PLAY26 アキⅡ(決意)④
シェーラが言っていた。
郷を滅ぼした奴らが消えても、結局はその憎しみだけが体の中を泳いで行き場を失う。
自分のストレスのはけ口を作りたいがために八つ当たりをする。
怨恨が完全に消える時――それこそ……、その怨敵を自分の手で殺すことで、完全に消えるの。他人がしてしまえば不完全燃焼。他人がしてはいけないの。
その言葉通り――
憎しみは消えなかった。
それくらいジンジの体に巣食っていたそれは寄生虫のように大きく肥大し、思考を単調にし、全くとは言い切れないが……、関係のないアキを殺すくらい憎み過ぎていた。
最長老と同じように、その憎しみは他人に転換されてしまったのだ。
同じ奴だから、お前も同類だろう。
そう言った感情で動く。
それこそがジンジの原動力なのだ。
経緯からして、なぜジンジがMCOをしていたのか。それは簡単な話――
更生のために行われたカリキュラムがMCOに組み込まれていたから。
人生の更生、つまりはこれからまた人生の再構築ができるように彼は服役をして、精神状態を安定させるためにそれを使っていた。
しかしジンジの精神は既に壊れており、それを使って生きている息子に報復しようと企てたのだ。
すでに怨敵が殺したにも関わらず、その関係者、親戚、血が繋がっている子供に対しても、彼は憎しみを募らせていった。
異常な執念と怨恨である。
普通はこうならない。だが彼は家族を失い、全てを失ってしまったのだ。自分を手駒のように使って捨てた……。
橘仁慈によって……。
だからこそ、彼は復讐を企てた。
まずは服役中に、事故と見せかけて息子をデータ内で壊す。アキはきっと、精神に異常が見られる。
きっとカウンセリングとしてMCOにログインする。
その時を狙って、彼を殺す。
それが最大の復讐の一歩となるだろう。そうジンジは思った。
そして橘の血ごと根絶やしにする。
それが最大に復讐の終わりとなる。
だからまずは……、アキと出くわす確率を上げるために、少しでも精神を乱すように、まずは社員名簿の橘仁慈の写真を使ってジンジに瓜二つのそれを作成した。
その後で火傷の演出を加えながらアキの心をかき乱すことをする。そしてその隙を狙って、暗殺者として――エクリスターとして……、彼はアキを追い続けて……。
そしてとある経緯でとあるパーティーの徒党に入って現在に至る。
◆ ◆
「っ! うっ!」
アキは激痛が鈍痛に変わりつつある体を動かす。
それを見てジンジはにやりと顔を歪ませ、アキの頭を鷲掴みにし、手に持っていた拳銃を懐に戻しつつ、そのまま傷が残っている箇所にくるりと拳銃を持っていた手にナイフを逆手に持つと同時に――
ざしゅ! と、切り裂くジンジ。
じくじくと痛んでいた体に再度訪れる激痛。
それを感じてアキは「がぁぁっ!」とずたんっと地面に突っ伏しながら唸った。
ジンジはそれを見て、あはははと顔を手で覆い隠しながら狂ったように笑いながらこう言った。
赤黒い何かが付着しているそれを見せつけながら、彼は言った。
「無駄だって! 無駄だってぇ! エクリスターはそう言った攻撃系は持っていない! けどそれがなくてもいいんだ! こんな絶好の場所だ! 武器さえあればいくらでも痛めつけることが可能なんだよ!」
「~~~~~~っっっ!」
(痛えっ!)
アキはじくじくと再発したそれを、地面に擦り付けるという行為によって紛らわせながら、彼は思った。
(イテェ! いてぇ! なんだよこれ! くそ! 血がどくどく出て、ところどころが熱くなっているっ! くそ! このままじゃ出血多量で……っ!)
そう思っている間に、ジンジはガッとアキの髪を掴んで持ち上げ、そしてアキの耳元で、ねっとりとした、狂気的な音色で囁く……。
「君はいいよね……? あんな帝王めいた人の恩赦を受けて、色んなものを授かって……。本当、君の人生は天国だったろうね?」
その言葉を聞いて、アキは激痛などを感じなくなった。
ジンジの、その言葉を聞いて、彼はその言葉に耳を傾けたのだ。
ジンジはそんなアキのことなど気にもしないで、彼は続ける。
「なのにボクは何も授かってないクズがとか言われて脅されて……。ボクの人生は、人格が滅茶苦茶だ。君は恵まれているよ……? だから、絶望しまくった後で、ゆっくりと殺そうとボクは思っている」
それを聞いて、アキはもう一度、自分の過去を思い返す。
幼少期から華達に出会った時。
そして独り立ちして、クォと出会ってからすぐのことを思い出した。
クォに銃のことを教わっている時のことだ。
それは現実の世界で、クォの部屋でそれを聞いている時、アキはクォに聞いた。
『クォさんは……、銃の才能があるんですね……』
それは、才能に対しての妬みであり、羨ましいという感情で聞いた言葉だ。それを聞いたクォは頭に疑問を浮かべながらアキに言った。
『お前……、何を言っているんだ? 俺に銃の才能? それって弾が放たれた瞬間、まるでSFのような避け方をするっていうあの』
『違います。それじゃないです。俺が言いたいのは……、俺には何の才能もない。って言いたいんです。だからその……羨ましいって思って』
それを聞いたクォは、はぁんっと頷いた後、観賞用の銃を手入れしながら、彼は秋を見ないでこう言った。当り前のようなそれを――
『才能って、目に見えたらつまらないと俺は思うけどな』
その言葉に、アキはクォを見る。クォは自分の頭のてっぺんを指さして、こう言った。
『とある人から聞いたんだけどな……。才能は確かに人に存在する。しかしそれを目で見てしまうと自分にはこの才能があるって思うから、人はその努力を怠ってしまう。そうなるとつまらないし……、結局はその才能を潰してしまう。目に見えない、だから挑戦してこれが俺の才能と思って努力して手に入れたそれこそ……、自分の才能だって言っていたんだ』
俺の銃はただ好きって感情で、楽しくやっているだけで、これが才能なのか、そうでないのかは――俺にもわからない。と、クォは言う。
そして――
『でも、好きが才能だったら俺は嬉しいし。そうでなかったらそれを趣味として没頭する。橋本はすごくそう言うことにこだわりすぎてるんだよ。だからさ――気軽に生きた方がいいと俺は思うんだ。固く生きているとすごく大損しそうで怖いし』
『でも、俺は何の才能もないって親からも』
『それはそれ。これはこれだろ? お前の人生を人に決められるって。俺だったらとび膝蹴りを繰り出しそうなむかつきだな』
『そうなると警察行きですのでやめてくださいね』
『本気じゃない。ユーモアだぞこれ』
といいながら、笑いのある会話をしつつ、クォはアキを見て『だが……』とアキに向かって言った。
『そう言う才能は、お前が決めるべきだ』
はっきりと言ったクォ。それを聞いてアキはぎょっとしながらその話を聞く。先輩からの、ありがたい言葉を心に刻む準備をしながら、彼は聞く。
『誰かの才能を妬んでいるようじゃだめだ。それはないものねだりと同じだ。誰かが裕福そうだな。とか、あの人は良くされているなー。とか思うな。それは人それぞれだ。だから橋本、それは自分で探して見つけろ。見ている人はちゃんと、お前のことを見て、お前のいいところを見つけているに違いない。俺もその一人だ』
『……はい』
(前半先輩の私情が混ざっているような言葉があったけど……、今は言わないでおこう)
アキはそう思い、クォの言葉を、胸に刻んだ……つもりだった。この時までは……。
そのあとクォは『と言う辛気臭い話は置いておいて……』と言い出し、アキをMCOに誘って、スナイパーもとい探検家に志願させようとし、それを聞いたアキは、(あー。結局それが目的)と思いながら、(さっきの感動を返せ)と、無言の黒い笑みでクォを威圧していたことは……、別の話。
それを思い出したアキは――思った。
(クォさん……、コーフィンさんは、俺に対してこの言葉を言っていた。でも俺はそのことでさえも、あの事故をきっかけに忘れようとしていた)
(すごくいい言葉を言ってくれたのに……、すごく失礼だ。俺)
(そして、あの時俺は――アムスノームで俺は、ちゃんとコーフィンさんに謝っていない。ハンナのことしか考えていなくて……、頭に血が上って……、結局俺は……、こいつの言うとおりクズで、俺はこの人で、この人は俺だ)
アキは目の前で狂気に歪んで微笑んでいるジンジを見て、思った。
恐怖などすでになく、吐き気もなく……、ただただジンジを見て……。
憐れ。
と思った。
(自分の人生が滅茶苦茶になって、俺の家族が裕福に見えた。ないものねだり)
(俺とは違うけど、俺は才能を欲していた。この人は掴めなかった家庭を妬んだ)
(……………………俺は、すごく馬鹿だ)
(だから、気付くのが遅すぎて……、迷惑をかけた)
(だからこそ……、俺は、ここでけじめをつけないといけない)
(自分の才能がないことを妬む自分とは――さようなら。お別れだ)
そう思い、アキは痛みで感覚ですらおかしくなっている手で、銃をしっかりと掴んで、それを――
かちりと、ジンジの顎に銃口を押し付けて……。
「っ!?」
――ばぁんっ!
発砲した。
乾いた銃声が森に響いた時、それを聞いてか、一人の少女がその方向を見てぎゅっと胸の辺りを握り締めた。
ジンジは間一髪『壊滅殺人兵器』によって助けられていた。
影とその暗殺者は影で連結されている。痛覚やその言った感覚は共有されないが、連結されているので、一定の距離を離れることはできない。
逆に言うと……、その連結を使って、引っ張ることができるのだ。
『壊滅殺人兵器』はそれを掴みながら、ジンジを守るためにぐぃんっとそれを引っ張った。
その影のおかげで助かったが……、アキを手放してしまった。
「~~~~~っそ! っ!?」
ジンジは掠った顎の血を拭き取りながらアキを睨んだ。
アキは懐からとある小瓶を取り出した。それは……、MCOの時に買った……。
回復薬。
その蓋と取って、ぐっと一気に飲み干す。
アキはごくごくとそれを飲み干し、瓶から口を離して「ぷはっ!」と息を吐く。そしてぐっと口元を腕で拭い、自分の体を見ながらポンチョの釦をとる。
「あー……、やっぱ完全には回復しない。こうなるとハンナの力は必要不可欠だな……」
完全に回復していない体を見ながら、アキはポンチョを脱いで、それを近くに地面に投げ捨てる。それを見てジンジは苛立った顔立ちでアキを睨んだ。
『壊滅殺人兵器』も『キィエエエエエッッ!』と唸りながらアキを睨んでいた。それを見てアキはにっと笑いながら――
「あんたさ。俺の何を知っているの?」
「は……?」
アキは聞いた。挑発的な笑みで。彼は聞いた。
「俺の何を知っているの? 裕福? そんなの見解だろ? 妄想だろ? 俺が裕福に見えるのか? お前と同じ……、あの親父が。母が事故にあって……、逆に清々するくらいうれしかったよ。お前と同じ……、親父を恨んで、家族を恨んでいた」
絶句するジンジ。おそらく想像とかけ離れていたのだろう。しかしアキはそれを見ながら、(まぁそうなるわな)と思いながら言った。
「でも、今思うと、同じだと思った」
「は、はぁ!? ボクが、お前と同じ……? 何でそう言う発想に至った! 訳が分からないっ! ボクは何もお前のことを見て羨ましがるようなことは」
「うん。勘違いだったけど、あんたは俺を羨んでいた。それは勘違いであったとしても……、俺はそれを見て、同じだと思った。才能を妬んでいる俺。幸せな家族を築けなかったから、幸せな家族風景を妬んでいるあんた」
アキは言った。すっとジンジを指さし、挑発的な笑みで彼は言った。
「ありがとう」
「…………………はぁ?」
『ハァ??』
ジンジはその言葉を聞いて、素っ頓狂な声を上げ、挙句の果てには『壊滅殺人兵器』も素っ頓狂に声を上げながら言った。何言ってるんだこいつとでも思ったのだろうが、アキはそれを聞いても、話を続ける。
「あんたを見て、思い出したんだ。大切なことを」
(才能は、自分で見つける。簡単だったんだ。人に頼ってはいけない)
(これからは、自分でその答えを見つける)
(そして、妹を、正しい選択守る)
(それが、今の俺の目標。俺の――決意)
「この『ありがとう』は言葉通りの感謝。そして……俺はこれからあんたに……『そこまで恨む執念須郷ですね。ご苦労様でした』て言う――あんたに勝った後で」
そう言った瞬間、ジンジはぶちぃっと、眉間の青筋を引き千切り――彼は真上にいる『壊滅殺人兵器』に向かってこう怒りの表情で叫んだ。
――挑戦状……っ! それはボクに対して、ボクを倒すっていう脅迫? ボクを倒すってことか!? そんなことさせるか!
「『快楽殺人兵器』! 『狂喜の樞人形』に豹変だっ!」
それを聞いて、『快楽殺人兵器』は頷き、ガコンっと顔を、腕を元のそれにして、『狂喜の樞人形』はけらけら笑いながら、いつの間にか手に持っていた刀二本を持って、ぐわっとアキに向かって飛ぶ。
『キャハハハハハハハハッ!』
アキに向かって飛んでくる『狂喜の樞人形』。
それを見て、アキはふっとほくそ笑む。そして……。
(コーフィンさんに謝る。キョウヤに謝ってお礼を言う。シェーラにも一応……、謝っておくか。ヘルナイトにも一応……)
アキはそんな状況の中、迫り来る『狂喜の樞人形』を見ようともしないで、目を閉じながらこれからすることを思い返す。
決して、死亡フラグではない。
アキは本当に、これからするべきことを、頭に叩き込むように念じて……、最後にこう念じた。
(そして……)
思い出す少女の――光となった人物の背中。その人物はアキに気付いたのか、そっと振り返って――
控えめに微笑んだ。
アキは、すっと目を開けて――思った。
(ハンナに――謝って、一歩、前に進む)
「死ねええええっっ! 橘秋政あああぁぁぁぁっっ!!」
『キャハハハハハハハハハハッ!』
ジンジと、『狂喜の樞人形』が呼応――共鳴するように叫んで、アキに向かってその刃を振り降ろそうと、四本のそれを振り降ろそうとした瞬間だった。
「『強固盾』」
刹那。
アキの周りを覆う半透明の半球体。
それを見たジンジは目をひん剥いてそれを凝視した。
『狂喜の樞人形』はそのまま振り降ろしてしまったので、その半球体に――
ごぉんっと鈍い音を立てるように攻撃してしまった。
『?』
それを聞いて、『狂喜の樞人形』は首を傾げていたが……、すぐに来た斬撃。
それは『狂喜の樞人形』が持っている刀に向かってきた攻撃で、それを受けた『狂喜の樞人形』の刀四本は――
――バギィンッ!
と、音の四連奏のように奏でて、バラバラと刀だったその破片が地面に落ちた。
『ア、アア……』
がくがくと震えながらそれを見る『狂喜の樞人形』の目から、なにか透明な何か溜まっていた。それを見て、ジンジは絶句し、そしてアキの方を見ると……。
「ッ!?」
――なんだと……っ!?
彼は驚愕してしまった。
アキの近くにいたのは……、この場にはいない人物達だった。
「なにしてんのよ。こんなところで……。弔い?」
「そんな風に抉るな。お前は少し優しい言葉をかけろ。傷つくぞそれ……」
「ぐるるるうううううううっっっ!」
「アキ――大丈夫か?」
それぞれが『狂喜の樞人形』の刀をへし折ったのだろう……。アキはその人物たちを見て、ひとり意外な人物を見て……、アキはふっと足の力が無くなったかのようにへたり込んでしまったが……、その隣にストンッと座った人物を見て……、アキは安堵の息を吐いてこう聞いた。
「なんで……、ここが?」
すると、アキの隣で、手をかざして――「……『中治癒』」と言った少女は、黄緑色のそれを出しながら、少し怒っているような、それでも、心配が勝っているその顔で、俯きながらこう言う。
「森を出てアキにぃを探していたら……、スゴイ甲高い声が聞こえたの。それですごく黒いもしゃもしゃを感じて、その場所まで辿ったら……、最長老様とも鉢合わせて……」
「……そうか」
そう言って、アキはぽんっと、その子の頭に手を置くと、その帽子の中から「ふぎゃっ!」と、何かを潰した感触と声が聞こえた。
それを聞いてアキははっとして、その帽子の中から出てきた白くてふわふわしているその生物に向かって……、手を合わせて「ごめん……」と謝ると、その子はぷんぷん怒りながら「きゅきぃ~」と毛を少し逆立たせていた。
それを聞いて、少女はすっと顔を上げ、アキを見る。
とても心配していたのだろう……。顔には安堵のそれも含まれていた。
アキはそんな妹の顔を見て……、ふっと微笑みながら――
「ありがとう。そしてごめん」と言って……、自分達を守るように立っている四人に向かって、アキはもう一度……。
「ありがとう――そして、ごめん。失礼なことを言ってすみませんでした」と――
前に立ち、武器や己の爪を構えている……。
「こっちこそごめんだ! これでお相子!」
キョウヤに。
「今更過ぎるわ」
シェーラに。
「ぐるるううううううっっ! 謝罪は郷でしろぐるううううっっ!」
最長老に。
「アキ。今は悔恨よりも目の前の敵だ。謝ることなら、いつだってできる」
ヘルナイトに言う。
それを聞いて、アキは頷いて立ち上がる。隣でそれを見てハンナは、安堵の笑みを浮かべてそれを見た。
――アキにぃ。戻っている。それどころか……、キラキラと光っている。
――眩しいもしゃもしゃ。
そう思ったハンナはすっと立ち上がって手をかざす。
各々が武器を、爪を構え――ジンジを迎え撃つ体制になる。
「~~~~~~~~っっ!」
ジンジはそれを見て、だらっと流れる脂汗を拭うことをすら忘れ、言葉を失ってそれを呆然と見ることしかできなかった。
「形勢――逆転」
そうアキははっきりとした音色で言った。




