PLAY28 激闘! ネルセス・シュローサⅠ(始動)②
「エレンさん……っ!?」
私は思わずエレンさんを見て言ってしまった。
するとネルセスらしき女性は首を傾げながら「んん? 知り合いなのかえ?」と、エレンさんの顔を見て聞くと、エレンさんはそっけなく目を逸らして……。
「……いや、違う。知り合いじゃない。きっと、俺に似た人と見間違えているんだ」
「いや何言ってるんですかっ!?」
その言葉に反論したのはアキにぃ。
アキにぃは声を荒げ、銃を構えずにエレンさんに向かって叫んだ。
「俺達の事忘れた……っ。いいや、この場合は何かされたんですよね? 頭撃って記憶喪失とか……っ。きっと、記憶を操作するとか……、そんな詠唱で。それでもなければ……」
でも、アキにぃも混乱しているようで、アキにぃはわたわたとしながら思いついた限りの言葉を放った。
それでもエレンさんは私達の目を見ない。姿を見ないで逸らしているだけだった。
そんなエレンさんを見て、私は感じてしまった。
エレンさんから出ているもしゃもしゃは……青いもしゃもしゃ。
この地に降り注ぐ雨のように、ざぁざぁと音を立てながら降る雨のように……、止まることを知らない悲しみで満たされて、苦しんでいた……。
すると……。
「あっはっはっはっはっはっ!」
下半身が芋虫の女性――ネルセス (?)は、けらけら笑いながら手を叩いていた。
それを聞いてアキにぃは怒りを露わにして「何がおかしいっ!」と荒げた声を上げる。
キョウヤさんは槍を構えたまま黙っていたけど……、ネルセスらしき女性は「はぁー」と目に溜まった涙を拭き取りながら、何かを思い出したかのようにこう言った。
「そうじゃった。まずは挨拶じゃな。あぁお前さん達の事はよう知っとる。ゆえに語らなくてもよい。ハンナ、アキ、キョウヤと……、『12鬼士』ヘルナイト」
その言葉を聞いて私達は情報が漏れていることを知り、更に警戒を強めたけど、ネルセスだと思う女性はくすっと、そんな私達の行動を見ておかしく見えたのだろうか、滑稽に見えると言わんばかりに微笑んだ後、その人は自分を指さしてこう言った。
「お初に御目にかかる。妾はネルセス・シュローサ。この徒党『ネルセス・シュローサ』を総べる存在じゃ。以後、よろしくお見知りおきを。そして先ほどの交渉についての答えじゃが……」
やっぱりあの女の人がネルセスだったんだ……。
ネルセスはすぐにくすっと笑って、そして――
「しかしアキとやら。貴様のその発想豊かな言葉、なかなかにして妾は好きじゃ。記憶を操作? SFではないのじゃぞここは。ファンタジーなのじゃからそこはそう言った発想は控えた方がいい。おかしくておかしくて思い出し笑いをしてしまいそうじゃ……っ。くくく」
と言った。
くすくすと笑うその顔を見たアキにぃはカッと顔を赤くし、そして慌てた様子で、「う、うるさいなっ!」と反論したが、その赤い顔のせいでその威圧は半減だ。
その反応を見て、更におかしくネルセスは笑って――エレンさんの方を振り返って、彼女は私達の告げる。
エレンさんが――正気である。と言うことを。
「じゃがな。その幼稚にして豊かな発想の憶測は外れじゃ。この男は自ら『ネルセス・シュローサ』に入った。そして今も、妾のために尽力を尽くしておるよ。何とも可愛い部下を持った」
そう慈しむように言うネルセス。
そんな顔をしていても、私が感じたもしゃもしゃは正反対のそれで……、ずっとおもしろい、楽しいと言った……、嘲笑うようなそれだった。
そんなネルセスの言葉を聞いて、セイウチの男の肩に乗っていた女の子が「マーマァ!」と大きな声でネルセスを呼んだ……。というかマーマァって……、この子はネルセスの子供……、なのかな……?
その女の子の声を聞いて、ネルセスは「なんじゃコココ」と、女の子――コココを見て聞くと、コココは両頬をぷくぅっと膨らませながら、怒った顔をしてエレンさんを指さして言った。
「なんでそいつひいきなの? コココだってほめられたい! マーマァにほめられたぁい!」
まるで駄々っ子のように怒りながら言うコココ。
それを見ていた、鎌を持った子は小さい声で溜息を吐きながら……。
「駄々こねないでください」
と言っていたけど、そんな呟きのような声は、それとは対照的な大声によってかき消されてしまう。
「駄々をこねるでないわぁ小鳥がぁ!」
そう言ったのはセイウチの男、セイウチの男はコココの体を掴んで、自分の前に持ってってから大声で威嚇するように張り上げて言った。
「貴様ぁ! ただでさえネルセス卿の恩赦、慈悲を受けている身でありながら、まだ足りぬというのかぁ!」
「コココだっていっぱいほめられたぁい! ほめてもらっていい子いい子してもらうのぉ!」
しかし、コココはそれに動じないで駄々をこねていた。
その風景を見ながら、私はただそれを見ることしかできなかった。アキにぃやキョウヤさんが、それを見るだけに留まっている理由。それは……。
ネルセスもそうだけど、他の三人はきっとレベルが高い。そう直感が囁いたから。ここにヘルナイトさんがいるにも関わらず、委縮もしない、怖がりもしない。むしろ――無視しつつ、自己紹介までしたネルセスだ。
きっと……、何かを隠している。
そう私は思った。すると――
「不愉快なところを見せるなコココ。そしてどんどら」
ネルセスは、無表情で、ぴりっと空間に罅が入るような、張り詰める音色を放った。
冷たくて、痛くて、そして心がない音色だった。
私はそれを聞いて、ぎゅっと己を抱きしめて固まってしまった。
それを見てか、そっと私をマントの中に隠したヘルナイトさん。
マントに隠れたとしても、少しだけ景色が見える。
私はヘルナイトさんを見上げて、心の中でお礼を言い、そしてそっとマントの中からその光景を覗いた。
ネルセスの言葉にコココとセイウチの男――どんどらはびくりと体を震わせ、そしておずおずと、コココは地面に降りて、二人一緒に頭を下げてこう言った。
「「も、申し訳ございません……」」
その言葉にネルセスはさっきの無表情とは一変して、にこっと微笑みながら「わかればよいのじゃ」と言った。周りを見ると、ぶるぶると震えている黒いローブの集団。
鎌を持った男の子はそれを見ているだけだったけど……、それを見たキョウヤさんは、引きつった笑みで、はっと鼻で笑いながら――
「お前……、かなり怖がられてんな」
と言うと、ネルセスはそれを聞いてくすっと微笑みながらすぅっと手を広げて、まるで宣伝でもするかのように、高らかな音色と意志でこう言った。
「怖がる? それは妾にとって最高級の褒め言葉じゃな。何せそうしないと妾のことが知れ渡らん。何より、人間は恐怖には絶対服従の従順な生き物じゃ。実に扱いやすい生き物じゃ。そうしないと名声が広がらないことも事実」
「……貴様は魔獣の血を引いている」
そう言ってきたのは、ヘルナイトさん。
ヘルナイトさんはネルセスを見て、大剣を構えたまま私を隠してこう言う。
「魔獣の血を引いていたとしても、人間性や知性、自我を持っている。それならばわかるはずだ。人間のことを、その芯の強さを」
「黙るのじゃ人工知能めが」
「……じんこう、ちのう……?」
ネルセスの言葉に、ヘルナイトさんは首を傾げた。その言葉は私達冒険者=プレイヤーにしかわからないことだけど、ネルセスはその言葉をオブラートに包まず、ヘルナイトさんに向かって罵倒した。
それを聞いた私は、心臓の辺りがむかむかしだした。そしてむっと、少しだけ頬を膨らませてしまった。ヘルナイトさんに対しての言葉が、あまりにもひどいと思ったから、私はきっと、その言葉が気に食わなかったのだろう。
しかし、ネルセスも気に食わなかったのか――溜息交じりにこう言った。
「人工知能では話にならん。妾は……そうじゃ。貴様が今しがた隠した女に聞きたいのじゃ。その女と、一対一の話をしたい」
いいか? これは交渉じゃ。
そうネルセスは、念を押すようにして言った。それを聞いて、ヘルナイトさんはマントに隠した私を見降ろす。それを見て、私はぎゅっと、マントを握りながら――
控えめに微笑んで、大丈夫と小さく言った。
それを聞いて、ヘルナイトさんは少し黙って考えてしまったけど、考えがまとまったのか、そっとマントを上げて、私を解放するように、マントを掴んでいた手を離して、私の背中を優しく押した。
それを見て、アキにぃはヘルナイトさんに対して「なにしてんだよっ!」と声を張り上げたけど、キョウヤさんがそれを止めながら、ヘルナイトさんと私を見て頷いた。
それは、行けと言う合図。
この場で唯一関係ないセイントさんは、周りを見ながらだんだん状況が理解できた……、ような雰囲気を出していた。
それを見て、私は一歩――前に出て、頭を下げて……。こう言った。
「初めまして、ですね」
その言葉に、ネルセスはくすっと言う声を出して「おぉ。何とも礼儀正しい。育ちがよい証拠じゃて」と私に対して褒めの言葉を口にした。
私はそっと顔を上げて、そしてネルセスの顔を見て聞いた。
「……私に話と言うのは? まさかと思いますけど、ユースティス達が言っていた。私を殺すことに関してのことですか?」
「察しがいいっ! そうじゃな。確かに貴様は天族で、リヴァイアサンの暴走を止められる唯一の存在。アクアロイア王はあのリヴァイアサンを制御しようと目論んでいたが、どれもこれも失敗。妾の助言があったとしても、あの暴走竜の制御はできん。その暴走を利用してバトラヴィアを壊そうと企てた。そして……」
「……その暴走を止められる私が邪魔になった……。ですか?」
「その通り――だった」
「?」
だった?
あれ? なんだか思っていたことと違った……。
あの時思っていたことが違ったことで、私は首を傾げてしまった。それを見ていたネルセスはくすりと狂気に微笑みながら、私を見てこう言う。みんなに聞こえるようにこう言う。
「最近思ったのじゃ。アクアロイア王は妾の言うことを聞かないで、制御に夢中になって没頭しておる。しかし、だがしかしじゃ。妾は思ったのじゃ。今の世界では回復要因は重宝。そして貴様のような天族はかなりのMP――魔力を持っている。お生憎、『ネルセス・シュローサ』に回復要因の魔獣がおらんのも事実。世の神は悪戯が好きすぎて困る」
「……だから、なんなんですか?」
私はとうとう理解ができなくなってきて、ネルセスに聞いた。
するとネルセスはずり、ずりっと私に近づいてきた。それを見て、私は委縮して、固まってしまう。
アキにぃは銃口を突きつけようと拳銃を持っていたけど、その前に現れるどんどら。
「今はネルセス卿の有難きご提案ぞっ!」
「っ」
アキにぃに向かって威圧がすごい音色と声量で、どんどらは言った。それを見てアキにぃは唸っていた。
アキにぃと同じように、キョウヤさんの前にはコココが。
ヘルナイトさんの前には複数名の黒いローブの集団が、ヘルナイトさんを取り囲んでいた。
ヘルナイトさんはそれを受けてバランスを保ちながら「おいっ。何をする」と、慌てた様子で黒いローブの集団に対して言った。
セイントさんの前には鎌を持った少年がいて、その少年を見ながらセイントさんはじりっと背に背負っていた剣を手にして距離を取っていた。
鎌を持った少年はそんなことをしないでじっと見ているだけだったけど……。
そんな中、ネルセスが私の前に立ち塞がり、にこっと微笑んでいたけど、その笑みの裏から感じられる……、どろどろとしたもしゃもしゃを感じて……、面白いとか楽しいというもっしゃもしゃがないそれを感じて……、私はぐっと握り拳を作ってしまった。
それを見たネルセスは、そんな私を見降ろして――面白がっているのか……。「ふふ」と喉で笑って――
――すっ。
と、右手を伸ばした。
その手は私の前に出されて、私はその右手を見て、「え?」と呆けた声を出してしまい、ネルセスを見上げた。ネルセスは私を見降ろして、狂気が隠れた笑みで微笑みながら……。
「――妾の配下に下れ。さすればお前と仲間の命の保証をしてやろうぞ」
と言ったのだ。
私は一瞬頭が真っ白になって、すぐに元に戻った。アキにぃ達を見ると、目を見開いて、驚きのあまりに固まってしまっている。それもそうだろう……。
ネルセスは私にこう言ったのだ。
仲間になれ。
たったそれだけの言葉だけど……、でも、私はその答えがすぐに出てきた。わかりきっているけど、すぐに出てくる答えだった。でも……。
その前に、私はネルセスを見上げて、目を離さないようにしてこう聞いた。
「……命の保証……。それって、誰と誰の……、ですか?」
その言葉に、ネルセスはくすっと微笑んで、きっと成立すると踏んで、ネルセスは笑みを崩さないまま――「当たり前なことを聞く。そなたとアキ、キョウヤ、心細いのならそこにいる人工知能も一緒でよいぞ」と言った。
それを聞いて、私は思った。
――やっぱり、あの子がいないと。
ネルセスの言葉を聞いた私は、唐突に、この名前を出して質問を返した。
「……その中に、シェーラちゃんが含まれていませんけど……?」
その言葉に、アキにぃの息を呑む声が聞こえた。それを聞いてアキにぃ達を見た私は――控えめに、微笑んだ。そしてネルセスを見上げて「どうなんですか?」と聞くと、ネルセスは笑みを崩さないままだけど……、音色だけは低くなっていて、段々雲行きが怪しくなったことを察したのだろう。ネルセスは言った。
「……シェーラなんぞ、妾の命を狙っていた賊ぞ? そんな奴の心配などせずとも」
「なら」
私はネルセスの言葉を遮った。
それを聞いて、幹部のどんどらとコココが、私の方を向いて襲い掛かろうとしていたけど、その前にアキにぃとキョウヤさんが前に出て、行く手を阻んだ。
一気に立場が逆転した瞬間だった。
私はそれを見て、心の中で二人にお礼を言ってから、またネルセスの顔を見る。
ネルセスの顔は、余裕のある笑みから引き攣った笑みとなり、今まで余裕の黄色やオレンジももしゃもしゃだったのに、今は赤が混じっているそれになっていた。
それを見て、私はすぅっと息を吸って、そしてネルセスの顔を見て、はっきりと言った。
「なら私は、あなたの配下にはなりません。あなたの配下に、部下になりません」
「なぜじゃ?」
ネルセスはぴくぴくと、引き攣った笑みで私を見降ろし、なぜなのかと聞いてきた。それを聞くのは野暮ではないのか? きっとこの場にみゅんみゅんちゃんがいたらそう言う。絶対にそう言う。
そう思ったからこそ、私ははっきりと――
「当たり前な話です。私は……」
と言って、いったん言葉を切りながら、すぅっと息を大量に吸って……、ネルセスに向かって、私の意志を、自分の意志をぶつけた。
「私はあなたのような、人を人として思っていない。人間の皮で作られた仮面を被ったような人の言うことは聞きたくないです。シェーラちゃんがなぜ、あなたのことを追いかけているのかわかりました。シェーラちゃんはすごく勇ましくて、かっこよくて、でもすごく表情が豊かな、正義感溢れる女の子。だからこそ、何をしたのかわからないですけど……、エレンさんを見て、ぼんやりとですけど察しました。あなたは人の心を弄んで、面白がっている人だって」
「人の心をまるでおもちゃのようにして遊んで、言葉巧みに取り込もうとしている……。そんな人の配下になんてなりたくない。真っ平御免です。だから……」
教えてください。私は段々その顔を笑みから無表情に変えてきたネルセスを見て、私は聞いた。
「――シェーラちゃんは、ナヴィちゃんは……、どこ?」
それをきいた瞬間だった。
ネルセスは左手をぐっと狭めて、その手で私の頭を貫こうとして貫手の形にして構えたネルセスは、鬼以上に怖い形相で私を睨んだ瞬間、しゅっと貫手を私目がけて繰り出した。
それを見て、私は手をかざして『盾』を発動しようとした時――
私とネルセスの間に入り込むように――ヘルナイトさんが入り込んで。
――ガィィンッッ!!
と、大剣でネルセスの貫手を防いだ。
それを見ていた私は、緊張の糸が切れたかのように、ほっと胸を撫で下ろした。するとヘルナイトさんは、私を見ないで――
「よく言えた。ハンナ――」
後は任せてくれ。
と言った。
それを聞いて、私は胸の奥が温かくなるのを感じ、そして見ていないヘルナイトさんを見上げて……、「はい」と頷いて微笑んだ。
後ろから叫び声が聞こえて振り返ると……。ヘルナイトさんを取り囲んでいた人達は、足を抱えて悶え苦しんでいた。それを見て私は何をしたのだろうと、ヘルナイトさんを再度見上げると……。
「こんのぉおおおおおおおっっっ!」
ネルセスは激昂しながらヘルナイトさんの大剣の腹にぶつかっている貫手に力を入れて、怒りながら震えている音色で言った。
「こちらは下手に出れば、いい気になりおってからにぃ! こんの小娘がぁああっ! そこから離れろ人工知能めがっ!」
それを聞いて、ヘルナイトさんは小さく……、「じんこうちのうという言葉はわからないが……」と言って、ネルセスを見ながら彼は凛とした音色でこう言った。
「だが、私も同意見だ。貴様の配下に下るくらいなら、シェーラを連れて逃げた方がましだと、アキも、キョウヤもそう思った。ゆえに行動に移して、武器を手に取った。だから私は、ハンナが言った言葉に否定の声などかけない」
「何を言っておるのじゃこのつくりもんがぁっっ! 妾はマフィアのボス! 恐怖でこの世を支配せしネルセス・シュローサぞ! 貴様らの貧相な力を妾が使いこなすと言っておるのじゃっ!」
「力は他者によって制御するものではない。己の力は……、己で磨き、己の力で制御し、引き出す。それが力と言うものだ。他者が介入することではない。もちろん――リヴァイアサンの制御もできない。そんな罰当たりなこと……できるわけがない」
「喧しいわぁ青二才ぃいいいっ!」
そうネルセスが叫んだ瞬間だった。
「はああああああっっ!」
「「「「「「「わああああああああああああああああああああああああーっっっ!」」」」」」
「っ!?」
突然背後の大きな声と叫び、そして轟音を聞いた私は声がした方向を見た。すると――
その場所にいたのは……、セイントさんだった。
セイントさんは右手に騎士がよく使う剣を握って、もう片方の手には透明の……、機動隊がよく使うあの透明な盾を持って斬った体制のままそこにいた。周りには倒れている黒いローブの人達。
それを見ていた鎌の少年はセイントさんを見ながら「……いきなりどうしたんですか?」と、呆れながら聞いていた。するとセイントさんはすっと構えを解いて、そして私達がいる方向を見て、私を見て、大声で――
「決まっている! 少女の言葉を聞いて、貴様らを悪と断定した! それだけの事! ゆえに私は戦う! 正義のために!」と言った。それを聞いて、肩に乗っていたさくら丸くんも元気よく「わんっ!」と鳴いた。けど……。
「………はぁ」
それを聞いた鎌の少年は、やる気がないような音色で生返事をしていた。それを聞いていたキョウヤさんとアキにぃは驚きながら――
「うぉいっ!」
「突っ込まないっ! ボケ殺しかよっ!」
黒いローブの人達に武器を突き付けて威嚇しながら、驚いて突っ込んでいた。
すると、アキにぃの前にどんどらが。
キョウヤさんの前にはコココが現れて、二人は各々、アキにぃとキョウヤさんを見て、挑発的に、怒りを露わにしながらこう言った。
「ネルセス卿のご提示を……っ! 恥を知れぃ耳長めがぁ!」
「マーマァを怒らせたつみ、おもいんだよぉーっ!」
それを見て、二人は銃を、槍を構える。
私はそれを見て、私も加勢しないと。そう思って手を伸ばすと……。
「ハンナ。君はシェーラのところに行け」
「っ!?」
ヘルナイトさんは私を見て言った。後ろを向いて突然そんなことを言ってきたので私は驚きながら「え……っ? どうして……」と聞くと……、ヘルナイトさんは私を見てこう言った。
「言っていただろう? ハンナ、君は人の感情が……、もしゃもしゃが見えると、感じると」
「!」
前に話していたことだ。あの時は女の勘として処理されてしまったけど、ヘルナイトさんは私を見て、そんもしゃもしゃを信じているような音色で凛とした音色でこう言った。
「それは天族にしか感じられない感情感知だ。どんな気持ちでいるのかという……、読心めいた力だと言われている。それを使え。それを使って、アムスノームの広場に来たのだろう?」
「………………」
「大丈夫だ。君なら――シェーラの心が、彼女がどこにいるのかわかるはずだ」
やってくれ。君ならできる。
そうヘルナイトさんは言った。
私はそれを聞いて、そっと目を閉じた。
今まで信じてもらえなかったことを信じてくれたヘルナイトさんの言葉を信じて、もしゃもしゃを感じる。どこにどんなもしゃもしゃがあるのか。そう思いながら……。
私達がいるところは集中的にいろんな色のもしゃもしゃが混ざっている。
少し離れたところに青いもしゃもしゃ。これは……エレンさんのもしゃもしゃだ。どこに行くのだろう……。
この近くにはいない。もう少し……、遠く……?
そう思って、目を閉じて集中していると……。
――ぴちょん。と……、悲しい音色の水音を立てた……。真っ青なもしゃもしゃに、フワンフワンした桃色のもしゃもしゃ。
これは……、ナヴィちゃん!
ということは、ナヴィちゃんの近くから感じたもしゃもしゃは――シェーラちゃんの!
「――見つけた」
私は目を開けて言うと、それを聞いたヘルナイトさんは頷いて――そしてネルセスから目を離さないで叫んだ。
「行くんだっ! ここは私達が引き受ける!」
そう言った瞬間、私はそのもしゃもしゃが感じる方向に向かって走る。
きっとヘルナイトさんは私にしかできないと思って、たとえ一人にしないと言っていたとしてもこうならないと助けられないと思ったんだ。だから苦渋の決断だったのだろう……。
ネルセスを引きつけて、私にシェーラちゃんを助けに行けと言ったんだ。
でもね。私は大丈夫。
走りながら思う。騒音がだんだん遠くなっていくのを感じながら私は思う。
みんな戦ってるんだ。今までだってそうだった。私を守りながら戦っていたのだから……、今度は私も戦わないと。救けないといけないんだ。
自分の手で、足で――
「待っててね――シェーラちゃん」
今度は、私が救ける番だ。




