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バカと呪いと魔法学園 ~魔法を知らない最優の劣等生~   作者: 出雲大吉
第2章

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第072話 好かれてる?


 俺達は森の中に入り、奥へと進んでいく。

 先頭を歩くのはユイカであり、その後ろに俺とイルメラが並んで歩く形だ。


「ユイカー。お前、さっき忍び系って言ってたけど、索敵はできんのか?」


 忍びって要は密偵だろ。


「気にしていることを……それができないからこの学校にいる。本来なら赤羽はコソコソした家だから魔法学園に通うことなんてない」

「なるほど。お前もマチアスの言う劣等だったか」

「そういうこと。別に火を出したり、氷を出したりしなくてもいい。ただ索敵と魔力を消すすべを学びたいだけ」


 ユイカは魔力が大きいからな……

 簡単に察知されるだろう。


「今のところの成果は?」

「2、3ヶ月で学べたら苦労しない。地道にやる」


 確かにな。

 でも、それは俺も同じだ。

 シャルが教えてくれたから基礎学をようやくわかってきたところにすぎない。

 目的である解呪はまだ先の話だろう。


「お互い、魔力放出が苦手だと苦労するなー」

「それは仕方がないこと。どっかの犬も人は配られたカードで勝負するしかないって言ってた。私は私のペースでやる。他人は関係ない」


 良いことを言う犬だな。

 ……いや、犬ってしゃべんの?


「でも、お前、他の授業も取ってるよな? 錬金術とかいらんだろ」

「知識は武器になる。絶対に将来の役に立つ」


 すげー良いことを言っているんだが、君、ほぼ寝てない?


「親にそう言われて受けさせられているだけでしょ」


 イルメラがツッコむ。


「……錬金術、楽しくない。物理や化学を無視するのが魔法って教わったのに何故、学ぶのか」


 その言い分はわからんでもない。


「錬金術は性に合わんよな」


 何となく取ってるけど、絶対に将来の役に立たないと断言できる。

 勉強を教えてくれるシャルが上機嫌で早口になるだけだ。


「あんたらはもう少し頑張りなさいよ……あ、狼が来たわよ。数は3ね」


 イルメラにそう言われたので立ち止まる。


「どうする? ちょうどこっちも3だぞ」


 今日は戦える人間しかいないので守りを考えなくてもいい。


「私がやる。2人は見てるだけでいい」


 ユイカがそう言って、数歩前に出た。


「前のめりだな」

「昨日もユイカとトウコが奪い合ってたわ。初めてのトウコはともかく、ユイカはよく飽きないもんよね」


 イルメラが呆れる。


「お前は飽きた?」

「4月にフランクと散々やらされたから狼はもういい。熊に期待」

「出るかねー? あ、狼が来た」


 奥から3匹の狼が駆けてきた。


「ユイカ、大丈夫か?」

「問題ない」


 ユイカは頷くと、飛び出した。

 残像が見えるんじゃないかという速度で狼に向かっていく。


「速いなー」


 前に演習場で見たスピードよりもずっと速い。

 やはりあの時は全力ではなかったようだ。


 ユイカはまっすぐ突っ込んでおり、すぐに狼達の目の前までやってきた。

 すると、1匹の狼が口を開けて、ユイカに飛びかかる。

 しかし、ユイカはそれをくるりと横に回転しながら躱し、そのまま短剣で狼を切り裂いた。

 狼は真っ二つになって地面に落ちる。


「すごいわねー」

「本当にな」


 1匹の狼を倒したユイカに残っている2匹の狼が同時に左右から襲い掛かる。

 ユイカはそのまま流れるように足を狙っている狼の脳天に短剣を突き刺し、一方でもう1つの短剣で飛びかかっているもう1匹の狼の首を刎ねた。


 ユイカの足元にはバラバラになった狼と脳天に短剣が突き刺さった狼が転がっている。

 そして、ユイカが脳天から短剣を抜いた。


「暗殺者さんだ」

「物騒ねー」


 ちょっと怖い。


「終わったー」


 ユイカがトコトコとこちらに戻ってくる。

 その顔は無表情のままであり、何も心が動いていないことがわかる……って怖いことを思ったけど、よく考えたらユイカはいつもほぼ無表情だったわ。


「お前、本当に強いな」

「でしょ? これが私の持っているカード」

「俺も持ってる」

「うん。お互い、これで頑張ろー」


 おー。


「あんたらは本当に特化してるわね……次に行くわよ」


 いっぱいカードを持ってそうなイルメラがそう言うので森の奥に向かっていく。

 その後も狼がよく出てきたが、すべてユイカが瞬殺していった。


「熊が出ないわねー」


 すでに森の中を歩いて1時間くらい経っているが、狼しか出ていない。

 やはりこの前は特別だったようだ。


「罠でも仕掛けるか?」

「罠って?」

「エサを撒くとか……」

「狼が来るだけでしょ。うーん……」


 イルメラが悩みだす。


「ちょっと休憩しようぜ」

「それもそうね。はい、あげる」


 イルメラがスポーツドリンクを2つ取り出し、俺とユイカにくれた。


「悪いな」

「ありがとー」


 俺とユイカは礼を言い、適当な木の下でスポドリを飲む。


「やっぱり熊は難しいかもね……狙って出るもんじゃない」


 イルメラはそう言いながら自分の分のスポドリを取り出して飲みだした。


「4月にフランクと散々やらされたって言っていたが、その時はどうだったんだ?」

「ほぼ狼。猪が2匹出てきたかしら? 内1匹は逃げた」


 猪か。

 美味そうだ。


「熊ってめっちゃレアじゃん」

「そうね。だからあんたらが遭遇したって聞いて期待したの」

「ノエルが言ってた魔力が高いと魔物が寄ってきやすいってやつか? 俺、嘘くさいと思ってるぞ」


 そんなことで寄ってくるなら人が多い湖に出てくるはずだ。


「私もそんな気がしてきた……と思ったんだけど、どうかなー?」


 イルメラが森の奥をじーっと見る。


「どうしたー?」

「なんかいるわね……大きい……当たりか」


 え? マジ?


「熊?」

「多分ね。この魔力、大きさは狼じゃない」

「猪の可能性は?」

「それもない」


 じゃあ、熊か……

 本当に出るんかい……


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