PLAY19 アルテットミア②
アムスノーム国王の案内で、私達冒険者はアルテットミア公国の中枢……。
アルテットミア公国のお城の謁見の間で、膝をついて待機していた……。
謁見の間はあのアムスノームとは違い赤で統一された部屋で……、私達の前には豪華な椅子。周りには兵士なんていない。
椅子の傍らには小柄な髭を生やした爺やのような老人が、こほんっと小さくえづきながら目を瞑って待機している。
私やアキにぃ、キョウヤさんは前にもあったので慣れている。
でもエレンさん達は……、震えながらカチコチになって待機していた。あ、ダンさんだけは正座できょろきょろと落ち着きがない。
ちらりと後ろを見ると……、さっき和気藹々と話していたマースさんやダンゲルさん、マティリーナさんがじっと膝をついて、頭を垂れながら何も言わずに待機している。
ここに来てからずっとこれだ……。
前で立ったまま微動だにしないアムスノーム国王。
そして私達のすぐ後ろ、ダンゲルさんの前で膝をついているヘルナイトさんとトリッキーマジシャンさん。
二人は慣れているようで、じっとしたまま固まっているようにも見える。
私はそれを見て……、不覚にもきれいだなぁ。と思っていると……。
「こほん……。アルテットミア王がお見えです」
じいやさん……、あ、これは仮称です。
じいやさんが言うと左の横のドアが開く音が聞こえた。左の方はきっと王族専用の通路なのだろう……。
そう思いながらドアから出てきた人を見る。
その人は……ララティラさんと同じ身長の人で、赤い鎧に身を包んだ厳格そうな雰囲気を出す人だった。手に持っていた武器は大きな刃がついた三つ又の槍。それを手にしたまま歩みを進めていく。
私はそれを見て、大きい人だと思いながら見ていると……。
その赤い鎧の人はずんっと謁見の間の椅子に座って、槍を立てかけた。そのまま足を組んで、右手で頬杖を突いてアムスノーム国王を見て言った。
「久しいな。ベンセントラレント・ルーベントラン・ノートルダム前国王。いや。今は――現アムスノーム国王。なのだな……」
赤い鎧の……なんだか声が高いようなそんな音色の王様はアムスノーム国王に対して言うと、アムスノーム国王は鼻で笑いながらこう言った。
「久しいのぉ。ロズレイド・ウィズ・アルテットミア王十二世よ。息災なく」
「あぁ、世が平和なおかげでもある。その言葉をうぬにも返そうか」
「ふん。青二才風情が」
これは、軽い雑談めいた近況報告なのだろうか……。
よく見る前置きと言うそれなのかと思い、私はそれをじっと見ていると……。
「………ふむ」
アルテットミア王は私達を見て顎にそっとゆるく握った拳を寄せながら、じっと私達を見ていた。
私は急に緊張が走ったせいか、膝をついたまま頭を垂れてしまった。
けど……。
「……ふふっ」
?
私は驚いて声を聞いた。というか……アルテットミア王……、今、笑った?
そう思っていると、アルテットミア王は穏やかな音色で私達にこう言った。
「そうかしこまらないでくれ。私は王と言う立場ではあるが、そこまで厳しいわけではない。むしろありのままの姿を見せてほしいくらいだ。ここいる捻くれた老王とは違う。顔を上げ、皆立って楽にしてくれ」
「老王とは、わしのことか……?」
アムスノーム国王がなんだかむすっとした音色で聞いていたけど、アルテットミア王はそれを無視して私達に「さぁ」と促す。
それを聞いて、私はそっと顔を上げた。みんなの顔を覗うと、顔を上げて驚きながらみんなの顔を見て……。
「そうか! なら胡坐でいいか!? 堅苦しいのはめんどくせーからよ! いいかオーサマ!」
どすんっと、言ったそばから胡坐をかいて豪快に笑っているダンさん。それを見て、私はダンさんの鋼のメンタルというか……、豪快さを思い知った……。
それを見ていたエレンさんとララティラさんは……。
「ばかあああっっ! こんなところでそんな無礼なことするなって!」
「おぅ? でもいいって」
「立って楽にしろゆーてたやろうが阿呆っ! というか胡坐やめぃっ! ほら王様カンカンやって!」
「楽にしていいって」
「「だあああああっっっ! もぉおーばーかーっっ!」」
と叫びながら慌ててダンさんを立たせようとしていた。
それを見て、アキにぃ達は呆れて見ていた……。でも……、私はおかしくなって、くすっと微笑んでいると……、ふっと誰かが笑う声が聞こえて……。
「はははっ!」
アルテットミア王が、え? ん? あれ……? 笑った……?
それを見て、私やアキにぃ達、あろうことはマースさん達も驚いて見ていると……。くつくつ笑いながらアルテットミア王は「いや、すまない」と言って手を上げる。傍にいたじいやさんも驚いて「王よ……?」とおっかなびっくりに、開いてしまった手を動かしながら挙動不審になっている。
でもアルテットミア王はじいやさんを見ながら「いや、大丈夫だ」といって、アルテットミア王は言う。私達を見て……。
「いや、すまないな。そこにいる……エルフの亜種の男に、ピクシーとエルフの魔人の女性。そして巨人族の男の会話を聞いて、行動を見て……、仲がいいと思ってしまって、正直面白いと思ってしまって……、つい。な」
そんな言葉を聞いて、エレンさん達は固まってしまった。
まぁ当たり前だけど……、アムスノームの時とは大違いのそれだったので……、私も正直驚いている。
「……そなた達異国の国では、そのような壁が存在しなのだろうな……」
……そのアルテットミア王の小さな言葉を、私達は聞き取ることができなかった。
するとアルテットミア王はすっと立ち上がる。それを見たじいやさんは「王っ!?」と驚いて席に戻るように流しているけど、アルテットミア王はそれを制して――
「いい、伏せておけ」と言った。
それを聞いて、じいやさんは歯がゆい顔をして、すっと顔を伏せた。
アルテットミア王はカツカツと、鎧の音と靴の音が合わさったような足音を立てて、立ち上がったみんなの近くに、歩み寄った。
それを見てアムスノーム王は、ただその行動をじっと見ているだけだった。
アルテットミア王はカツカツととある人の前に向かって歩みを進める。
そして止まる。
アルテットミア王が止まった先にいた人物は――モナさん。
モナさんは肩を震わせて何をされるのかと思いながら固まっていると……、アルテットミア王はすっと鎧の手を出した。
それを見て、モナさんはぎゅっと目を瞑ったけど……。
「目を見せてくれ。何も危害は加えない」
優しく言い聞かせるような音色で言うアルテットミア王。
それを聞いて、モナさんは恐る恐ると言った感じですっと目を開けると……、アルテットミア王はその眼を見て……、「なるほどな」と言ってから……。
「この目は……、まさに『魔王族』の目だな」
と言った。
「魔王……族……」
私はそれを聞いて、小さく言葉を零す。そう、魔王族は――ヘルナイトさんと同じ種族……。
でも……。
「モナさんは……人間のはず」と言った時、アルテットミア王はくるっと私を見た。鎧で顔までは見えないけど……、アルテットミア王は私を見たまま穏やかな音色で言う。
「君は……、そうか。マースクルーヴが言っていた『大天使の息吹』に選ばれた天族の少女……。希望の天使だな」
「おっ……?」
久し振りの言葉と、そして恥ずかしい言葉を聞いて、私は急に恥ずかしくなって顔を伏せてしまう。しかしアルテットミア王はフフッと笑いながら。
「本当のことを言ったまでだがな……」と言って、私はそっと顔を上げる……。恥ずかしがりながら……。
うぅ。なんでここの人達は恥ずかしいことをさらりと言うんだろうか……?
そう思っていると、アルテットミア王はモナさんの目を見て……、モナさんに対して言った。
「君の名前を聞いていいかな?」
「あ、はい……っ。モナです」
「ふむ。モナよ。君は冒険者免許を発行する時……、ギルドの関係者に呼ばれなかったか?」
「あ、はい……」
モナさんは思い出しながら頷く。
そう言えば確かにそんなことがあった気がする。
「マースクルーヴよ」
「は」
アルテットミア王はマースさんを呼ぶと、マースさんに対してこう聞いた。
「その時、誰が対応したんだ?」
「あの時はハンナ様が居まして、副ギルド長のエルドレイドが対応しました。しかし異常もなかったが故、すぐに返してしまった所存です……」
頭を下げたマースさん。続いて申し訳なさそうにして、こう言った。
「申し訳ございません。私が対応していれば……、このようなことには……」
「気にするな。それに……、魔王族の血を引いた人間を見つけるのは難しい。それにモナはその傾向が全く見えていなかった。つまり敵と対峙して、感情の変動が原因でその魔王族の血が目を覚ましてしまっただけだ。対処は簡単にできる」
そう言って、アルテットミア王はじいやさんを呼んだ。
じいやさんはささっと素早くアルテットミア王の近くに来て、そのまま小さいクッションに乗せられたある宝石を手渡した。
それは……、ネックレスだった。
ネックレスは銀色で、その宝石を入れるところにはとある宝石が埋め込まれていた。ピンクと紫がマーブル上になっている、何とも不思議な色のそれで、それを手に取って、アルテットミア王はひっかけるところを器用に外して……、モナさんの首にそっと、優しく首にかけた。
それを見ていると……。
モナさんはその宝石を手に取って、じっと見て黙っていると、アルテットミア王は言った。
「顔を上げてみろ」
その言葉に、顔を上げると――
「あ」
私は呆けた声を出してしまった。みんなも驚いてそれを見ている。
モナさんだけは辺りを見回して「どうしたの?」と驚いていると、近くにいたシャイナさんがいつのまにかであろうか……、水色のコンパクト手鏡を出して、それをモナさんに見せると……。モナさんは自分の顔を見て……、驚きながら……。
「あ! 戻ってる!」と言った。
「全然戻らなかったのに……」と言いながら、シャイナさんの手鏡を手にして、自分の顔をじっと見ながら言うと、アルテットミア王はそれを見て微笑むような音色でこう言った。
「今渡したのは『封魔石』だ。魔王族の力を抑制することができる……。瘴輝石とは違う鉱石で作られた石だ」
「へぇ……。封魔石……」
納得したように言うアキにぃだったけど……。
すぐにはっとしてエレンさんたちを見て大きな声で言った。
「てか、モナってそんなにすごい種族だったんですかっ!?」
「いや、俺達も今知ったところ!」
「そんな種族、MCOにはなかったで!?」
「これ! 王の前であるぞっ!」
エレンさんとアキにぃ、そしララティラさんの話を聞いていたじいやさんは、きっと顔をしかめて怒鳴るけど……。アルテットミア王はそれを制して……。
「よい。これでいいんだ。私は許す」と言った。
それを聞いたじいやさんは、「う」と唸ってから、一歩後ろに下がって身を縮める。私はアルテットミア王を見て思った。
厳格そうに見えて、案外気さくな人だな……。と。
アムスノーム国王のように、もっとすごい威厳を持っているのかと思っていたのだけど……、それを感じさせているけど、フレンドリーに話している。
それを聞いていたキョウヤさんは腰に手を当てて見ながら……。
「というか、魔王族って……」
と言って、ヘルナイトさん達を見るキョウヤさん。私も見て、みんなも見ると、ヘルナイトさんは鎧越しに指で頬を掻いて……、トリッキーマジシャンはそれを聞いて、私達を見て、ふんっと自慢げに鼻を鳴らしながら、腰に手を当てて胸を張ってこう言った。
「その通りです! 私達は異常に高い潜在能力を持っている種族! 私達でさえもそれを隠しきれない能力で、他の種族と混じっても隠し切れないほどの力を有しているのですっ! その証拠に――」
ちらっとヘルナイトさんを見るトリッキーマジシャンさん。
ヘルナイトさんはそれを見て、少し考えたあと、ふぅっと息を吐いて……。
え? と……、私は驚いてしまった。
ヘルナイトさんは鎧の甲冑の……、顔を隠しているそれに手をやる。トリッキーマジシャンさんも。仮面に手をやって……、『ガコン』とそれをとった。
「え!? とるの!?」
「うそ!」
「今まで見たことがない……、レアな光景……?」
誰もがそれを見て驚く中、私は少しだけ……ドキドキしていた。
なぜドキドキしているのか明白だった。
ヘルナイトさんの顔が見れる。気になっていたことが判明するのが、嬉しかったのだ。
悪いことを言うけど……、この話を振ったキョウヤさんに内心感謝した。
私はそれが見れる瞬間を、目の渇きなど何のそのと言わんばかりに瞬きしないでじっと見る。みんなもじっと見る。
マースさん達とアルテットミア王、じいやさんにアムスノーム王はそれを見ながら待っている。
そして、だんだんとだけど、ヘルナイトさん達はその仮面の奥の顔を……。
期待から、急降下して疑念に変わった。
えっと……。うん……。
見れた……で、いいのかな?
ヘルナイトさんとトリッキーマジシャンさんは、確かに見せた。
目元だけ。
本当に、目元だけを見せてくれた。
そのあとすぐに『ガチャン』とすぐに顔を隠してしまった。
それを見て、その場の空気が冷やかなそれになった時……、アキにぃはヘルナイトさんに聞いた……。
「あの……、顔、見せないの?」
その言葉にヘルナイトさんは申し訳なさそうに頷いて……。
「すまん……、これはその……」
と言っていたけどトリッキーマジシャンさんはそれを聞いて「はぁ?」と言ってから、まるで人を小馬鹿に見下すようにこう言った。
「私はただ、その魔王族であるという証拠を見せると言っただけです。顔を見せるだなんて……、なんて下劣な……」
「今の場面は顔を見せるような展開だっただろうがっ!」
エレンさんが突っ込むけど、確かに……。
トリッキーマジシャンさんの目は細めの中にある小さい瞳孔には黄色い二重丸のマークが浮かび上がっていて、ヘルナイトさんの鋭くて怖い目だったけど……、瞳孔に浮かび上がっていたマークは……。
十字架の後ろに、罰マークがあるそれで……。
「?」
……………あれ? と、私は急に来た頭痛に、頭を抱えたけど、何か思い出しそうなそれに、私は必死に思い出そうとする……。
あの眼。私は知っている……?
どこで、どんな状況で? あれ……?
どこで、みたの……? なんで、思い出せないの……? なんで、忘れてしまったの……?
……忘れてはいけない……、大切な記憶だったはずなのに……?
そう思っていると、近くにいたキョウヤさんが私の顔を覗き込むように――
「大丈夫か?」と、心配して声をかけてくれた。
それを聞いて私は一気に現実に現実に引き戻されて、すぐに首を横に振って「大丈夫です」と控えめに微笑む。
それを見てキョウヤさんは「そうか」と言いながら、私の頭を撫でると重ねてこう言った。
「まぁ、あんま考えすぎんなよ」
「…………………はい」
そう言う私だけど、内心は困惑していた……。
なぜあの時『大切な記憶』と思ったのか。
なぜヘルナイトさんの目を見た瞬間、頭が痛くなったのか……。
何より……、私は……。
あの眼を、どこかで見たことがある。
そう思ってしまったのだ……。
そんな私の困惑を無視するかのように、トリッキーマジシャンさんは話を続けた。




