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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
5章 悪魔の花が咲く頃に
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5章 プロローグ 毒花の芽生え

 13年前のプロローグです。

「♪」

 少女は花壇の花に水を撒いていた。

 膝まで伸びた紫の髪。

 前髪に隠れかけた目は温厚な光を宿している。

 彼女――黒百合紫(くろゆりゆかり)は鼻歌を奏でていた。

「おい見ろよ」

「花子が花に水かけてるぞ」

 そんな光景を偶然見かけた男子生徒が二人。

 瞬間、紫の顔から表情が消えた。

 視線は地面へと落ち、しゃがんだ姿勢のまま頭を下げた。

 ただ嵐が過ぎますようにと祈りながら。

「おーい花子ぉー? お友達の頭に水かけたら駄目ってセンセ―に言われなかったのかぁ?」

 男子生徒の一人が紫の手からジョウロを奪う。

 それだけにとどまらず、彼女の頭へと水をかけ始めた。

 濡れた髪が頬に張りつく。

 下着まで濡れ、春だというのに肌寒くなる。

「ハハ。お前も水かけてるじゃんか」

「花に水かけてやってるだけだろーが。オレ、園芸部員ですからっ」

「あはははははッ」

 ゲラゲラと笑う男子たち。

 紫は顔が濡れていたおかげで涙を流していることがバレなかったことに感謝する。

 きっと今、泣いていることを知られたのならばもっと酷い目に遭わされるだけだから。


「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁッ!」


 そんな時、少女の声が響いた。

 少女は滑り込むように男性生徒に接近すると、そのままジョウロをひったくった。

 少女は憤怒に染まりながら怒鳴る。

「そんなことやって恥ずかしくないのかッ!? 大体、お前たちが水やりをサボるから黒百合がやってるんだろッ! 謝るどころかこんな事ッ……! 許されるわけないだろッ!」

 少女は叱りつけるように男子に迫った。

 その勢いに押されて男子たちは後ずさる。

「んだよ――行こうぜ」

「おう……」

 男子たちはそそくさと退散してゆく。

 残ったのは静寂と、二人の少女だけ。

「大丈夫かい?」

「…………うん」

 少女に話しかけられ、紫はうなずいた。

 すると少女は太陽のような笑顔を見せる。

「良かった! ごめんね、助けるのが遅くなっちゃってさ!」

 少女は快活に笑う。

 そんな姿を見ていると、自然の紫も微笑んでいた。

「黒百合ちゃんだったよね。君、やっぱり笑うと可愛いよ」

「……そんなことない」

 紫はそう言いつつも顔を手で触って確かめる。

 ――頬が熱い。


「――黒百合って、花が好きなのかな?」


 少女はそう問いかけてくる。

 その質問への解答は迷うまでもない。

「――好き」

 黒百合紫は花が好きだった。

 咲いているだけで人を笑顔にする花が。

 存在するだけで誰かの役に立つ花が。

 ――好きだ。


「わたしは……花になりたい」

 

 生きているだけで誰かのためになれる存在になりたい。

 今の自分では、望むことさえ許されない願いだけれど。

「花になりたい……ね」

 少女は思案する。


「うん! アタシは思わないかな!」


 そう言い切る少女。

 ――きっと彼女も、紫を馬鹿にするのだろう。

 そうしてみんな離れてゆくのだ。

「だって黒百合。花はほんの少しの間しか咲けないけど、人間なら一生に何度でもいつまででも咲き続けられるんだよッ!」

 そう言い切る少女。

 紫は己の思想を否定されたにもかかわらず清々しささえ感じていた。

「でもそれは――あなただからだよ」

 人生のあらゆる瞬間を咲き誇り続ける。

 そんなことができる人間はごく一部だ。

 きっと、目の前にいるような少女だけなのだ。

「そんなことないさ。そんなこと、ないんだよ」

 そう少女は語りかけてくる。

 その目に宿るのは真摯な優しさ。

 彼女は本気で信じているのだ。

 誰でも輝けるのだと。

 いつからでも輝けるのだと。

 アニメのような綺麗事。

 しかし、なぜだろうか。

(……この気持ちは何なのかな……?)

 なぜか――彼女は信じても良いような気がした。

「あなたの名前……何?」

 紫は少女に尋ねていた。

 クラスも違う少女。

 孤立していた紫は、彼女の名前なんて知らないのだ。

 だから知りたかった。

 太陽のような彼女の名前を。

 知りたいと焦がれたのだ。


「アタシは向日葵(むかいあおい)! 向日葵(ヒマワリ)って書いて向日葵だよッ!」


 本当に、太陽のような名前だった。

 きっと彼女は太陽に愛されて生まれたのだろう。

 黒百合なんて陰気な名を持って生まれた自分とは違うのだろう。

 だから――求めてしまった。

「そういえばさ」

 少女――葵は微笑みかけてきた。

 彼女は変わらぬ笑顔で――


「――黒百合。()()()()()()()()()()()()()()()?」


 そんなことを口走るのであった。

 突拍子もないを通り越して意味不明な提案。

 だが、なぜだろうか。

「――うん。やりたい」

 不思議と答えを迷うことはなかった。

 引っ込み思案な紫が、躊躇いなく主張したのだ。


「向日ちゃんと……やりたい」

 

彼女と一緒にいられるのなら、魔法少女だろうと何だろうとかまわないと思った。

紫の胸の中で何かが芽生え始める。

その正体を、彼女はまだ知らない。

 

黒百合の花言葉は――呪い。


そして――――――()


 プロローグ 毒花クレイジーサイコレズの芽生え。


紫「葵ちゃんとヤりたいです(真顔)」


 ちなみに、向日葵と蒼井悠乃の音がかぶっているのはわざとです。

 まさかこれが災難の引き金になろうとは……。

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