第63話 防犯対策
「でもさシュート。ぼっ……ソロで活動って言っても、限界があるんじゃない?」
ナビ子め……またぼっちって言おうとしたな。
「どうしてだ?」
「だって……これからもずっとカード化のスキルを、誰にもバレずに隠し通せると思う?」
「いやぁ無理だろ」
俺はあっさり答える。
本当は誰にもバレないことが理想だけれど、これからも使い続けるなら、誰にもバレないなんて不可能に近い。
「へっ? でもバレないようにソロでやるんでしょ?」
「それも理由のひとつだけど……別にバレないためにソロでやるんじゃない。ソロでやるのはリスクを回避するためだ」
さっきも説明したが、パーティーを組まないのは信用できないこと、冒険ができなくなる可能性があることが理由だ。
「なんか……シュートが考えていることが全然わかんない」
「要は、一緒に行動する仲間は作らないけど……協力者は作るつもりだ」
「協力者?」
「そうだ。まず冒険者になることが第一だが、その後は……お金稼ぎをするつもりだ」
冒険をするにしろ、カードを増やすにしろ、先立つものは必要になる。
そして現時点で最も効率のいいお金稼ぎの方法は……ポーションを売ること。
それも魔力回復ポーションを売ること。
ロランさんの話だと魔力回復ポーションは金貨100枚って話だ。
現時点で1日3個は作れるから単純計算で毎日金貨300枚。
「俺みたいな冒険者になりたての人間が、レアなアイテムを売りまくって金をいっぱい稼いだらどうなると思う?」
簡単だ。
金目当ての人間が仲間になろうと近づくはずだ。
もしくは仲間なんてまどろっこしい真似はせずに、襲ってくるか。
そのためには、俺を徹底的に調査するだろう。
スキルがバレるかもしれないし、カードや図鑑が見つかるかもしれない。
そうしたらカードや図鑑が盗まれる可能性だってある。
もちろん盗んだところで、そいつには使えないんだが……俺が困る。
「目立っちゃったら狙われるよねぇ」
そもそも何もしなくても目立ってしまう原因がそれを言うのもおかしい気がするが。
「仲間とか……スキルがバレる以前に、窃盗を気をつけた方がいいかもね。何か対策はあるの?」
「少しだけだけどな」
俺が盗まれて困るのは図鑑とカードだけ。
カードに関しては、よく使うカード以外は基本的に図鑑に入っている。
よく使うカード――一軒家とかラビットAとかベレッタなどは別のカードケースに入れている。
なのでこのカードケースと図鑑が盗まれたら俺は終わりだ。
じゃあ盗まれないようにするにはどうすればいい?
図鑑とカードケースもカードにする?
もちろんそれは可能だが、じゃあそのカードはどうするってことになる。
ケースにも入れてないむき出しのカードは盗難以前に紛失の危険性だってある。
そのため……盗まれないようにどうにかするんじゃなくて、盗まれても大丈夫なようにすることにした。
ここで重要な点は、図鑑とカードケースもカードに出来るということ。
そして、解放したら、ブランクカードが残ることだ。
なので、図鑑とカードケースはカードに戻さなくて、常に解放状態にしておく。
図鑑は少し嵩張るけど、この際仕方がない。
この時点で、図鑑と図鑑のブランクカード、カードケースとカードケースのブランクカードが手元にあることになる。
このブランクカードを互いの――図鑑のブランクカートはカードケースに、カードケースのブランクカードは図鑑の方に入れておく。
その際、注意すべきはカードケースと図鑑を一緒に保管しないこと。
現在図鑑は鞄の中、カードケースはショルダーホルスターを準備しているので、その中に。
ショルダーホルスターは上着の内側に装着するので外からは見えないから、よほどのことがない限り、盗まれることはない。
こうすることで、例え鞄ごと図鑑が盗まれても、カードケースにあるブランクカードを返還すれば手元に戻ってくる。
同じく、万が一、ショルダーホルスターごとカードケースが盗まれたとしても、図鑑の中にカードケースのブランクカードがあるから手元に戻せる。
流石に両方盗まれたらお手上げだが……俺がとんでもない大間抜けじゃない限り、別々の場所にある物を、両方同時に盗まれることはない。
仮に両方盗まれることがあるとすれば、それは襲われたとき。
ただ、闇討ちなどに関しては、気配察知のナビ子がいたら問題ない。
それでも怪しかったら危険察知を覚えればいいだけだ。
危険察知のスキルは持っていないが、ホーンラビットの魔石をスキルにすれば、簡単に手に入るはずだ。
そして、もし逃げられない場合は、全力で返り討ちにすればいい。
そしてもうひとつ両方盗まれる可能性があるとしたら、それは仲間に裏切られたときだ。
俺が大間抜けで油断した場合だな。
「というわけで、防犯対策にもなるから仲間は作らないし、両方盗まれない限り、窃盗にあっても回収は可能だ」
「でもでも、盗まれた後……回収前にカードを抜き取られたらどうするの? 図鑑やカードケースは戻ってきても、中身は空だったってこともあり得るんじゃない?」
それはあんまり考えてなかったなぁ。
そもそも盗まれて長時間気づかないことを想定してないし……あっでも逃げながら中身を取り出そうとする可能性はあるのか。
「そうだなぁ……図鑑の方は、カードを取り出す方法が分からないと思うんだ」
図鑑はバインダーのように挟むタイプじゃなくて取り込むタイプだから……表示を選択して取り出さないといけない。
そしてその表示は日本語。
盗んだ相手には意味が分からないはずだ。
問題はカードケースの方だ。
開けたらすぐにカードが出てくるから、空になる可能性はある。
「カードケースは……隠蔽か偽装のスキルでもかけとくか」
隠蔽は……透明でも触れるから意味ないか。
偽装で鍵付きカードケースを装って、開けられないって思わせ、時間を稼ぐしかないか。
「まっ常に服の内側にあるカードケースを盗まれるのなら、俺が本当に大間抜けだったってことだ」
「重たいのに、5冊の図鑑をカードにせずにいつも持ち歩いていたのは理由があったんだね。思ったよりもちゃんと考えててビックリしたよ」
「当たり前だろ。何せ大事なコレクションを守るためなんだから」
「シュートのそのコレクター魂にだけは脱帽するよ」
……だけってのは余計じゃないか?
「まぁいいや。それで協力者のことだけど……」
「そういえばそんな話だったね」
おいおい、忘れてたのかよ。
「要するに、俺がいきなり魔力回復ポーションを何個も売ったら、目立つだろ。そしたらさっき話したように、良からぬことを考える人が増えるわけだ」
仲間になろうと近づくもの、盗みを働こうとするもの、俺のことを調査しようとするものなどだ。
「そこで、ある程度信用できて、俺の代わりに表に立ってくれる協力者を得たいと思っている」
「そんな人……どうやって見つけるの?」
「とりあえず街を見回ってから考えるけど……理想は変わり者の研究者かな」
「……何で?」
「いいか。この変わり者ってのは変人の意味じゃない。周りと違うって意味なんだ」
「どう違うの?」
「変人だったら怖いだろうが」
「……確かにそうだけど」
「まず、変わり者には誰も近寄りたがらないので、基本的にぼっちの可能性が高い」
「……それで?」
「研究者ってのは、自分の研究が出来ればそれでいいって人種が多い。だから他人のことを深く詮索しないんだ」
「……それってシュートの偏見じゃない?」
「そんなことはないさ……多分」
自分の趣味に没頭するって意味では、コレクターも研究者も同じだからな。
変わり者って思われている人の考えなら、俺の思っているような人だと思う。
「なるほど。似た者同士なのね」
「まぁそんなところだ。だから、彼らにメリットを提示してやれば、ある程度スキルのことは隠したままでも協力してくれるはずだ」
基本的にはお金でいいだろう。
変わり者ってのは、理解されてないから金欠のはずだ。
ポーションを渡して半額やるから売ってこいと言えば、喜んで売ってきてくれるはずだ。
もしくは研究の手伝いとか。
流石に俺自身やコレクションを実験させないが、素材集めとかなら協力してもいい。
「要はスポンサーになるから、匿えってことね」
「そういうことだ。ってことで、冒険者になったらお金稼ぎのために、協力者探しだな」
「……ようやく最初の話に戻ってきたね」
そういえば、途中で恋バナやら防犯の話になったけど、最初は街に着いたら何をするって話だったな。
「そうだナビ子。街に着くまでまだ時間があるんだからさ。この世界の常識を教えてくれよ」
山にいた頃はその時聞けばいいと、最低限のこと以外は先延ばしにしていたからな。
これから街に行くんだし、今が聞きどきだろう。
話を聞くだけだから、レシピ合成などの作業しながらでも聞けるし……少なくとも俺の恋バナよりはよっぽど有意義に過ごすことが出来る。
「いいよ! じゃあこのアタイがシュートにみっちりこの世界のことを教えてあげる!!」
ナビ子が先生モードになって張り切る。
「ははっお手柔らかに頼むよ」
ユニコーンに隠密と消音を覚えさせたから大丈夫だと思うが……くれぐれも張り切りすぎて、気配察知を怠ることがないようにしてもらいたいものだ。




