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バカと呪いと魔法学園 ~魔法を知らない最優の劣等生~   作者: 出雲大吉
第2章

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第086話 負けるわけないじゃん


 俺はウォーレス先生と対峙している。

 先生からはとてつもない魔力を感じるが、棒立ちで戦いを始めるようには見えない。


 さっさと終わらせようと思い、踏み込むと、先生の顔面に掌底を放つ。

 しかし、一瞬にして、先生の姿が消えると、左から拳が飛んでくるのが見えた。


「へー……」


 上体を逸らし、その拳を躱す。

 すると、先生と目が合ったため、その顔面に目掛けて左手で掌底のアッパーを放った。


「さすがに速いね」


 先生はそう言いながら掌底を躱し、距離を取る。


「そっちの方が速いじゃないですか。というか、よく見えますね」


 いくら魔力を高めようともロクに戦いもしたことがない素人が俺の攻撃を躱すのは無理なはずだ。

 それはシャルと訓練をしていればわかる。


「魔力と共に力、スピード、動体視力も上がっているからね」


 そりゃすげーわ。

 40歳は超えていそうなおっさんがやけに動けるなと思ったが、そこまで能力を上げる薬だったらしい。


「シャルにそれを飲ませれば、もっと楽にトウコに勝てたかな?」

「やめた方が良いよ。これは禁薬だからね。それに妹さんをもっと大事にしなさい」


 先生が先生らしいことを言っている。


「ふーん……気を付けます」


 そう言って、すり足を使い、一気に先生との距離を詰めた。

 そして、蹴りを放ち、先生の顔面を狙う。

 しかし、先生は身を屈めて躱し、逆に殴りかかってきた。


「シロウトだなー」


 先生が伸ばしていた腕を掴み、横に流して躱した。

 そして、上体が前に来ている先生の顎に掌底を当てる。

 すると、先生がのけ反り、顔を天井に向けたまま、数歩下がった。

 だが、先生は倒れずに顔をこちらに向ける。


「効いてないね」

「まったくね」


 どうなってんだろう?

 今の掌底は絶対に脳にダメージがいってるはずだ。

 立っていられるとは思えない。


「もうちょっと強くするか……」


 そうつぶやくと、一気に距離を詰め、再び、掌底で先生の顔をかち上げた。

 そして、半歩下がると、身体を回転させ、後ろ回し蹴りを先生の胴体にぶち込む。

 しかし、先生は数歩下がっただけであり、むしろ、踏み込んできた。


「うそー」


 先生の拳が顔面に迫っているので顔を背けて躱す。

 すると、今度は先生の蹴りが顔面に迫ってきたので左腕を立てて、受け止めた。


「――ッ」


 先生の蹴りが当たった瞬間、左腕にものすごい衝撃が走り、その勢いのまま滑るように数メートル下がらされてしまった。

 左腕がピリピリと痺れている。


「どうかね? これが強化魔法だよ。君が使っているものだ」


 うーん、すごい威力だわ。

 熊とは比べものにならない。


「強いですね」

「室内ではこちらの方が有利なんだよ。だから武術が苦手なアンディをここに誘い込んだ。まあ、予想外にシャルリーヌ君も来たが、同じことだな」


 シャルは遠距離一辺倒だからなー。

 武術を教えているけど、まだまだだし。


「先生って頭が良いけど、バカですよね」

「何故、そう思う?」

「いや、逆に言うと、先生も魔法が使えないじゃないですか。俺はとっても有利」

「パワー、スピード、魔力……すべてが君を上回っているぞ」


 いやー、バカだわー。


「そんなもんでシロウトが俺に勝てるわけないでしょ。どんな優れた武器を持っても、使う人間が未熟者なら何の意味もない」

「言うな……君はもうちょっとおとなしい生徒だと思っていた」


 先生からの評価としては悪くないな。


「んなわけないだろ。子供の頃から武術をやっている奴は皆、野蛮だよ。死ね、雑魚!」


 中指を立てると、踏み込んだ。

 そして、先生の前で飛び上がると、膝を顎にぶち込む。


「ぐっ! 効かんぞ」


 先生がのけ反りながらそう言うと、逆に踏み込んできて殴ってくる。

 俺はその拳を手で簡単に叩き落とした。


「ヘタクソ。殴るのにもコツがいるんだぞ」


 そう言ってがら空きの腹部に掌底を叩き込む。


「だから効かんわ」


 先生は怯まずにまたもや殴ってきた。


「そうですねー」


 棒読みでそう言うと、拳を叩き落とす。


「チッ! 面倒な」

「先生、いくら魔力を上げても守れないところってあるんですよ。1つは俗に言う急所ですね」

「ふん! そんなものは魔力でどうにでもなる!」


 先生がまたもや殴りかかってきた。

 俺はそれを見て、少し下がる。

 すると、先生が前のめりで追ってきた。


「もう1つが関節ですね。バーカ」


 俺は先生の拳を躱すと、一気に肉薄し、先生の膝を強化した足で蹴る。

 すると、伸びきった先生の膝は簡単に曲がってはいけない方向に曲がった。


「ぐあっ!」


 足の骨が折れた先生が崩れていく。


「おやすみ」


 俺は足を思いっきり上げると、前のめりに倒れてきた先生の後頭部に向けて振り下ろした。

 すると、かかと落としが先生の後頭部に直撃し、顔から地面に叩きつけられる。


「もう1つ、言い忘れましたけど、強化魔法を使う際は集中を途切れないようにね。じゃないと痛みで魔法が解けることがよくあります……もう遅いか」


 先生はピクリとも動かない。


「ツカサ!」

「ツカサ君!」


 後ろに下がっていたシャルとアンディ先輩が小走りで近づいてきた。


「勝った、勝った」


 いえーい。


「腕は!?」


 シャルが先生の蹴りが当たった左腕を取る。


「いや、別に」

「大丈夫なの? ポーション飲む?」


 シャルが青色のポーションを取り出した。


「せっかくだからもらうわ」


 そう言って受け取ると、ポーションを飲む。

 すると、口の中にリンゴの味が広がり、腕の痺れが取れていった。


「ツカサ君……」


 しゃがんで先生を見ているアンディ先輩が顔を上げる。


「何ですか? 死んでませんよ」


 加減したし。


「いや、死んでる……」


 え!?


「え? やっちゃった!?」


 マジで!?

 どうしよう!?


「先輩、ちょっといいですか?」


 シャルがしゃがんで先生を診始めた。


「やっぱり……か」


 シャルが深刻そうな顔でつぶやく。


「え? 何? 生きてた?」

「いえ、死んでるわ」


 ダメじゃん!


「うそー……どうしよう? 正当防衛だよな? 退学? いや、逮捕?」


 母さんが泣いちゃうよ。


「落ち着きなさい。ツカサ、私は昨日、あなたから話を聞いてちょっとおかしいと思ってついてきたの」


 ん?


「どういうこと?」

「昨日、熊の話を電話でしてたでしょ?」

「あ、したね。熊が12万マナで売れた話」


 クラウスから30万も減額となった話を聞かされた。


「その理由が肉が腐ってたからって言ってたわよね?」

「だね」

「それでね、さっきのあなたと先生の戦いを見て、はっきりとわかったわ」

「え? 何が?」


 まったくわからないのは俺がバカだからじゃないはず。


「先生はあなたの攻撃を受けたのにまったく効いていなかった。いくらなんでもあれだけ顎を打たれて脳にダメージがいかないのは変よ。そして、あなたが仕留めた熊の肉が腐っている……これは死霊魔法よ」


 何それ?


「えーっと?」

「禁止魔法の一つで死体を動かす魔法ね」

「ハァ? え? 先生って死体だったの!?」


 ゾンビ!?


「だと思うわ。詳しくは解剖なりすればわかると思う」


 解剖……


「え? 熊は?」

「それも死霊魔法。つまりあれは誰かが死んだ熊を操っていたの」

「誰? 先生?」

「もう1つ疑問に思ったことがあるわ……」


 まだあるの?


「何?」

「扉を新品に戻す道具なんてこの世にない。物を過去に戻すなんて無理よ」

「え? でも……」


 待て……

 先生はすでに死んでいて操られていた。

 先輩達を襲っていた熊も同様に操られていた。

 先生を呼びにいったジョアン先輩が戻ってきていない。

 ジョアン先輩は先生の弟子。


 俺の中ですべてが繋がっていく……


「アンディ先輩、俺がラ・フォルジュの人間って知らなかったんですよね?」

「え? ああ、知らなかった」

「長瀬の家は知っています?」

「ごめん、知らない。日本の魔法使いは独自の進化を遂げていて、あまり世に知られていないんだよ」


 そうだ……

 長瀬は有名じゃない。

 そして、俺はラ・フォルジュを隠していた。

 それなのにジョアン先輩は俺が名門の出だと知っていた。


 トウコに聞いた?

 いや、トウコはジョアン先輩もアンディ先輩も知らないと言ってた。


 何故?

 それは……


「うーん……先生はダメねー」


 声がしたので一斉に扉の方を見る。

 そこには腕を組みながら頬に手を当てるジョアン先輩が立っていた。

 先輩はいつものように微笑んでいたが、どこか不気味な笑みだった……


お読み頂き、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんなに普通に会話も出来て違和感のない死霊魔法とか、そりゃ禁術だわ、エグすぎる…
[一言] 先生も死体だったのか!?
[良い点] 負けるわけないじゃん [一言] 創作とはいえ久しぶりにかかと落としみたなー
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