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バカと呪いと魔法学園 ~魔法を知らない最優の劣等生~   作者: 出雲大吉
第1章

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第039話 決闘2戦目


 マチアスに勝った俺は下がっていき、トウコの前に立つ。


「弱すぎ。何あれ?」

「あんなもんでしょ。武家だか何だか知らないけど、お坊ちゃま。ロクに戦ったことないんじゃない? 子供の頃から武術をやっている私達に勝てるわけがないじゃん」


 そんな気はした。

 ただ魔法を放ってただけだ。


「トウコ、全力でやるのはこの際仕方がないとして、絶対にシャルの顔を殴るなよ」

「まったく私を応援する気がないね……そもそも私は魔法使いなの。武術しかないお兄ちゃんと違うの」

「そうか……」


 ちらりとシャルを見ると、じっと俺達を見ていた。


「お兄ちゃん、そんなにあれがいいの?」


 あれ言うな。


「優しい子なんだよ」

「どこが? 全然優しくないじゃん」

「それはお前が話したこともないからだろ。あー、俺がシャルの代理になりてーわ」

「あん? やる気?」


 なんて気の短い妹なんでしょう。


「シャルリーヌさん、トウコさん、前へ」


 トウコと話していると、ジェニー先生が告げた。


「っしゃ! 潰す!」


 トウコが俺の横をすり抜け、歩いていく。


「トウコ」

「何?」


 トウコが足を止めた。


「まったく応援せんし、めちゃくちゃ負けろって思っているが、頑張……るな」

「妹に頑張れすらも言えんか……最低の兄め」


 トウコが笑い、前を向いて歩いていたので観客席に上がる。

 そして、クラスメイトが待つ席に向かった。


「お疲れ様です」

「時間かけすぎ。私なら10秒でやれた」

「私、あんたと戦わないで良かったってつくづく思ったわ。あれ、死んでたでしょ」


 女子3人がそれぞれ労いの言葉をかけてくれる。


「死んではねーよ。首の骨が折れてたがな」

「怖っ! いや、それ致命傷でしょ」

「ロクに受けを取らなかったあいつが悪い。まともに食らう奴があるか?」

「うーん……そうかなー? あんたの蹴りが見えなかったけど?」


 遠いから見えなかっただけだろ。


「圧勝だったな」


 フランクの横に座ると、フランクも声をかけてくる。


「あいつ、何なん? 口だけにもほどがあるだろ」

「いや、マチアスは弱くなかったぞ。転移魔法とかすごかったし……あれ、難易度の高い上級魔法だ」


 マチアスもそんなこと言ってたな。


「それだけだろ」

「まあ、確かに動きは悪かったな」


 ホント、ホント。


「そうなの?」


 セドリックが聞いてくる。


「魔法は一直線でたいして速くもない。そんなもんは何回やっても当たらん。それでいて、あんな装備をしているから接近戦ぐらいはできると思ったらドシロウト。それでも俺は魔法を知らないから何か参考になるかもと思って、しばらく見てたが、結局、何もなかった」


 俺はマチアスに負けても良かった。

 それよりも少しでも魔法というものを知りたかった。


「へー……そんなもんか」

「そんなもん……さて」


 マチアス以上に動けないシャルがトウコ相手にどう戦うか……


「緊張の一戦だな」


 シャルは先生を挟んでトウコと睨み合っている。


「解説のフランク君。どう見る?」


 フランクは戦いに詳しい。


「解説できるほど2人を知らん」

「それでも俺よりかは知ってるだろ」

「うーん、まあ……会長贔屓のお前のために客観的に解説するが、それでもトウコ有利だな」


 聞くんじゃなかったなー。


「そうなの? もうわかるのかい?」


 セドリックがフランクに聞く。


「立ち姿でわかる。トウコは前のめりでいつでも飛び掛かりそうな雰囲気を出している。こういう奴は確実に戦闘タイプの魔法使いだ。逆に会長は格好から見ても戦闘タイプじゃないし、立ち姿も棒立ちだ。間違いなく、戦いなんてやったことがない人間だな」


 正解。

 だから俺はやろうと思えば瞬殺できたマチアス相手に粘ったのだ。

 それはシャルに遠距離魔法を使ってくる相手に対する俺やトウコの動きを見せたかったから。


「ラ・フォルジュはどちらかというと学者タイプの家でイヴェールは武家。それなのにあの2人のタイプは逆なわけか……しかも、決闘を申し込んだのは会長。皮肉だねー」

「そうだな……そして、会長がきついのは戦闘タイプじゃないのにトウコの方が魔力も高いことだ。こうなったら相手にならんぞ。上の方にいる上級生達もそう思っているだろうよ」


 フランクに言われて観客席の上の方を見ると、見たことがなく、年上っぽい生徒達チラホラいる。


「見学か?」

「1年の1位、2位を争う2人だからな」

「俺がシャルとやれば良かったわ」


 上手い具合に負けてやる。


「それだけはやめた方が良いよ」


 セドリックが苦笑いを浮かべる。


「クソトウコめ。負けろ、負けろ、負けろ」

「君、一緒に決闘をしているクラスメイト相手によくそこまで言えるよね……」

「あからさますぎて笑うわ」


 2人が呆れていると、先生が下がり、シャルとトウコも数歩下がった。


「始まるね」

「そうだな……」


 俺達は2人をじっくり見る。


「では、シャルリーヌ・イヴェールさんとトウコ・ラ・フォルジュさんの決闘を始めます!」


 先生がそう告げた瞬間、シャルが杖を振った。

 すると、シャルの姿が消え、一瞬にして、10メートル以上後方に現れる。

 しかも、数メートルは宙に浮いていた。


「飛んでる! すげー!」

「転移魔法と浮遊魔法の合成だね。本当にすごいよ」


 セドリックが感心する。

 しかし、トウコはシャルを見上げるだけでまったく動揺していない。


「会長もトウコが接近戦ができる戦闘タイプと見たんだな。あからさまに距離を取った」


 というか、裏切者の兄貴が教えた。


「クリムゾンフレイム!」


 シャルはトウコに向かって杖を向けると、杖から炎が出てきた。

 その炎は一瞬にして燃え広がり、演習場を焼いていく。


「あれをマチアスが使ってたら即負けてたなー」


 すげーわ。


「上級魔法だよ。あんなもん、一年生が防げるわけない」

「じゃあ、ラ・フォルジュさんは負けたか。よしよし」

「んなわけないだろ」


 フランクがそう言うと、一瞬にして炎が消えた。

 トウコはまだ演習場におり、しかも、トウコの前には氷の壁があった。


「クリスタルウォール……上級魔法だね」


 上級魔法しかないんか?


「くっ……」


 シャルが悔しがっている。


「あれで決めたかったんだろうな……」

「だろうね。多分、あれが会長の最大の魔法」


 俺もそう思う。

 実力が優っている相手には初手で最強の攻撃をぶつけるしかない。


「どうするんだろ?」

「さあ? このレベルの魔法になると、俺はわからん」


 俺もわからん。


 2人は睨み合っていたが、トウコが先に動き、指をシャルに向ける。

 すると、トウコの指から氷の槍が飛び出し、ものすごい勢いでシャルに向かっていった。


「くっ!」


 シャルは顔を背け、間一髪で躱した。


「上手く避けたね」

「絶対に終わったと思った」


 俺も思った。


 シャルは地面にすーっと降りていく。


「あれ? 飛ぶのをやめるの?」


 セドリックが首を傾げた。


「空中では躱せないと判断したんだろうよ」


 だろうな。

 というか、今のは警告だ。

 トウコは多分、当てようと思えば当てられた。

 顔じゃなくて、胴体を狙っていたらシャルは絶対に躱せなかったからだ。

 だが、これで俺のトウコを寝させない作戦とは別の作戦が生きたということがわかった。

 俺が無駄にマチアス相手に粘ったのはシャルにトウコの動きを見せると同時にトウコの油断を誘うためなのだ。


 トウコは勉強もできるし、皆が言うように天才なんだろう。

 だが、あいつには弱点がある。

 それは性格だ。

 あいつはすぐに調子に乗るアホだから俺が武術でマチアスに勝ったことで絶対に今調子に乗っているし、遠距離魔法しか使えそうにないシャルを見て、完全に油断しているだろう。


 あとはシャルがこれをどう生かせるかだ。


お読み頂き、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ちゃんと顔を殴らずに魔法で狙うところ [気になる点] 付け焼き刃のシャルさんの近接で負けたらトウコさん心折れそう [一言] 面白いです
[一言] つかさ君にあてられて読んでいるこっちもシャル贔屓に シャル頑張れ!
[気になる点] ツカサくん戦いのことになると頭良くなってね!? 戦略レベルやん
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