PLAY143 MESSED:Ⅳ(Master and servant)⑥
ヌィビット達に喧嘩を止めないために出てきたシルヴィは、自分の得物の切っ先を暴走しているロゼロに向けて繰り出す。
空気を裂く音が聞こえると同時に、それを見ていたロゼロは暴走しながらもそれを軽々と避ける。
と言っても、顔目掛けて攻撃してきたそれを、頭を傾けるという動作で避けただけ。
巨人対人間の戦いとなると、でかい体を持っている巨人が有利な状況になるのは必然。
小さいから逃げやすいはない。
小さいから捕まった瞬間殺されることもあり、逆に攻撃も小さいから避けることも簡単だ。
蚊を手で叩きつけるのと同じなのだ。
しかし――彼女の前ではそうとはいかなかった。
避けると同時に、ロゼロの頬をかすめたシルヴィの切っ先。
ちりっと一瞬の痛みは迸る様な音が小さく放たれた瞬間、そこから黒い鎧の一部が綻んだのだ。
『――っッっッ!?』
ぼろりと――水分を失った砂のように削られ、それを感じたロゼロは息を呑むと同時にシルヴィから離れようとする。
が、それを許さないシルヴィは避けて離れようとしたロゼロに噛みつかんばかりに目でロゼロの行動を追い、ロゼロの太く、たくましくなった腕に足を乗せて、駆けだす。
踏み込んだ足に力を入れたシルヴィはそのまま特攻するようにまた切っ先をロゼロに向けて、勢いをつけた突きを繰り出す。
『う、うぅぅううヴヴうううヴううぅぅぅぅっっ!』
空気を裂く音、ねじれる様な音が聞こえると同時に、ロゼロはそれを躱そうとまた顔を逸らそうとするが、それでもシルヴィは突くことを止めなかった。やめるどことか、そのまま特攻する。
小さい体を利用しての攻撃はロゼロには当たらない。
そんなことはシルヴィも知っている。理解しているからこそ、彼女はこの状況を利用して、少しずつ削ろうとしたのだ。
時間を稼ぐことが大きな目的だが、その他にも彼女は考えている。
これは自分にしかできないこと。
自分に与えられた特権でもあり、この時しかできない、自分なりのロゼロの力を削る方法を。
「お前の力は、この世界の普通の人たちとは違う」
シルヴィは言う。
暴走しているロゼロに向けて、言葉を理解しているのかもわからなくなってしまったロゼロに向けてシルヴィは言った。
「この世界の人たちの殆どは魔法を使うための『魔力』がない。だが例外的に魔力を持つ者が現れ、その者達を『魔女』と呼んだ。その魔女の血と、元々魔法を使うことができる鬼族の角を使った非道な行いをしていたバトラヴィア帝国」
全部アイアンプロトから聞いたことだ。
シルヴィは続ける。
聞いたことを口頭で言いながら、彼女はロゼロの黒い鞭の攻撃をかわし、そして槍で切り裂きながら突破口を作っていく。
ロゼロの力によって生成された黒い鞭も、彼女の槍に――槍の刃に触れた瞬間、黒い砂となっていく光景を見ていたコーフィンは心の中で脱帽し、蓬は大袈裟に声で溜息を吐きながらアイアンプロトに視線を向けて言った。
勿論小さな声。ロゼロ達に聞こえない声量でだ。
「やっぱりシルヴィの『秘器』部品すごいね。相手の魔力を霧散させるは、魔女にとっても僕達にとっても危険なものだ」
そう。蓬の言う通り――シルヴィの槍に到着されたそれは、言葉通りの力を持った『秘器』だった。
『秘器』
それは砂の国――人間至高主義の時代の元バトラヴィア帝国の兵器。
非道な方法で作り上げたそれはハンナ達も苦戦を強いられ、それを使った軍団を作り、しまいにはアズールを支配しようとしていた国の兵器――負の遺産そのもの。
バトラヴィア共和国の闇。
それを起源も残酷なもので、ロゼロの故郷マキシファトゥマ王国の技術を盗もうと、滅ぼしてまで盗んだ技術でもあった。
ロゼロはその犠牲者で、被験体として体に埋め込まれ、失敗と言う名の犠牲を幾度となく生み出し、結果として、多くの犠牲を作った結果が『秘器』の誕生となった。
そしてその集合体として生まれたのがアイアンプロト。
これは普通の人からすれば、バトラヴィア帝国に生まれたものであれば、憎むべき存在と言っても過言ではない。
そしてそれを使うことは外道のものだと言われても、反論できないだろう。
なにせ――守るべき民を苦しめ、何の生産性もない。ただただ負の連鎖しか起こさない代物なのだから。
この世で最も不必要と言われてもおかしくないものなのだから。
その最も不必要なものに、民達は、魔女達は、鬼族達は苦しめられ、無残な最期を遂げる者までいたのだから。
「『秘器』。アズール最悪の負の遺産とか言われている『秘器』も、こんな時に限って役に立つなんて、皮肉なのか、それともこれを民のために使えば、変わっていたのかも」
『そんなこと、ありえまセン』
蓬の言葉に対し、アイアンプロトは断言と言わんばかりの発言をする。
シルヴィは現在進行形で戦っているが、幸いアイアンプロトの力もあって、今は優勢だ。
そんな彼女のことを見ながら、そしてロゼロのことを見ながらアイアンプロトは言う。
機械質でありながらも、その目に映る奥底は、機械質の光は灯っていなかった。
むしろ――電気がもうない状態の眼で言ったのだ。
『『秘器』は帝国が生み出した恐怖デス。ワタシは学びまシタ。王の宝は民であり、民を守ることこそ、王の使命であルト。ですが王はそれを守ろうとしなかッタ。全部身勝手な思いで動き、そして傷つけ、あろうことか、民以外の者達を傷つけて逃げ出しまシタ』
「あの時、運よくというか、運悪くバトラヴィア帝国にいたヌィビットが偶然君を見つけて、あろうことか気に入ったからって言う理由で連れてきた時は驚いたよ。国の所有物を勝手に持ち出してさ、堂々と『こいつを仲間にしたいんだが? 意見あるか?』って聞かれた時は、燃やすを通り越して物理で殴りたかった」
その時のことを思い返しながら言う蓬は呆れながら溜息を吐いていたが、それを聞いたアイアンプロトは浮いている頭ほんの少しだけ上に向けて――
『そうデス。それが普通の回答。模範解答デス』
と言った。
音色は機械質だが、どことなくだろうか、声のトーンが低く感じてしまう。
故障なのか? そう思ってしまう様な小ささだが、そのことを追求しないで蓬はアイアンプロトの言葉に耳を傾ける。
『ワタシは、『秘器騎士団』の試作品。大量の『秘器騎士団』を生み出すために、私はお手本としてグゥドゥレィ様に生み出されまシタ。しかしワタシは欠陥品デス。ワタシは、あの国では不必要とされまシタ』
「戦うことができないから」
でしょ?
アイアンプロト言葉に蓬は答える。その言葉にアンアンプロトは頷き、そして思い出していく。
と言うよりも、視界に写り込み、それを記録したデータを見返しているだけなのだが、それでもこれは思い出であり、アイアンプロトにとっての失意のどん底の瞬間。
同時に――ヌィビット達に出会うきっかけとなった出来事でもあった。
◆ ◆
『秘器騎士団』
それは元砂の国が作り上げようとしていた軍団。
ハンナ達が来た時、登場すらしなかったものだ。
同時にロゼロの故郷――マキシファトゥマ王国が作り上げようとしていた『鉄の魔人』計画の改造版と言ってもいいだろう。
国を滅ぼしてまで奪い、そして作り上げようとした砂の国――もとい帝国は、それを基盤として『秘器』を創り上げ、王の肉壁『盾』を創設。同時に多くの魔女、鬼族、色んな種族を犠牲にして生産してきた。
悪魔の所業。
それを使って成し遂げようとしていたことが、領土を広げることだったのだ。
最終的にはアズールの支配。
数多の犠牲を産み、望んだことが私欲。
これならいつぞやか支配しようとしていたカイルの思惑の方がいいと思ってしまうほど。
しかし、それもハンナ達の活躍、『浄化』、王の失脚によっていとも簡単に崩れ去ってしまった。
計画は失敗。『秘器騎士団』も生み出されていない。
未然に防いだと誰もが思っただろう。だがそれは大きな間違いであり、本当は一体『秘器騎士団』が完成していたのだ。
勿論完成体ではなく、試作品として、それをモデルにして大量に生産するつもりだった。
しかしそれは無駄だと、時間の無駄だとグゥドゥレィは悟った。
何故そう判断したのか?
それは簡単なことで、プロトタイプだったアイアンプロトは戦う意志などなかったから。
そもそも戦うことを嫌っていたのだから。
『なぜおまえは戦おうとしない?』
グゥドゥレィは聞いた。
所詮は機械で、感情など持ち合わせていない操り人形の存在が、まさかの意思表明をしたのだ。その理由を聞こうとグゥドゥレィはアイアンプロトに聞いたのだが、返答はまさかの言葉で――
『戦うということは、その人に向けて危ないものを向けて傷つけるということでスカ?』
アイアンプロトは返答と言うなの質問で返したのだ。
これは想定外の反応だ。
どこで間違えたのかわからない。どうして不必要な感情を出しているのかも、真似ているのかもわからない。
まるで人間みたいに疑問を抱く時点でおかしいと感じていた。今までそんなことはなかった想定外に、グゥドゥレィは困惑していた。
アキとダイヤ相手に戦った時も、アキ達三人相手に戦った時も困惑したそれを見せなかった。焦りも出さなかった彼が、この時ばかりはそれを出さざる負えない。
描いていた結果と違うその反応、行動を見て、グゥドゥレィはアイアンプロトに言う。
開口――質問に答えろと言った後………。
『お前は我が国バトラヴィア帝国を守る兵士なのだぞ? 帝王のために戦うこと。そして帝王のために死ぬことこそが本望。『死は救済』なのだ。王のために戦い死ぬ。そのためにお前は生まれ、そしてお前を元に作られて行く。そんなお前が戦うことに対して否定的なことを口にするな』
元帝国の名言ならぬ迷言を言うグゥドゥレィ。
それこそがこの国のルールであることを伝えるが、それでもアイアンプロトは首を縦に振らなかった。
どころか、首を横に振って――
『ならば戦いたくありまセン。ワタシは、ワタシは殺したくないデス。人を傷つけたくないデス』
と、子供の様に駄々をこねたのだ。
いいや――この場合、国の意思に反し、勇気を振り絞って彼は否定し、反論したのだ。
この国のやり方には従いたくない。
純粋に、真っ直ぐな意志を述べたアイアンプロトだったが、それを許すほどグゥドゥレィは甘くなかった。
どこで間違えてしまったのかわからない。弱い人間のように戦いたくないという意志を植え付けた張本人がいるはずだ。
そう結論付けたグゥドゥレィはアイアンプロトの電源を切り――
『お前は出来損ないだ。お前の価値は枯れた巨木。木炭にも薪にもなれない。なんの役にも立たない失敗作だ』
グゥドゥレィは、アイアンプロトを閉じ込めた。
勿論処分する選択もあったが、その時はそれほど材料がない状態で、捨てるというもったいないことができなかった時だ。
部品を少しずつ取り除き、また新しい『秘器騎士団』試作品を作ろう。
そう結論した後、グゥドゥレィは動かなくなったアイアンプロトを城内の一室に閉じ込め、そのまま放置していた。
煌びやかな金色の鎧も次第に光沢を失い、錆がつき始め、部屋の湿気の所為で黴臭くなり、もう使われることがないだろう。そのくらい彼は閉じ込められていた。
部品を使いまわそうとしていたグゥドゥレィは最初こそ来ていた。攻撃系の部品を取って、それを何回かした後、全く来なくなった。
最低限の部品だけは取らないで、攻撃系の部品を取った穴埋めとして、使えない『秘器』を取り付けたりして原形をとどめていたが、それを知ったのはその後の話。
そもそもどうしてそれをしたのか、今でもわからないし、分かるわけがない。
意志はもう切られている。
自力で動くことができない。
このまま朽ち果ててしまうのか。そのくらい時間が経った時――
『おぉ! 動いた動いたっ! おぉ! おぉ! おぉ!』
『感動のあまりに『お』しか言えなくなってる………』
『剣と魔法の世界で、こんな機械に出会えるとは』
『動きましたが、見えているのでしょうか?』
『オイオイクィンク。ソノママ流レルヨウニ目潰シスルナ。レンズ壊レルレンズ壊レル。ヤメナサイ』
アイアンプロトは目を覚ました。
目の前に見えたのはグゥドゥレィ――ではない。
彼の目の前に見えていたのは、知らない五人で………、後に、心の底から信頼できる存在達になる人達が、彼の目の前に群がり、彼のことを見て機械の体を触っていた。




