PLAY29 激闘! ネルセス・シュローサⅡ(寵愛と愛。無心と正義)④
それからすぐにアルヴレイヴの黒焦げた姿がマドゥードナのとある道で見つかった。
人通りもない路地裏のような道でアルヴレイヴは木箱に向かって落ちたらしく、その木箱の破片を取り囲みながら彼は気を失ってしまっていた。
あろうことか……、真っ赤な舌を剥き出しにした気絶で……。
それを見降ろし、エレン達はそれを見て……、少しやりすぎたと思ってしまう。
黒い鎧は少し熔け、あろうことか白い仮面はぱっくりと割れ、素顔が明らかにされていた。
顔の火傷がないのが奇跡的かもしれない分、アルヴレイヴの素顔が見えたので二人はその顔を見降ろす。
ごつごつとした角ばった顔に緑色の短髪を見降ろしながら……。
それを見たエレンははっとしてアルヴレイヴを見て言った。
「あ。この人……、ニュースで見たことがある……」
「? あ、そうやった。確かアメリカではすごい野球選手だった……。ウィリウム・ベットゥリウム選手やな。確か……、ホームランばっか打っていた……」
「だからホームランか……。確かその人、事故で野球ができない体になって引退したって聞いたな……」
「見た限り、そんな感じじゃないんやけどな」
「でもまぁ、これで厄介な相手は倒した」
「せやね」
エレンとララティラは何とか倒したであろうアルヴレイヴを見、エレンは縄を探しに行こうと足を進めた時、ララティラにどこに行くのかと聞かれた。
それを聞いたエレンは――
「いや、また起きたら厄介だし……、『デス・カウンター』は出ていないから気絶しているだけだろう? 念には念をってことで」
と言うと、ララティラは半分エレンのその普通で慎重な言葉に笑いが込み上げ、くすっと笑いながらこう言った。
「……早々起きひんって。この有様や。きっと終わったら起きるで」
「……そうかな?」
「せやて。今は急いでいることを片付けた方がええんとちゃう?」
うーんっと、エレンは考えた。そしてちらりとアルヴレイヴを一瞥する。
アルヴレイヴは目を上に向けて、白目を剥いて倒れている。完全に伸びているし、体力の多さも尋常ではないだろう。
あの攻撃を――前後からくる大威力のそれを受けて、気絶で済んでいる。
――それに、あの道具屋にあったあの詠唱は……、あとから頭に浮かんだんだが……。あれは即死効果が付加されていた。
――その効果がなかったってことは……、こいつが来ている鎧は即死耐性がついていたってことになる。
――そして鎧も熔けているだけ、壊れていない。そうなると……、かなりの性能を持って、防御力も高い鎧だろう……。
そう思ったが……、この有様だ。
ララティラの言うとおり、当分は起きないだろう。
そう思い、エレンは腰に手を当てて、ララティラに向かって少し疲れたような笑みを浮かべ……、彼は言った。
「そうだな。今は情報だな」
「………なぁ」
「?」
ララティラはエレンを見て、少し視線を逸らして、もじもじと体をくねらせながら、彼女は、心配そうにエレンを見て聞いた。
「……、また、一人でいるとか……、アストラに戻らんとか……、言うんか?」
その言葉に、エレンは一瞬目を点にしてララティラを見たが、すぐにくっと喉で笑って……、そしてララティラを見て、呆れたような、でもおかしさが勝っているような笑顔で、ははっと笑いながらこう言った。
「もう言わないって。これが終わったらちゃんとアルテットミアに――アストラに戻るって」
それを聞いたララティラは、ぱぁっと顔を明るくさせて喜ぶ。その顔は子供の様な……、喜んで安心したか顔をしている子供のように笑い……。
「お前が大好きなみんなのところに戻るから……、そう不安がるなって」
ん?
ララティラはふと、違和感を覚えた。その違和感を解消したいがために、彼女はエレンに聞いた。
「あのぉ……、エレン……。そう言えばさっきな……」
「あ? あぁ。あの攻撃の時、お前叫んでいたよな? まぁお前がみんなのことが大好きなのは見てわかっているし、そう言った人間関係を大事にするのも大事だもんな」
「最後の言葉、聞いてた?」
「あぁ聞いてたよ。というか同じことを二回言うくらい……、ティラはアストラが大好きなんだな」
俺も少し見習わないと。
そう平然と、顔を赤くせずに言うエレン。
それを聞いて、ララティラは愕然と、引きつった顔のまま、彼女は内心――ショックを受けていた。理由はエレンに対して、自分の思いが全く届いていないことに対して……。
――恥ずかしかったけど……、一世一代の告白が……。
ララティラは先に進んで行ってしまっているエレンの背中を見て、がくりと落胆してしまった。
そして彼女は気付く。
エレンは――超がつくくらいの鈍感なのだと……。
◆ ◆
時は遡り……、ネルセスがジルバと言う男が向かった先に言ってしまった時……、ヘルナイトはフランドと言う幽体の男と黒いローブの集団と対峙していた。
その背後では……。
――ギィン!
かちあう金属と金属の音。
その音は幾度となく鳴り響き、それを聞いていた幽体のフランドは、顔の目があるところを皺を寄せるように歪ませて……、向こうを見てこう言った。
「ズー。何をてこずっているんだ。早くその男を殺せ」
そうフランドは言ったが……、ローブの集団の向こうから放たれた言葉は……。
「そんなこと言わないでください。僕だって結構てこずっているんです。僕はこの中では若い方なんですから、少しは甘く見てください」
……、何とも臆しもしない音色。そしてその最中に聞こえる金属音。
戦いながらしゃべっているようだ。
それを聞いて、フランドは舌打ちをしながらふわりと飛ぶ。そして、ヘルナイトを見降ろしながら彼は言った。
「さてさて……、前までは弱小と言われていた私ですが……、今となっては無敵に近い。そして唯一倒せるはずだったあの回復要因は、今はお友達とやらのところに向かって今はいない……。さてさて……、どう戦うというのです? 目眩まし程度の光しか出せないあなたに……」
そういいながら、にやりと顔を歪ませて、フランドは言った。
「申し遅れました。私はこの体ゆえに諜報や参謀を務めさせております。ゆえにあなた達がサラマンダーを浄化してからの出来事は筒抜けです。あなた達のセキュリティなど関係ない。常に出歯亀していた私です。私は影に潜んで見ておりました。あなたが使える『光』属性は……、目眩まししか使えないことも……知っております。さてさて……」
フランドは勝ち誇ったかのようにヘルナイトの上を飛び回りながら……彼は言った。
浄化と『光』しか効かない彼は、勝ち誇ったかのようにこう言った。
「――どう戦うのです?」
それを聞いても、ヘルナイトは何も答えず、そのままフランドを見上げ、そして背後にいる集団を見るために、振り向いただけだった……。
そして……。
それを見ていた黒ローブの少年――ズーは、その光景を見ていた。ただ見ていたわけではない。
目の前にいる正義感溢れる騎士――SKの攻撃を鎌で受けながら流して、戦っていた。
「せぃ! はぁっ! とぅ!」
SKを見て、ズーは思った。マンガじゃないんだから一回一回攻撃するたびに声を上げるな。うざい。と思っていた。
だがSKは……、強かった。
外面の性格はかなり間が抜けている。正義とか言って口だけかと思っていたが、実はそうでもない。
ズーはSKから距離を取って、鎌を横に振って、そのままの体制を保ちながら……、彼はギッとSKを睨みながら、グッと足の先に力を入れて――
一気に駆け出し、そしてグルンと身の丈以上の鎌を振り回して彼は言った。
「――『魂喰い』」
それは、魔獣族……、魔物『見習い死神』が使う技で、『魂喰い』はその名の通り、魂となるMPを食べて、自分の物にしてしまう……、簡単に言うとMP吸収のようなスキルだ。
それを使って、ズーは鎌をぐんっと振り回し、そしてそのまま横に薙ごうとした。
それを見たSKは、はっとし――それを受けるように脇に剣を添える。
剣を逆手に持って、地面に突き刺すように、鎌の攻撃を防ごうとした。
盾は透明なそれだったので、SKは使わなかった。
ズーはそれを見てふぅっと息を吐いてから……、グリンッと横に薙ごうとしていた体制から上から真っ二つにする体制に切り替えた。
「っ!」
よくある話……軌道を変えたのだ。
それを見て、SKははっとしてすぐに剣を元の掴み方に戻そうとした時……、時すでに遅かった。
ズーはそれを見て、勝機。と踏んだ。
すかさず彼はその鎌を――一気に振り降ろした!
ずばぁっ! っと。SKの右肩を狙って、体を真っ二つにするように、切り裂いたのだ。
「っっが!」
SKはがはりと息を吐く。
それを見たさくら丸が心配そうに「わんっ!」と鳴く。
しかし……、SKの体は裂かれていない。むしろ傷一つなどない。
当たり前だ。
彼の攻撃――食べたのはMPで、HPによる支障は全くないのだ。
SKは「ふん!」と唸り、気合で倒れそうになる体を、無理に立たせて、彼は少し遠くに着地したズーを見て、彼は一言……。
「うむ! お前は強い! これで我がMPは五千になったな!」
馬鹿正直にそう宣言したのだ。胸に手を当てて、彼は言う。
「しかし……、こうしてMPを削られていくと……、魂自身に攻撃されているようで気色悪いがな」
「……………………まぁ。そう言う技なんで」
ズーは肩に鎌を乗せながら言う。
すると……、少し遠くで見ていたさくら丸が鳴いた。心配そうに鳴く。それを聞いて、SKはさくら丸の方を見て、彼はこう言った。
「下がっていろさくら丸。これは一対一の勝負。私の正義の力で、悪を倒す。ゆえにさくら丸。今は待つんだ。気持ちはわかる。だがここは、私の我儘を、私の正義を見てくれ」
それを聞いて、理解したのか……。さくら丸は頷きながらちょこんっとお座りをして――「わんっ!」と、忠犬らしい鳴き声で鳴いた。
それを聞いて、ズーは呆れながら肩を竦めて聞く。
「さっきから聞いてて思ったんですけど……、なんですか正義って」
「知らんのかっ!」
ズーの言葉に対し、SKはぎょっとしながらズーを見て、そんなことも知らないのかと言う顔をしながら彼はこう言った。
「いいか? 正義とはな……、正しい筋道であり、人が踏み行うべき正しい道のことを指す」
「あの……、僕が聞きたいことは、そんな辞書に載っているようなことじゃなくて……、あなたの言う正義です」
はぁっと溜息を吐きながら、ズーは呆れてSKを一瞥し、再度思った。
うざい。と
SKはそれを聞いてふんっと剣を持っていない手を腰に当てて、彼はズーに向かってこう言った。
「私が言う正義? それこそ簡単だ。私の正義は――悪を倒す事で」
「そんな」
ズーはSKの言葉を遮り、彼は気怠い音色ではあるが、その中に含まれる負の感情を、まるで煙のように、もやもやと吐き出しながら……、彼は言った。
「そんなわかりやすくて、そんな曖昧で、そんな……。そんなヒーローみたいなこと……、できると本当に思っているんですか?」
「あぁ。私はそう思っているからこそ、実行し、実るように努力している。曖昧であろうとわかりやすく、そして目標にしやすい。何より私は職業上……、そう言った悪が許せない性質でな。貴様も悪なのだろうが……、どうも違和感がある……。貴様は……、あ、否――少年よ。君は今……心に何を思っているんだ?」
「……………………はぁ」
その言葉を聞いて、ズーは心底呆れて溜息を吐き……、そして……。
「――『肉体喰い』」
刹那だった。
――がりんっ! ざしゅっ! と言う音が聞こえたと同時に……。
SKの体に感じる広範囲の熱。それは胴体に、胸の辺りに感じた横に感じる熱。SKはそれを確認しようと己の胸の辺りを見ると……。甲冑越しに、目を疑った。
鎧を着ているにも関わらず、鎧を切り裂き、自分の体を胸の辺りに横一文字に裂いた痕ができていたのだ。しかも大量の出血。
SKはそこを押さえながら膝をつく。バタバタと濡れた地面に零れ落ちる血。しかし雨のせいでそれは別の方向に向かって流れて行ってしまう。
それを見たさくら丸ははっとして、「わんっ!」と鳴きながら駆け寄ろうとした時……。
「――来るなっ!」
「っきゅん!」
SKの怒声に、さくら丸はびくっと体を震わせる。SKはゆっくりと立ち上がりながら、ぼたぼたと流す血を何とも思わないように、彼は変わらず大きな声でこう言ったのだ。
「このような事態……、想定外には入らない。それに……、こんな出血で人は早々倒れない……っ!」
そう言ったSKだったが、すでに目の前に来ていたズーは、今度こそSKの体を真っ二つにするように振り上げて……、ぎゅっと鎌を握る力を強めて……、一気に振り降ろしたのだ。
それを見たSKは、なんとか剣と、今度は透明な盾を自分の前に出して、鎌の攻撃を防ごうとした。
しかし、ズーはそのままタンッと跳躍した。小さいなんてものではない。空中で前転をしながら、ぐるんぐるんっと雑技団のような空中回転をしながら、鎌を振り回したのだ。
SKはそれを見て驚きながら防ぐが、がががががっと当たってはその衝撃と回転力に負けて、盾と剣を落としそうになる。
ズーは回りながら攻撃しているが、SKはそれを防いでいる。体格差はSKの方が上だが……、機敏さと頭の回転、運動神経は――
若いズーの方が上だ。
そんな状態が続き、SKも攻撃に転じようと動こうとしたが、その動こうとした時、ズーはだんっと、罅割れそうな透明な盾にトンッと足をつけ、その盾を足場にして、今度はトンッと跳躍したかと思えば、今度は後ろ周りに鎌の遠心力を利用して、逆回転を繰り出したのだ。
「――っ!?」
――なんて機敏にして発想! そして……。
SKは真下から繰り出される鎌の攻撃を見ていなかった。それを見たのは……、自分の顎の到達するかしないかと言うところで気付いたのだ。空気を切る音を聞いて――
SKははっとして、すぐに上を向くように、後ろに避けた。
そして――思った。
――なんという身体能力! 強い!
直感した。
ズーは……、自分より身体能力、技術、発想、精神面……。どれを置いても彼は安定している。安定しすぎている。戦い慣れている証拠だ。
SKはがりっと、甲冑の顎の部位に深い傷ができる。しかし肉体には到達していない。
SKはズテンッと転んだが、そのままバク転をする要領で腹筋を使って、ぐっと足を上に上げて地面に手を付け、そのままぐんっと地面を押し上げるように跳ぶと、くるんくるんっと後ろに回転していき、SKはズーを見た。
ズーはすでに地面について、大きな鎌を構えながら……、小さく、そして低く、更には怨念を込めているような音色で……、彼は吐き捨てた……。
「そんな……ヒーローなんて……、この世にはいないっ!」
吐き捨て、鎌を持ったまま彼は駆け出した。
この世に対して既に何もかもを諦め、無心を貫いていた自分のことを綺麗な夢を持ってそれを実現しようとしているSKに対して苛立ちを覚え、殺意を抱いているくらいの鬼の形相で彼は駆け出し、鎌を持って横に薙ごうとしながらこう言った。
「ここにいるのは、この世にいるのは一般人と……敵だけですよっ! この世界に、ヒーローなんて……、正義の味方なんて……、どこにもいないっっ!!」
それを聞いたSKは……、ズーの何かを察知したのか、ズーのその猛威を見ても、殺意を見ても……、彼は逃げずに、立ち向かうように剣を構えた。




