PLAY23 アクアロイアの現実と謎の少女④
「はぁいっ!?」
アキにぃがシェーラちゃんに向かってバンッと机を叩いたかと思うと、驚愕の顔でずいっと顔を近付けた。
シェーラちゃんはその顔を見て「気持ち悪いわ」と平然として突っ込んでいたけど、私達もシェーラちゃんの言葉には驚きを隠せなかった。
目が点になった。と言った方がいいと思う。
アキにぃはそんなシェーラちゃんに向かって、指をさしながら少し早口でこう言った。
「ななななんでっ!? 何で急に話を切り替えるのかわからないっ! 俺達の目的を知ってそれなのっ!? 何で唐突!? Whyだってっ!」
「あまりの展開に崩壊してんな。まぁ……、たまにあいつの顔面が崩壊することはあるけど。血涙流して」
キョウヤさんがアキにぃの顔を見ながら溜息を吐いて気怠そうに言うと、シェーラちゃんはそれを聞いて澄ました顔をしたまま――
「簡潔に言うわ。これは交渉よ」
「ますますWhyだってっ!」
本当に澄ました顔で言うシェーラちゃんだけど、アキにぃがますます意味が分からないようで、言葉通りの顔を近付けながら脅迫めいた顔面で詰め寄っている。
「あ、アキにぃ……落ち着いて……」
「ハンナも若干引いてんな」
私はそんなアキにぃを怖がりながらも止めようと背中を叩く。
そんな私を見てかキョウヤさんが冷静に突っ込んでいたけど……、ヘルナイトさんがそのシェーラちゃんの言葉に対して……。
「交渉……? どういうことだ?」
と聞くと、その言葉にシェーラちゃんはアキにぃの顔に手をやり、そのままぐっとあらん限りの力で押し出して彼女は言った。
「言葉通りの意味よ。私もね……、アクアロイアに目的があって、そこに行きたいのだけど、ソロだと難関がいくつもある。一人では出来ないことがいくつも」
「いや……、そう言われてもな……」
キョウヤさんが腕を組んで顔を顰めながら考えていると、それを聞いて、シェーラちゃんが私達を見ながら、アキにぃの顔を掴んだ状態で説明をした。
というか……、アキにぃ離れようよ……。シェーラちゃん困っている……。
そう私はアキにぃを見て『大丈夫かな?』と思ってみているだけだった……。助太刀ができなさそう……、そう私の直感が囁いたから。
シェーラちゃんは澄ました顔でこう言った。人差し指を立てて。
「この国の問題一つ目――このアクアロイアとバトラヴィアには、ギルドは一つしかない」
「ひ、一つぅっ!?」
その言葉に、アキにぃはばっと顔を離してシェーラちゃんに向かって叫ぶ。それに対して私とキョウヤさんも驚いて、ヘルナイトさんは頭を片手で押さえながら思い出したかのようにこう言った。
「そうだ……。確かに、アクアロイア諸国には、ユワコクにあるギルドしかない。この国は魔女に対する反発や軋轢がひどい。魔女がいたとしても、みんながギルド長にならずに、ひっそりと暮らしてる人が多いからな……。いたとバトラヴィア帝国にばれたら……、狩られるからな」
「マジかよ……」
狩られる……。その言葉を聞いて、キョウヤさんが青ざめてヘルナイトさんを見た。
私もその言葉にはいい雰囲気で捉えることができず、悪い雰囲気で捉えてしまい、自分をそっと抱きしめてしまう。
それを見たふわふわくんは、とんっと私の肩に乗って、すりすりと自分の体毛をこすりつけてきた。
それを感じた私は、こそばゆさに頬を緩めてしまい、その子の頭を指で撫でながら――
「心配してくれたの……? ありがとう」と言った。
その言葉に、ふわふわくんは「きゅぅ」と笑って鳴いた。
「確かに」
シェーラちゃんはヘルナイトさんの言葉に頷きながら、ぴっと中指を立てて二本の指を出した。
「二つ目。さっきも言った通り、ここ『水の大地』アクアロイアは『六芒星』の絶好の隠れ家。しょっちゅう『六芒星』が現れて厄介。しかも青黒鎧を着た兵士……、もといアクアロイア兵士はそれを無視。見て見ぬふり」
「…………ということは、まさか」
一旦冷静さを取り戻したアキにぃが、顎に手を当てて考える仕草をして言うと、はっと何かに気付いたのか、シェーラちゃんを見て言負うとしたけど、シェーラちゃんはきっと目を細めて「近付けないでよ」と冷たい音色で凄んだ。
それを聞いて、アキにぃがぎょっと驚いて「そ、もうあんなことはしないってっ!」と顔を赤くさせながら弁解した。
アキにぃは言う。
「もしかして……、アクアロイア自体が……」
「ええ」
シェーラちゃんが頷いて……。最悪の言葉を言った。
「アクアロイアは、リヴァイアサンを制御しようとして、あろうことか『六芒星』を加護して加担している。全部、バトラヴィア帝国を闇に葬ろうとしての行動。全部が、王様が勧めていることよ」
「………おーまいが」
あまりにも唐突な展開に、キョウヤさんは頭を抱えながら項垂れる。私もそれを聞いて、呆然とシェーラちゃんを見てしまう。
つまり、あの時来た『六芒星』は、仲間であるアクロイアの人達に加勢するために、あの場に来て、形勢逆転を狙っていたんだ……。
中てられたのは国民ではない。
王様。
王様が『六芒星』に加担しているから、国民も『六芒星』に加担して行動している……。
「……中てられたのは、国王自らと言うことか……」
「その事態を知ったのはつい最近。でも貴方が言ったこともあながち間違ってはない。国民も、『六芒星』の思想に感化された人が多いもの。奴隷の様に扱われていたから、きっと精神がぶっ壊れてしまったのね。救いの手が『六芒星』で、その救いの神様の言うことを聞いて、今の現状が起きてしまった。アルテットミアを襲撃した時だってそうよ」
「っ! それって……」
ヘルナイトさんは自分の予想が外れたことに対して、シェーラちゃんは弁解するように言うと、最後の言葉を聞いた私はシェーラちゃんに聞いた。
それを聞いて、シェーラちゃんは頷いて続けてこう言う。
「アルテットミアの国王は親睦主義の人で、多種族や人間が手を取り合えると信じて努力している人。この国の二人の王とは大違いの考え方。バトラヴィアはアムスノーム国そのものが欲しい。きっとその時兵士が乗っていたと思うけど……、『六芒星』しか見ていないとなると……、そう言うことになるわ。それに便乗して、アクアロイアはアルテットミアを滅ぼしたいという『六芒星』の願いを叶えようと……、行動に移した。バトラヴィア帝国を完全壊滅のための……予行練習として」
「滅茶苦茶だな……。この国の関係……」
「欲望の国だな……。どっちも……」
キョウヤさんとアキにぃが青ざめて言う。
確かに、この国――アクアロイア諸国は滅茶苦茶だ。
アクアロイアの国王はバトラヴィア帝国を滅ぼしたいがあまり、とあるパーティーの進言でリヴァイアサンを制御しようとし、テロリスト『六芒星』に加担して、バトラヴィア帝国を滅ぼすためにアルテットミアを犠牲にしようとした。
バトラヴィア帝国はアクアロイアの全てを貪りながら、アクアロイアに利用されながら、贅を肥やしている。国民を奴隷にして弄んでいる。自分の利益しか考えないけど……。
どれを考えても、考えても……、私は結局、一つの結論に至ってしまう。
悲しい。と――
なぜ悲しいのか。それは簡単な話だ。
誰もが自分のことしか考えないで、大きな犠牲を生んで自分達が幸せになろうとしている。もっと、いい方法があったはずだ。
もっと平和的な……、みんなが傷つかない方法が……。
「なんで、こんな悲しいことに……」
ぼそりと、私は言った。その言葉を聞いて、ヘルナイトさんは私を呼んだ。それを聞いて顔を上げると……、ヘルナイトさんは凛とした声で、そして申し訳なさそうに――
「これは、私が招いた結果だ。あの瘴気を止めさえすれば、変わっていたかもしれない」
その言葉を聞いて、私は『ずくり』と、心臓に剣みたいな鋭い刃物が突き刺さる感覚を受けた。ぐっと胸の辺りを握り締めて、痛みを感じて顔を歪ませてしまう。
それを見てか、ヘルナイトさんは私の頭を撫でる。優しく、ゆるゆると――
「いや、そんな自分の責任みたいに言うなって」
「そうだ。悪いのアドバイスしたとあるパーティーだろうが」
キョウヤさんはそれを見て宥めるようにして明るくいうと、アキにぃは腕を組みながら怒りを含んだ音色で明後日の方向を見ながら睨んでいると……。
「半分正解よ」
と、シェーラちゃんはぴっと薬指を出しながら腕を組んで言った。
それを聞いて、私達はシェーラちゃんの方を見る。
「問題三つ目――これが重要よ。そのアクアロイアの国王に入れ知恵した人物は一組」
と言って、その三つの指を一つにして、彼女ははっきりと言った。
「それも、MCOでも悪名が高かった集団――『ネルセス・シュローサ』。そいつらの言葉があって、国王の狂気は加速した」
「……ん?」
ネルセス・シュローサ。
その言葉に私は頭に何かが引っ掛かったかのように思い出しかけた。
その言葉、どこかで……と首を傾げながら思い出していると……、アキにぃはその言葉を聞いてはっとした声を発して――そしてこう言った。
「それって、イギリスを中心に活動しているマフィアのこと!?」
「ええ」
そのアキにぃの言葉で思い出した私は『あ』と声を漏らした。
ヘルナイトさんは甲冑越しで顎に手を当てて……「まふぃあ? それは……、テロリストと同じようなものか?」とキョウヤさんに聞くと、キョウヤさんはうーんっと腕を組んで唸りながら、笑顔で誤魔化し――「まぁ、そんなところだ。でも、違うから……、半分正解で半分不正解だな……」と肩を竦めて言った。
それを聞いて、ヘルナイトさんは「そうか」と頷いて納得した。
「『ネルセス・シュローサ』は現実ではやばいことに手を突っ込んでいるわ。そしてこのゲームの世界でもね。やっていることは『直接手を出さないで他人に任せる』かしら」
「なんだそりゃ?」
「マフィアのボスのネルセス・シュローサがそう言った奴なのよ。自分の手を汚したくないから」
「あ、自分の名前とマフィアの名前同じなのかよ……」
「自分の恐ろしさを誇示するためにね」
と言いながら、シェーラちゃんは肩を竦めて呆れながら言う。
その『ネルセス・シュローサ』の話をしている時、今まで見えなかったシェーラちゃんのもしゃもしゃが零れだして見えた。
その色は――黒一色。
あの『六芒星』とは違う。でもティックディックさんとも違った……。
仄かに見えた赤が何よりの証拠。
その色を見て私は首を傾げてしまった。そんな私を見てふわふわくんが「きゅ?」と私を見てどうしたの? という音色で鳴いている。
「私は、その『ネルセス・シュローサ』に用があるの」
シェーラちゃんははっきりと言った。それを聞いて、私達はシェーラちゃんを見る。
シェーラちゃんは、決意を固めたような顔をして、腰に手を当てて、胸を張りながら私達を見て、凛々しい音色でこう言った。
「先に言うわ。私は曲がったことが大嫌い。こんなことをする国も、『ネルセス・シュローサ』も、バトラヴィアも大嫌い」
「はっきり言うな……」
キョウヤさんが冷静に突っ込むけど、シェーラちゃんは続けてこう言う。
「根本的にむかつくの。だからアクロイアに出向いてびしっと言いたいだけ。そして一発ぶん殴るの」
「おいおい。もう一つ増えたぞ。目的……」
「でも、正直私はソロで、一人じゃ何もできない。だからあなた達に協力……、徒党を申し出たいの」
「それはいいけど……」
とアキにぃがそれを聞きながら、シェーラちゃんに向かって手を上げて質問をした。
私達はアキにぃを見る。
「ソロっていうけどさ……、他にもプレイヤーがいるかもしれないだろう? その人に頼めば……」
「残念でした。それができないの。殆どのプレイヤーが『ネルセス・シュローサ』か、冒険者にとって無法地帯と化しているバトラヴィアを根城にしている強豪チームに志願しているから、事実刃向っているのは私だけ」
「絶望的……、アルテットミアが優しく見えてきた……」
アキにぃが項垂れて言うと、ヘルナイトさんはその言葉を聞いて、シェーラちゃんに言った。
「理由は、それだけか?」
「ん?」
ヘルナイトさんの言葉に、シェーラちゃんは声を上げてヘルナイトさんを見る。ヘルナイトさんはそんなシェーラちゃんを見て、凛とした声でこう質問した。
「いや、もっと大きな理由があって行くのかと思ってな。理由はそれだけで、徒党を組むというのか?」
「それは正解よ。言ったでしょ? 私は曲がったことが大嫌いなの」
その言葉を聞いて、私はもしかしてと、ヘルナイトさんを見上げた。私は思った。
もしかして、ティックディックさんのことを思い出して……。
あの人は、カイルを殺そうとした。それは深い深い黒と青のもしゃもしゃを出して、殺したいくらい恨んでいた……。悲しみに押し潰されて、殺そうとしていたから。
でも、シェーラちゃんからは、感じられない。
シェーラちゃんは言った。腕を組んで、澄ました顔で見上げながら……。
「そして、私は不合理な殺しはしない」
「……絶対にか?」
「しつこいわね。殺しはしないわ」
「………………そうか」
変なことを聞いた。とヘルナイトさんは頭を少し下げて謝った。でも……。
なんだろう。
今一瞬、違和感が……。
そう思った時、シェーラちゃんはテーブルに置いていた魔導液晶地図をしまいながらこう言った。
「あなた達はアクアロイアに向かってリヴァイアサンを浄化する、でもアクアロイアへの道がすごく険しい。私はアクアロイアに向かいたいけど一人では太刀打ちができないけれど、この地の地理は詳しい」
そう言って、シェーラちゃんはにっと挑戦的な笑みを浮かべて……私達に「悪くないことでしょう?」と言った。
それを聞いたアキにぃは――
「だから、交渉か……、確かにどっちもWINWINな関係だ」と言ってうーんと考えながら言うと、キョウヤさんはそれを聞いて――
「まぁ、確かにアクアロイアの現状聞いちまったら、案内人は必要かもな……。抜け道とか知ってそうだし」
腕を組んで、仕方がないなと言わんばかりに言った。
二人とも、意外とその交渉に対して肯定を示している。私はえっとっと考えて……、シェーラちゃんに最後に一つ聞いた。
「一つ、いい……?」
「なに?」
私はシェーラちゃんに聞く。唐突で気持ち悪いと思うけど……。私は聞いた。
「――目標が達成した後、そのあとはどうする気なの……?」
その言葉に、シェーラちゃんが黙ってしまったけど、すぐに澄ました顔でこう言った。
「それ……、一時手を組む人に、そのあとのことを聞くのは、野暮ってもんでしょうが」
あぁ。
私はそれを聞いて、何となくだけど……、わかってしまった。
シェーラちゃんがアクアロイアについた後、何かをするのだと……、何となくだけど分かってしまった。
私はそれを聞いて、うんっと頷いて――
「そうだね……、変なことを聞いちゃったね」
そう言って、私はそっと手を差し出した。それを見たシェーラちゃんは、顔はそのままだけど目が驚いていて、その眼で私を見ていた。私はそんなシェーラちゃんに控えめに微笑みながらこう言った。
「アキにぃやキョウヤさんが肯定している、私も賛成だよ。だから、一時的だけど――よろしく」
その言葉を聞いてシェーラちゃんはきょとんっとしていたけど、すぐにうんっと頷いて納得したのか……、手を伸ばして、私の手を掴んで言う。
「そうね。一時的だけど――よろしくね」
それを聞いた私はうんっと頷いた。ヘルナイトさんも肯定して、二人も肯定して――あの後ふわふわくんの名前を正式に……。
『ナヴィちゃん』(女の子のような名前だけど、ヘルナイトさんがそうつけた瞬間大喜びしたからこれにした) と名付けて出発の次の日……。
荷物をまとめた私達と、先頭に立っていたシェーラちゃんは前を指さして言う。
「まずはちょっとした穴場に向かうわ」
「穴場?」
キョウヤさんがきょとんっとして聞くと、シェーラちゃんは続けてこう言った。
私達の方を振り向いて――シェーラちゃんは強気な笑みで言う。
「穴場と言うか、ちょっとしたパワースポットよ」
その言葉を聞いて、私達はシェーラちゃんの後を追うようにアクアロイアに向かって足を進めた。
シェーラちゃんの真意に、全然気付かないで……。
◆ ◆
(殺す)
(あんただけは許さないから殺す)
(『ネルセス・シュローサ』、あんただけは許さない)
(一度だけ、私の信条を捻じ曲げてでも、あんたを殺したい気持ちが抑えきれない)
(人の人生をぶっ壊したあんたのことを、大切なみんなの人生を壊したあんたを許さない)
(だから、私がこの手であんたを――)
こ
ろ
す。




