表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
142/836

CHIPS 日常回 ハンナチームのとある野営風景

 ベガさん達と別れた私達は、途中で暗くなったので野営することに決めた。


 それを決めたのはシェーラちゃんで、曰く……。


「ここって、暗くなったら大きい蜥蜴が出て大変なのよ」


 と、キョウヤさんを見ながらジト目で見て言った。


 それを聞いていたキョウヤさんは冷たい音色で、静かに怒りながら……。


「お前、今オレを見て言ったな? オレは蜥蜴だけど蜥蜴の亜人。リザードマンですんで」


 と、冷静に突っ込んだ。


 それを聞いてヘルナイトさんは空を見上げる。


 私も見上げて見ると……、外はもう夕日が消えかかってて、暗い夜の色が世界を包み込もうとしていた。


「夜が……包んじゃう」

「あんたって時々詩人のような言葉を言うわね」


 シェーラちゃんが私の言葉に対して突っ込みを入れる。


 それを聞いて、私ははっとしてシェーラちゃんの方を振り向くと……、わたわたしながら手を急かしなく動かして――


「え? そ、そんなことは……、うーん……」

「最後まで否定しなさい」


 段々とだけど、自分でもなんだか恥ずかしいと思ってしまい、仕舞には考え込んでしまった。


 それを見てシェーラちゃんは呆れながら突っ込む。


「しかし、今無理に進むことは危険だ。駐屯地のギルドもない。ここはシェーラの言うとおり野営した方がいい。私が見張りをする」


 そう言ったヘルナイトさん。


 そして……、背後でそれを見ていたアキにぃ。


「?」


 アキにぃはさっきから一言も言葉を発していない。それを見て、私はそそっとアキにぃに駆け寄って、アキにぃを見上げて言った。


「アキにぃ――野宿、しようって言っているよ?」


 そう言ったけど、アキにぃは何も反応しなかった。でもはっとして私の方を向いたアキにぃは……。


「え? なに?」


 まるで聞いていなかったかのように首を傾げて、力なく聞いてきた。


 私はそれを聞いて、アキにぃの様子がおかしいと思い、アキにぃの手を握ろうとしたとき……。


「野営準備だっつってんだよー! 早くしてくれシスコーン!」


 キョウヤさんがそう叫んだ瞬間……、アキにぃはびきっと引きつった笑みを浮かべて、怒りのままにずんずんっと前に向かって大股で歩きながら――


「ちょっと言葉には気をつけろやこのぉ!」

「お前がな」


 という――ひと悶着を繰り広げて向かった。


 それを見て、私はほっと胸を撫で下ろして……。


 心配し過ぎかと思い、そのままみんながいる所に走って行った。


 アキにぃの心境を読めない私にとって、アキにぃが今どんな心境でいるのかも、つゆ知らずに……。



 □     □



 程よく開けて、それでいて夜空が見えるところに瘴輝石に入っている野営セットを出した私達。


 ヘルナイトさんは辺りの見回りに向かってしまった。すぐに戻ると言っていたけど……。


 だけど残された私達には、最初に決めるべきことがあった。


 それは……。


「よし。それじゃ今回は私の手料理を」

「待ったああっっっ!」


 シェーラちゃんが料理を作るところに向かおうとした時、キョウヤさんは必死の形相でシェーラちゃんの前に槍を突きだし、通せんぼをした。


 シェーラちゃんはそれを見て、じろりとキョウヤさんを見ながら……。


「――なに? これは……」


 と低く囁くように言った。


 キョウヤさんは必死に、脂汗を流しながらこう言った。


 きっと私やアキにぃと同じ心境で、キョウヤさんはそれを代表して止めに入ったんだろう……。


 キョウヤさんは言う。


「お、お前……、オレ達に対して出したあのお茶……、あれに何が入っていたんだ……? 正直に言ってみろ……? な?」

「………………………………」

「無言やめてっ! 何が入っていたのか聞くだけだっ!」


 キョウヤさんの言葉にシェーちゃんはきょとんっとしていた。それを見て驚いているのかと思ったのだろう。キョウヤさんは慌てながら聞くと、シェーラちゃんはふぅっと溜息を吐いて……、そして……。


 私はたらりと、汗を流した。


 シェーラちゃんは、調理場に持ってってはいけないものをすらぁっと引き抜き、彼女はそれを自分の前に持ってって――それに指を添えながらこう言った。


「……今から狩って使う、ドラングコブラのスープ」

「――知ってるぞ! それってジャパンでいうマムシだろうがっ!」

「やばい想像が当たってしまった! っていうかそれって……」


 アキにぃも参加して止めに入った。しかしシェーラちゃんはにっとニヒルに笑みを浮かべながら……。


「うまかったでしょ? 滋養強壮ティーは」


「「あと一歩で舌が部位破壊(ゴア)したわっ! 舌を壊すほどのティーって聞いたこともないし味わったことも初めてだったわっっ!」」


 必死と怒りが混ざった顔で、二人は言った。その言葉に対し、私は同意の頷きを一人でした。


 二人の言葉を簡単に要約すると……。それは……。




          ま   ず   い。




 であったのだ。


 それを知ったのは……、アクアロイアについた初日の時――シェーラちゃんが持ち出した交渉が成立して、淹れてくれたお茶に手を付けて、ぐっと飲んでいるシェーラちゃんを見たときのこと。


 おいしそうにぐびぐびと飲んでいる光景を見て、私達も湯飲みに手を付けた時……、それが間違いで、シェーラちゃんと言う人物の特徴を一つ知った起因でもあった。


 ヘルナイトさんは顔を見せない習慣があるので、人前では飲めないらしい。


 それを聞いた私達は、ヘルナイトさんの「私のことなど気にしないでいい」という言葉に甘えて、そのまま湯飲みに口をつけた瞬間………。


 それ以上は言わないでおくけど……、それぞれが口にし、口を押えながらもだえ苦しむ様子は、シェーラちゃんやヘルナイトさんにとってすれば、異常と見られただろう……。


 そしてここにつーちゃんがいたら、お腹を抱えて大笑いしていただろう……。


 感想……。


 まずはキョウヤさんから……。


「うごぉおおおおおおっっっ! 舌が焼けるぅううううっ! タンになるぅぅうううっっ! うごぉっっ!? の、喉がぁあああああっっ! これはやべぇええええっっっ!」


 アキにぃは……。


「こ、これ……、なに? 劇物? 毒? 新薬の毒なの……? あ、やべ……、視界が霞んで……」

「アキ耐えろっ! 今だけ持ち堪えろ! 生きるんだっ! あとオブラートに包んだオレの身になれうげえええええええええっっっ!」


 私は……、ぎゅっと口を塞いで、何とかそれを一杯飲んだのだけど……、だんだん込み上げてくる苦みや臭みや、あろうことか甘味もあって辛みもあって渋みもあって……………。


 結果として……、まずいと思ってしまった。その人が心を込めて作った料理なのに、素直にまずいとは言えず、私はその苦みが口から消えるのを待っていた……。


 ……少し、「うきゅっ」と、吐きそうになってしまったけど……。


 そして、今に戻って……。


「そんなにまずかったの? あれって滋養強壮に効くし、私は美味しかったわ」

「だーめだこの子っっっ! 味覚が変になっとるっ! 今思い出すとあの湯のみの中身――顔が見えてたしっ!」

「それはシミュラクラ現象ね。何よ。ジャパンのおいしい味に舌が慣れてしまっただけでょ? まずいものを食べて内臓を強くさせ、体を強くさせていかないといけないわ」

「きっとどこかの国で、シェーラの料理は毒扱いされるよ。それを食べた勇敢な人は、何かの称号を得ると俺は思う」

「……さり気に人の料理を毒と言ったわね……」


 そんな会話を聞きながら、私自身もシェーラちゃんの料理だけは……、申し訳ないけど食べられない。


 言いたくはないけど、寿命が少し縮みそう……。


 そう思い、私は控えめに挙手して三人を呼んだ。


 三人は私の方をぎろんっと向きながら睨んで、私を見ていた。


 私はそれに対して驚きながら、おどおどとしながらこう言った。


「あの……、私、少し料理ができますので……、今日は私の料理で、我慢してください」


 三人は互いの顔を見合わせて、そのまま少し黙ってしまった。最初に口を開いたのは――シェーラちゃん。


「あんた達、料理は?」その言葉に対して、最初に答えたのはキョウヤさん。


「オレは一人暮らししていたんで、ある程度の料理はできる」

 そしてアキにぃは……。


「俺はカップめんしか作れない」

「「それは料理じゃない」」


 少しアキにぃの食生活に対して不安を覚えたけど……、三人の意見は満場一致で今日は私が料理をすることになった。


 そして少しして……。


 焚火を取り囲んで私達は各々食事が乗っているお皿を持って、程よい丸太に腰掛けながら食事をしていた。私が人数分持ってきたお皿の中身を見てキョウヤさんは――


「おぉ! スゲェ! なんかおいしそうっ!」と歓喜の声を上げていた。


 私はそれを聞いて、ちょっと嬉しい反面、恥ずかしさの方が勝ってしまい、私はキョウヤさん達に向かって「そんなことないです……」と言ってから……。


「前に倒したパンプキングの素材から作った簡素なスープなんですけど……」

「結構おいしそうだ……、ハンナ料理の腕上げたね」


 そうアキにぃに微笑まれながら言われた私は、こそばゆさを感じながらみんなにお皿を手渡して自分の場所にストンッと座った。


 その時、ナヴィちゃんも出てきたので、ナヴィちゃん用の食事を乗せたお皿も、私の膝の上に置く。


 ナヴィちゃんはそれを見て、「きゅきゅっ」と鳴きながら下りて行き、私の膝の上で食事にかぶりついていた。もきゅもきゅと、可愛らしく……。


「きゅきゃ~……」


 ナヴィちゃんはふんわりとした笑顔で食べて、食べた瞬間、幸せそうな顔をして喜んでいた。


「よかった……。ナヴィちゃんのお口に合ったんだね」

「きゃっ!」


 ナヴィちゃんが頷きながらまた食事にかぶりつく。


 そんなに急いで食べたら喉詰まらせるよ。そう私が思っていると、みんな私が作ったスープに口をつけていて……、次の瞬間……。


「うんまぁいっっ!」

「ん! これおいしい!」

「何よこれ……、すごくおいしいじゃない」


 キョウヤさん、アキにぃ、シェーラちゃんはご満悦に、スープをごくごくと飲んでいた。それを見て私は呆気にとられながら止まってしまっていた。


 正直……、お口に合うかどうかわからない状態だったけど……、みんなが喜んでくれて安心したと同時に嬉しいと感じてしまった。


 今までツンっとしていたシェーラちゃんが、私の顔を見ながら、少し赤面した顔でこう聞いた。


「おかわり……、ある?」

「? ふふ」


 それを聞いて、さっきまでの言葉が撤回されたようなその言葉を聞いて、なんだかおかしいなぁっと思いながら……、私は――


「うん。あるよ。おかわりいっぱいできるから」


 と控えめに微笑みながら言った。


 それを聞いたみんなが、我先にとおかわりをしに来たことに関して、私は少しばかり引いてしまったことは、伏せておこう……。


 ――そして……。


 二つのテントで、男女別々になって寝る支度をしている時……、私はふと――視界の端に入った何かを見て、流れるように残ったスープをお皿にとって、それを手に、少し遠くにいるその人に近付いた。


 その人とは……。


「お腹、空きませんか?」


 その言葉に、ううん。私の声に驚いたのか、夜空の月を見ながら座り心地がよさそうな岩に腰掛けているヘルナイトさんは振り向いて、私を認識した後……。


 ほっと息を吐いてこう言った。


「なんだ。ハンナか、びっくりしたぞ」

「あ。ごめんなさい」


 その言葉を聞いて、私はなんだか申し訳ないことをしたなぁ。と思いながら、俊っと俯くと、ヘルナイトさんは凛とした声で「いや……、怒っているわけじゃない。気にするな。?」と言うと、ヘルナイトさんは私を呼んで、こう聞いた。


「それは?」

「あ……」


 ヘルナイトさんは、私が持っているそれを指さして聞いてきた。


 私が持っているそれは、もちろん今日私が作ったスープなんだけど……、私は控えめに微笑みながら、それを見せてヘルナイトさんに言った。


「あの……、お腹、空いてませんか? って、さっきも聞いてたんですけど……」

「………そう言えば、そうだったな」


 と言いながら、ヘルナイトさんはすっと立ち上がり、私に近付きながらそのお皿を手に取ろうとした時……、ヘルナイトさんはあと一センチで触れるというところで止まり、私を見降ろしながら、ヘルナイトさんは私に言った。


「ハンナ……、食事は私一人でする。早くみんなの」

「あの」

「?」


 私は、ヘルナイトさんの言葉を遮って、ちょっとした我儘を言ってしまった。きっと、叶わないことなのに、私は言ってしまったのだ。


 ヘルナイトさんは私を見降ろして、私の言葉を待っている。私はそれを見て、きゅっと口を噤んで、気持ちを整えてから……、こう言った。


 何とか、オブラートに包みながら、本心を隠しながら……、私は言った。


「まだ、見張り終わってないんですよね? 食べ終わったら私、食器を片付けます。だから食べ終わるまで待っててもいいですか?」


 それを言って、私はヘルナイトさんの言葉を待った。


 ヘルナイトさんは少し考えた後……。


「自分で下げに行くが……」と、申し訳なさそうに言うヘルナイトさん。


 それを聞いた私は首を横に振って慌てながら「その……、えっと、ひと手間かけたくないので、えっと……、だから、うーん……」と、だんだんしどろもどろになってくる。


 それを見て、ヘルナイトさんは黙ってしまった。


 そんな沈黙に耐えながら、なんとか言葉を探る私だけど……、いい言葉が思いつかない。


 ヘルナイトさんは、顔を見せることは駄目な種族なのに……、何でこんな我儘を言ってしまったのか、自分でも理解ができない。というかこれは、幻滅されてしまったのかな……? そう思うと、胸の奥がずきりと痛む……。


 何でこんな我儘を、言ってしまったんだろう……。


 ただ……。私は……。少しでも、ほんの少しでも……。




 ほんの一時(ひととき)でも、一緒にいたいって、願っただけなのに……。




 一体どうしてそう思ったのか、自分でもわからない。ただ、この一瞬の時を、記憶に残したかったのかもしれない……。よくわからないけど、そうだと直感した。


 そう思って俯いていると……。


 ふわり。


「!」


 不意に、頭にかかる重み。


 それを感じた私は頭を上げながらヘルナイトさんの顔を見ると……。


 ヘルナイトさんは片手にお皿を持って、私の頭に手を置きながらしゃがんで、ゆるりと撫でながら、ヘルナイトさんは凛とした声で、こう言った。


「――わかった。だが」


 とヘルナイトさんは私の頭から手を放して、自分の顔を指さしながらこう言った。


「……顔は見ないで、後ろを向いた状態で、待っててくれ」


 そう言いながら、さっきまで腰かけていた岩を指さして言ったヘルナイトさん。


 それを聞いて、胸の奥からくる温かい熱を感じ、それが全身に広がって嬉しさとして込み上げてくる感覚を覚えながら私は控えめに微笑んで――


「――っはい」


 嬉しさを殺さないで、なんとか顔に出しながら返事をした。


 その顔を見たヘルナイトさんは、驚いたけどすぐに元の表情に戻って、私の頭に手を置きながら、ゆるゆると撫でる。


 それを感じて、そのぬくもりに甘えながら私は言われた通り小さい岩に背を向けて座りながらヘルナイトさんの食事が終わるのを待っていた。


 ヘルナイトさんは私に背を向けて、岩に腰掛けながら『かちゃ』と食器に手を付けて――『こくり』と飲む音を立てた。


 そして……。



「――うまい」



 その言葉を聞いた私は急に来た熱と嬉しさ、そして……。


 ()()()()と、心臓が突然高鳴りだしたことに混乱したけど……、不思議といやな感じがしない。


 私はそれを止めずに、だんだん熱くなる顔を膝で隠しながら、私は少しの間だけどその余韻に浸っていた……。


 こう言った日常はたまにしかない。


 だから私はこのほんの少しの時間しかない日常を想い出に残しながら、明日に向けて体を休める。


 一緒に行動するアキにぃやキョウヤさん。シェーラちゃんにナヴィちゃん……。


 そして……。


 ここにいる……、一緒にいると安心する騎士様(ヘルナイトさん)と一緒に……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ