第006話 アストラル
男子寮の玄関に初対面の生徒会長と2人きりになってしまった。
「えーっと、改めまして、長瀬ツカサと言います。よろしくお願いします」
「ええ……日本の方?」
名前でわかるのかな?
「そうですね」
「なるほど…………随分とお若いようですけど、おいくつなんですか?」
「16歳ですね」
「あら? 同い年ね」
そうなんだ……
俺より年上に見えるぞ。
シャルリーヌさんは俺より背が低いがトウコよりかは高い。
多分、160センチくらいだろう。
姿勢もよく、スタイルも良さそうだ。
それでいて顔立ちも整っているし、長いサイドテールも可愛いらしい。
うーん……どう見ても庶民じゃない。
もしかして、これがトウコの言っていたお嬢様か?
生徒会長だし。
「シャルリーヌさんですっけ?」
「ええ。シャルリーヌ・イヴェールよ。長いし、言いにくいでしょう? シャルでいいわ」
イヴェール……
名門っぽい名前だ。
知らんが、きっとお嬢様だな。
気を付けよう。
「お休みなのに悪いなー」
「これも生徒会長の仕事だから別にいいわよ」
「あの、生徒会長なんてあるの?」
「そりゃあるわよ。生徒達の意見をまとめたり、色々やらないといけないし」
へー……
「俺の案内もその一環?」
「普通は先生とかが案内するんだけど、緊急で入学が決まったんでしょ? それで空いている先生がいなくて私が頼まれたの。ねえ、なんで急にこの学園に来たの? 16歳ってことは高1でしょ? 高校は?」
腕輪のことは言えないっと……
「普通の高校に落ちてニートしてた。それで親がここに行けってさ」
何が悲しいってこの言い訳は嘘ではなく事実だということ。
「そ、そう? えーっと……」
シャルはあからさまに動揺しており、聞くんじゃなかったって顔をしている。
「まあ、俺のことはいいや。休みの日にごめんだけど、案内して。俺、何も聞いてないんだよね」
「そ、そうね。まずは外に行きましょう…………なんで裸足?」
シャルが俺の足元を見て、首を傾げた。
「あ、さっきまで自分の部屋にいたんだった」
今度から靴を用意しないとダメだな。
「あー……日本はそうね」
詳しいな、この人。
「取ってくるわ」
「あ、いや、お客様用にスリッパがあるからそれでいいでしょう」
シャルがそう言って、指差した先にはスリッパがあった。
「じゃあ、これでいいや」
「ええ。行きましょう」
スリッパを履くと、シャルと共に寮を出る。
すると、寮は丘の上にあるらしく、周囲を見渡すことができた。
「おー、すげー! アストラルって広いなー」
視線の先には多くの建物が並んでおり、それでいて高い建物も少ないため、かなり遠くまで見える。
正直、もうちょっと狭い世界を想像していたのだが、町の先が地平線となってよくわからないくらいには広い。
「あなた、アストラルに来たのは初めてなの?」
「初めて。というか、存在を知ったのも数日前だな」
「えーっと、魔法使いの家の人じゃないの?」
あー、そう思うか。
「いや、その家の子。でも、俺は才能がなかったから普通に生きるつもりだったんだよ」
「才能がない? かなりの魔力を持っているように思うんだけど……」
「魔力量だけね。まったく活用できない。基礎の火魔法すら使えない」
「そ、そうなの……じゃあ、なんでこの世界に…………ごめんなさい」
シャルはニートを思い出したようで謝ってきた。
「いや、気にしなくても良い。それよりもアストラルってどのくらい広いんだ?」
「アストラル全体の広さは地球の1/4程度ね。この町はアインって名前なんだけど、100平方キロメートルくらいよ。パリと同じくらい」
パリ……
ラ・フォルジュの家があるフランスの首都だ。
しかし、パリって言われてもよーわからんな。
「シャルはフランスの人?」
「まあ、そうかしら?」
ふーん、半分は同郷か。
「俺も町に行ってもいいのか?」
「そりゃいいでしょ。なんで?」
「魔女狩りから逃げてきたわけでしょ? 外の人に差別的じゃないかなーと」
石を投げられるのは嫌だぞ。
「そんなことないわよ……というか、本当に何も知らないのね」
「知らん。何も聞いてないし」
「普通はもうちょっと知ってから来ると思うんだけど……あっ……ま、まあいいわ。教えてあげる」
またニートを思い出したな。
「教えて」
「そもそもな話、ここに来られるのは魔法使いだけなの。あなたもゲートを通ってきたんでしょ?」
「ゲート……あの黒い扉?」
「そう、それ」
校長先生もゲートって言ってたし、そういう名前なんだな。
「さっき部屋に設置してもらったね」
「あれは魔法使いにしか使えないの。そもそも普通の人は見えない」
へー……
「シャルもゲートを使って通ってんの?」
「そうね。女子寮から来てる」
女子寮か……
ということは同い年のトウコを知っているかもしれん。
兄妹だとバレたくないから言わないけど。
「それでゲートがどうしたの?」
「つまりここに来られるのは魔法使いだけなの。魔法使いは同胞で大切な仲間よ。そんな人に石は投げないわ」
逆に言うと魔法使いじゃなかったら石を投げるのか?
「争いもなく平和なの?」
「…………あなた、どこの家の人?」
「長瀬って名乗ったじゃん。まあ、知らないだろうけど」
知名度ゼロ。
「仲の悪い家はないの?」
「それすら知らない」
「ふーん……争いもなく平和だっけ? そんなわけないわね。名門同士で争っているし、ガラの悪い連中もいる。まあ、あっちの世界と一緒よ。人間だもの」
どこの世界も変わらないってことか。
まあ、暴漢くらいなら何とかなるかな。
「落ち着いたら見て回るかー」
「良いんじゃない? 向こうの世界と違って魔法の道具とか色々売ってるわよ。あ、でも、向こうの世界に魔道具を持ち込むのは制限がかかるからおすすめはしないわ。それと迷子にならないように気を付けなさい」
なるほど。
「連れていってよ」
「デートのお誘い? 大胆ねー」
「金ない」
そもそも円で取引できるのか?
「そう。聞かなかったことにするわ。冗談はさておき、町の案内はちょっと時間がかかるわね」
パリを知らんが、100平方キロメートルって相当広いしな。
「地図ないの?」
「今は持ってないけど、部屋にあるから今度あげるわ。今日は学園の案内ね」
この子、優しいな。
「ありがと。あれが校舎?」
丘の下には4つの並んでいる建物と広い円形の闘技場みたいのが見える。
「ええ。あの4つよ。A棟からD棟まであって、共通して1階が1年、2階が2年、3階が3年よ。あなたのクラスは?」
「確かDクラス」
「ならD棟ね。あそこよ」
シャルが指差した建物は一番手前だった。
「シャルは?」
「私はCクラスだからC棟ね」
シャルがD棟の隣の建物を指差した。
「ちなみにだけど、クラス分けに意味あるの? Dが一番ダメクラスとか?」
俺のクラスだもん。
「そんなものはないわね。少なくとも、成績で優劣はつけてないはず」
そうなのか……
「あのコロシアムみたいなのは?」
4つの校舎の隣にある円形の闘技場みたいな建物を指差す。
「あれは演習場ね」
「演習場?」
「魔法をぶっ放すところよ。その辺で使ったら危ないじゃない」
なるほど。
「コロシアムにしか見えん」
「まあ、あそこでケンカもしたりするわね……」
「そうなの?」
「ええ。あそこは特殊な魔法がかけられているのよ。まあ、その辺は後でいいわ。じゃあ、校舎を案内するからついてきて」
シャルはそう言って、丘から降りる道を歩いていく。
すると、途中で別の上がる道があった。
「こっちは?」
「その先が女子寮ね。男子はここから先、立入禁止」
ふーん……
「投獄されるってマジなん?」
「マジね。でも、投獄の方がマシだと思うわよ。ここにいるのは全員魔法使いだし、フルボッコよ」
こわー……
「恋人に会いに行く的なラブロマンスは?」
「外で会いなさいよ。町にはそういう場所も…………行くわよ」
シャルは頬を染めると、すたすたと丘を降りていったので慌てて追っていった。
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