けるか?」

「いっ、いげる……っ。ひぐっ。ず、ずまない……っ。ひぐっ」


 腰に下げた予備のショートソードを鞘から抜いて、よろよろと走りだすリヴィオ。


「あ、危なかっしいな。リヴィオはここで休んでろ。ストーンゴーレムに気をつけろよ!」

「そうだよー。落ち着いたら来な。なっ!」

「い、いやだ……っ。わ、わだしも……いぐっ!」

「ダメだ! 危険だ!」

「うっ、うう……」


 強い口調で咎めた。今のリヴィオじゃ、うっかり石化されたりしないか心配だからな。


 俺たちは立ち止まったリヴィオを置いて、森へ飛び込んだ。

 ゴドゥたちは無事だろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ