PLAY20 非道な戦いと救う力①
駆け出したと同時に、仮面の部下達も刀やナイフを持って襲い掛かってきた。
ダンさんは怒りを含んでいるけど、それでも笑顔で誤魔化すような顔で仮面の人達を殴って吹き飛ばしている。
モナさんは流れるように間をすり抜けては一人や二人の得物を手刀で『ばしっ!』という勢いのある音を出しながら落として、そのままよく映画で見る空中で敵を回して転ばせるそれをして応戦している。
シャイナさんは鎌を振り回してあの牧師様と一緒に金属音を出しながら戦っている。
ララティラさんはスキルの魔法を使って。
キョウヤさんは槍で相手の懐に槍の刃がないところで突きを繰り返し。
エレンさんは矢を放って威嚇しながら攻撃して。
アキにぃはライフル銃からアサルトライフルに変えて発砲をしていた。
誰もがその応戦に必死になって、仮面の人達も必死にみんなに攻撃を仕掛けていた。
それはもちろん、私にもだ。
私はすぐに『盾』を発動しようとした時……、その攻撃は来なかった。
「『竜巻』ッ!」
ぶおおっ! と横殴りの台風のように来たそれを受けて、何人かの仮面の部下達は叫び声を上げて吹き飛んでしまった。
私は驚いてその風が来た方向を見ると……、ララティラさんはウィンクをして杖を構えていた。
私はそれを見て、ぐっと込み上げてきた何かを押さえるように頭を下げた。
「てめえらあああっ! 妹を傷つけようとしたなぁ! 許すものか……っ! 許しを乞いても許せんっ! ぶっ殺すっ!」
その声を聞いて顔を上げると、私はぎょっと固まった。
なぜかと言うと、アキにぃがあのオーガのオグト以上に怖い形相で怒りながらあのアサルトライフルを使って発砲しまくっているのだ。
仮面の部下達はそれを見て、とんとんとんっと足元に撃たれた銃弾を避けながら叫んでいる。
アキにぃの暴走と言わんばかりの光景を見ていたキョウヤさんは槍で敵を薙ぎながら「おいアキ! そんな風に発砲すんな! また周り見えてねーなコレッ!」と、怒りながら突っ込んでいた。
それを見て、私は冷や汗を流した。
すると……。
「ハンナ!」
「!」
突然ヘルナイトさんの声が聞こえた。
私は前を向くと、魔物――オグトが大きな棍棒を振り上げて、そのままヘルナイトさんを殴ろうとしているところを見た私。それを見て、私は即座に手をかざして。
「『強固盾』ッ!」
と言い発動したと同時に、ヘルナイトさんを守るように出た半透明の半球体。
それを見たオグトはぎょっとして、一気に振り降ろした棍棒が『ガン』という鈍い音を立てて当たると同時に私はヘルナイトさんを覆っていた『強固盾』を消す。
するとすぐにヘルナイトさんは右手に握っていた大剣をそのままふっと手を放して、放した瞬間――大剣の柄の下に潜り込ませるようにすぐに逆手に持って、そのままオグトの喉元に、大剣の頭を強く打ち込む。
ドゴォッと言う音と、鈍く……『ぐりゅっ』という音が聞こえた気がした。
オグトはそれを受けて「ぐぎゅ」と蛙が潰れたような声を上げて、ゲホッと咳込んだ。
それを見てヘルナイトさんは素早く距離を取る様に――トンッと後ろに後退した。
そして――
「トリッキーマジシャンッ!」
そう叫んだ瞬間、オグトははっとして、私はヘルナイトさんの後ろで待機していたトリッキーマジシャンさんを見た。
トリッキーマジシャンさんは、両手に持っている銀色のフレームが印象的な、銃の球が通る場所と言えばいいのか……、そこが普通の拳銃よりも長い作りのそれを二丁持ってて、トリッキーマジシャンさんはそれを手に持って、銃口をオグトに向けていた。
そして……。
「イッツ」
と言って、ジャコンと言う音と共に――
「ショータイムッ!」
バンッと、大きな発砲音を出して、それを放った。
私はそれを見て驚いて見てしまったけど……、トリッキーマジシャンさんはそのまま二丁の拳銃を持った状態で、交互にそれを撃ちながらオグトを攻撃していた。
よく見たら拳銃の弾は銃弾じゃない。銃弾は緑の銃弾のようにも見える。
バンバン当たった瞬間、それはふわりと消えて、僅かに風を作っている。それを見た私ははっとする。
そう。
あれは魔力が込められた銃弾。アキにぃの『フィアショット』のようなそれだ。
それを何発も発砲している。弾切れが起きるかもしれないのに、それでも撃ちまくるトリッキーマジシャンさん。
トリッキーマジシャンさんが放った弾丸の攻撃を体で受けている……、ううん。避けることができずに受けることしかできないオグトは、唸り声を上げながら腕と棍棒でそれを防御している。
その間に……、ヘルナイトさんは姿勢を低くして駆け出し、逆手に持っていた大剣を元の掴み方に戻して、ぐっと自分の懐に割り入れるように、右手に持った大剣をオグトの死角の下から時計回りに――首を狙うように……。
――ザシュッと斬りつける。
しかしその音は出なかった。
オグトは顎鬚を犠牲にして、下から来た大剣の斬撃を上を向いてエビ反りになるという回避方法で、顎鬚だけの犠牲で命を繋ぎ止めたのだ。
意外と素早い……。
でも、上を向いてしまったオグトは、顎を無防備にしてしまったせいで……。
「ウィークです」
トリッキーマジシャンさんは言って、そのまま右手に持っていた拳銃の引き金を引いた。
すると、ズドンッと言う大きな音が聞こえた瞬間……。
「あがぁっ!」
上を向いてしまった所為で、視界を外してしまったオグトの顎に、緑の大きな銃弾が当たった。それを受けて、ぶしっと吐血するように顎からそれを吹き出すオグト。
それを見て、ヘルナイトさんは上に向けて斬りつけたそれを、直角にして、オグトの驚きの声を無視して……、そのまま右手に見っていた大剣でオグトを、右から左斜め下に向けて、体に大きな傷をつけるように斬った。
それを受けたオグトは、一瞬声を失ったかのように黙ったけど……。
すぐに斬られたところから……、ぶしゅっと血が噴き出て……、オグトは叫んだ。
それを見ていた私は、すっと手を降ろしかけたけど、すぐに手をかざした。
最初は『もしかしたら、私は必要なかったのかな?』と思っていたけど、警戒は怠ってはいけない。そう思って、私は、万が一のために集中を切らさないようにする。
「意外とメンタルは鋼並みですね」
私よりは劣りますけど。と、私は声がしたトリッキーマジシャンさんを見る、トリッキーマジシャンさんは常に私の隣にいて、そして銃を構えながら彼は私を見ないで、私に向かってこう聞いた。
「あなた、所属は?」
「……メディック、です」
「……、アズールでは希少の所属ですね。どこまで使えるんですか?」
「り、『蘇生』まで」
それを言った瞬間、ぴくりと仮面が動いた気がした。でもトリッキーマジシャンさんはそれを聞いても、銃の構えを解かないで、私を見ないでこう言った。
「ならば、常に警戒を解かないでください」
「………………?」
「言いたいことを察してください。あなたは希望と言われていますけど、一端の衛生士ならば、ここでやることを忘れないでください」
「…………………………はい」
そう言われて、私はくっと顎を引き締めて……、目の前で戦っているヘルナイトさんを見る。
ヘルナイトさんだって命がある種族。倒れそうになったら、私はすぐに回復をする。
たとえ、チートと言われていても、できないことだってあるはずだ。それを補わせるために、私は……、この力を使う。
そう思った時だった。
「うぎゅぅううあああああああ…………っっ!」
オグトはどろどろと流れる血を抑えきれない手で押さえながら唸る。
地面はオグトの血で赤く染められ、それを見ていた仮面の部下達はそれを見て動きを止めてしまっている。愕然と、それを見つめて……。
「お、オグト様が……?」
「マジかよ……」
「こ、これが……、『12鬼士』の力……」
「『煌きの奇才』ならいけたと思ったけど……、あいつが来た時点でもう無理だったんだ……っ!」
「逃げるべきだったんだ……っ!」
仮面の人達の諦めの声が聞こえてくる。それを聞いて、アキにぃ達は武器を構えながら動きを止めていた。それは、応戦を一時停止するそれだった。
「なんだ? もう終わりか? おぅ?」
「ダンやめなさい。後のことを考えぃ」
ダンさんが手招きをしてあくどい笑みを浮かべている。それを見てララティラさんは呆れながら突っ込んだ。エレンさんやアキにぃたちは、武器を構えたまま様子を見ている。
それを傍観していたオーヴェンは……、よっこらせと起き上って胡坐をかきながら気怠そうにこう言った。
「オグトー。苦戦しているな。おじさんも参加するかい?」
「よ、余計な気遣いはいらんっ! オデは最強の種族人食鬼族だ! このくらい対処できる!」
「あっそ」
と言いながら、オーヴェンは……。
?
私はそのオーヴェンの顔を見てあれ? と思ってしまった。
なぜなら――オーヴェンの顔が、一瞬悲しいそれになったから……。
するとオグトはずんっと後ろを向いて、歩き出す。
それを見た私は、帰るのか? と思って安心した。
けど……違った。
オグトはずんずんっと、歩き出す。
私はそのオグトを見ながら首を少しずつ動かすと……、とあるところに目が留まった。
それは……とある仮面の部下だった。
刀を持っている手を震わせながら、一人の仮面の部下は自分に降りかかった影に驚いて、その方向を見た。そこにいたのは……満身創痍のオグト。
それを見上げて、驚きながら仮面の部下は……。
「あ、あの……。オグト……。様?」
と半音が少し高い音色で聞いた瞬間。
オグトは仮面の部下の、刀を持っている両手をぐっと掴んで、ひょいっという効果音が出そうな持ち上げ方でオグトは軽々と部下を持ち上げた。それはまるで……、魚を釣った時のそれと同じだ。
「え? あの……、ちょっと……、何して……?」
ブランブランッと、宙づりになった仮面の部下は、震える口でそう言うと、オグトはその仮面の男を見た後……。
「待てっっ!!」
「よしなさいっ!」
ヘルナイトさんと、トリッキーマジシャンさんの切羽詰まった……、ううん。これは、これから起こることが残酷であることを示しているような……曖昧だけど分かる音色と言葉。
それと同時に、オグトは言った。
「――『人喰』」
そう言った瞬間……、私の視界は塞がれた。
ヘルナイトさんのマントとトリッキーマジシャンさんの手によって視界が塞がれた。でも聴覚でわかってしまった。
何かを食べる音。
何かが折れる音。
何かを咀嚼する音。
人々の叫び声に、アキにぃたちの息をのむ声。
そして……。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!」
仮面の部下の人の叫び声。
それを聞いて私は肩を震わせて、ぐっとトリッキーマジシャンさんの手をどかした。
「あ! ちょ」
トリッキーマジシャンさんの声が聞こえたけど、私はそれよりも広がった視界を見て、後悔してしまった。
それは……惨い行為だった。
仮面の部下の人は泣きながらゴロンゴロンと転がって喚いている。辺りを自分の血で染めながら。
それを見降ろしながらオグトは咀嚼を繰り返していた。
私は呆然とする視界と感覚の中、ヘルナイトさんはそれを見て、ずんっと地面を踏んで、怒りに満ちた声でこう言った。
「貴様……っ! なぜ仲間を……っ!」
その言葉に、オグトはぐりんっと私達の方を振り向きながら、赤く濡れた口元を拭わないでこう言った。
「知れたこと。こいつらはオデの食糧だ。そして、オデは食って力と回復を得る魔法を使う――魔女だ」
「は、はぁ?」
そう言ったのはキョウヤさん。でも、みんながそんな顔だろう。私もだ。
魔女。
それは女の人をイメージしていたけど、オグトは自分のことを魔女と呼んでいた。
「な、何言ーとるんや! あんたが魔女!? そんなデマ信じられへんでっ!」
そうララティラさんが言うけど、トリッキーマジシャンさんは、小さく、苦でしかない音色でこう言った。
「本当です……」
「マジで言っているの……?」
シャイナさんが引き攣った表情で聞くと、トリッキーマジシャンさんは頷く。
それを聞いてかオーヴェンは『すっ』と自分を指さして、気怠そうだけど悲しいそれを含ませたそれでこう言った。
「そうなんだよね。おれ達は生まれた時から『魔力』を持っている人間。魔力を持っていない中の一割の中に入っている存在。稀有な存在なんだよ。それを総称して魔女。お前達のように魔力を持っている。だからおれ達は魔法が使える。自分だけの特殊な魔法を」
オグトはオーヴェンの言葉を聞き、自分を親指で指さしながら自慢げに言った。
「そう! オデは『食』を使うことができる! 多種族を食うことで、オデは多彩な強化や力を使うことができる! そして、回復も可能!」
と言って、オグトは自分の斬られた個所を指さすと……、そこはすでに、治っていた。
それも切り傷など残さないそれとなっていて、私はそれを見て……、青ざめてしまった。
きっと、絶望している顔だと思う……。
オグトはそれを見て、私を指さしながら、勝利を確信した笑みと笑いで、こう言った。
「ぬあっはははははは! そうだ! その顔だ! 絶望しているだろう!? そうだ! お前は弱い! ゆえに絶望してオデに食われて終わりの非常食なんだ! ここにいるすべての者達は――オデの食事! オデの食べ物なんだ!」
ズンッと足を前に進めた瞬間だった。
「ど、状態異常魔法――『足止め』ッ!」
がちんっという音が聞こえたと同時に、オグトは自分の足を見た。
ぐっと動かしても、動かない。それを見て、オグトと私達はとある方向を見た。
その方向とは……、今シャイナさんが守っているローブの人と、子供達……。その子達は震えながら泣いている。そしてローブの人は震える手で杖を持っていると……、小さくこう言った。
「や、やめ、ろ……っ!」
それを聞いて、シャイナさんは何かを言おうとしたけど……。
オグトはそれを聞いて、舌打ちを一回してからぐっと足に力を入れて、ぐあっと足を上げた。
それを見て、誰もが青ざめて驚いてみている。
私はそれを見ていると……、あることに気が付いてしまった。
『囲強固盾』が……、消えていた。
それは、ターン制ならば切れたということだけど……、今は、まずい。
「うわあああっっ!」
「いやぁぁぁ!」
「うわぁああん!」
泣き叫ぶ人達。そして怯えて震え上がってしまう仮面の部下の人達。アキにぃ達はそれを見て驚いて振り向いてしまい、警戒を更に強くした。
でも、オグトはそれを好機と見ているのか、にやりと笑みを深くして……。
「ほほぅ。食料の檻が解けた。これで……」と言って、ぐっと足に力を入れて……。
駆け出す!
「存分に食せる!」
それを聞いてヘルナイトさん達が止めようとするけど、仮面の人達に向かって口を大きく開いたオグトにとって……、オーガにとって……、ここは、絶好の食場だった。
仮面の人も、怪我をしている人も、私達も全員……、オグトにとって……、オーガにとって……。
食べ物でしかない。
食事がわんさかと周りにいる中、彼にとってすれば、それは回復アイテムが転がっているのと同じ……。
最初から、部下も食べるつもりだったんだ……。
あのニヤつきは……、勝てると見込んでの勝利の笑みだったんだ……。
だって……、傷を負っても食べれるものがあるから、問題ないから……。
でも、このままだと……、転がって痛がっている人や、みんなが……死んじゃう……っ!
ぐっと胸の辺りで、埋め込まれた石を握った。
その時だった。
どくんっと、脈を打つ音が聞こえた。
そして頭に浮かんだとある言葉。
私はマティリーナさんに聞いた言葉を思い出し、その鎖帷子のリボンのところに埋め込まれたエディレスの瘴輝石を握って――叫ぶ。
「ま、マナ・イグニッション――『癒しの台風』ッ!」




