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PLAY31 激闘! ネルセス・シュローサⅣ(真の絶望)④

「うん! 断るっ!」

「言うと思った」


 ジルバさんの提案を聞いてきっぱりと断ったブラドさん。


 私もその立場だったら……、最初は断ると思う……。


 でも、状況が状況なら……、きっと、断れない。絶対に……。


 この状況なら尚更……。


 でもブラドさんは普通の人の思考回路。私とは違う。


 頷かない選択だってする。


 ジルバさんは首を傾げて飄々として言うと、それに対してキョウヤさんは――


「んで断るんだよ……」


 少し呆れながら言った。それを聞いたブラドさんは『ぐあっ』とキョウヤさんを見て「あったり前だろうがっ!」と言って。


「だって俺達は偶然ここに来た冒険者。そして敵であるその……、何とかシュローサを助けてリヴァイアサンを浄化するとなると、それこそわがままじゃねえか。こっちは巻き込まれただけでセイントって人を見つけ次第ここから撤収する算段だったし……っ!」


 腕を組みながらイラつく顔で言うブラドさん。


 それを聞いた私はブラドさんの言葉を聞いて、うっと声を出して唸ってしまった。


 私は確かに……『ネルセス・シュローサ』と暴走しているリヴァイアサンを救けようとしているけど……、これは確かに欲が深い選択だったのかもしれない。


 そう思ってしゅんっとして俯いていると……。


「えぇーっ?」


 ロフィーゼさんは驚きながらブラドさんを見て言う。


 私はその声を聞いて顔を上げると……口に手を添えながら彼女はブラドさんを見てすっと目を細めながらこう言った。


「ブラドってぇ……、そんなに外道だったのねぇ……。すごく幻滅したわぁ」


 そう言いながら私に近付いて、ロフィーゼさんはそっと私を背後から抱きしめたかと思うと、ブラドさんを冷たく睨んでこう言った。


 私はその時、「わ」と声を上げてしまったけど、誰もそのことについては問い詰めなかった。


 っほ。と、少し一安心したのは言わないでおくとして……。


 ロフィーゼさんは言った。


「こんな女の子が、無理して歩こうとしているのにぃ……、そんなに女の子が嫌いだからってぇ……、それを理由にして逃げるのぉ? わたしを助けてくれた時とは大違いぃ」


 その言葉を聞いて、ブラドさんはぎょっとしながら「あ、いや、それは……」と言葉がしどろもどろになった。シイナさんはジルバさんを見て……。


「お、おれは手伝います。協力します……。こんな状況になってしまって、このまま逃げるって言ったら……、なんだか罪悪感に見舞われそうで……、それに……。まだこのマドゥードナにセイントさんがいる確証はあります……。その後ででも探せば、おれのこの、い、犬人の嗅覚を使えば何とかなります……」


 鼻を撫でながら言った。


 それを聞いたジルバさんはにこっと微笑みながら「ありがとうネー」と言ってお礼を述べた。


 それを聞いてブラドさんはぎょっとしてシイナさんを見ながら「あ! シイナてめぇっ!」と、ショックを受けながら突っ込んでいた。


 そんなシイナさんとロフィーゼさんの言葉がきっかけとなり……。


「お前……そんな心のねえ奴だったとは……」

「ハンナの気持ちを無下にやがって……っ!」

「わかったから銃を下ろせ。拳銃の弾、もうねえんだろ?」


 キョウヤさんとアキにぃがブラドさんを見ていた。冷たい目でブラドさんを見て、ブラドさんは「はぅ!?」と声を漏らして、私達を見て一言……。


「俺……、現在進行形で四面楚歌?」


 と、私を見て聞いてきた。


 それに対して、私は首を傾げることしかできなかったけど……、これは私の我儘でこうなってしまったのだ。


 私はブラドさんに謝ろうとして、やっぱり自分達だけでと言おうとした時……。


「ハンナ」

「!」


 私の肩を叩いて、私の名前を呼んだヘルナイトさん。


 ヘルナイトさんは私を見下ろし――


「今回は私達だけではできない。ここはみんなにも協力を仰ごう。サラマンダーの時も、そうだったはずだ。一人ではできないことがある。私もそうだ。一人では浄化もできない。今は一人でも多くの味方が必要だ」

「そうよぉ」


 ロフィーゼさんが私に抱き着きながら、妖艶にこう言った。


「今は徒党を組もうって言っているのよぉ。変則的だけどぉ……。それにぃ……、あんな風に叫んで、助けを求められたら……、勝手に足動いちゃうもんねぇ」


 あなたは。


 その言葉を聞いて、私は急に自分がしたことに対して、恥ずかしさを覚えていき……、頭を垂らして俯く。顔を真っ赤にさせながら……。


 でも……。


「っだぁーっ! なんで俺はこんなに運が悪いんだよぉーっ!」と、頭を掻きながらブラドさんは言う。


 苛立った感情の思うが儘、彼はこう言う。


「ロフィーゼの時だってそうだったし! コウガには囮にされてグレグルには勘当されて……、もうさんざんぶりですわぁ!」

「きっと後の二つはお前の行いのせいもあるぞ……」


 キョウヤさんは冷たい眼差しでブラドさんを見て突っ込むと……、上でその光景を見ていたキクリさんが叫んだ。


「まずいっ! 大技が来そうっ! 決断するなら急いでっ!」


 その言葉を聞いて、私たちは息をのんで上にいるキクリさんを見る。


 ブラドさんはそれでも「あーだうーだ」と頭を掻きながらうなっていると、それを見ていたロフィーゼさんがむすっとした顔をした後、ブラドさんの名前を呼んで、ブラドさんがロフィーゼさんがいるほうを振り向いた瞬間……。



「――協力しなかったら、わたし……、あなたの背後からぎゅっと抱きしめてあげるわ」



「――やらせてくださいっ!」



 ブラドさんは態度を百八十度変えて、ジルバさんに向かって頭をぶんっという音が出るくらい下げて手を伸ばして「何をすればいいんすかっ!」と気合満々で言った。


 その言葉を聞いて、アキにぃは呆れながら「普通は喜んで断る言葉なんじゃ……」と、ブラドさんのことを見て首を傾げていた。


 ジルバさんはブラドさんの反応を見て、驚きながらも「あ、ありがと……」とお礼を述べた。


「それで……、何か策があるのか?」


 そうヘルナイトさんが聞くと……、ジルバさんは私達の方を見て……。


「うーん……、簡単な話……。君達はリヴァイアサンを追ってほしいって言いたいんだヨネ? アクアロイア王にも話をしに行ってほしいし。その重役を君達に任せたいんだヨ。言い出しっぺだしネ」


 その言葉を聞いて、私はぎゅっと無意識に、自分の手を握って、手を絡めていた。それはきっと、不安だろう……、自分でもわかる。


 言い出したのは私だ。


 リヴァイアサンを浄化して、アクアロイア王がいるのなら……、なんでこんなところにいるのか、なんでこんな時に現れたのか。それを確かめてきてほしい。


 そうジルバさんは言っているのだろう……。


 リヴァイアサンが暴走した状態でここに現れたと同時に、アクアロイア王を見た。


 これは変だと思ってのことだろうけど……、私はその言葉に……頷いた。

 

 私も、確かめたいことがある。その思いを胸に、頷いたのだ。


 ジルバさんはそれを見て、にこっと微笑みながら私を見て頷き返すと……、上で浮かんでいるキクリさんに向かってジルバさんはこう聞いた。


「今リヴァイアサンは何をしようとしているのかな~」


 その言葉にキクリさんは私達に向かってこう言った。


「……自分の配下魔物を召喚しようとしている……っ! あれは『水竜召喚:『ストームスネイク』ッ! 大きな光の柱が三つ……、三体召喚しようとしているわっ!」


 それを聞いたジルバさんは、にっと笑って「好都合だネ」と言って、ロフィーゼさん達を見た後……、彼はこう告げた。


「それじゃ……、俺は建物の上で指示を出すから、三人はその魔物を引き付けておいて」と言った。


 それを聞いて――


「引き付けてって……、もしかしてぇ。囮になれってことぉ?」

「それはかなり……、体力を消耗しそうです……」

「いやいやっ! やっぱ囮だったぜ! 囮になって餌になって死ぬのは嫌だっ!」


 ロフィーゼさんは頬に手を添えながら私から離れて言って、シイナさんは自分の手を見ながら言うと、ブラドさんは首をぶんぶんっと横に振って頭を抱えながらやっぱりかと言わんばかりに後悔していた。


 でもジルバさんは「囮だけど違うよ」と言って――


「俺が指示するところまで誘導してほしいの」と言った。


 それを聞いた私達は『誘導?』と首を傾げて疑問の声を上げたけど……、ジルバさんは私達を見ないで話しを進める。


「俺はそうだな……見晴らしがいいところで指示を出すから、シェーラ。俺と一緒に」


 と言うと――


「――私は」


 と、シェーラちゃんは、今の今まで頭を垂らしていた顔を、すっと上げて、ぐいっと目元を乱暴に拭いながらこう言った。



「私は――ハンナ達と一緒に行くわ」と言った。



 それを聞いた私は、シェーラちゃんを見る。どことなく疲れたような顔をしている……。それを見た私は「……そんなに気を張らなくても……」と、彼女のことを思って言ったのだけど……。


「ネルセスも」とシェーラちゃんは言った。


 それを聞いた私ははっとして言葉を詰まらせ、ジルバさんはすっと目を細めてシェーラちゃんを見た。


 シェーラちゃんは言う。


「さっき言っていた女は……、きっとネルセスよ。私はまだ……、あの女に一太刀いれていない……っ! だから……、私は」

「シェーラ」


 でも、シェーラちゃんの言葉を遮るように、ジルバさんは飄々としたとしていた声を消して、真剣で、冷たい音色と目でシェーラちゃんを見下ろして、彼はこう言う。


 シェーラちゃんを見下ろして、そんな目に対抗しているシェーラちゃんを見下ろして……、こう言った。


「もう復讐なんてしない方がいいヨ。ここは大人の言うことを聞いたほうがいいからネ。一人でネルセスを倒そうだなんて」

「――そんなこと、もう思っていない。()()()()()()()()()


 言ったでしょう?


 そう言いながら、シェーラちゃんは私を見て、私に近づきながら歩みを進める。


 カツカツとなるヒールの音。


 水を含んだその音が、その空間を支配して、シェーラちゃんは私の前で止まる。


 シェーラちゃんは私を目を見て、そして流れるように、気配なんて感じないような動作で、私の手を掴んで、その掴んだ手を、私の目の前で持ち上げて……彼女は言った。


 真剣な目で、淀みや悲しさがない目で……、彼女は私を見て言った。


「――一緒に、ネルセスを倒すのを、手伝ってほしい。殺すのではなく……、あの女を倒す! だから、そのためにも……、あんた……ううん。ハンナ――あなたの力を貸してほしい」


 その言葉を言ったと同時に、きゅっと握る力を強くするシェーラちゃん。


 私はそれを聞いて、今までシェーラちゃんを支配していた青いもしゃもしゃがないことに、嬉しさと驚きを感じながら、私はぎゅっと両手でシェーラちゃんの手を握って……、控えめに微笑みながら――


「うんっ」と頷く。


 それを聞いてシェーラちゃんも頷き返し、にっと凛々しくて、強気な笑みを浮かべた。


「何があったかはオレ達にはわからねえけど……」


 と言いながら、キョウヤさんはシェーラちゃんの頭に手を置きながら、槍を肩に乗せてこう言った。


「気持ち固まったのなら、行くっきゃねぇな。時間もねぇ」


 シェーラちゃんはそのキョウヤさんの行動にムッとして、むすくれた顔でキョウヤさんを見上げた。キョウヤさんは困ったように笑いながら「なんで怒ってるんだ……?」と、シェーラちゃんを見て疑問と混乱の声を上げる。


 それを聞いていたジルバさんは「ちょっと……、そっちで話を」と、言いながら話を遮ろうとしたけど……、その間に入り込んだアキにぃは「まぁまぁ」と言いながら――


「心配なのはわかりますけど……、まぁ保護者なら俺達が責任を持って見ておきます。言い出しっぺが責任をもって、ネルセスを倒し、アクアロイア王にも話をつけて、リヴァイアサンを浄化します」


 それでいいですよね?


 そう言ったアキにぃ。


 それを聞いていたヘルナイトさんはアキにぃの名前を呼ぶと、アキにぃのはくるっと私達の方を見て――


「まぁ、シェーラには借りがあるし、これでプラマイゼロってことで」

「あれはあんたがしたことじゃない。自業自得の」

「……っぐぅ! 口だけは達者だな……っ!」


 と言いながら、アキにぃはシェーラちゃんの言葉がダイレクトに心に刺さってしまったのか、胸に手を当てて唸る。


 それを見たキョウヤさんは乾いた笑みを浮かべながら「まぁシェーラの言うことには同文だな」と、小さく言った。


「ジルバさん」


 私はむっとして驚いているジルバさんを見て言った。


「シェーラちゃんと一緒に……、行ってもいいですよね?」と聞くと、ジルバさんは一度無言になって私たちを睨んでみていた。特にシェーラちゃんの方を。


 でも、シェーラちゃんはジルバさんを見ているだけ。


 それを見て……、ジルバさんははぁっと溜息を吐きながら……、上にいるキクリさんに向かって――


「俺はここの土地勘あるから……、俺の言うとおりに行動してほしい。君は広場で待機してて」


 と、飄々とした音色で言ったジルバさん。


 それを聞いてシェーラちゃんはだんだん目を見開いていき、キクリさんは「わかったわ」と言った。


 それは――オーケーの合図とみてもいいのだろう。


 シェーラちゃんを見て私は、ぎゅっと手を掴みながら「よかったね……」と言うと、シェーラちゃんはにっと凛々しく微笑みながら「ええ」と言い返した。


「よし――」と、話が終わったところを見て、ヘルナイトさんはすっと私達の横に立って、しゃがんで――


「「?」」


 しゃがんだヘルナイトさんを見た私達は、首を傾げていたけど……、すぐにそれが驚きに変わる。


「え? ひゃぁっ!」

「? わっ!?」


 驚く私達をしり目に、ヘルナイトさんは右手でシェーラちゃんを左手で私を横抱きにして、両方の手で私達を横抱きにしながら立ち上がったのだ。


 両方お姫様抱っこ……。これには驚きのあまりに気が動転しそう……っ。


 なんで動転しているのかはわからない。それにさっきから心臓の音がうるさいような……。


 でも、今はそんなこと関係ない。考えている暇なんてない……っ!


「すぐに向かおう」


 そう言うヘルナイトさん。


 それを見ていたキョウヤさんは、「ぐぎぎぎぎぎぎっ」と唸って歯軋りをしているアキにぃを押さえつけると「わ、分かった……っ!」と言って、引っ張りながら走った。


 ヘルナイトさんも私達を抱えながらリヴァイアサンがいるところに向かって駆け出す。


 私はヘルナイトさんの肩越しでジルバさん達に向かって――


「リヴァイアサンのことは任せてください……っ! だから……、『ネルセス・シュローサ』の人達のことを……お願いしますっ!」と叫ぶ。


 そう言うと、ジルバさんは手を振りながら飄々として微笑む。


 ロフィーゼさんも私を見て妖艶に微笑みながら「いってらっしゃぁい」と手を振っていた。シイナさんも、ブラドさんも……。キクリさんも手を振っていた。


 すると――


()()()!」


 シェーラちゃんはジルバさんに向かってこう叫ぶ。私とジルバさんは驚きながらシェーラちゃんを見ていたけど、シェーラちゃんはそんなジルバさんを見て、ヘルナイトさんの肩越しで、大声でこう叫んだ。



「あんたの作戦……、信じているから!」



 その言葉を聞いてか、ジルバさんはにっと……、なんだか嬉しそうな顔をして、シェーラちゃんを見ていた気がした……。


 それを言った後、シェーラちゃんはすとんっとヘルナイトさんの腕の中に納まって、彼女は前を見る。


 私も前を見て――マドゥードナの見晴らしがいいところで咆哮を上げて叫んでいるリヴァイアサンを見て……、ヘルナイトさんの腕の中で、私は言う……、小さく、ヘルナイトさんにしか聞こえないその声で、私は言った。


「絶対に……、救けてあげるから……、待ってて」



 ◆     ◆



 ――『水竜召喚:ストームスネイク』ッ!――


 ハンナ達が話し合っている間に、リヴァイアサンは痛みで我を忘れそうになりながら、マドゥードナの街に三体の配下魔物を召喚した。


 とあるところに魔法陣のような文様が浮かび上がり、その魔法陣から光の柱が出る。その光の柱を川の流れのように、魔法陣から光の柱を通って出てくる水の体を持った大きな大きな大蛇。


 しかも三体も、体長も大の大人十五人以上の高さだ。


 長さではない。高さだ。


 進む時の全長など……、きっとリヴァイアサンと比べたら少し短いだけだろう。それだけ大きく、人間一人丸呑みすることなど……、容易いだろう。


 そんな水の大蛇が、黒いローブの集団達を捉え、そしてぎょろりと蛇の眼でその獲物を餌と認識した瞬間……。




「「「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!」」」




 まるで洪水のように襲い掛かってきたのだ。


 その中にはコココやどんどら、フランドまでもが紛れて逃げていた。


 セイントはズーを抱えたまま物陰に隠れて、一人でも多くの黒いローブの人達を安全なところに隠して奮闘していた。


 ――ローブの部下達の数が多すぎる……っ! このままでは……っ!


 正義感が強いセイントにとってすれば……、今回は分が悪すぎたのかもしれなかった。しかし彼はそれでも……、諦めずに奮起していた。正義が勝つ。そう信じて。


 すると……。


 ふっと視界が、世界が一部暗くなる。物陰に隠れていたにも関わらず、更にその世界が暗くなった。


「わんっ!」と、さくら丸が後ろを向いて鳴く。慌てて鳴く。


 それを聞いたセイントは、ふっと後ろを向いて……、甲冑越しで言葉を失った。


 背後にいたのは……、水でできた大蛇の――口。大きく大きく開いた口が、目の前にあった。


 それを見て、セイントはすぐに避けようとしたが、すでに大蛇は……、セイントを飲み込もうと、大きく口を開けて……。



「うぉおーい! こっちだぁあああああっっ!」



「!」


 それを聞いてセイントは目の前から聞こえた大きな声を確認しようと、大蛇の方に向けていた顔をそっと後ろに向けた。


 向けて視界に入った光景は――


 両腕をぶんぶん振り回しながら、やけくそ交じりの顔で大蛇に向かって挑発しているブラドがそこにいた。


「こっちこいよぉ! この爬虫類野郎!」


 あれ? 両性類じゃねえよな……?


 と、己の知識を疑うようなことを思い浮かべたが……、その答えを見出す前に、大蛇はブラドに標的を変えて、ぐわりと大きな体をうねらせながら大きく口を開けて襲い掛かってくる!


「え? あ、ちょ……っ! ちょちょちょちょちょちょとおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!?」


 彼は叫びながら手を大きく振りながら逃げていく。


 それを見た大蛇は、「しゅるるるる」と唸りながら、ブラドを追う。


 セイントはそんなブラドを見ながら……、首を傾げて「……何だったんだ?」と疑問の声を独り言として放ったのだった。


 ブラドはそのあとも「うおおおおおおおおおおおっっ!」と叫びながら、全速力で突っ走る。背後から迫りくる大蛇を背に、彼は鬼気迫る表情で走っていた。


 それは――シイナも、ロフィーゼも同じだ。


 三人はその水の大蛇に追われながら、捕まらないように、建物の間をすり抜けながら走っていた。ジグザグに走っていたのだ。


 その道の指示をしたのはジルバ。


 ジルバは見晴らしがいい建物の上で、その『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、指示を言ったのだ。


「シイナくんは右!」


 あらんかぎり叫ぶと同時に、シイナはふっと右に曲がる。それと同時に大蛇も右に曲がる。黒いローブの部下達を無視して。


 そのあとも指示をしながら、とあるところまで誘導する。


 建物の間をすり抜けながら、三人は同時にとあるところに行きつく。


 そこは――ハンナ達が飛ばされた場所だった。


 それを見たキクリは、クスッと微笑んで、手にしていた扇子をぱんっと開くと――


「準備はオーケーよ」と言った。


 それを聞いて、ロフィーゼが汗をかきながら最後の体力を使い切るように、キクリに向かって走る。シイナとブラドも走って――


「――スライディングゥゥゥゥゥーッッッ!」


 ずしゃああっとサッカーのスライディングのように、彼女は雨で濡れた地面を滑走した。


 二人もその後スライディングをして、キクリの背後に着いたと同時に――


「い、今です!」


 シイナが言った瞬間だった。


 ドバリと出てきた三体の大蛇。


 その三体の大蛇を見てキクリは冷静に――すっと扇子を仰いだ。そして手首を使いながら――彼女は言う。



「――『猛吹雪』っ!」



 と言った瞬間、彼女は広げるようにしていた扇子を持った手を……、まるで風起こしでもするかのように、一気に仰いだ。


 刹那。


 ぶわりと来る大雪。


 それはまるで、本当の吹雪のように迫り、大蛇に向かって襲い掛かる!


 大蛇三体は断末魔を上げる間もなく……、顔からどんどん『パキパキ』と凍っていき、それがどんどん体から尻尾まで伝っていく。そして尻尾の先に到達し、そのまま大蛇は……。



 カチコチの氷の標本と化した。



 それを見たブラド達は目をひん剥いて驚いていたがジルバは違った。


 彼は一回MCOで戦ったことがあり、彼女のスキルをいくつか知っていたのだ。それを使えばと思い、彼女に協力を仰いだのだ。


 結果として……、成功した。


『ネルセス・シュローサ』を助けることに、成功したのだ。


 氷の標本を見たキクリは一言、ぱしんっと扇子を畳みながらこう言った。


「――ちょっと不細工だけど……、まぁいいかしら。時間と救出はできたみたいだし」


 そう言って、彼女は見晴らしがいい場所を見上げて思った。


 ――あとは何とかしてね……。団長さん……。

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