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バカと呪いと魔法学園 ~魔法を知らない最優の劣等生~   作者: 出雲大吉
第2章

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第073話 勇ましいなー……


「熊かー。どこ?」

「ここから100メートルは先」


 イルメラが笑っている。


「そうか……ユイカ、イルメラに譲るか?」


 というか、雰囲気的に譲った方が良さそう。


「私は狼を狩ったし、イルメラにあげる」


 ユイカも空気を読んだようだ。


「悪いわね」

「構わんが、援護はいるか?」


 投石くらいしかできないけども。


「いらない。行くわよ」


 イルメラが速足で森の奥に向かったので俺とユイカも追う。

 そのまま進んでいくと、イルメラが立ち止まった。


「向こうもこちらに気付いたわね。急ぐわよ」


 イルメラが走り出したので慌てて追う。

 すると、木がなく、開けたところにこちらをじっと見る灰色の熊が視界に入ったため、立ち止まった。

 熊はじーっとこちらを見るだけでまったく動かない。


「2人は動かないで」


 イルメラはそう言うと、ゆっくりと熊に向かって歩きだす。

 熊はそれでもじっとしてて動かなかったが、イルメラとの距離が10メートルぐらいになったところでイルメラに向かって駆けだした。


「逃げないのはいいね」


 イルメラはそう言って槍を構えるが、動かない。

 そして、熊がギリギリ目の前にやってくると、飛び上がり、熊の腹部に槍を叩きこんだ。


「痛そー」

「ホントなー」


 イルメラに突進を躱された熊はそのまま数メートル行ったところで立ち止まり、視線の先にいる俺達をじっと見てくる。

 こっちに来るかなと思って、身構えたのだが、熊はすぐに振り向き、イルメラと対峙した。


「来ないんかい」

「そりゃそうでしょ。何もしてない私達より攻撃してきたイルメラ」

「それもそうか……」


 納得し、熊と再び対峙しているイルメラを見ると、槍を構えて笑っていた。

 やっぱりイルメラもそういう人間のようだ。


「ほら、おいで。今度は仕留めてあげるから」


 熊に言葉は理解できないと思うが、イルメラがそう言うと、熊が再び、突進する。

 直後、イルメラが踏み込み、熊の肩に槍を突き刺した。

 すると、熊の肩から鮮血が舞う。


 細腕のイルメラと巨大なクマとではどう考えても熊の突進の方が強いが、イルメラは魔力で強化しているようで熊の突進が止まった。

 しかし、熊はひるむことなく、身を翻して槍を抜くと、その太い腕を振るう。


「あはは! 遅いわよ!」


 イルメラは槍を手放して横に躱すと、どこからともなく、剣を取り出して熊の首を斬った。

 すると、熊の首から勢いよく血が噴き出し、流れ落ちていく。


「イルメラ、楽しそう」

「あいつ、モテないだろ」


 怖いわ。


「武家の人には勇ましいってモテるらしいよ」

「マジかー」


 俺達が話していると、再び、位置を代えたイルメラと熊が対峙する。

 槍に持ち替えたイルメラと血を流す熊がお互いを睨みながら膠着状態になっていた。


「やればいいのに」

「手負いの獣は危険なんだろ。昔、爺ちゃんから聞いたことがある」


 どうするんだろうと思っていると、熊が踵を返し、逃げ出した。


「あ、逃げた」


 熊は森の奥に走っているが、イルメラが動かない。

 しかし、次の瞬間、イルメラの姿が消えた。


「あれ?」

「消えたぞ?」


 どこに行ったんだろうと思っていると、イルメラが走っている熊の上空に現れ、熊の脳天に槍を突き刺した。

 熊は勢いよく、前のめりに倒れ、痙攣していたが、イルメラがさらに槍を押し込むと、ピクリとも動かなくなった。


「ツカサ、見えた?」

「全然。ありゃ魔法だな」

「ジュリエットが使っていた転移魔法か……」


 ジュリエットって誰だよ。


「おーい、仕留めたわよー」


 イルメラが槍を抜きながら声をかけてきたのでイルメラのもとに行く。


「今のは転移魔法か?」

「そうそう。対遠距離魔法使い用の奥の手」


 確かに奥の手だな。

 知らなかったらまず初見で終わる。

 シャルなんて……あ、いや、シャルも転移魔法を使ってたわ。

 あー……もしかして、ジュリエットってシャルのことか?

 変なあだ名だな。


「さすがはイルメラ。強い」


 ユイカが拍手する。


「まあね! あっはっはー! あ、ユイカ、パパに送るから写真撮って」


 イルメラはそう言ってユイカに自分のスマホを渡し、横たわっている熊の前でピースした。


「撮るよー。笑ってー……」


 すでに満面の笑みだぞ。


「はい、チーズ……撮れたよ」

「悪いわね……オッケー、オッケー。可愛く写ってる」


 イルメラはスマホを返してもらうと、画面を見ながら満足そうに頷いた。


「絶対に熊のせいで可愛くないだろ」

「つぶやいたらバズるわよ」

「やめーや」

「やんないわよ。というか、こっちの写真を撮って投稿したら1時間もしないうちに怖い人がやってくるわよ」


 怖いなー。

 写真を撮ったりしないし、SNSもやってないけど、危なすぎ。


「そういうのはもっと早く知りたかったわ」

「逆になんで知らないのよ……最初に習うでしょ」


 誰からも習ってないし、もらった分厚い本も読んでないね。


「どうする? 大物を仕留めたし、帰る?」


 ユイカがイルメラに聞く。


「そうね。持って帰って売り飛ばしましょう。ツカサ、あんたらはどこで売ったの?」

「フランクの知り合いの鍛冶屋。クラウスって筋肉爺さん」

「やっぱりあいつのところか。よし、そこでいいわ。帰りましょう」


 イルメラが上機嫌で熊を空間魔法に収納したので俺達は引き返し、森から出る。

 そして、湖まで戻ってくると、転移の魔法陣に乗り、工業区に向かうことにした。


お読み頂き、ありがとうございます。

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