第14話 初めての仲間
ホーンラビットの魔石はモンスターカードにすることにした。
つまり初めての仲間ってことになる。
「モンスターカードにするのね。じゃあ一旦魔石を解除して、ただの魔石に戻してね」
カードの契約状態でモンスターカードにすることは出来ないらしい。
だからカード契約を破棄するために一旦解放する。
カード状態のまま解除してしまうと魔石そのものが無くなってしまうからな。
その後、ブランクカードを解除し、魔石を完全にカード効果から外した。
「そしたら次にもう一度変化するの。その時に普通の変化ならさっきと同じ魔石に、魔物変化って言えばモンスターカードに、スキル変化って言えばスキルカードになるの」
魔物変化にスキル変化か。
そうやってカードにする状態を変えるってことだな。
今回はモンスターカードにするから……
「魔物変化」
俺はそう唱えると、魔石がカードへ変わった。
カードのイラストは魔石からホーンラビットに変わっている。
まずは詳細を確認するため、モンスター図鑑へ登録する。
――――
ホーンラビット
レア度:☆
固有スキル:脱兎
個別スキル:嗅覚
ラビット系下級モンスター。
草食で木の実や果実を採って生活している。
非常に臆病で、自分より大きな生物を見かけるとすぐに逃げ出してしまう。
――――
他のカードと表記が少し違う。
まずジャンルがない。
まぁこれは全部モンスターだからってことだろう。
そしてスキルがある。
別のホーンラビットならこの項目が違うのだろう。
スキル以外は同じ説明文なのかな?
そしてこれが今回俺が倒したホーンラビットか。
スキルは固有スキルの脱兎と個別スキルが嗅覚か。
ナビ子が言った通りだな。
「これ……スキルの違いでレア度って変化するのか?」
もし個別スキルが嗅覚じゃなくて、レア度の高いスキルを持っていたりしたら、レア度も上がったりしないだろうか?
「モンスターのレア度は種族で登録されているからね。別にスキルが違うからってレア度は変わらないよ」
やっぱりそうなのか。
ちょっとだけ期待したんだけどな。
ってことでホーンラビットがレア度1のモンスターってことか。
「それからスキルが変わっても図鑑への影響はないよ!」
図鑑の種類も増えないのか。
まぁレア度が変わらない時点で予想してたけど。
「よし、じゃあ試しに呼んでみるか……解放」
俺がカードから解き放つと、1匹のホーンラビットが現れる。
ホーンラビットは初めて見る場所に辺りをキョロキョロと見渡す。
「なぁ……襲い掛かってこないよな?」
俺は小声でナビ子に話し掛ける。
いや、説明文通りなら自分よりデカい俺を見たら逃げ出すのか。
「カードにしたモンスターはシュートに絶対の忠誠を持ってるから大丈夫だよ」
殺した相手に忠誠……ってのも変な話だが、ナビ子の言うとおり目の前のホーンラビットに敵意や怯えはない。
俺と目が合うと、鼻をヒクヒクさせながら俺の足にすり寄ってきた。
「お、おお……可愛いじゃないか」
俺はホーンラビットを抱き抱える。
フワフワして触っているだけで気持ちがいい。
「お前は俺を助けてくれるのか?」
「きゅっ」
うん、可愛い。
「なぁナビ子、この子にエサをあげても大丈夫かな?」
「別にエサをあげてもいいけど……正確にはこの子はもう生き物じゃないから、何も食べなくても大丈夫だよ」
「生き物じゃないって……こんなに暖かいのにか?」
「うん。前にも説明したけど、あの時のホーンラビットのクローンみたいなもの。もし死んだとしても、肉体も残らずカードに戻るだけ。次の日には元気にしてるわよ。食べることは出来るけど、エネルギーにはならないし、お腹も空かないの。まぁ……シュートに分かりやすく言うと、召喚獣って感じかな」
召喚獣って言われると何だかかっこいいな。
「でもでも、味覚はあるから食べさせた方が喜ぶかもね」
「味覚があって喜ぶなら十分だ」
俺は食材のカードからニンジンを戻す。
「ウサギといったらこれだろ。ほら、食べな」
「きゅっ!?」
ホーンラビットは嬉しそうにニンジンに齧り付く。
うん、可愛い。
「この子に名前を付けてあげないとな……」
せっかくの仲間第一号だ。
出来れば可愛い名前を付けてあげたい。
「やめた方がいいよ」
だがナビ子に止められる。
「なんでだ?」
「だって……シュートはこれから何匹も仲間にするんでしょ。その一匹ずつに名前を付けるの? それともこの子だけ特別なの? それに……名前を付けて愛着が湧いちゃうと、合成できなくない?」
……すでに愛着が湧き始めてるんだが。
しかしナビ子の言うことも理解できる。
これからもホーンラビットを始め、色んな種類のモンスターをどんどん仲間を増やしていくつもりだ。
その全てに名前を付けるかといえば……多分そうはならないだろう。
俺はさっき仲間第一号だから可愛い名前を……と思ったが、それじゃあ特別扱いになる。
俺はどんなモンスターであれ、仲間で差はつけたくない。
それに……合成か。
モンスター同士も合成して別のモンスターにすることが出来るんだな。
俺はてっきりアイテムや武器、スキルを合成するんだと思ってたんだが、モンスターカードも合成出来るんだな。
名前を付けたモンスターが別のモンスターに変わってしまったら……イメージで名前を付けていたらとんでもないことになるかもしれない。
しかし名前を付けないのも不便だ。
毎回ホーンラビットなんて長い名前を呼びたくない。
「仕方ない。ひとまずホーンラビットは全部まとめてラビと呼ぶことにしよう。ラビA、ラビBってすれば問題ないだろ」
「ぜえったい駄目ええええ!!」
ナビ子が大声で却下する。
さっき以上に真剣な表情……こんなに必死なナビ子は初めてだ。
何か重大なミスをしたのかもしれない。
もしかしてAとかBとか呼んだら駄目なのか?
「ラビって……アタイと被ってるじゃない!?」
……実にくだらない理由だった。
「あ~それじゃあラビットでどうだ?」
「う~まだ被ってる気が……」
「それは仕方ないだろ。それが嫌ならナビ子がナビ子じゃなくてシオリにするか?」
「いやっ!? アタイはナビ子がいい!!」
……どうしてナビ子に拘るのだろうか?
そんなにいい名前だと思わないのだが……でも俺としても、もう定着しちゃったから、今更変えたくはない。
しかし、そうなるとホーンラビットの方を変える必要が……
ホーン? シロ?
なんだかしっくりこない。
「う~分かったよ。その子はラビットでいいよ」
俺が悩んでいるとナビ子が妥協した。
そうしてくれると俺も助かる。
「んじゃあ、お前はこれからラビットAだな。よろしく頼むぞ」
「きゅっ!」
ラビットAは前足を上げ敬礼のポーズをとる。
意外と器用だな。それと可愛い。
俺とナビ子、それからラビットA。
まだまだ寂しいが、ここが出発点だ。
これからどんどんと仲間を増やしていこう。




