97話 調子に乗ってみたかったの
「仕方がありません、そこのところは後で詳しく話し合いましょう」
「詳しくどころか、話し合うべき事などないがな」
「ぐぬぅ……」
恐らくここで食い下がったら、水を出すと言う一番大切な目的を忘れ去ってしまいそうなので一旦引き下がろう。でも、やる事やったらさっきの脛への一撃も含めて徹底的にやり返してやる。
精一杯頑張って睨んでも素知らぬ顔をして全く反応の無いウルズさんから、魔法石に視線を移す。改めて見上げると、改めなくても大きい。僕が壊しちゃったやつより倍はちょっと大げさだけどそれに近い位の大きな魔法石。使い方なんて大小関係ないとは思うけど、凄い勢いで水が溢れ出して一切合切流されるどころか街そのものが水没するなんて事は無いよね?
「ウルズさん」
「どうした?」
「これだけ大きいと、すっごい量の水が出るんでしょうかね」
「出るだろうな」
「みんな流されちゃったり?」
「……ふむ」
顎に手を当てて考え込み始めたウルズさんの答えを待つ事、数秒。
「知らんな」
「やっぱりそうですよね」
「まぁ、キサマの母上殿の事だ。 自分の娘がどれだけ知識と経験が不足しているのか理解している上でこれを預けたのだろう。 なら、心配する事は無いのではないか? もし、確信が持てないと言うのなら一度引き返すのも手だぞ。 水の通っていない排水溝ならそこまで出るのにも苦にならんだろうしな」
「ねぇ、ウルズさん。 毎度のことになるんですけど、やっぱりサラッと僕の事酷く言いました?」
「何の事だ?」
「いえ……」
うん! 知識も無ければ経験も無い上に、そう何度もここに足を運びたくない僕として出せる結論なんて一つしかない。ま、流されるなら流されてしまえば良いや。
「よしっ! 決めました。 ウルズさん、出来ればイエーガーさん達の所に移動しててもらっても良いですか?」
「了解した。 が、一応理由だけ聞こうか」
「これから魔法石に水の魔法を掛けます。 もし、湧き出る水が想像を超えて多かった時の為に皆を上へ逃がす準備をして下さい」
「吾輩が付き添わんでも良いのか?」
「最悪の場合は僕一人が湖に流されれば良いだけですからね。 そうなったらイエーガーさん達は溺れてしまいますので、上の層へ昇って順路通り帰還して貰わなくちゃいけないですけど……」
「なるほど、吾輩がキサマと一緒に流されてしまったら……と言う訳か」
「ええ、成り行きで同行したとはいえ僕達が誘ったわけですからここで置いて行くわけにもいきません」
「任せておけ」
「まぁ、母さんの作った魔法石ですからそんな事にはならないと思いますけど。 万が一の時には、一足先にザブーンと戻って神殿の入り口辺りで待ってますので」
「うむ、万が一が起きた場合は吾輩が責任を持って爺共を脱出させてやる。 ならば一旦離れるぞ」
気を付けろよ。と言ってイエーガーさん達の元へ歩いて行くウルズさんの背中を見送る。そう言えば、まだ『僕』だった頃に読んだ冒険譚にこんな様なお話があったな。まさかお話の中で出て来るような展開を実際に、しかも当事者としてかかわれる日が来るとは思っても居なかった。お話の中ではこの後、最悪な事態が起きて離れ離れになって一悶着があって、それでも最後は大団円になるって感じだけど……現実ではどうなる事やら。
「ウルズさん達は……うん、何時でも階段に駆け込める位置にまで避難てくれましたね。 なら、始めましょうかっ!」
少し大きめな独り言で気合注入。そしてもう何度目になるか分からないけど、改めて視線をウルズさんから魔法石へ。多分、魔法を掛けたら水が適量出て来てそれで終わりだとは分かっているけど気分はだけは冒険譚の主人公、ちょっぴりノリノリな気分。『僕』だった頃には絶対に味わう事が出来なかった高揚感に胸が高鳴り、その奥から何かが込み上げてくる感じがする。
ロッド両手で掴み頭上に掲げ、背筋を伸ばし目を閉じる。
大きく息を吸い込み、肺一杯に空気を吸い込んだ所で息を止める。
一秒、二秒、三秒……しっかりと為の時間を作った後……
後で冷静になったら、きっと顔を真っ赤にしてのたうち回る様な気がして来たけど今は気にしないっ!どうせ遠くから少人数が見ているだけだし、やっぱり憧れていたんですよねこう言うの。男の子だったら……今は女の子になっちゃったけど一度はやってみたかった。今の僕にはその憧れを可能にする力があるんだから行動に移すのは当然な事っ!!
よし、言い訳終わり。
高ぶった感情と貯めに溜めた魔力をロッドの先に集中させる。
ゆっくりと目を開きながら、深く……強く……更にとりあえず込められそうなものは全部ロッドの先にもっともっと込める。
何か、どんどん一人で勝手に盛り上がって来たっ!うん、これは今まで使った魔法の中で一番すっごいのになる。様な気がするっ!!槍の形にもならなければ球状にだってならない、ただ垂れ流すだけの魔法だろうけど、きっとすっごいのになる。
妄想の世界から意識を現実に戻し現状を確認すると、たっぷりと詰め込む事が出来そうなものを貯めに貯め込んだロッドの先は滾々と蒼い光が。全てを吸い込みそうなとても濃く深い蒼。
「……???」
あれっ!なにこれっ?ちょっとテンション上がり過ぎちゃった気がする。これって、何か大変な事にならない?あっ、もう止められる気がしない。ええぃ、なるようになってしまえっ!
「みっ、みじゅよっ!!!」
肺に溜めた空気を一気に吐き出す様に、良い感じで叫んでみた。……けど噛んだ。
もしかしたら来週の更新はお休みするかもしれません




