第98話 下剋上
俺の撃った弾はゴブリンに命中した。
「ゴブガッ!」
が、流石に少し距離があったせいか、致命傷にはならなかったようだ。
ダメージを受けたゴブリンは逃げることを諦め、観念して俺に襲いかかってくる。
……ホブゴブリン以上なら苦戦したかもしれないが、毎日のように筋力や体力の増強薬を飲んでいるんだ。
ゴブリンの1体なら俺ひとりでも十分に戦える。
俺は襲いかかってくるゴブリンに向かって、今度こそ急所にベレッタ撃ち込む。
「ゴギャッ!」
悲鳴を上げてゴブリンが倒れる。
やっぱり命中補正のスキルは神だな。
「シュート!! 倒したらカード化してすぐに戻ってきて!」
そうだ! 勝利の余韻に浸っている場合じゃない。
俺は今倒したゴブリンの死体を変化してすぐに戻る。
「ちゃんと仇を討ってきたぞ」
「そんなのはどうでもいいよ!」
……あれっ?
「……仇を討つために逃がすなって言ったんじゃないの?」
「そんなわけないじゃない! いいから早く今のゴブリンを分解して、魔石のスキルを確認して!!」
……どうやら今のゴブリンの魔石に用があっただけのようだ。
俺は今のゴブリンの死体を分解する。
大体2分位かかる。
「今の間に修復を使って、フェアリーを生き返らせて!」
クールタイムを無視して全回復する修復。
1日1回しか使えないけど……確かに今が使い時か。
俺は修復を使いフェアリーを生き返らせる。
「フェアリー、大丈夫か?」
「ぴぴっ!」
フェアリーは元気に返事する。
どうやらちゃんと完治しているようだ。
「よし、じゃあピクシーとウィッチを助けてやってくれ」
2人は今もゴブリンジェネラルと、取り巻きゴブリンの動きを封じている。
ピクシーのダークミストは既に効果がなくなっているようだが、影を縛って動きを封じるシャドウスナップや、呪いで動きを鈍らせるカースなどを駆使して動きを封じている。
取り巻きゴブリンはワーム達によって半分は減っているようだ。
「ぴぴっ!」
フェアリーは意気込んで飛んでいく。
これで2人も少しは楽になるだろう。
「シュート、この子たちの返還もしてあげて」
ナビ子の言葉に、デザートトードがカードを渡す。
……俺がいない間に回収したカードだ。
「粘ってた子もいるけど、間に合わなかった子もいるよ……」
既に死んでカードに戻っているのもいる。
俺は生きている分のカードを返還する。
「大丈夫そうなカードと、さっきのゴブリン集団とデスタラ達を戦場に出して! 集落の方が大分少なくなってるの」
こっちにゴブリンジェネラルがやって来てから、向こうに増援を送っていない。
向こうはかなりピンチに違いない。
「今は防戦に専念させているから持ちこたえてるけど……早くしないとまた犠牲者が増えちゃうかも」
「分かった。もう残りもまとめて全部解放する!」
床に置けずに予備として残していた連中も、全て解放する。
こいつらは番号も振ってないので、返還できないから、使い捨てのようになってしまう。
本当に申し訳ないが、ここが正念場だ。
増援部隊はゴブリンジェネラルを避けながら集落へ向かっていく。
そうしている間に分解も終了したようだ。
「登録で魔石に入っているスキルを調べるんだったよな」
「うん。アタイの予想が確かなら、この状況を打破できるスキルが有るはず!」
そんなスキルがあるのか?
「え~っと……棒術と潜伏。それから下剋上」
「それっ! 早く分解してウィッチに付けてあげて!」
俺は言われるがままにもう一度分解を使う。
「下剋上ってどんなスキルなんだ?」
「知らないわよ! でも絶対に良いスキルのはずだよ!」
知らないって……おいおい。
「みんなー! 1分後にウィッチに返還を使うから、ワーム達はそれまでにゴブリンの全滅させて。フェアリーとピクシーはちょっと粘ってて!」
ナビ子が分解が終わるタイミングでウィッチを呼び戻すことを伝える。
「呼び戻さなくてもゴブリンがいなくなって、3人掛かりになったらイケるんじゃね?」
さっきだって、あのゴブリンが動かなかったらサフォケイトが決まっていたはずだ。
「いいえ。さっきからアタイもゴブリンジェネラルをチェックしてるけど……ピクシーの魔法の効き目が悪いの」
「そうなのか? ちゃんと効いていると思うけど」
「普通の敵ならダークミストもカースももっと持続時間が長いよ。多分あのゴブリンジェネラルは魔法に対する耐性持ちだと思う。だから、もしかしたらサフォケイトも効かないかも……」
そういっている間にフェアリーがゴブリンジェネラルに向かってそのサフォケイトを唱える。
「グガッ!?」
ゴブリンジェネラルは苦しそうにもがき始める。
「ほら、大丈夫そうじゃないか」
むしろ、もうこれで終わりじゃないのか?
「いやっよく見てシュート!」
よく見るも何も、ゴブリンジェネラルは苦しんで……
「……ッ!? ……グガアアアッ!!!」
ゴブリンジェネラルは空気がない状態なのに、無理やり絞り出したように声を張り上げる。
「……気合でサフォケイトを破った?」
「実際は何かのスキルだろうけど、そんな感じだよね」
「そんな感じって……ヤバいじゃないか!!」
頼みのサフォケイトが破られたらどうやって勝つんだよ!
「だからさっきのスキルが必要なんじゃない。どう? 分解終わった?」
ゴブリンジェネラルの方に集中していたから忘れていたけど、既に分解は終わっていた。
「時間がないけど、一応目当ての能力か確認したいから調べて」
俺は図鑑を取り出し、素早く確認する。
――――
下剋上
レベル:7
レア度:☆☆☆
自分より格上の相手と戦う場合、全ての能力が一時的に上昇する。
また、相手の状態異常攻撃やスキルも無効化する。
――――
「ちょっ!? なにこのスキル!?」
星3で……しかも今の状況を完全に覆すスキルじゃないか!?
「やっぱり思った通りのスキルだったよ。いくら打たれ弱いフェアリーでも、ゴブリンの一撃で即死はおかしいもんね」
このスキルがあったから、ウィッチの威圧は無効化され、フェアリーを一撃で倒すことが出来たのか。
条件は格上ってだけだから、同族以外にも通用するってことか。
「さっこれをウィッチに使えば、ゴブリンジェネラルの威圧も無効化出来るし、ウィッチのサフォケイトなら倒せると思うの」
ウィッチも風魔法を全部覚えさせているからサフォケイトを使える。
うん、これなら確実にゴブリンジェネラルに勝てる!
「みんな~じゃあもうちょっとだけ粘ってね!」
ナビ子がフェアリー達に呼びかけたのを確認して俺はウィッチに返還を唱える。
そしてそのまま下剋上のスキルをセットして覚えさせる。
「――どうだウィッチ。スキルは発動しそうか?」
解放されたウィッチは少し考えるようにして……コクンと力強く頷いた。
「よし、じゃあアイツにトドメを刺してこい!」
ウィッチは杖を振り魔法を唱えながらゴブリンジェネラルに向かい……。
――ようやくこっちの戦いが終了した。




