85話 一息付けるので自己紹介
お昼ご飯♪ おっ昼ご飯♪ 乾物しかないけどお昼ご飯~♪
「おぉ、戻られたかウルズ殿。 やはりこの下にもモンスターが?」
「うむ。 大した事は無いがこの場で小休止を入れるぞ。 丁度昼も過ぎた事だ、飯にでもするが良い」
さて、水と一緒に干し肉を食べて嵩増しするくらいの努力はしよう。それでもお腹が満たなければ牛だな。何とかして齧りつく隙を作らなくては。いっそ皆には先に行って貰って忘れ物をしたとか言って戻って来るとか出来ないだろうか。
「いや、儂等は短時間とは言えしっかり休む事が出来た。 それゆえ、この場で時間を潰すくらいなら先に進む方が良いかと?」
……なんですと? お昼ご飯を食べないと?
「その言い分は尤もであるが、ここで飯を食わんと吾輩達はそこの下に徘徊するモンスターよりも恐ろしい者を相手にせねばならん」
「恐ろしい?」
「ああ、食欲に理性を飲み込まれたデブゴンを相手にしなくてはならなくなるのでな。 大人しく吾輩の指示に従って貰おう」
「デブ……ゴン? ドラゴンではなく? 一体どんなモンスターなんじゃそれは?」
「うむ、デブゴンだ。 理性を失った奴は吾輩でも抑える事が厳しい程の凶悪さでな。 それと遭遇しない為にもまずは昼飯だ」
色々と思うところもあるし、反論したいところもあるけど言い返せない。前回ここに来た時もウルズさんの制止を振り切ってそこから飛び降りる辺りまでは記憶があったけど、次に気が付いたときは半分ほど牛をお腹に収めた辺りだった記憶が。
「そっそうか。 ウルズ殿がそう言うのであれば、我らは従うほかない。 二人とも、とりあえず今後の事も考えここで食えるものは食っておこうかの」
「それが良い」
どうやら無事にお昼ご飯を食べる事が出来そうだね。心の底からホッとしました。そうと決まればボーっとしてられない、早速カバンからお肉を!さぁ皆さん、立ってないでそこら辺に座ってご飯にしましょう。
「なぁ、ウルズさんとお嬢ちゃん。 昼飯ついでに折角だから簡単な自己紹介的なもんでもしねぇか? 勿論、無理に聞くつもりねぇが……どうだい?」
「ふむ。 鎧男よ、吾輩の事は別に呼び捨てで構わんと言っているだろうに」
「そう言われてもな、オヤジさんも殿を付けて呼んでいる以上俺も呼び捨てって訳にゃいかんよ」
確かヘルフェさんだったっけ?口調は軽いけど、こうやって話を聞いている感じだとあの筋肉お爺さんに義理堅いのかな、一体どんな関係なのか聞いて見たい。ルインさんはどっかの国の調査団に潜り込みたいって言ってたけど、そもそもこのおじいさん達はやっぱりそういう関係の人なのだろうか。
「ねぇねぇウルズさん、僕自己紹介とかしてみたいです」
「ぬ? 別に構わんが吾輩達が紹介出来る所なんて何かあるのか?」
「う……まぁ名前くらいは……」
確かに何て自己紹介すれば良いのか言われてみると何も出て来ない。白の女王の娘ですって自己紹介したところでルインさん以外は信じてくれないだろうしなぁ……わざわざ今はまだ我慢できるのに竜の姿に戻るのもどうかとも……やっぱりやめとこうか。
「よし、それなら儂から自己紹介をさせて貰おうかの。 儂の名前はイゴールじゃ、この大陸の西側の海岸沿いにある小国、グリーンベル王国の唯一の港町ポルートにあるちりめん丼屋の隠居爺じゃ」
しまった、こちらが行動を起こす前に筋肉お爺さんが自己紹介を始めてしまった。これではこちらも何か自己紹介をしなくてはならなくなったけど……どうしよう紹介するものが無い、住んで居る所はどこだか分からない山の上ですとか言ってもやっぱり信じてくれなさそうだし。
「あれ? グリーンベル? どっかで聞いたような……確かウルズさん、前に帝国とか何とか言ってませんでしたっけ?」
「うむ、吾輩が眠りに付く前にはグリーンベルは帝国であったな。 栄えていたものが衰退するのは世の常だ、何とか王国としてでも国の形を残したのだろう」
へー、帝国ってでっかい国の事だと思うけどそれが崩壊するって事は、大混乱になりそう。
「ほぉ! ウルズ殿はグリーンベルが帝国だった時代を知っておられるのか。 ぜひともその時代の話を聞いて見たいのじゃが、まずは自己紹介の方が先じゃな。 次はヘルフェじゃが、こいつは儂が隠居する少し前から雇った護衛じゃ」
「護衛と言っても、オヤジさんはご覧の通り今も現役で魔導人形を殴り壊せる実力があるから、実際は世話役と言った方が正しいな。 まぁ流石に、今回は本来の仕事をする事になっちまったがな」
確かにあれだけの筋肉だと護衛なんて必要ない気がするけど、隠居しているお爺さんがなぜこんな所に居るのかが分からない。
「それと、次がルイン君だがお嬢ちゃんとルイン君は顔見知りかい? 話を聞いている感じではお互い知っている様なそぶりじゃったが」
「はい、最近知り合ったばかりなのですが俺はこの子と彼女の家族に色々と……本当に色々と助けられる事がありまして」
「ほほう、それならば特に儂から紹介をする必要は無いかの。 後は、後ろで寝転がっている三人なのじゃが……」
結局未だ意識の戻らない血ダルマ三人組、流石に手拭いで顔は拭いはしたけどやっぱり血ダルマな三人組の名前はエッケさん、シュピールさん、シルバさんだそうだ。正直誰が誰なのか今一分からないけど、三人共ヘルフェさんの様にイエーガーさんの護衛だかお世話役だがそんな感じで雇われているとの事。あと、いい加減誰か一人でも意識が戻って欲しい、このままでは本当に見た目だけしか回復していないのではないかと気が気ではないです。
「さて、貴様らの紹介が終わったという事は我らの紹介だが、吾輩はウルズである。 この娘に呼び起こされた骨だ」
「えっと、クリスです」
……
………
…………
うん、それ以外紹介する事がありません、以上。
あぁ、イエーガーさんが続きを待つ眼差しでこちらを見てる、ヘルフェさんさんは何も言わない時間が続くにつれて訝しむ眼差しが強くなってきてるし。ルインさんは流石に僕の事を知っているだけあって、余計な事を言わない様に顔を伏せてくれている。
「ウルズさんと、クリスちゃんっだっけ? そ、それだけかい?」
「待てヘルフェ、これだけの実力があるにも拘らず世に名が知られていない者達じゃ。 多くを語れんのには、それなりな訳があるのじゃろう。 儂らは命を救って貰っただけでなく、この様に先に進む手助けをしてくれているのじゃ、多くを聞くのは止めよう」
違うんです、多くを語れないのではなくてですね、語る事が無いんですよ。イエーガーさん、素敵な勘違いをしてくれて本当に、本当に有難う御座います。
「ま……まぁオヤジさんがそう言うなら……」
イエーガーさんのおかげで、ヘルフェが渋々引き下がってくれたけど絶対に信用してくれていないだろうなぁ。これ以上詮索される前に話題を変えたい。




