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バカと呪いと魔法学園 ~魔法を知らない最優の劣等生~   作者: 出雲大吉
第2章

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第048話 気付いた2人


 校長先生との話を終えると、校長室を出て、寮に向かって歩いていく。

 なお、母さんがたいした日差しでもないのに日傘をさしていた。

 この人はどんな時でも外では日傘をさす人なのだ。


「腕より魔法ってマジかー……」


 ないわー。


「それが魔法使いなんです。この学園に通っている生徒の半分以上は魔法を取ると思います」

「トウコはどうかな?」

「あの子は腕でしょうね」


 俺もそう思う。

 シャルはどうだろうか?

 魔力の低さがコンプレックスっぽいが、逆に武家の人間が腕を失うのはどうなんだろうか?


「わからんわ。絶対に腕」

「それでいいです。魔法なんか一つの可能性にすぎません。自分の身体を大事にしなさい」


 若い頃の自分は魔法を取るとか言ってたが、さすがに親になると、考えが変わるか。


「母さんさ、さっきの話だと、あの不味いポーションを飲まなくてもよくね?」

「ダメです。飲みなさい。情報が少ないのですから念のために飲んでおきなさい」

「ちなみにだけど、あれいくらすんの?」

「1本、10万円以上します」


 5年……1日10万円……

 計算できないけど、すげー金なのはわかる。


「マジかー」

「はした金です。何よりもツカサが優先されるのです」


 はえー……


「頑張るわー」

「呪学はどうですか?」

「すげーむずいね。シャルがまとめてくれて教えてくれるけど、それでも難しい」

「そうですか……シャルリーヌさんには感謝しかないですね」


 ホントだわ。


 俺達は並んで歩いていき、男子寮と女子寮の分岐点まで来た。


「じゃあ、俺はこっちだから」


 母さんはトウコの部屋から来たのだ。


「ええ」


 俺と母さんはその場で別れ、寮に戻っていく。

 そして、家に帰ると、事情を知らないトウコに『お兄ちゃん、何したの? 停学でも食らった?』と言われたので頭を叩いておいた。


 翌日、月曜日なので午前中の授業は基礎学だ。

 この日の基礎学はたまにある実技があるようで最初の2時間の座学を終えると、演習場にやってきた。


 実技の授業が始まり、一通りジェニー先生のオートマタに魔法を放っていくと、自由時間になった。

 なお、俺とトウコは空気を読んでオートマタを壊さなかったが、空気が読めないユイカはバラバラに切り裂いていた。


「ツカサ、ツカサ。戦おう」


 先生を泣かせる悪い子が俺の裾を掴んで誘ってくる。


「授業中だけど、いいんか?」

「そういうのも自由。先生も何も言わない」


 そのジェニー先生は自由時間を告げた後は集めた紙を呆然と見ている。


「強化したのに……ラ・フォルジュさんと長瀬君は大丈夫だったのに……私物なのに」


 ……手加減して良かったと思う。


「戦いねー……今日はちょっと気分じゃないんだ。あっちにいるラ・フォルジュさんを誘いな」

「トウコか……ふむ、確かにこの前の決闘を見る限り、楽しそう」


 ユイカは納得したのか一人でポツンといるトウコのもとに向かった。


「お前がそういう気分じゃないって珍しいな」

「だね。どうかしたの?」


 フランクとセドリックが聞いてくる。


「いや、ちょっとな……再来週の試験が気になっている」


 本当は昨日の校長先生との会話だが、そこは言わない。

 それに実際、試験が気になっているのも事実だ。


「あー、試験か」

「確かにそれは気になるね。ツカサは何を受けるの?」

「絶対に落とせないのは基礎学。後はまあ……って感じ」


 基礎学だけは落とせない。

 あれだけシャルに集中して勉強を見てもらったのに立つ瀬がない。


「まあ、良いんじゃね? 別に2年になっても1年の授業は受けられるしな」


 この学校は卒業や進級という概念が少し特殊で自動的に3年まで進級し、その後は勝手にどうぞという仕組みだ。

 だから3年生には何年も通っている生徒もいるらしいし、違う魔法を学びたくて、卒業後に復帰する人もいるらしい。


「ツカサは呪学がメインでしょ? それはどうするの?」

「無理だと思う。受けても無駄だから他の科目に集中するわ」


 家庭教師の先生と相談して決めた。


「へー、やっぱり難しいんだ」

「お前も一回受けてみたらどうだ? 笑えるぞ」


 クソむずい。


「いいよ。笑いたくないしね。あと一緒に行きづらい」

「なんでだ? 一緒に行こうぜ。友達だろ」

「友達だからだよ」


 えー……


「何、何ー? 何の話ー?」

「あの、止めなくてもいいんですかね?」


 イルメラとノエルがやってきた。

 ノエルが言う止めるというのは向こうで魔法も使わずに激しく剣と拳でやり合っているトウコとユイカのことだ。


「テストの話。ラ・フォルジュさんとユイカはほっとけ。野蛮人は嫌だね」

「ツッコミ待ち? ツッコまないわよ」

「バーサーカーばっかりですもんね」


 誰がバーサーカーだよ。


「ユイカってテスト大丈夫なん?」


 そう聞くと、イルメラが苦笑いを浮かべ、ノエルの顔がちょっと暗くなった。


「あれ? ダメ?」

「頑張ってはいると思います……」

「そうか……最下位はあいつで決定だな」

「別に順位はないですけどね……」


 ふふん! やっぱり俺の方が賢かったな。

 あいつ、薄目作戦をいつまでも引っ張るが、ようやくこれで決着がつくわけだ。


「そうか、それは残念だな」

「全然、残念そうじゃないし……勝ったって顔してるし」


 イルメラがツッコんでくる。


「負けるわけにはいかんのだ。そういうお前は大丈夫か?」

「私は問題ないわよ。ちゃんと予習復習もしてるし」


 そういやこいつも優等生だったな。

 本当に優等生しかおらん学校だわ。


「いやー、きつい、きつい……トウコ、笑わせてくるからひどいよ」


 ユイカが戻ってくる。

 遠目に見ていたが、トウコが水面蹴りをした時に噴き出していた。

 理由はわかっている。

 俺が以前、ユイカ相手に同じ技を使ったからだ。


「ユイカさん、今日から毎日、勉強です!」


 ノエルがユイカの手を取る。


「え? なんで?」

「再来週にはテストが始まります。このままでは負けますよ!」

「負けって……勝ち負けがあるの? テストってそういうものじゃなくない?」


 正論を言うユイカ。


「そうだぞ。自分との闘いだ。自分のペースでやるべきだぞ」

「うわー……ひどい男だ。心の底が見えるわー」


 イルメラは黙ってろ。


「………………」


 ユイカがじーっと俺を見てくる。


「負けますよ? 向こうにはジュリエットがついています」


 誰だよ。


「むぅ……ロミオには負けない」


 こいつら、何を言ってんだ?

 ん? 待て……ロミオとジュリエットか……

 聞いたことあるな……でも、何だっけ?

 おとぎ話だったかな?


「イルメラ、こいつらは何を言ってんだ?」

「さあ? 私もわかんないわね。でも、どうせくだらないことでしょ」


 まあ、そうだろうな。


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