PLAY18 アストラと言うチーム⑥
見上げた先――鐡の背中から出てきたのは……、シャイナと同じ暗殺者特有の影だ。
その姿はまるで、落ち武者。
落ち武者=ボロボロの鎧を着た地縛霊と言うイメージだろう。しかし鐡が出した落ち武者は……、違った。
首はなく、矢が何本も突き刺さっている鎧を着て、錆びていて血がこびりついているそれを持った、怨念そのものの影が出ていたのだ。
まさに、日本版デュラハンである。
しかも周りに青い人魂ときた。正真正銘の日本版デュラハンだ。
これは圧巻……。そう思いながらエレンは見ていたが、すぐに弓に矢を装填して構える。
「これは厄介だな……っ!」
「武士かと思ったらキラーだったなんて!」
「そんなこと言っている暇ないし! 来るよ!」
シャイナの言葉を合図にしたのか、鐡は腰を後ろに反らせながら叫んだ。
「いけぇ! あいつ等を八つ裂きにしろぉ――『最後の落ち武者』!」
『御意』
その言葉を聞いたのか、『最後の落ち武者』はおどろおどろしい声色で言い……、グワッと鐡を守るように前に出て、エレン達に向かってどんどんすごいスピードで近付き刀を構えて斬ろうとした。
「『無慈悲な牧師様』! あたし達はあのキラーやるけど、準備いいっ!?」
『ラジャ! デェス!』
「あたし達であの影止めるから、あんた達はあの二人を止めて!」
そう言いながらシャイナは鎌で指をさすように、鐡とデスペンドを指さして言った。それに対してモナは頷き、エレンも何となくだが状況を察して、弓に矢を装填する。
ぎりっと弦を引いて、狙いを定める。
「モナちゃん! 戦いたいのはわかるが、今は鉱石族の人達の手当てをお願いしたい!」
「っ! あ……」
モナは今更ながら思い出す。
そう、彼らの周りには倒れている鉱石族の人達がいる。皆体から血を流しているが……、呻き声や動こうとしている人達が多い。というか全員生きている。
しかしそれを見ないで戦いに専念したことは、モナにとって、メディックにとってすれば盲点だった。
モナはぐっと口を噤み、鐡を見て、はぎしりをして睨んだ。
それを見て、エレンは思った。
――何かあった……どころの話じゃない……。
――きっと、こいつらはモナちゃんの心境を変えるようなことをしたんだ……。
――悪い方向に……。
「わ」
モナは口を開いて……。
「わかりましたっ!」
倒れている鉱石族の人に近付いて、緑の淡い光を出す。
それは『中治癒』だ。
それを見てエレンはきっと二人を睨みつけ、ギリッと弦を力一杯弾く。じっと狙いを……、ニタニタ笑っているデスペンド達に向けて……。
ガギィンッという剣と剣が交じり合う音が聞こえたと同時に、エレンは放つ!
パシュッと言ういい音が聞こえ、高速で飛んでいく矢を見て、エレンは次の矢を装填しようと、腰につけている矢筒に手を伸ばそうとしたとき……。
事態が急変した。
「占星魔法――『反射鏡』」
「っ!?」
パシィンッと、デスペンド達の前に出た半透明の壁。
その壁に矢がこつんっと当たったと同時に、矢はぐにっと、僅かに間があった後……、バィインッと、ぐるぐると回りながら飛んでいく。エレンに向かって――
「おっとぉ!」
エレンはすぐにその場から離れて、エレンがいた場所に矢が突き刺さった。
それを見たシャイナは、『無慈悲な牧師様』と一緒に戦いながら『最後の落ち武者』を倒そうとしているとき、その異常な光景を見て驚きの顔をする。
そして、モナは「エレンさんっ!?」と声を上げて驚き、彼の安否を気にしながら言った。
エレンは、その二人の視線や声を聞いていたが、それ以上に驚きの光景が、彼の目に映った。
「ふふふふ。やっといい音が聞こえたぁ」
「ウソだろ………」
エレンは青ざめながら、引きつった笑みでそれを見た。
デスペンド、鐡の間に入るように入った男を見て……、エレンは小さい声で、「何で出れたんだ?」と言って、エレンは頭に手を添えながら……。
「マジで勘弁してくれよ……。こんな時に何で出てくるんだ……」
と言って、じっと、彼はその人物を見て、心底苛立ちと絶望が混ざったような顔で、彼は言った。
「――エンドー」
「っ!」
「?」
モナはそれを聞いて絶句し、何も知らないシャイナは頭に疑問符を浮かべて、エンドーを見た。
見た目は優しい青年の雰囲気ではある。そうシャイナは思った……。
が……。
エンドーは久し振りの外の姿を見て、そしてこの状況を見て、ぶるっと震えながら自分を抱きしめて、昂揚とした顔で歓喜に震えながらこう言った。
「あああああああっっ! ゴウゴウ! ぎゃああっ! わぁぁ! そしてドス! ぐしゅ! あああああああ~っっ! 久しぶりのいい音ぉおおおっ! イイッ! すごくイィ! あぁぁ! もう昇天しそうだっっ!」
「変態かよ……」
『ウエッ!』
「吐かないで。気持ち悪いのはあたしもだから……」
そんなぶるぶる震えて、そして興奮の絶頂に達しそうになっているエンドーは、泣きながら頬を染めて、涎を流しながらその音に心酔していた……。
シャイナはそんな風景を見て、青ざめながら吐き気を催しそうになり、口元を押さえながら冷静に言う。彼女と心境を共有しているのか、『無慈悲な牧師様』は口を押えながら吐きそうになる。
それを聞いてシャイナは即座に止める。
「なんで……、あなたは牢屋に……」
「ケケケッ!」
デスペンドはエンドーの背後から出てきて、彼はとあるものを取り出した。
それは、錆びれた鍵。
「! シーフゥー!」エレンが言うと、デスペンドは「あたり」と言って……。
「これは俺のスキル……、『マスターキー』だ」
「「っ! あ!」」
モナもシャイナも、思い出した。
シーフゥーの特権でもある。鍵付宝箱の開錠や、鍵がかかっている扉の開錠に、シーフゥーはうってつけなのだ。そのスキル『マスターキー』もその一つで、簡単に鍵が開くというすぐれたスキルなのだ。
もっとも……、その『窃盗』スキルを上げないと取得できないものなのだが……。
それでも、デスペンドはそれをしてしまったのだ。
音フェチ快楽殺人鬼――エンドーを、出してしまったのだ。
「なんで出したのかはわからないけど……、厄介だなぁ……」
と、エレンは頭を掻きながら言う。
それを見ていた鐡は、くくっと笑いながら彼は、狂気のそれでエレンを見て、言った。
「これで形勢逆転だ! 君達は自由なボク達に負ける!」
それを聞いて、デスペンドも言った。その言葉の続きを言うように。
「何でお前達が負けたかって? ケケケ! それは自由じゃないからさっ!」
「話には聞いているよ! 僕は自分の正直に生きて、殺して、幸せを噛み締めてきた!」
エンドーも昂揚としながら、己を抱きしめて言う。
それぞれが、言いたいことを言い、まるで打ち合わせでもしているかのように言葉をつなげていく。
「君達は縛られて生きている!」
鐡が言う。
「縛られているから俺達は自由を求めた!」
デスペンドが言う。
「縛られていて、それで幸せなの?」
エンドーが言う。
最後に、三人同時に言った。
「「「それは自由じゃない! 自由とは何にも縛られないことを指すんだ! 今の社会は自由なのか!? 否違う! 自由と言う名の仮初の檻に縛られいる! 法律に縛られることもない! 人に縛られることもない世界こそが! 真の自由なんだっっ!!」」」
それを聞いて、モナはぎゅっと下唇を咬んで、怒りを抑えるようにして、彼女は思った……。
――じゃぁ、自分の美貌を見なかった二人を殺すことも、自由でいいのっ!?
そう思った瞬間……。
「――くっだらねぇっっっ!」
「!」
そう叫んだのは……シャイナ。モナはシャイナを見た。シャイナは鎌を振り回しながら、話を聞いて思ったことを正直に口にする。怒りをあらわにして、彼女は言った。
「そんなのは盲信だ! ただのインチキ宗教の教えだ! 要は自分が縛られていると思っているから、そう思って逃げたいだけじゃん! ただの弱虫の考える異常思考だ! 自分で何も考えないで洗脳されて、バッカみたい!」
『マスターは自分のソウルに従い、ここまで来たん、デェス!』
『無慈悲な牧師様』も反論しながら戦っていた。
それを聞いて、モナは内心、シャイナがかっこいいと思い、そして――
――やっぱり、シャイナちゃんは……、強い。と思った。
「……そうだ」
モナも、小さく言う。そして……。治療しながら、彼女は言った。
「自分の意志に反する行為や言葉を言っただけで、殺すことは、自由じゃなくて、ただの我儘のやることだよ。自分のことを認めてもらいたいのなら……、まずは自分を変える。自分が変わるべきなんだよ……。そんなことをしないで、ただ自分の言うことを聞かない人を傷つける。殺す奴なんて……、最低のどくずだっ!」
その言葉に、三人は苛立った表情でモナとシャイナを見た。
だが、反論できない。
それを見たエレンは……、唐突に――
「――アストラ」
「「「?」」」
「「はい?」」
その言葉を聞いて、モナ達はきょとんっとしてしまう。
しかしエレンは言った。
「アストラって、なんだと思う?」
唐突な質問。それに対し、鐡はじとっとした目でエレンを見て……、低い音色でこう言った。
「……アストラハンって言う地方で生産されている、子羊の毛皮だろう……? そこからとったんだろうけど……」
「違うんだよな。これが」
「「?」」
「何が言いたいんですかぁ……? エレンさん……」
小馬鹿にしたような言い回しに、鐡とデスペンドは頭に疑問符を浮かべ、目をすっと細めてエレンを見た。
エレンは未だに笑っている。それを見ていたエンドーは答えを聞き出そうとした時……、エレンは言った。
「アストラってのは……適当なんだよ」
「「「はぁ?」」」
なんだその答えは、そんな風に素っ頓狂な声を上げる三人。
しかしモナとシャイナはただ話を聞いていた。エレンは続ける。肩を竦めて、小馬鹿にする動作と顔で……、彼は言った。
「結局さ。そう言ったことは全部自由なんだろ? 俺達って法に縛られているって言ってても、結構自由に生きている。というか、俺は今の自由の方が好きだ。お前達の言う、法律や何かに縛られていない自由って、ただの無法地帯じゃないか」
アストラは、そんな思いを込めて名付けた。そうエレンは言って、鐡たちを見て、彼はにっと笑みを作って言った。
「細かいことは考えないで、今は目先のことだけを考えて、楽しい日々を送れるように。適当にアストラってつけただけのそれだ。明日に向かって、虎のように走るっていう意味で――」
だよな? と、エレンは上を見上げて――大きな声で言った。
「――ダンッ!」
「「「!」」」
刹那。
月をバックに、小さい影がふっと出てきた。
それを見たシャイナは……一瞬「ゴリラ?」と驚きながら言った瞬間……。だんだんその影は大きくなって、そして――
ズダンッと、大きな音を立てて着地して、地面がメシャリとめり込むくらいの着地をした大柄の男。
それを見てエンドーとデスペンドはぎょっと驚く。
鐡は青ざめながら「な、なんだこの醜い奴は!」と驚きの声を上げて距離を取ろうとした時……。
ぐんっとシャイナを見て……、『最後の落ち武者』を見て、大男はダッと駆け出す。
そして――右拳を引いて……。
「ぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!」
と咆哮を上げて……。
ぼっという音が出そうなくらい、腰を使って捻りを入れて――男は『最後の落ち武者』の胴体に……。
「ふぅううきぃぃいとぉぉぉべぇええええっっっ!」
ばぎゃりっっ!
そんな豪快は破壊音が、エストゥガ中に響き渡った。
避難誘導をしていたブラドとグレグルはそれを聞いて、「「(倒木の音……にしては大きすぎるような……)」」と、頭の片隅で思ってはいたが、誘導を優先にしていた彼らにとって、その音の正体のことに気が回ることはなかった。
だが、誰もが驚くだろう。
モナ、シャイナ、『無慈悲な牧師様』、鐡、デスペンド、エンドーが驚愕のそれに顔を染め、エレンだけは、溜息とともにやれやれと言った感じでこう言った。
「遅いぞダン。何してたんだ?」
「いやな! 手合せに集中しすぎて、迷ってな! それにしても」
と、ダンはエレンを見ていてニカッと豪快に笑っていたが、彼はふっと目の前を見て、首を傾げながら「だめか」という顔をして困ったように彼は言った。
「一撃必殺は無理だな! ガハハハッ!」
ウゴウゴと慌てふためく『最後の落ち武者』。
慌てるのは無理もないだろう……。鎧を突き破り、ましては胴体にも突き刺さるように刺さっているそれを引き抜こうと、『最後の落ち武者』はダンの手を掴んでぐっぐっと引きはがそうとする。
しかし……、ダンは気にもせずに、というか気付いていないのか……。
「どうやったらぶっ飛ぶんだろうな……。もっとこう……、ガァーンッ! と行けば」
「ダン。その前に今は状況を」
「どうだろうな! エレン」
「聞いた俺がバカだった。この単細胞戦闘狂」
自分の行いに呆れてエレンはふぅっと息を吐いた瞬間……、エレンはキッとデスペンド達を睨んで弦をしならせて放つ準備をする。
それを見て狼狽する三人。しかし――
鐡だけは、にっと不安の汗を流しながらも、自分の勝利を信じていた。理由は……。
『最後の落ち武者』はドロッと形を作っていた姿を崩して、液体になる。
それを見たダンはぎょっと驚きながら「おぅ!? 逃げねーで戦えって!」と、場違いなことを言いながら腕を振り上げて怒っていた。
エレンはそれをみて呆れていた瞬間……、彼の目の色が、危機迫るそれに変わっていた。
「『常世の月に写りし静寂の刻』」
『最後の落ち武者』も口を揃えて言うそれはシャイナも知っているそれで、モナ達もすぐに立ち上がって構えをとった。けがをした鉱石族は全員手当が終り、その場から逃げるように走って行ってしまった。ゆえにこの場に残っているのは……、エレン達プレイヤーだけだ。
否――。
鐡は落ちていた自分の刀を手に持って、そのまま居合抜きをするように、鞘にいったん納めて……構えて――
「『我が血濡れし名刀を以て、宿敵を絶たん』」
と言って、鐡は鞘から刀身をすっと抜刀し……。
――全詠唱強制停止――
「『――『奪命斬』ッ!』」
しゃきんっと、ただ刀を振った。
それだけ。何も出ない。衝撃波も、斬撃も、ただ構えをとっただけのポーズのそれだけだった。
エレン達は、それを見て何をしているんだろうと思ってみていた。エレンに至っては……、ほっと胸を撫で下ろして……。
不発か。と安堵した。しかし鐡はそれを見て、目を見開いて、刀の先を見て……、彼は小さく、震える口で、呟いた。
出ないと。
シャイナはすぐに『無慈悲な牧師様』と一緒に、鎌を持って駆け出す。モナもすぐに駆け出し、拳を振りかぶって、ぶん殴る体制になる。
二人とも、鐡を狙っての攻撃だ。鐡はすぐにスキルを発動しようとした。
エンドーも手に持っていた水晶玉を持ってスキルを発動しようと口を開いた。
「し、占星魔法――『」
――発動能力停止――
「反射鏡』!」
と、エンドーが言ったが、鐡の前に半透明の壁がでなかった。
否……。
「あ? あぁっ!? スキルがでねぇ! 『窃盗』できねぇ!」
「――っ!?」
それが一体何を指すのかわからない。しかしエンドー達三人は今、危機的状況に置かれた。
スキルが発動できないということは、簡単な話……スキルが出せない。
=
無防備。何もできない丸腰の人達と言うことになる。
エンドーは辺りを見回して、誰が伏兵がいるのかと思い、探す。しかし誰もいない。
デスペンドは慌てながら自分の手を見て。
鐡は後ろに倒れるように逃げようとするが……、それよりも早く……。
「「おおおおおおおおりゃあああああああああああああああああああああっっっっ!」」
二人は、己の武器を持って、スキルも使わないで……。
ばぎゅり! と、モナは鐡の顔面に拳を、シャイナは鐡の胴体に鎌を――
めり込むくらい力いっぱい、地面に向けて――叩きつけた!
ドガァンッと響き渡る轟音。それを聞いて、エレンは青ざめてそれを見て、ダンは「おぉ!」と歓喜の声を上げて驚いていた。目をキラキラさせながら……。
鐡はずぽっとモナの拳がはがれたと同時に……、ぎりぎりとぐちゃぐちゃになった顔で憤怒のそれにしたまま、彼はその口でこう唱える。
「マナ・イグニッション――『基地帰還』ッ!」
と言った瞬間、まるでテレポートでもするかのように、ふっと消えた鐡。それを見て、モナ達は驚いて固まってしまう。
しかし戦いは終わってない。
「あの野郎! 逃げやがった!」
「仕方ない! 僕らだけでも」
「そんなことさせへんで」
と、この場にはいない女性の声。
しかしその声はエレン達が知っている女性の声で、エレンは後ろを向いた瞬間……、戦いは終わってないと言いながら、その女性の登場によって勝負は終わっていた。
「『状態異常』」
杖の先からブワリと出た紫と黒が混ざったような光。それはどこにも行かずにその場で光っている。が、すぐに消えて、それが伝染したかのように。
「うぐっ!?」
デスペンドはびくっと体を震わせて、口から泡を吹いて倒れ。
「あがっ!」
エンドーは体をびくびくと震わせ、顔を紫に染めて倒れる。
モナ達はそれを見て驚いていると、カツカツと言う音を聞いて後ろを向くと、そこにいたのは――
「ランダムってゆーても、うちはやっぱ運がいいのかもな。冒険者免許にも運は8って書いてあったし」
と言いながら来たのは、エレン達と一緒に行動しているウィザード。
「こんばんわだな。ティラ」そうエレンが肩を竦めて言うと、ララティラは腰に手を当てて、ふんっと地面気になりながらこう言った。
「うちがいないと――この男共は駄目やな」
――こうして、エストゥガで起こった事件は、幕を閉じた。負傷者はゼロと言う……、快挙を残して……。
◆ ◆
次の日。
あれからデスペンドとエンドーは、また牢屋送りになった。今度はデスペンドも一緒に。
麻痺状態になったデスペンドと、毒状態になったエンドーは、状態異常の回復などせずにそのまま牢屋に入れられ、そのまま放置することになった。その方がいい薬になるだろうと、ダンゲルが判断したのだ。
被害は休憩所のそこだけ。他のところはただ燃えただけで、手先が器用な鉱石族にとってすれば、すぐに修復できる規模の事件だった。
鉱石族にとってすれば小さい事件であったが……、モナにとってすれば重大なことを聞いた、精神的に負担が大きい事件でもあった。
ギルドの前で、エレン達『アストラ』と、シャイナとモナが、ダンゲルと一緒にいた。
むぃとコウガ、グレグルにブラドは、被害があったところの修復作業に行っていない。
「…………………………………」
「モナちゃん……」
ララティラは頭を垂れて落ち込んでいるモナの肩に触れる。心配そうに見ているそれを見て、エレンとダン、そして残っていたシャイナは何も声をかけれなかった。
が、いつまでもくよくよしてはいられない。
そうモナは思った。
――ハンナちゃんだって、最初は怖いって思っていたけど、運命を受け入れて旅に出た。
――くよくよなんてしてられない。
――私年上だし、それに……いつまでも過去の幻影の囚われてはいけない。
私も、頑張ろう。
そう思って顔を上げてると……。
「?」
モナは頭に疑問符を浮かべていた。エレン達とダンゲルはモナの目を凝視していたのだ。
モナはそれを見て首を傾げながら「ど、どうしたんですか?」と聞くと、ダンゲルはそれをじっと見て……小さく。
「……まさか」と言った瞬間だった。
「――お初に御目にかかります! 同胞よ!」
「「「「「「!」」」」」」
上から声がした。
その声を聞いて一同は上を見上げると、見上げたその先でふよふよと風船のように落ちてくる存在が彼等のことを見下ろしていた。
明らかに奇抜な服装でピエロのような恰好をし、手の先、爪のところが異様に尖っている、まさに道化と言われてもしっくりくるような奇抜な仮面の男が落ちながらその人物は言った。
「私は『12鬼士』が一人、煌きの奇才――トリッキーマジシャンと申すものです! 以後、よろしくお見知りおきを!」




