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47.


「そんな顔をするな。別にとって食おうとしているわけではない・・・・・・」

私が完全に不審者を見るような目で見ていることに気が付いたのか、彼は苦笑した。

「あなたは誰なの?」

「われは人とは異なるものと言っておこう」

人ではない。なんとなく想像はしていたけれど、本当にこの世界はファンタジーなわけね。私は彼の顔を見る。人外の美貌を誇るのはわかったが、どんな種族なのだろうか? 髪の毛が輝きすぎの種族なんて知らないぞ。しかし、そんなことよりもだ。なぜ彼は私のことを知っているのだろうか。それが顔に出ていたのか質問する前に勝手に話始めた。

「人ではないがゆえに見えるものもたくさんあるからな。しかし、そなたは哀れだな。ただの幼子ではいられない」

「私は何かおかしな存在なの?」

私はそんな波乱万丈な人生は望んでいない。おとなしく消え去るつもりでいるのだ。

「そなたはただの人の子だ」

彼はわかっているはずなのに答えをはぐらかしてくる。

「そうじゃないわ。私は私がなんなのか知りたいのよ」

「そなたは前の世で死に、魂は輪廻を巡り、ここに新たに生を受けた。まぎれもなくこの世界の理に生きている。正しい流れの中にいる」

彼は静かに私に語りかけた。

「そなたは自身の持つ能力を気にしているが、別に異端ではない。古代には先読みの巫女たちが確かに存在した。そなたが今、その力を持っているのはこの世界の理が、必要と思ったからだろう。異界の記憶も同じだ」

「世界の理が必要としたと?」

「そうだ。リスティルの姫君、ここで会ったのも何かの縁だろう。最後にお前が今気になっていることについて教えてやる」

気になっていること。いろいろありすぎてわからないがとにかく聞いてみることにした。

「逆だ」

「はい?」

何が逆なのか。主語を言ってほしい。

「知り合いが嘘をつかない保証はどこにもない」

「だから、なんというかもうちょっと言葉のキャッチボールをしてくださいます? 意味が解らないのですけど・・・・・・」

「・・・・・・その言葉・・・・・・」

「え?」

目を見開いて驚いていた。え? 私そんな変なこと言ったかな。

「なんでもない、よく考えてみることだ。われは立場上、真実を伝えることはできない」

いや、わけわかりませんけど。彼の顔を見るとはっとするほど、悲しい顔をしていた。まるで誰かを懐かしむような、そんな顔。

「ではな。ルーシェ」

「ちょっと待って!?」

私は制止を掛けたが、そのまま消えた。


***


結局、私はラスミア殿下から逃げおおせた。

茂みに隠れていたら、「全員集合です~」と言う声が聞こえた。

「は~」

なんか疲れた。あの不思議な人物のこと、みんなにも知らせた方がいいのだろうか迷うところだ。悪い感じはしないし、どうも王家の知り合いのような気もするし・・・・・・。うーん、と考えていると名前を呼ばれた。

「ルーシェ!!」

前方にアイヒ、ラスミア殿下、騎士達がいるのが見えた。ルカもいる。

「ルーシェ、いったいどこに隠れていたの? 私、すぐに見つかってしまったの」

「建物の影とか、茂みとかに・・・・・・。でもラスミア殿下に一度追い回されましたわ」

「ルーシェ、なんであんなに足が速いんだよ」

ラスミア殿下は不機嫌顔で言ってきた。逃げ切ったのを根に持っているわね。

「別に足は速くありませんわ。あちらこちらと方向転換してラスミア殿下をまいたのです。頭を使ったのですわ。ラスミア殿下こそ、ヨシュアよりも私の方が捕まえやすいからと、よくも追いかけてくれましたわね」

私は負けじと言い返す。

「あらお兄様、大人げないわ」

それを聞いたアイヒが加勢してくれた。

「うるさいぞ。俺は鬼だから追いかけただけだ」

ごもっとも。私も逃げただけですけど?

「ああ、そうそう、途中でヨシュアに助けられましたのよ」

そういえば、ヨシュアの姿はない。

「あれ、ヨシュアは?」

「あの子、戻ってこないのよ。どこに隠れているのかしら」

「ラスミア殿下に追いかけられた時、反対側に走って行ったからわからないけど。鬼ごっこ終了の声が聞こえなかったのかもしれないわね。とにかく探しましょう」

みんなで探すことになった。大声でヨシュアを呼ぶが全く反応がない。

「ルカ、私こちら側を探すわ。あちら側を見てきて」

ルカはさっきから私のそばを離れない。でも、今は分かれて捜したほうが絶対に効率がいい。

「いやです」

「もう、ここは離宮だから大丈夫よ。・・・・・・わかったわ。それなら、私はここから動かないから、あの茂みと建物の影、見てきてくれる? ほら、走って。その方が早いわ」

譲歩することにした。するとルカはあきらめたようにため息を吐いた。

「絶対ですよ?」

そう言って走っていった。

「やれやれ、どうしてこんなに過保護なのかしら・・・・・・」

・・・・・・た・・・・・・けて。

「え?」

どこからか、声が聞こえた気がした。私はあたりを見回し、ある一点を見つめた。

木々の向こう側に見える、少々古びた館・・・・・・。そのそばに、ドレスを着た女性が立っていた。表情は遠くてわからない。

ザワッ。

私の体に悪寒が走った。

こっちを見ている・・・・・・、気がする。

そのまま目が離せずにいた。

すると、女性は踵を返し、館の陰に消えていった。

「ちょっと待って!」

私は何かに突き動かされるように走った。ルカとの約束とか、そんなことは考えている場合ではなかった。

「そうそう、こっちにおいで。お姫様」



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