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35話 今があるのは、昔があったから

話が脱線しているのはわかるけど、こればかりは僕のアイデンティティの為にも譲れない物がある。

何とかして求めさせたい。


「姉さん! 姉さんも何か言ってください」

「え? 無理じゃない? 思い込み激しそうなタイプだし」

「そんなぁ……」

「それにそう思わせておいた方が、色々便利よ」


便利って一体どう言う意味?

姉さんの言っている意味が分からない。

分からないなりに理解できた事は、姉さんは説得に参加してくれないっぽいって事くらいか。


「クリス、君の気持ちもわかるがドラゴンが人に化けると言う話を俺は聞いたことが無い。 逆に実力のある竜人族がドラゴンに化けるのは、実際に見たわけではないが2人程知っている」

「へ?」


そうなの?

でも、そんな事出来る人が居たら空を飛んでいれば、何度かは遭遇しててもおかしくないと思うけど、生まれ変わって2年近く経っても出会ったことが無いよ。


「一人目は、ツクヨミと言う国で将軍をしているキキョウと言う女性だ。 併合するように迫ったガルシュに一度訪れたらしいが、俺は忙しくて会う事が出来なかった」


ん? キキョウ?

それって……

ゆっくりと姉さんの方に目を向けると、同じ速度で目を逸らされた。


「二人目は、所在はつかめて居ないのだが冒険者でアレサと言う、こちらも女性だ」


姉さんに向けていた視線を、そのまま母さんの方へ。

尻尾の先だけ持ち上げてフリフリしてる。


「アレサに会う事は難しいかもしれないが、キキョウの方は今の境遇を手紙などにしたためれば、面会を許されるかもしれない。 君の今後の為にも一度会ってみてはどうだろう?」


思わず手紙なんてしたためなくったって、いつでも会えると口から出かかったけど、何とか踏みとどまりつつ頭の中で整理。

どうしよう、思い込みの原因が全て目の前に揃ってしまっている。

流石に、その二人とも目の前に居るよ! とか言える感じではないし、本当にどうしよう。

無理だ、この状況で説得なんて出来る訳がない。


「はは……そうですね。 考えておきます……」


もう、そう言う事位しか返答が出来ない。

諦めよう。 うん、諦めよう。

アイデンティティよ、サヨウナラ。


「どうした? 急に元気が無くなったように見えるが?」

「いえ、何でもないんです。 気にしないでください」

「そうか。 それでだが、先程の話だが」

「先ほど?」


何の話だっけ?

もう竜人族の話はお腹いっぱいですけど。


「さっき話した、世捨て人の件だ」

「ああ、そっちですね」

「そっち? 何を勘違いしているのかは知らんが、君に言われた通り一度全てを捨てて自分を見つめ直してみようと思う」

「そうですか、良い考えだと思います」


うん、それで良いと思う。

死ぬ事なんていつでも出来るんだし。


「でだ、俺に用がもう無いなら下に降ろして欲しいんだが。 出来れば日のあるうちにどこかの街に入りたい」


昔は殆ど関わる機会なんて無かったから知らなかったけど、行動力のある人だなぁ。

じゃなかったら、昨日みたいな事は到底無理か。


「別に構いませんが、その前に聞きたい事があるんですけど良いですか?」

「ああ、構わないがまだあの戦争に付いて聞きたい事があったか?」

「いえ、その事では無いんです。 その……何て言うか……」


どう質問を切り出すべきか。

昔の兄さんと性格が違い過ぎるんですけどとか聞いてしまうと、何で昔を知ってるのって聞き返されそうだし。

もっと無難な内容に。


「えっと、ルインさんの性格ってもっとトゲトゲしていると耳に挟んでいたのですが、実際に会ってみるとそんな事なかったので噂とは違うなーって」

「性格? そうだな、数年前までは噂通りだったさ」


ですよね。

そこら辺は身を持って経験していたんで、そんな事ないとか返されたら返答に困ったところです。


「何て言えばいいのか、あの頃は勇者と言う特権の上に胡坐をかいていたんだ。 勇者だから何でも許される、勇者だから偉いってね」

「はぁ」

「だが、父上や妹達がこの力の使い方を捻じ曲げ始めた頃、気が付いた。 いや、我に返ったと言うべきかな、俺は……いや、俺たち家族は何て醜いのだろうと」


近くで姉さんの欠伸をする声が聞こえる。

目を向けると姉さんまで日向ぼっこの体勢に。

もう、興味が無いんですね。


「情けない話だが、その醜さに気が付いたときから行動を改めるようにしたんだ」

「そうなんですか」


その醜さにもう数年早く気が付いて貰えたら……

いや、その醜さがあるからこそ今の僕があるのか。

あと、もう一個の質問もしちゃおうかな。


「あと、もう一個良いですか?」

「構わない」

「弟さん、居たんですよね? その子ってどんな子だったんですか?」


他人になったからこそ、初めて聞ける自分の評価。

結果は分かっていても、実の家族からどう思われていたのか一度しっかり聞いて見たかった。


「弟? 君と同じクリスと言う名前だってのは、アレックスが話していたのは覚えているかな?」

「ええ」


同じじゃなくて、そのものなんですけどね。


「そうだな、弟は訳あってもうこの世には居ない」

「そうですか」


勿論、知ってます。


「どんな子か? か、難しいな」

「す、すみません。 深く考えずに一言でも良いですよ」

「一言……あいつは努力の天才だったのかもな。 まぁ、結局何一つ実は結ばなかったが」

「え!?」


最後に余計な一言が付いて来たけど、まさか褒められるとは。


「どんな訓練にも耐えた。 同じ年の頃の俺がやったら、発狂するほどの訓練量ですらあいつはこなしていたんだ」

「そうだったんですか」

「何でも良いから、何か一つでも力が使えていたら、最も勇者らしい存在になれたかもな」


……


「どうした?」

「いえ、色々とお話を聞けて良かったです」

「そうか、他に聞きたいことが無いなら、すまないが背中に載せて下まで降ろして貰えないか?」


何か一つでもか……

その一つが、とても遠かった……

今じゃもう絶対に届かない。


「すみません、少し考えたい事があるので姉さんお願いします」

「え?あたし? わかったわ」

「……お願いします」


今の心の状況で、無事に兄さんを下まで運べる自身が無い。

連れて来たのは姉さんだし、お任せしよう。


「すまないな女王、背中を借りる事になる」

「は?バカ言わないで。 あたしの背中に乗って良いのは、あたしが認めたモノだけよ」

「なら、どうすれば」

「来た時と一緒」

「ま、まてそれだけは!! せ、せめて紐に括って運ぶとか」

「めんどい」


昨日の夜に見た光景が、目の前で再び繰り広げられる。

そして、昨日と同じく口から脚を生やした姉さんが飛び立って行く。


何か一つ、か。

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