PLAY21 それぞれの出会い③
※つっかえつっかえのところ読みずらいと思いますが、ご了承ください。
「はぁ」
ロフィーゼは俯いて溜息を吐くシイナを見て、顎に指を添えながらじっとシイナを見た。シイナは気付いていない。
――何か思い悩んでいるのかしらぁ。さっきからあまり話さない。もしかしたらぁ……、緊張? しているのかしらぁ、さっきだってしどろもどろだったしぃ。
何か良い案はないか。そう思ったロフィーゼ。うーんっと顎に指を添えながら考えていると……。
――あ、そうだぁ。
そんな彼を見て、ロフィーゼはふととあることを思い出して聞いた。
「ねぇシイナくぅん」
「?」
シイナはすっと顔を上げて、ロフィーゼを見た。
身長的には同じくらいなのだが、シイナは年上であろうロフィーゼを見て言葉を待つ。しっかりと年上のことを敬うそれを示しながら――
ロフィーゼはそれを確認してからシイナに聞いた。
このゲームをしている人なら聞く、定番中の定番のセリフだ。
「あなたぁ、所属はなにぃ?」
「え? あ、え、と……」
シイナは突然聞かれたのでぎょっとしたが、すぐに答えようと慌てながら言おうとした。
が――やはりしどろもどろもなってしまう。
それを感じたシイナは口を噤んでしまったが、コーフィンはそんなシイナの肩を叩いて……。
「落チ着ケ。コウ言ウ時コソ、深呼吸ダ。ワカルナ?」
そう宥めるように言われたシイナはコーフィンの顔を見ながら……、マスク、怖いなぁ。と思っていたが、彼の言うとおり一回深呼吸をする。
すーっ。はーっ。すーっ。はーっ。
ゆっくりと、肺に酸素を入れて、二酸化炭素を吐く。
これを三回繰り返し……、シイナはゆっくりと、言葉を紡ぐ。
「ど、ドラ、カー」
「ドラッカーカ。意外トマニアックダナ。魔導師ナラ普通ハソードウィザードジャナイノカ? 一番人気ダシ」
「ちょっとぉ。わたしが聞いたのにぃずるいぃっ!」
コーフィンが『ヘェッ』と言いながらシイナと話しているのを、ロフィーゼは頬を膨らませながらシイナに抱き着いてコーフィンに対してぷんぷんっという効果音が出そうな雰囲気と表情で怒った。
「それって、男と男の話だってやつぅ? そう言うのはやめてよぉっ! わたしだってお話したいぃ」
「悪カッタ悪カッタ。ダガオ前ハ少シスキンシップガ激シイ気ガスル。トイウカソウダ。シイナクンガ固マッテシマッタゾ」
「えぇ? あらぁごめんねぇシイナくぅん」
「あ、い、いえ……」
ロフィーゼはシイナに抱き着きながらコーフィンに怒りながら言っていたが、コーフィンは冷静に宥めつつロフィーゼに謝った。
内心――きっと行き詰ってて苛立っているんだろうなぁ。と思っていたが、シイナの白目になりそうな顔面蒼白の目を見て、彼はシイナを指さしながらロフィーゼに注意する。
ロフィーゼはそれを聞いて首を傾げていたが、シイナを見降ろして気付いたのか、申し訳なさそうに謝る。シイナはそれに対して、若干顔を赤くしながら大丈夫だという。
「ドラッカーかぁ。あまりいないような気がするわぁ。魔導師の派生でしょぉ? それって」
「え、あ、は、い……」
ロフィーゼの言葉に、シイナは頷く。それを聞いてコーフィンはうーんっと少し上を見上げながら言った。空は晴天で、数羽の鳥が一斉に飛んでいくのが見えた。
「確カニナ。俺ハ銃ガ好キダカラスナイパーヲヤッテイルガナ。トイウカロフィーゼハ何デトリカルディーバナンダ? 今ノ今マデ思ッテイタガ、オ前ナラモンクダッテデキルダロウ?」
「それぇ……殴る力が強いからって意味でぇ……?」
「ア、イエ……」
コーフィンがロフィーゼのふとした疑問を投げかけると、彼女は黒い笑みで指を両手でグッグッと握りながら『ボキボキ』と鳴らす姿を見たコーフィンは、すぐに両手を上げて静止と謝罪の合図出して首を横に振った。
シイナはそんな疑問に対し、ぎゅっと口をつぐんでから……。
「あ、あの……、ろ、ロフィ、ゼ。さん、は……、つ、よい、ん、です、か?」
その言葉に、ロフィーゼははたっとシイナを見て、コーフィンはそれを聞いて仮面越しで青ざめながら首を横に振っていた。シイナに対して。
――言ッタラ殺サレルゾッ!
そう言った念を飛ばしながら……。
しかし……。
「そうねぇ……。強いのかしらぁ? でも初日に変な男に絡まれたときぃ、グーパンチしたら、その人ぉ、倒れて気絶しちゃったぁ」
――人ヲ見テイルナコノ女ッ! ソシテ教訓ッッ! コノ女ニハ喧嘩ヲ売ラナイヨウニシヨウッ!
ころっと表情を変えて、妖艶に顎に指を添えながら考えたロフィーゼは、シイナに言った。
コーフィンはそれを聞いて確信犯だと発覚したが、そのあとすぐに決意した……。防衛本能的なそれで……。
シイナはそれを聞いて、青ざめて震えながら「そ、そう、な、ん、で、すか……」と頷いた。胸に手を添えながら、ほっと胸を撫で下ろしているシイナを見て……、コーフィンは唐突に、シイナに聞いてみた。
「シイナ……デ、イイカ。聞イテモイイカ?」
「え?あ、は。は。はい……」
シイナは驚きながら頷いて、ぐっと胸に手を添えて、落ち着きながら深呼吸をした時……。コーフィンは聞いた。
「オ前――言語ノ障害ヲ抱エテイルダロウ?」
ざわりと、風が木々を揺らして、静寂に音を運んだ……。
その音は、今――目をかっと見開いて言葉を失ってしまったかのように黙ってしまっているシイナの心境を表したかのような、そんな音と風の吹き方だった。顔面は蒼白、指先や口が震えている。呼吸も不規則だ。
ロフィーゼは首を傾げながらコーフィンを見て……、頬を少し膨らませながらむすっとして彼女はコーフィンを指さして注意した。
「コーフィン……。その言い方はないじゃなぁい。というかぁ。障がいって決めつけるのはひどぉい。人はそれぞれよぉ? 気難しい人はぁ、そうやって変な人を病人扱いうするぅ」
「ロフィーゼ。今ハコッチデ話シテイル。俺ハ、シイナニ聞キタイ」
コレカラモシカシタラ、一緒ニ行動スルンダ。
と言いながら、コーフィンはそっとペストマスクに手をかけ、すっとそれを顔から外した。
シイナはそれを、震える視界で何とか見ようとして、ゆっくりと顔を上げて、コーフィンを見た。そして……。
「っ! あ……っ!」
驚愕と怖い何かに出くわしたかのようなそれで、シイナはズテンッと、尻餅をついてしまった。
ロフィーゼはその顔は何回か見ているが、初対面の人が見るとなると……、多少心臓に悪い。
コーフィンは自分の、火傷やただれてしまった顔。そして喉の機械を見せながら……、彼はそのままの顔でこう言った。
「マァ、俺ハ隠シタクナイ性分デ、コノ顔モ長年付キ合ッテイクト、愛着ガワク」
「……あなただけだと思うわよぉ? それ……」
ロフィーゼは冷静にその顔を見ながら突っ込むと、コーフィンはこほんっとせき込んで、彼はシイナを見て言った。
「聞イタコトガアッテナ。今障ガイニ関シテノ認知ガ変ワッテキテイル」
「っ!」
コーフィンはシイナを見て言った。
「前マデハ障ガイデハナイト認識サレテキタ言語障害ハ、今デハ重ク規制化サレテイル。シイナ。オ前ハ吃音症ナンダロウ? ソレモトテモ重イ……、言語ノ発音ガ流暢ニデキナイクライノ」
それを言われて、シイナは絶句し、そしてぐっと口を噤んで、下を向いてしまった。
ロフィーゼはそれを聞いて……、首を傾げながら「キツオンショウ?」と九官鳥のように言うと、コーフィンはそれを聞いて「アァ、アメリカデハタシカ……『スタメリング・スインムタム』ト言エバ分ルカ? ソレノ重傷ヴァーションダ。ダガナ……」と言って、コーフィンはシイナに目を移す。
シイナは未だに頭を垂らしながら、ぐっと地面に触れている手に力を入れている。指に食い込んでいる土を耕すように……。ぎゅううっと土を握っていた。
「――ソウ言ッタモノハ」
「き、りょく、で、な、んと、か、しろ……? で、す、か……?」
「「!」」
シイナは俯きながらも、静かに、怒りを抱えたような声で言った。それを聞いた二人は、はっとしてシイナを見た。コーフィンは内心……。
ヤベ。ヤッチマッタ。
だったが、ロフィーゼはそんな彼を見て、ふと……、誰かに似ていると思ってしまった……。
シイナはそのまま俯きながら、彼は今までのストレスを吐き出すように、コーフィンやロフィーゼにこう言った。
その言葉はシイナの本音で……、シイナの心の叫びで、シイナの……。
絶望だった。
「そ、そん、な、こと、が、でき、たら……、とっ、く、に、して、い、ます……っ! お、れ、のよ、う、に、抱、えて、いる、も、の、がな、い、と、ある、と、では……、その、認、知、だっ、て、違、うん、ですっ! こ、の障、害、の、せい、で、おれ、は、生き、づ、ら、かっ、た……っ! 言、葉、で、言う、なら、簡、単で、す……、で、も……っ! 俺、は、やろ、うと、努、力を、し、た……っ! 親、の、よう、に、な、りた、かっ、たの、に……、障、害が、お、れの、道、を、邪、魔、する……っ! 何、で、おれ、なん、だっ、て、何、度、も、思、いま、した! あ……、あ、なた、たち、に、は……、到、底、理、解、でき、な、いく、せ、に……っ! わ、かっ、た、よ、う、な、口、を、き、かな、い、で、くだ、さ、いっ!」
つっかえつっかえの言葉ではあった。
しかしシイナの気持ちがダイレクトに伝わる言葉だった。
障害を抱えていない人が、障害を抱えている人にそう言われると、どんな状況でも苛立つのは当り前なのかもしれない。
例えば、何でもできる人に『こんなこともできないの?』と、どんなに努力しても少ししかできない人がそれを聞くと、誰だってそう思うだろう。
何も知らないくせに、話しかけるな。何も自分の苦労なんて知らないくせに、調子に乗るな。
そう思うだろう。
そして、このアップデートのことも相まって、シイナはストレスが溜まりにたまっていた。
ハンナのように、理不尽のような運命を背負わされているものではない。
シイナが抱えているストレスは……、誰もが抱えるそれだった。
早くこんな理不尽な世界から出たい。誰もがそう思っていることだ。でもできないから、なんとか順応しよう。しかし死にたくない。ログアウトになったら何をされるのかわからない。
一体RCは何をしようとしているのかもわからない。
いろんな負の感情がストレスとなって、シイナを襲った。それは普通のことで、今までハンナが出会ってきた人たちは、それに当てはならない人たちだったのだ。
普通は誰だってふさぎ込んでしまったり、誰かに八つ当たりをしてしまうこの状況。
監禁のような事態に陥っている。
現実ではどうなっているのかもわからない。
目的があれば歩めるかもしれないが、歩めない人が多いのも現実だ。
RPGなんだし楽しもう。なんていう人はあまりいないだろう。いたとしたら勇者だ。お気楽者だと言われるだろう。
シイナにはそれが耐えられなかった。正直、出たい方が大きかった。
勇気を振りしぼって助けても、できないことがある。というかできなかった。現実は、甘くないのだ。
だからシイナは、爆発してしまったストレスを、吐き出して八つ当たりしてしまったのだ。
気さくに話しかけてくれたコーフィンや、ロフィーゼに……。
シイナはそれに対して、はっとしてしどろもどろに……。
「あ、ご」と言おうとした時……。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああっっっ!」
「「「?」」」
誰かの叫び声が、シイナか聞いて後ろから聞こえた……。
◆ ◆
そんなシイナ達の会話から遡って……、ショーマ達に場面を戻す。
ショーマとツグミは、死ぬ気でショートソードを手に十体のグランドボアを相手に戦って……、逃げ回っていた。
「あわああああああっっっ! これ無理じゃねえええええっっっ!?」
「お助けェえええええっっっ! 僕は決めました! 今日限りでショーマと縁を切ります!」
「はっはっは! そんなことを言っても俺のかーちゃんとお前のかーちゃんは幼馴染同士だ! 早々縁は切れねぇ! ってぎゃぁ!」
死ぬ気で走りながら二人は話していたが、ツグミの言葉に、ショーマはやけくそ交じりの笑いで言うと、突然突進してきたグランドボアの攻撃を、紙一重で体をひねりながら避ける。
それを見たツグミはぞっと青ざめて……、一目散に逃げた。それは土煙が出るくらい。それを見たショーマはぎょっとしてツグミに向かって……。
「あ! 逃げんなこんのやろぉおおおおおおおお、オオオオオオッッッ!?」
つい立ち止まってしまって怒鳴った。
だが背後から突進して興奮しているグランドボアを見て、ショーマはだらだらと汗を流しながらすぐに足を動かして逃げた。
それを見ていたデュランは応援も禁止にされているので……ただ見ていることしかできなかった。
そんな彼にマースは近付きながら……。
「それにしても、驚きました」と、デュランに向かって言った。
「……何がだ?」
デュランがそう聞くと、マースは未だに逃げ惑っているショーマ達を見てこう言った。
「あの少年二人と一緒に、行動を共にしているなど……」
「…………………あぁ。あれはな……、な。我ももしかしたら、見込み違いなのかと薄々思えてきてな……」
「見込み、とは……?」
デュランの思い出すような音色を聞いて、マースは首を傾げながら聞いた。その言葉にデュランはふぅっと息を吐いて、そしてまっすぐ、ショーマ達を見ながら語った。
「実はな……、あの二人に出会った場所は……、砂の国だ」
その言葉に、マースは目をすっと細くして、デュランに聞く。
「それは……、まさかと思って申し訳ないのですが……」
「いや、お前が思うようなスパイなど、あの小僧ができると思うか?」
「……ませんね」
そう言う二人は、ショーマを見てすぐに違うと確定した。
スパイなんて言う人を騙すことに長けている人がやることだ。それを一日しか見ていないマースでもわかる通り……、ショーマは馬鹿がつくぐらい正直なのだ。そして言っては悪いが頭も悪い。
ゆえにその想定はすぐに消去された。
……ショーマには悪いが……。
「なんか俺馬鹿にされた気があああああああああああああああああっっ!」
……とまぁ、ショーマの叫びを聞きながら、デュランは話を続ける。
「我はその時、『終焉の瘴気』に負けたことを悔やんで武者修行に励みながら旅をしていた。アズールだけの、瘴気が蔓延した後の世界を見て、な……」
「……それは、心苦しいことだったと思います」
「ああ、確かにひどい有様だった……。特にひどかったのは、砂の国のバトラヴィア帝国だった」
デュランは続けて語る。
「奴隷制度。貧困の差。そして魔女狩り。色んな面で……、崩壊の度合いがひどすぎた。それもこれも、好き勝手やっているあの『略奪の欲王』がアクアロイアを我が物にしていたせいだと、我は思った。しかし……」
「言われたのですね……?」
「ああ。『救えなかった役立たずの話など聞けない』とな」
……正論かもしれない。そうデュランは一瞬思ってしまった。そして次に浮かんだ言葉は……。
ならお前が戦場に出ればばよかったんじゃないか? だった。
騎士と思えないような発言だと、デュランは思ってしまった。
しかし、仕方がないのかもしれない。
鬼よりも強い騎士団。そして魔王族と言う身分でありながら彼らは救えなかったのだ。
彼らはそのことで深く心を痛めた。が、国の民はそんなことなどお構いなしだ。
救えなかった彼らを非難する。何もしなかった魔王族を非難する。
特にその反発が大きかったのは――人間族だった。
自分たちは何もできないという理由で、できた人たちを非難する。一回の失敗で彼らは、『12鬼士』を罵った。集団で、罵った。
だから、デュランはこの時思った。
お前たちは何もしていないくせに、何を偉そうに。
そう思った、だから、人間族が多く集まっている砂の国の在り方を見て……、絶句し、一瞬、あざ笑ってしまった。
自業自得だろう。と……。
「……それは、言いすぎな気がします。あなたではなく、欲王がです」
「そうだな。だが王の言葉は絶対だ。ゆえに我も汲み取って行こうとしたとき……、あの小僧たちが来た」
「おや」
デュランは言った。
その言葉を一体受け止めて、次の国に行こうとしたとき……、突然王宮に入ってきたのが、ショーマだった。
ショーマはツグミに取り押さえられながら怒りを露わにして入ってきて、彼は開口、王がいるその場所で……。
「お前がこの国のお偉いさんかぁ! こんのはげぇええええっっ!」
と言った……。
それをきいたマースは、絶句して、白目をむいて固まった。
デュランはその顔を見て、まぁそうだろうな。と納得しながら、彼は話を続けた。
「その言葉に、王もお怒りだったがな。あの小僧はそんなことお構いなしにこう怒鳴った。我がいるところで、『この国はおかしい』や、『なぜ国と人を守る人が守る人に攻撃して傷つけてるんだ』とか言っていたが、あの小僧は我の話を聞いて、見ず知らずの我を弁解してきた。笑える話だろう? そして、『みんなが手を取り合って生きるから、一人でできないこともできるんだろうが。あんたにそれが理解できなんだったら、俺以上の大馬鹿だクソジジィ』と、指を指していてな……。我は驚いて言葉が出なかった」
あの小僧は、とデュランは続けた。
「そのことを言いたいがために、王宮に殴りこんで、たったそれだけを言うために、バトラヴィア帝国を敵に回した。大馬鹿者で、まっすぐな少年だった。だから、我はそのまっすぐな目に何が写っているのか、気になってついて行こうと思った。それだけだが……、あの小僧はそこまで考えていないだろう」
「お、恐ろしいことを……」
ぞぞぞっと震えながら言うマースに、デュランは「いや」と手を振ってやんわりと否定した。そしてこう言う。
「正直なところ、あの小僧の言い分は正しいところもあった。あの国がおかしいこと。そして、みんなが笑ってこそ、最高の国になる。その言葉で、思い出したのだ。サリアフィア様が願っていた……。理想の世界を」
そう思い、彼は思い出す。
それは……、とある世界地図を見ている時、彼女はデュランに対してこう言った。
『デュラン。平和な世界とは、どういったものなんでしょうね?』
その言葉に、デュランは小さく返事をして……。こう言った。
『それは、サリアフィア様が望んだ世界かと』
『それでは私だけの世界になってしまうわ。そうじゃないの』
『な、でしたら一体……』
その言葉にサリアフィアはにこっと微笑んで、くすくす笑いながら彼女は彼に言ったのだ。
『私だったら、争いがない世界を理想とするけど……、あなただったらどんな世界がいい?』
『そ、そうですね……。でしたら、秩序が乱れていない世界でしょうか……』
その言葉に、サリアフィアは笑う。デュランはその顔を見て、少しばかり心を奪われていたが、サリアフィアが自分を見た瞬間……、彼女は微笑んでこう言った。
デュランから見て……、女神のような微笑みを向けながら……。
『なら、みんなで作り、守っていきましょう。私達の――世界を』
それを思い出しながら、デュランは言う。ぐっと握り拳を作って――
「だからこそ、だからこそだ。サリアフィア様が愛し、そして守り、作り上げてきたこの世界を、アズールを我らが守る。その意志を知らん者に、好き勝手されては話にならんからな」
マースはその話を聞き、驚きはしたが、あとから納得してしまった。
自分達の世界を守るために、理想とする世界を守るために……、愛する世界を守るために……。
サリアフィアは――自らの命を削って、『終焉の瘴気』を押さえている。
それが一体どのような偉業なのか、誰もわからないだろう。語り継がれていたとしても、その意志までは汲み取れない。
マースはデュランの意志と、主人に対する絶対的な忠誠心を聞いて、ふっと微笑みながら目を閉じて、前を見る。
「そのご意志、叶うといいでしょう」
が。
と、彼は言って……、デュランはそれを聞いてマースを見降ろしながら疑問符を頭に浮かべた。マースは引き攣った笑みで固まりながら……、タラリと流れる脂汗を拭わずに言った。
困ったような音色で彼は言ったのだ。
「今はショーマ様の捜索をしましょう」
「あれぇっっ!?」
「ショーマァ!?」
そう。その場で追われていたショーマと、グランドボア十体がその場から消えて……、否。どこかへ逃げてしまったショーマを追ってグランドボアは隊列を乱さずにショーマを全速力で追って行ってしまったのだ。
ツグミはいつの間にか消えたショーマとグランドボア十体を見つけようと辺りを見回し、デュランはその光景にぎょっとして半音高い音色で驚き、マースはやりすぎたのでしょうか……? と少しだけ反省した音色で言った。




