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バカと呪いと魔法学園 ~魔法を知らない最優の劣等生~   作者: 出雲大吉
第3章

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第093話 逢引き?


「いや、シャルさー、魔法大会って何? 知らないんだけど」

「私も知らない」


 トウコも知らないようだ。


『知らないの? 7月末に演習場でやる実技演習よ?』


 シャルに電話越しでそう言われたのでトウコを見たが、首を横に振る。


「知らない。何それ?」

『えーっと、授業って実技があんまりないでしょ? その代わりに年に2回ほど実技演習があるのよ。要は魔法を使った戦いね』


 おー、俺の想像する魔法学園の行事だ。


「そんなのがあるんだな」

『ええ。といっても、これは別に勝ったところで何もないし、何かの資格を得るということもないわね』

「優勝賞金もないの?」

『ないない。昔はあったみたいだけど、最近はなくなった。まあ、寮内で賭けの対象になるくらいかしら?』


 賭けか……


「結構なイベントな気がするんだけど、全然聞いてないし、盛り上がってないな」

『参加は希望者だけだからね。例えばだけど、完全な研究職のノエルが出てもしょうがないでしょ。下手をするとトラウマものよ』


 確かにな……


「なるほど……」

『盛り上がるのは武家の連中だけね。親に出ろってほぼ言われる』


 すんごい他人事のように言うな。


「シャルも武家じゃん」

『そうよ。だから本来は出ないといけない。でも、それが嫌だから生徒会長になったわけ。生徒会長は審判なんかの裏方をやらないといけないからね』


 それが1年なのに実家の力を使ってまで生徒会長になった動機か……


「フランクやイルメラは出るんだろうな……」


 ユイカも出るかもな。


『そうじゃない? でも、私は出ない。そういうわけでボコるのは無理ね。絶対に出ないし、トウコさんと戦わないから!』


 なんて弱気な武家の名門の跡取りなんだ。


「じゃあ、別にいいじゃん。会長、空を飛ぶ魔法を教えてよー」

『それとこれとは別。なんで敵に塩を送らないといけないのよ』


 まあねー。


「……お兄ちゃんには彼女面して送りまくっているくせに」

『何か言った?』

「うんにゃ。代わりにとっておきの魔法を教えるからさー」

『何? 強化魔法なら間に合ってるわよ』


 俺が教えてる!

 主に武術の方だけど。


「それじゃなくて、水の上を歩く魔法! めっちゃかっこいいんだよ!」

『はぁ? 水の上を歩く? 何それ?』


 そりゃこんな反応にもなるわ。


「すごい神秘的なんだよ。あの湖でやると女神様になった気分になれる」


 どっちの斧を落としたかってやつか。

 もしかして、すでに女神ごっこをやっているんだろうか?


『くだらないわねー……』

『……お嬢様のポーションとどっこいどっこいですよ』


 やっぱり何かいるし。


『うるさい。えーっと、その魔法ってどこで使うの? 私、飛べるんですけど?』

「船から海に落ちた時! 水の上を歩く魔法は全然、魔力を使わないから助かる!」


 シチュエーションが限定的すぎるな……


『なるほど。海か……』


 あれ?


「シャル?」

『私ね……泳げないのよ』


 まあ、そうじゃないかとは思ってたけど。


「空を飛べるじゃん」

『魔力も低いのよ。すぐに魔力が尽きて夜の海にぽちゃんね。そして、そのまま冷たい水の中で溺れるのよ』


 この子、名作映画を想像している気がする。


「豪華客船に乗るの?」

『昔、乗ったことあるわね』


 お嬢様だなー。


「物語的に死ぬのはお兄ちゃんだけどね」

「うるせー」


 兄貴を殺すな。


『あった方が良い気してくるわね……』

『お嬢様、覚えておいて損はないですよ』

『そうよね……』


 何か話し合いが始まったぞ。


『飛行魔法は確かに高度な魔法ですが、他に使っている人はいっぱいいます。ですが、水の上を歩く魔法は聞いたことがないですし、レアでしょう。良いトレードかと』

『まあ、トウコさんにあっという間に覚えられて私の自尊心が傷付くだけだものね』


 シャル……


『お嬢様、反応に困ります。電話の向こうでツカサ様もトウコ様も困っていると思います』


 うん。

 特にトウコが気まずそう。


『よし、覚えておくか……別に飛行魔法なんてあんまり使わないしね』

「そうなの?」


 便利そうだけど。


『絶対にこっちの世界で使えない魔法だし、実は空を飛ぶ機会ってあまりないのよ。制服ってスカートだし』


 まあ、それはあるか。

 ユイカみたいなアンスコでもどうかと思うし。


「私、道着か運動着だから別にいいや。会長、教えてー」

『どこで?』

「え?」

『どこで教えればいいの? 空を飛ぶのも水の上を歩くのもこっちの世界では見せられないわよ?』


 そりゃそうだ。

 動画を撮られてバズりまくる。


「うーん……外が良いのは確かだし、会長に湖を歩いてほしかったんだけど……」


 確かに絵になるな。


『そんな見世物は嫌よ。というか、一緒にいるところを他の人に見られたくないわね。特に双方の派閥の人間に』

「まあねー……じゃあさ、室内でやろうよ。水の上を歩く魔法はお風呂場でできる。実際、私はお風呂に入っている時に思いついて練習してたし」

『ご家族に迷惑かけるんじゃないわよ』


 うんうん。

 本当だわ。


「まあ、そこはいいじゃん。とにかく、水の上を歩く魔法はお風呂場でできるし、飛ぶ魔法も室内でちょっと教えてくれればいい。後はこっちで外に行った時に練習する」

『まあ、それなら……ん? ちょっと待って。お風呂場ってどこ?』

「ウチは……嫌か。会長の家に行くのもあれだし、寮の部屋でいいじゃん。隣だし、バレないって」


 逢引きみたいだな。


『まあ、バレないとは思うけど……あの、お風呂で練習って服は?』

「水着でいいじゃん」

『持ってないわよ。私、泳ぐのとか海に行くの嫌いだもん』


 知ってる。

 クーラーの利いた部屋で薬品を眺めながらニヤニヤだもんな。


「じゃあ、裸かな。お風呂だし」

『なんであなたとお風呂に入らないといけないのよ!』

「いや、私は入んないし、裸なのは会長だけ」

『もっと嫌ですけど!?』


 ごもっとも。


「うーん、じゃあ、濡れてもいい服とかにしてよ」

『それならまあ……』

「よし、おっけー! 会長、準備して待ってるから私の部屋に来てよ」

『今から?』


 気が早いなー。


「早い方が良いでしょ。それに魔法大会だか何だか知らないのもあるし、8月にはテストもあるじゃん。会長、ウチのバカ兄のせいで忙しくなるでしょ」


 何も言えねー……


『うーん、まあ……』


 ごめんね……

 そして、ありがとう、先生。


「そういうわけで今からやろう。会長、私の部屋に来てよ」

『トウコさんの部屋なの?』

「よく知らないけど、人の部屋って研究成果とかあるんでしょ? 会長も私を部屋に入れるのは嫌でしょ」

『あー、確かにそうね。実質、研究成果の書庫になってるけど、ちょっと見せられないわ』


 そうなんだ……


「やっぱりかー。ノエルも絶対に部屋に入れてくれないけど、あれ何?」

『私達みたいな研究職の魔法使いは他人を絶対に研究室に入れないのよ。命より大事な財産だもの』


 俺、今日一日中、シャルの研究室にいたけどな。

 もっとも、さっぱりだったけど。


「へー……え!?」


 トウコがスマホをガン見する。


『何よ?』

「いや……」


 トウコが顔を上げ、俺のことをじーっと見てきた。


『というか、トウコさんはいいの? あなたの研究成果もあるでしょ』

「ないけど? めんどくさいし、字が汚いから作ってない。パソコンもないし、スマホはだるいし」

『今、ものすごく兄妹だなーって思ったわ』


 せーの……


「「兄妹だもん」」

『はいはい……じゃあ、準備ができたら行くわ』

「お兄ちゃんも呼ぼうか?」

『ツカサが捕まっちゃうじゃないの……』


 捕まるだけならまだしも女子寮の生徒から魔法でフルボッコだろ?

 絶対に嫌だわ。


「じゃあ、待ってるから。コソコソ来て」

『いっそ窓から行こうかしら?』

「夜だし、それがいいかもね」


 マジで逢引きみてー。


『……トウコ様がツカサ様なら盛り上げるのになー』


 クロエは本当にしょうもないことを言うなー。


お読み頂き、ありがとうございます。

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[一言] 完全に身内で草
[一言] トウコよ、ここから義姉の恋バナを聞き出すのだ
[良い点] 『【他人】を絶対に研究室に入れないのよ。』 なるほどねぇ......。
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