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PLAY19 アルテットミア⑤

 刹那。


 ガァンッという鈍い音が聞こえ、私はそっと目を開けた。


 そして目に映ったその光景を見て一瞬安堵してしまい、そのまますとんっと尻餅をついてしまった。


 誰もが驚いている。魔物も、耳の長い人も、ローブの人も驚いてそれを見ていた……。


 私には見慣れているそれだった。


 だから震える口で言えた……。


「ごめんなさい……、先走っちゃって……」


 でも目の前であなたは言った。


 凛とした声で、魔物が振り降ろそうとしたそれを手で掴んで、大剣でその魔物の首元に突き付けたまま言った。


「――問題はない。だが、怪我はないか?」


 私は頷いた。


 嬉しくて、言葉が出なかった……。苦しくて言葉が出せなかった。


 それを見たあなたは頷いて、そして目の前を見た。


 魔物と耳の長い男はその姿を見て言った。最初に言ったのは……耳の長い男……。


「お前は……、まさか……っ!」

「ここで垣間見ようとはな……っ!」


 耳の長い男が驚いた音色で言うと、それを聞いていた魔物の男がぎろりとその人を見て……、こう言ったのだ。



「『12鬼士』――ヘルナイトォ!」



 それを聞いても、ヘルナイトさんは動かないし、話さない。振り降ろされたその棍棒から手を離さないでいると……、突然ヘルナイトさんは何かに気付いたのか……。


「ハンナッ!」

「!?」


 突然ヘルナイトさんはその棍棒から手を離した。そしてそのまま、背後にいた私を片手で抱えて、そのまま飛び退いた。


 私は即座に、倒れている人達に向かって手をかざして……。


「『囲強固盾(エリア・シェルガ)』ッ! 『集団大治癒(エリア・ヒーリア)』ッ!」


 倒れている人達を覆うようにだす半透明の半球体。それを見た仮面の集団は、怖がるように飛び退いて逃げた。


 そしてすぐに黄色い靄を、その半球体にいる人達に向けて発動する。


 倒れている人達はそれを感じながら頭を上げて、起きながらそれを見て、絶望から笑みに切り替わった。


 ローブの人達にもそれをかけて、その半球体を見ながら驚いて見ている。子供達はわぁっと笑顔でそれを見て安心しているようだ。それを見て、私は一瞬安心してしまった。


 けど……安心するのは早かった。


「――『大反響の叫び(ハード・ビット)』」


 それは突然で、私達……ううん。他の人を巻き込むような……、大音量。


 音で表すのなら……、ギュイイイイイイイィィィィィィィィン! だ。


 その音を聞いてしまい、私はすぐに耳を塞いだ。


 でもヘルナイトさんはそれを意ともせずに、ぐるんっと振り向いて……、そのまま大剣を持ったまま私を抱えた状態で構える。


 すると……突然それは消えた。


 私はそっと耳を塞いでいた手をどかして、目の前を見る……。そして、目を疑った……。


 私が張った『囲強固盾(エリア・シェルガ)』に、罅が入っている。


 その中でそれを体験していた人達は……、青ざめながらそれを見ている……。


 そしてその周りには、耳を塞いで気絶している仮面の人や、よろけながら立とうとしている仮面の人がいた。


 そう。


 みんなあの音の攻撃を受けたのだ。


 音を出した張本人――耳の長い人によって……。


「あーららぁ。ちょっと小さく出したのに……、そんなによろける程ぉ? おじさんなんか傷つくなー」


 と言いながら、口に咥えていた爪を指に嵌めて、背中に背負っていたギターを持って、まるで演奏でもするように構えていた。


 魔物はそれを聞いて、苛立った口調で――


「オーヴェンよ! それを出すな。オデ達の鼓膜が破れるっ!」


 と怒った。


 しかし耳の長い男……、オーヴェンは肩を竦めながら気怠そうに……。


「だってよぉー。『離れろー』って言ったり、『耳塞げー』って言ったら、やっこさんにおれの攻撃がなんなのかわかっちまうかもしれねーだろうが。これは()()()()()なのに」

「魔法……?」


 その言葉に、私は疑問を抱いて、首を傾げた。


 魔法と言うのは、私達のようなスキルだと思うけど……。そしてさっきの大音量のあれは……、スキルにはない。でも魔法と言い切った……。


 ここの人達は……、私達のようにMPを持っていないと、ダンゲルさんから聞いたのに……。


 それは一体……。どういうことなのだろう……。


 そう思っていると……、ヘルナイトさんはぐっと私を横抱きにしたまま大剣を構える。そして――


「いたぁ! ハンナーッ!」

「! アキにぃ……、みなさんっ!」


 お城の方からアキにぃ達が急いで走ってきたのだ。きっと、さっきの音を聞いてきたと思うけど……。後ろにいたトリッキーマジシャンさんは二人の人物を見てか、突然。


 とんっと跳びあがって、そしてアキにぃ達の頭上を飛び越えながら、私達がいるところに着地してその二人組を睨んで、恨めしくこう言った。


「……六芒星……っ!」


 その言葉に、私はその二人組を見て、小さくその名を言う。


 それを聞いたみんなも驚いて、そしてキョウヤさんは魔物の方を見ながら――


「六芒星って……、あの二人を指していたのか……。つか、あの魔物なんだよっ! MCOにはいなかった魔物だぞっ!」


 と言うと、それを聞いていたアキにぃはじっとその魔物を見て言った。


「ゴブリン……にしては大きい。でもそれに近いような……」


 それを聞いてか、魔物はどんっと棍棒を地面に叩きつけるように殴ってからこう言った。


「オデを……、下級の魔物と同類にされるなど……、異国の冒険者は常識がなっていないようだな……っ!」


 その魔物の憤怒のそれを見てか、エレンさんは小さく……。私でも聞こえるようなそれで、こう言った。




()()()……」




「? オー、ガ?」


 私はその言葉を繰り返す。


 それを聞いて、トリッキーマジシャンさんは二人組を見て言った。


「オーガとは、人食い鬼の呼び名です。オーガは人を食う鬼という意味で、主食は雑食。なんでも食べます。もちろん、人間もです。知性も道徳もない……下劣で頭が悪い種族だったのです」

「……だった? どういうこと? というかこの六芒星っていったい……」


 その言葉に、モナさんが首を傾げたけど……、それ以上トリッキーマジシャンさんとヘルナイトさんは言わなかった。口を、閉ざしていたのかもしれない。


 その時、オーヴェンは私達を見ながら、頭を掻いて、気怠そうにこう言った。


「ありゃま? おれ達のこと知らない? 結構有名なのよ? アズールののけ者集団兼革命軍……『六芒星』って」

「……革命……?」


 アキにぃがそれを聞いて驚いた顔でその人を見た瞬間、オーヴェンはアキにぃとエレンさんを見て、「やや?」とぱちくりと瞬きしてじっと見た。


 アキにぃ達はそれを見て、驚いて武器を構えたけど……、オーヴェンはそれを見て「いやいや! そうじゃないんだ」と、まるで誤解を解くように手を振るうオーヴェン。


 しかしすぐにしゅんっとして……。


「知らないんだ。なんだかショック。おれ達はあんまり有名じゃないのね……。異国ではマイナーなそれなんだ……」


 なんだか残念そうに言った。それを聞いていたシャイナさんは「なにあいつ、むかつく」と、小さく毒を吐いた。


「知らぬなら、教えよう」


 と、魔物は私達に向けて棍棒を突き付けながら言った。


「オデ達はこの世界を変える革命軍『六芒星』。世界の黙示録から消された種族! それがオデ達! 政府はオデ達が世界のバランスを崩すと言って、オデ達を歴史から消した! だからオデ達はオデ達の世界を作る! ここにいる種族達を抹殺し、オデ達の世界を作る! オデ達は世界を変える、世界の在り方を変える! オデ達は、強い種族と知らしめるために!」


「要は、このアズールをおれ達の国にしようとしているってこと」


 それを聞いた私は、言葉を失って、それを聞いて……、小さくこう呟いた……。


「殺すんですか……? 何の意味も、なく……?」


 それを言った瞬間、ヘルナイトさんはぎりっと大剣を握る力を強めた……。


 でも、オーヴェンはそれを聞いて肩をすくめながら……。


「意味ならあると思いたいけどねぇ」と言ったけど、魔物がそれを遮って大声を上げてこう言った。


「オデ達は強い! だがお前達――弱い!」


 と、魔物は私達を指さして続けた。


「魔の王も弱い! 弱いから『終焉の瘴気』蔓延した! ゆえにお前達も弱い! オデ達よりも弱い! オデ達がいれば絶対に止めれた! オデ達強いから、お前達はオデ達の命令に従う弱虫だ! 種族はオデ達だけで十分! 逆らう奴は食事! オデ達が、最強の種族で、総べる存在」


「ちがう……っ!」


 そう、私はその言葉に対して、小さく反論した……。


 それを聞いて、みんなが私を見た。ヘルナイトさんは私をそっと降ろして……、そしてふらついた私の腰に手を回して支える。


 それを感じた私は、震える口で、その『六芒星』に向かって……、言った。


「ヘルナイトさんは……『12鬼士』の皆さんは……っ! 弱虫じゃない……っ! そんな見ていないくせに……、そんなわかりきったことを言わないでください……。可哀想です……っ! 私が言えたことじゃないけど……、苦しみも何もわからないのに……、弱いと言わないでください……っ! 失礼です……っ! もう、苦しめないで……っ」


 誰もがそれを聞いて、言葉を発しなかった。


 自分でも驚いた。あんなに怖くて震えていたのに、私は今、『六芒星』に向かって、反論したのだ。


『六芒星』の二人はそれを聞いて、オーヴェンはほほぅと顎に手を当てて口笛を吹いて、魔物はぎりっと歯軋りをして私を睨んでいた。


 それを聞いて、ヘルナイトさんはそっと立ち上がって、凛とした声でこう言った。


「オーガの男よ。お前は自分が強いと自負するのか?」

「そうだ!」

「……そうだな。私も、弱い。それはお前の言うとおりだ。だが……」


 ヘルナイトさんは大剣をすっと上に向けて、そしてぶぅんと音が出るくらい大剣を振って、その大剣で魔物を指さすようにこう言った。


「――己を強いと自負することは、弱い自分を隠す処世術だ」


「――っ!」


 それを聞いた魔物は、手を握る力を強め、そして、左足を軍っと上げたと思ったら、それを一気に、地面に向けて、踏みつけるように、力いっぱい地面を踏んだ。


 踏んだと同時に、地面がメシャリとひしゃげた。


 それを見たアキにぃたちと私は、驚いてそれを見ることしかできなかった。


 魔物は後ろで待機していた仮面の人達に向けて、大声で叫んだ。


「あそこの弱いやつらを何とかしろ! オデ達は弱い魔の王を殺す! オーヴェン手伝うなっ!」

「へいへーい。でもこうして出会ったんだから、挨拶だけはさせてくれー」


 と、手をひらひらと振りながら、木箱で寝ているオーヴェン。それを見てモナさんは「やる気ないっ!」と驚きながら突っ込んだ。


「でも、これはむかつく」


 と言って、シャイナさんは鎌を構えて言った。すでに背中からあの牧師様を出して、臨戦態勢になっていた。


「何度でも言え。それこそ人間の諺――『負け犬の遠吠え』だ」と言って、魔物は私達を見て、ニヤついて、ベロンッと舌なめずりをして『囲強固盾』の中に入っている人たちを見てこう言った。


「オデは人間を食うのが大好きだ。人間は弱すぎる種族。だから食物としての価値しかない。それくらいオデは知っている。そこの天族の女。お前は判断を誤った。あそこで見捨てれば、オデはこいつらを食うことができなかった」


 それを聞いて、私は『囲強固盾(エリア・シェルガ)』の中に入っている人達を恐る恐る見た。


 中では震えながら涙を流している人達がいる。そしてローブの人の方を見たら、子供達は恐怖に耐えきれなくなって泣いている。


 私が、退路を断ってしまった?


 そう思って、私はどくどくと震える心音で、呼吸も荒くなってきて……、そして。


「ハンナ」


 突然声が聞こえた。


 声がした横を見ると、そこにはヘルナイトさんが屈んで私を見て、大剣を持っていない手を上げて、私の頭を……。


 こつんっと優しく叩いた。


「う」


 私は驚いて声を出してしまう。


 そのまま頭を押さえて見上げると、ヘルナイトさんは私を見て言った。


「見るんだ」

「……?」


 その言葉に私はもう一度周りを見ると……、声を失って口元に手を添えた。それは絶望ではなく、よくわからないけど……、私はそれを見て、嬉しいや頼もしいと思ってしまった。なぜなら……。


 すでにみんなが、罅が入った盾の前に立って武器を構えていた。


 まるで、その盾でみんなを守ろうと立っているようにも見えた。それを見た魔物は苛立ちとおかしいような音色で――


「なんだそれは……? 肉盾のつもりか……?」と、アキにぃ達を見て聞いた。


 その魔物の言葉を聞いて、アキにぃははんっと鼻で笑いながら――


「オーガってのは、本当に知能低いんだね」

「なに?」


 その言葉に、魔物は更に苛立ったようにアキにぃを見て、アキにぃはそれを見て更に笑いながらこう言った。


「盾にもならない。俺達は、ここでこの人達を守るって言いたいんだよ。ハンナがしたことが、無駄じゃないって証明したいんだよ。兄として――」


 そう言うと、アキにぃはライフル銃を構えて、銃口を仮面をつけた人達に向ける。


 仮面をつけた人達はそれを見て、びくっと体を強張らせる。


 そして……、キョウヤさんも槍を構えながら……。呆れながらこう言った。


「ここまでシスコンがヒデーと引くわ……。ハンナはそこにいる二人の援護をしててくれ」

「あ……」


 キョウヤさんに言われ、私はすぐに声を上げようとしたけど……。


「だいじょーぶ! 私も『中治癒(ヒーリー)』くらいはできる! 回復要因が二人一緒にいたらだめでしょ! 共倒れなんて笑えない冗談だし! だから私はこっちを、ハンナちゃんはヘルナイト達を!」


 と、モナさんがグーサインを出しながら笑顔で言う。


「俺達も何とかする!」

「乗りかかった船や!」

「お前らはむかつくから、ぶん殴るぜ!」

「おっさんの意見に、珍しく賛成。そしてあたしも便乗して戦う。めっちゃむかつくし」

『全力! デェス!』


 エレンさん、ララティラさん、ダンさん、シャイナさんも構えながら言う。


 それを聞いて、私はみんなから感じる温かい夕日のようなもしゃもしゃを感じながら、こくりと、頷いた。そして――


「ありがとう……、ございます……っ」


 震える声で私はみんなにお礼を言った。


 嬉しくて、嬉しくて……、色々と言いたいことがあったんだけど……、今はそれだけ言いたくて、私は震える口で、そう言った。


 それを聞いたアキにぃ達は何も言わなかったけど、目の前にいる仮面の人達から目を離さなかった。


 だから私は目の前を見て、止めようと思った。


 この人達の行動を、止めようと決心した。


 ヘルナイトさんとトリッキーマジシャンさんは目の前にいる二人……、厳密には一人の『六芒星』と対峙し、私は背後で手をかざして待機する。


 ヘルナイトさんは大剣を。トリッキーマジシャンさんは銀色のフレームが印象的な拳銃を両手に構えた。


 そして互いにお互いの名を名乗った。



「『12鬼士』が一人――『地獄の武神』ヘルナイト。推して参る」

「同じく『12鬼士』が一人――『煌きの奇才』トリッキーマジシャン。舞いますよっ!」

「『六芒星』が一角――人食鬼族(オーガ)人食鬼英雄(オーガ・チャンピョン)』オグト! オデ、行く!」



 互いが互いに武器を構えて駆け出す。


 そして……。


「『六芒星』が一角――闇森人(ダーク・エルフ)闇森(ダークエルフ)吟遊詩人(・バード)』オーヴェン。今日は休むわ」


 ……ちゃんとオーヴェンも寝転がりながらだけど挨拶をした……。私はそれを見て、意外とマメだと逆に感心してしまった……。

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