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バカと呪いと魔法学園 ~魔法を知らない最優の劣等生~   作者: 出雲大吉
第2章

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第056話 ダメかー


 テストが終わって1週間が経ち、テストの結果が返ってきた。

 俺は自室でその結果をトウコと一緒に見ている。

 なお、俺のテストを見たトウコは何度も目をこすっており、さらには自分で自分の腕を摘まんでいた。


「これが愛の力か……」


 何言ってんだ、こいつ?


「俺の力だよ」

「いや、九割九分会長でしょ」


 まあね……

 そこは否定しない。


「いやー、まさか全部合格するとはな」

「そうだね……基礎学の86点がどう見ても86点だ……36点じゃない?」


 俺、保健体育以外で86点なんて取ったことないぞ。


「ちなみにお前は?」

「98点。ちょっとケアレスミスがあった」


 あっそ。


「母さんのところに行くか?」

「よし! お母さんを泣かせて町の外に行く作戦の開始だ!」

「最低な名前の作戦だな……」


 俺は呆れながらテストの結果を持って、トウコと階段を降りていく。

 そして、リビングにやってくると、煎餅を食べながらテレビを見ている母さんがいた。


「お母さーん、ちょっといい?」

「んー? 2人揃ってどうしたの?」

「テストが返ってきたー」


 トウコがそう言うと、母さんがテレビを消し、こちらを向く。


「そう……座りなさい」


 母さんにそう言われたので並んで座った。

 そして、まずはトウコがテストの束を母さんに渡す。


「ふーん……へー……」


 母さんはトウコのテストを1枚1枚見ていく。


「どう? すごいでしょ」

「ええ。さすがはトウコですね。お母さんとお父さんの誇りです」


 よく聞くフレーズだわ。

 他にないんかい。


「でしょー?」


 トウコも嬉しそうだ。


「でも、もう少し、字は綺麗に書きなさい。ここの数字の7が9に見えます。採点した先生の葛藤が見えます」


 母さんがそう言って、テストを見せてくると、確かに7とも9とも取れる字だった。

 そして、赤字で丸がしてあるのだが、何回か止まった跡がある。


「筆記なんて古いんだよ。パソコンの時代だよ?」

「ハァ……まあいいです。よく頑張りましたね」


 母さんはそう言って、テストをまとめると、トウコに返した。

 そして、俺をじーっと見てくる。


「俺のも見る?」


 一応、聞いてみる。


「そ、そうです、ね……」


 ロボットか!

 期待してないのが手に取るようにわかる。


「はい」


 母さんにテストの束を渡す。

 すると、母さんがテストを見だした。


「…………ん?」


 母さんは何故か窓の外を見る。


「…………え?」


 今度は時計を見た。


「………………」


 ついには無言になって固まる。


「おい……」

「36点? それにしては丸が多い……」


 トウコと同じ反応してるし……


「86点だよ」

「カンニング? いや、ツカサがそんなことするはずないし……」

「なんてことを言うんだ。あんたがお腹を痛めて産んだ子だぞ」


 しかも、2人同時。


「………………」


 母さんは顔を上げると、俺のことをじーっと見てくる。

 すると、両目から涙がこぼれてきた。


「マジで泣きやがった……」


 すんげー失礼。


「ぐずっ……ずずっ」


 トウコが慌ててティッシュケースを母さんの前に置く。


「ずずっ……」


 母さんはティッシュを取ると、鼻をかみ、さらには涙を拭いた。


「私はやればできる子だと信じていました……」


 嘘つけ。

 最初のあんたの反応がすべてだろ。


「シャルが教えてくれたからな。特に基礎学を重点的に教えてくれた」

「そうですか……あの子は本当に良い子ですね。さすがは1年で生徒会長になっただけのことはある人物です」


 実家の力を使って1年で生徒会長になったとか言ってたのに……

 この人、手のひら返しがえぐいな……

 ねじ切れるんじゃね?


「まあ、こんな感じで8月の試験も頑張るよ。ね?」


 トウコが振ってくる。


「そうだな。頑張るわ」


 シャルが……


「いつまでも子供と思っていましたが、成長するんですね……あんなにもバカだったのに……ずずっ」


 ついにバカって言いおった……


「お母さんさー、テストも終わったし、町の外に行きたいんだけどいい?」

「外? 外……? こっち?」


 こっちの町の外なんか電車で行けるわい。


「いや、アストラル。薬草を見に行きたい」


 本当は魔物退治。


「薬草なんか見て、何が楽しいんですか?」


 そりゃそうだ。


「気になるじゃん。こっちにはないし」

「だなー」


 便乗。


「小学生の時に朝顔の世話を一切しなかったあなた達に言われてもねー……」

「私はしようと思ったよ。でも、する前にお母さんがやったんじゃん」


 俺達、起きるの遅いし、二度寝するからね。


「うーん……町の外って魔物がいますよ? 魔法や武術の心得があると言っても危ないですよ?」


 やっぱり反対っぽい。


「ただの動物じゃん」

「俺はこの前、爺ちゃんの山で熊を倒したぞ」

「あなたは何をしているんですか……」


 母さんが呆れる。


「ねえ、ねえ、お母さーん。行ってもいい? 一人では行かないからさー。ノエルは……あれだけど、イルメラとかユイカもいるからさー」

「あ、俺も行くならセドリックとフランクと行く。フランクは武家の子で慣れてるし、強いんだぞ」


 セドリックはよくわからない。

 絶対に戦いとか演習に乗ってこないもん。


「それならまあ……ちなみにですけど、2人では行かないんですか?」

「行くわけないじゃん」

「トウコと2人で出かけることなんて何年もないな」


 ないない。


「双子なのに仲が良いんだか、悪いんだか……」

「双子とか関係なくて、兄妹はそんなもんじゃない? お母さんだって、私達くらいの年齢で伯父さんや伯母さんと出かけなかったでしょ」


 母さんは末っ子なので兄と姉がいる。

 その兄の子が次期当主である従兄のエリク君。


「うーん、確かに出かけなかったような……そんなものかもしれませんね」

「そうそう。そういうわけで町の外に行っていい?」

「まあ、勉強も頑張ったし、良いでしょう。危ないことをしてはいけませんよ?」


 どうやらトウコの『お母さんを泣かせて町の外に行く作戦』は上手くいったようだ。


「やったー。じゃあ、お母さん、ここに名前書いて」

「はいはい」


 母さんはトウコが出した2枚の紙に名前を書いていく。


「あ、母さんさ――」

「トライデントは買いませんよ」


 まだ何も言ってないのに……

 『トライデント買って』で合ってるけども。


お読み頂き、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「私はやれば出来ることだと思ってました…」でこんなに笑うと思わなかった。 [一言] 掛け合いのテンポが本当に上手い
[一言] 魔物がいる外に行かせるのに、武具を与えないってどうなの?
[良い点] 確かに言われてみれば高校生の兄妹が一緒に出掛けるのはないですね。創作だと普通にあるけどもw
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