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バカと呪いと魔法学園 ~魔法を知らない最優の劣等生~   作者: 出雲大吉
第2章

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第076話 クロエ「ニコニコ(何言ってんだ、こいつら?)」


 俺とクロエは周囲を警戒しながらシャルの薬草採取を眺めている。

 とはいえ、魔物除けが効いているらしく、熊どころか狼も出てこないのでかなり暇だった。


「クロエ、シャルとは長いんだっけ?」

「あれ? 言いましたっけ? 子供の頃からですけど……」

「……いや、写真」


 小声で答える。

 ちょっと前に小さいシャルとシャルよりちょっと大きいクロエが並んでいる写真が送られてきたのだ。


「あー、はいはい。そうですね。あの頃からです」

「いくつ離れてるの?」

「私は22歳ですので6歳お姉さんですね。世話のかかる妹で困ってます」


 クロエが頬に手を当てた。


「誰があなたの妹よ……あれ? 昨日も似たようなことを言ったわね……」


 シャルが振り向いて、文句を言う。


「トウコだな。お姉ちゃんって言ってた」

「同い年でお姉ちゃんはないわよ」


 確かに。

 まあ、俺は同い年どころか誕生日も一緒だけど、お兄ちゃん。


「いや、それは多分、義理という意味では?」

「「………………」」


 そういう意味か。

 帰ったら叩いておこう。


「黙った……お嬢様ー、こっちを向いてくださいよー」

「今、忙しい」

「ぷぷっ、絶対に顔が赤いですよ」


 反応に困るな。

 話を逸らそう。


「シャル、ちょっと聞いていいか?」

「な、何?」


 うわずんな。


「シャルはさー、錬金術の目標ってあるか?」

「ん? 目標って?」


 シャルがこちらを振り向く。

 なお、頬がちょっと赤い。


「前に研究職の人間は目標があることが多いって聞いたんだよ。シャルもあるのかなって」


 前にジョアン先輩がそう言っていた。


「ああ……そういうのね。ありきたりだけど、エリクサーを作ることかしら」


 シャルがあっさり答える。


「聞いといてなんだけど、言っていいもんなん?」


 ジョアン先輩は教えてくれなかった。


「うーん、まあ、普通は恥ずかしいから言わないけどね。でも、ツカサならいいかなって……エリクサーって言っても、全然、ピンと来てない感じだし」


 HPとMPが全回復するやつだろ。


「そりゃ知らんし。すごいものなの?」

「万能薬よ。何でも治るし、下手をすると、生き返らせるレベル」


 へー……

 ん? それがあれば……


「失った腕とかも生えてくる?」

「はい? そりゃ生えてくるんじゃない?」


 マジか。

 それがあれば腕輪とおさらばできるじゃん。


「頑張れ! 応援している!」

「あ、ありがと……」


 シャルが礼を言うと、ぷいっと顔を戻し、採取を再開した。

 すると、クロエが肩をトントンと叩き、俺に向かって笑顔でサムズアップしてくる。


「……今のは100点ですよー。応援する系男子は好感が持てます」


 いや、ほぼ自分のために……


「ク、クロエは目標とかあるの?」

「おや? 珍しく動揺が見えます……どうしました?」


 目ざといメイドだな。


「なんでもないよ」

「ふむ……まあいいでしょう。私の目標は決まっています。お嬢様が幸せになることですね」

「幸せ? イヴェールの当主になること?」

「それがお嬢様の幸せならそうでしょうね。ですが、幸せというのは色々な形があります。大金を得ること、地位を得ること、最高の伴侶を得ること……どれも素晴らしいことですが、人によって何が大切で何が幸せなことなのかは異なるのです。ツカサ様も御自分の幸福を掴むことをお勧めします」


 なんか良いことを言っている気がする。


「俺の幸福って何だろ?」

「それはあなたにしかわかりません。親や家ではなく、御自分で考えてください。もちろん、今すぐに答えを出してはいけません。あなたはまだ若い。これからじっくりと考えていくのです。そのための学校なのですから」


 何故だかわからないが、この言葉は俺に言っているのではない気がした。

 というか、なんか空気が重い……


「クロエの目標はどうでもいいけど、ちゃんと周囲を見てる?」

「見てますよー。お嬢様、ひどーい」


 クロエがちゃらけると場の空気が元に戻る。

 そして、その後も採取を続けていくと、ちょっと休憩することになった。


「あー、疲れた。ずっとしゃがんでいると、腰が疲れるわ」


 シャルが両手を上げながら体を伸ばす。


「ポーションでも飲めば? 効くんだろ?」


 そう言うと、シャルがドヤ顔をしながらこちらを振り向いた。


「ふっ、その言葉を待っていたわ」

「え? 何?」

「これをあげる」


 シャルが2つのポーションを渡してくる。

 1つは透明だが、もう1つは茶色っぽい。


「もしかして、例のキャラメルマキアート味のポーション?」

「そうよ! それとソーダ味ね」


 やはりもう1つは俺が要望したソーダ味か。


「へー……シャルはすごいなー」

「ふっ、自信作よ!」

「飲んでもいいの?」

「あ、ソーダ味は例によって冷やさないとダメよ」


 炭酸は冷やさないと美味しくないしな。


「わかった。キャラメルマキアートをトウコに渡しておくわ」

「そうね。もう1つずつあげるからあなたも飲んでみて。感想が欲しいのよ」


 シャルがそう言ってもうワンセットくれた。


「わかった。飲んでみる。やっぱり甘いのかな?」

「まあ、それがキャラメルマキアートだからね。あ、湯煎で温めた方が美味しいわよ」

「これも携帯できない感じ?」

「まあ、炭酸飲料よりかはマシだけど、要はコーヒーだからね。冷やすか温めた方が美味しいに決まってる」


 確かに……


「トウコとやってみるわ」

「うんうん……次は?」


 え?


「次って?」

「何が欲しいの?」


 なんかハマってるし……


「トウコに聞いてみるよ……」

「ツカサはないの?」

「えーっと、じゃあ、ジンジャーエール?」

「ジンジャーエール……あなた、炭酸が好きね」


 まあ、そりゃね。


「スポドリでもいいけど……」

「2つも要求するとは贅沢な男ね」


 ダメだ……

 完全に火が点いている……


「うん、シャルの作るポーションは美味しいから。もう普通のポーションには戻れない」


 おだてとこ。


「うんうん……期待に応えましょう!」


 すんげー良い笑顔……

 いっそ魔力回復ポーションを頼もうかな?

 毎日飲んでるけど、不味いし……


お読み頂き、ありがとうございます。

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