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バカと呪いと魔法学園 ~魔法を知らない最優の劣等生~   作者: 出雲大吉
第3章

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第099話 Aクラス


 俺達はその後も川沿いを下流に向かって歩き続けるが、トカゲにもワニにも遭遇しない。

 というか、人すらも見かけない。


「何もいねーな」

「別に人気スポットっていうわけではないからね」


 そうなんだ……

 このでかい川はかなり壮観なんだが……


「ここも夕日が綺麗そうなんだけどなー」

「ワニが出てくる川にカップルが来るわけないでしょ」


 そりゃそうだ。


「そういや、イルメラ達は山に行くって言ったな」


 フランクが思い出したように言う。


「そうなの?」

「ああ。熊探しに飽きたらしく鳥を狩るんだってさ」

「鳥ねー。まあ、鳥は確実に売れるだろうけど、そんなに高価じゃないでしょ」

「あいつらは金より狩りがメインだろうな。血生臭い女子共だわ」


 庇うわけじゃないが、そこにノエルを入れてやるなよ。


「山ってどんなところなんだ?」


 気になってきたので聞いてみる。


「ただのはげ山だな。鳥は多い。あと岩も多い」

「あそこも人気スポットじゃないね。登ったことないけど、頂上からの景色はすごいらしいけど」


 まあ、景色は良いだろうな。


「登るのが大変そうだな」

「だと思うよ。僕はごめんだね」


 知ってる。


「フランクは山が好きだよな?」

「川よりはな。でも、別に登山は好きじゃねーわ……ん? ロナルド、か?」


 フランクが下流方向を見て、何かに気付く。

 俺とセドリックもつられるように下流方向を見ると、川沿いの岩に腰かけ、川で釣りをしている男がいた。

 その男は長い黒髪をしており、さっき学園の転移魔法陣がある建物で見たAクラスのロナルドという男で間違いなかった。


「ロナルドだね。釣り?」

「みたいだな」


 俺達がそのまま近づいていくと、ロナルドもこちらに気が付く。


「フランクにセドリック、それに長瀬の坊ちゃんか……外に行くんだろうなと思っていたが、まさか同じところとはな」


 ロナルドがふっと笑った。


「奇遇だな。あ、知っているみたいだが、同じクラスのツカサだ」


 フランクが俺を紹介してくる。


「知ってるよ。Cクラスのマチアスを瞬殺した男だろ。それに長瀬の坊ちゃんなら知ってる」


 坊ちゃんって何だ?


「悪い。知り合いだったか?」


 ロナルドって名前の知り合いなんかいたかな?


「いや、こっちが一方的に知っているだけだよ。俺はロナルド・エルトン。こんな名だが、母が日本人でね。だから長瀬を知っているんだ」


 へー……


「日本でもマイナーな名門だぞ」

「そりゃウチもだよ。白川って知らないだろ?」


 お母さんの家の名前かな?


「俺は有名どころも知らん」

「そうか……まあ、マイナー同士ってことだよ。だから知ってる」

「赤羽は知ってるか?」

「知ってるよ。Dクラスのユイカの家だろ? とはいえ、名前だけだな。噂では物騒な家らしい」


 やっぱり物騒なんだ。


「ふーん、ところで、何してんの? 釣れるん?」

「ほれ」


 ロナルドが足元のバケツを指差したので3人で覗いてみる。

 すると、魚が3匹程入っていた。


「食うの?」

「いや、売る」

「売れるん?」

「安いがな。まあ、金のない奴がいるんだ」


 苦学生?


「お前じゃなくて?」

「違うな。まあ、俺の釣りは趣味みたいなものだ。本命は……」


 ロナルドが後ろを見たので俺達も森の方を見ると、さっきロナルドと一緒にいた袴姿で刀を腰につけた女子がいた。


「ロナルド、友達か?」


 女子はそう聞きながらこちらにやってくる。

 しかし、何故か両目を閉じていた。


「Dクラスだよ。ほら、長瀬の坊ちゃんはわかるだろ」

「長瀬……」


 女子は俺のことをじーっと見てくる。

 ただし、目は閉じたままだ。


「なんで目を閉じてんだ? 見えるん?」

「見えるぞ。私は魔力や気配を察知しているんだ。目を閉じているのはその修行だな。家では普通に開けている」


 あ、そうなんだ。

 なんか変な人だな。


「……日本人って独特な奴が多いよな」

「……独自の歴史がある国だからね」


 フランクとセドリックがコソコソと内緒話をしている。


「何て名前?」

「ふっ、まずは自分から名乗ったらどうだ、長瀬ツカサ君?」


 確かに……


「長瀬ツカサって言うんだよ」

「私は白川ユキと言う。よろしく」


 ユキは名乗ると、綺麗に頭を下げた。


「……日本人って変じゃね?」

「……変な会話だったね」


 コソコソとうるせーコンビ。


「え? 白川って?」


 そう聞きながらロナルドを見る。

 確か、ロナルドのお母さんの旧姓が白川だったような……


「ロナルドはそこまで言ったか……そうだね。そいつは私の従兄だ。母の姉がロナルドの母なんだよ」


 なるほど。

 親戚だったのか。


「へー……こんなところで何してるんだ? ロナルドは釣りって言ってたけど」

「バイトだな。お前は知らんだろうが、白川の家は没落寸前でちょっとお金がないんだ」


 え?


「そうなの?」

「うむ。私の父である前当主は魔法の才能が皆無でね。まあ、詳しくは家の恥だから言わないが、そのために色々したのだよ。それで家が傾いてしまった」

「そ、そうなんだ……」

「そう珍しくはない話だよ。だから現当主である私が頑張って立て直しているんだ。弟や妹達もいるし、金がいるんだよ。それでバイトだ」


 へー……

 若いのに当主なんだ。

 苦学生がいるっていうのは聞いていたが、こういう感じか……

 しかし、お父さんのことを聞いたらマズそうだな。


「俺はその付き合いだな。当主様を一人で町の外に行かせるわけにはいかないだろう?」


 ロナルドが補足してくれる。


「そうだな……ロナルド、釣れたか? ふむ、3匹か」


 ユキがバケツを覗く。

 やっぱり目は閉じてるけどね。


「結構、釣れるな。そっちは?」

「トカゲを仕留めたが、1匹だな」


 トカゲを仕留めたのか。


「トカゲって売れるん?」

「売れるぞ。商業区の裏の魔法屋で買い取ってくれる。よくわからんが、何かの材料になるらしい」


 シャルが笑顔になるところか。


「ちなみに、ワニは?」

「ワニ? 売れるとは聞いているが、危ないからやめておけ。魔物化しているから鱗は硬いわ、動きは速いわ、鉄も噛み砕くわで大変だ」

「もう倒したな」

「ほう……ちょっと見せてくれんか?」


 ユキにそう言われたのでセドリックを見る。

 すると、セドリックが頷き、ワニを出した。


「おー! すごい! 本当にワニだな!」

「見事なものだ」


 ロナルドとユキがワニに近づく。


「でかいな……ユキ、どう思う?」

「かなりの大物だ。しかも、外傷が見当たらない」

「素手か……」

「だろうな。長瀬の坊ちゃんは素手でマチアスを仕留めたと聞いているが、本当のようだ」


 仕留めたって言うとマチアスが死んだみたいだな。


「その長瀬の坊ちゃんって何だ?」

「これは失礼。私達が勝手にそう言っていただけだよ。ツカサ、これは素手か?」


 ユキが訂正した。


「エルボードロップした後に振りまわして、地面に叩きつけたな」

「なるほど……うーむ、やはり決闘を見ておくべきだったか……」


 ユキが腕を組んで悩みだす。


「どうした?」

「いや、見せてもらってありがとう。これなら売れるんじゃないかな?」

「マジかー。売ろう」


 いくらになるかな?


「うむ。それがいい。マイナー名門同士だし、共に頑張ろうではないか。では、私はもう一度、森に入ってくる。ワニは相手にしたくないのでね。ロナルド、引き続き、魚を頼む」


 ユキはそう言って森に入っていった。


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