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バカと呪いと魔法学園 ~魔法を知らない最優の劣等生~   作者: 出雲大吉
第1章

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第034話 裏切り者と呼ばないで


 寮に戻ると、フランクとセドリックからマチアスの情報を聞く。

 そして、家に戻ると、ベッドで漫画を読んでいた。

 腹が減ったなーと思っていると、隣の部屋から音がし、ドンドンという強い足音が近づいてくる。


「お兄ちゃんっ!」


 扉が開き、制服姿のトウコが部屋に入ってきた。


「何だよ。薬草学は終わったん?」

「終わった! そんなことはどうでもいいの! マチアスの野郎をぶっ飛ばすのよ!」


 トウコがベッドまでやってきて、身体を揺する。


「するってば……」

「あの野郎! 人のことはともかく、親までバカにしてきやがった! トウコパンチをお見舞いしてやるところだったわ!」


 弱そうな名前のパンチだな。


「まあ、決闘というか演習だけどな。しょうもない」


 まだそこら辺のガキ共のケンカの方がちゃんとしてる。


「それは仕方がないよ。魔法があるから死人出ちゃうしね。さすがに先生も許可しない」

「まあなー」

「でも、ぶっ飛ばすんだよ! 負けたら承知しないから!」


 はいはい。


「トウコ」

「何?」

「お前は負けろ」

「は?」


 トウコが何言ってんだこいつっていう顔をする。


「シャルと戦うのは仕方がないとして、負けろ」

「何を言ってんの? 勝つに決まってんじゃん。会長がいかに強かろうが、全力で潰してやる!」


 シャルはなんであんなことしたのかねー?

 マチアスを庇ったか?


「マジでやるん?」

「当たり前! 私はラ・フォルジュを名乗っているの!」

「応援できんなー……」

「なんでよ! 応援してよ! あ、会長が美人だからだ! この好色兄貴め! バーカ、バーカ!」


 トウコはアホなことを言って、部屋を出ていった。


「ハァ……シャル、どうするんだろ、ちょっと聞いてみるか……あ」


 シャルに電話しようと思ったらスマホから着信音が聞こえてきた。

 慌てて確認すると、シャルからだった。


「もしもし?」

『あ、ツカサ? 今大丈夫?』


 当たり前だが、シャルだ。


「大丈夫だけど、さっきのは何?」

『ごめん……ちょっと出られる?』


 時刻を見ると、まだ2時を過ぎた辺りだ。

 アストラルでは5時くらいだろうが、時差があるのでこっちはまだ昼なのだ。


「いいよ」

『公園で待ってるから』

「わかったー」


 電話を切ると、運動着に着替え、1階に降りた。


「母さん、走ってくるー」

「はいはい。いってらっしゃい」


 母さんに声をかけると、家を出て、公園に急ぐ。

 公園に到着すると、制服姿のシャルがベンチに腰かけていた。


「シャル」


 俯いていたシャルに声をかける。


「あ、ツカサ……」


 シャルが顔を上げたので隣に座った。


「さっきぶり」

「ええ……こんなことになってごめんなさい」


 シャルが頭を下げて謝ってきた。


「いや、俺はいいよ。マチアスとはケンカするつもりだったし」

「私がもっと早く止めるべきだったわ」

「無理無理。あいつは遅かれ早かれ、誰かとぶつかったわ」


 イルメラかユイカがやってたと思う。


「そう……ごめんなさい」

「俺のことよりシャルだよ。何してんの?」

「それは…………と、止めなきゃと思って」

「いや、男のケンカなんて放っておけばいいだろ。いくら親交のある家の奴とはいえ、そこまでするか?」


 というか、マチアスと距離を取った方が良いと思う。

 シャルの評判が落ちるだけだ。


「そうかもね……ごめん。気付いたらトウコさんに手袋を投げてた」

「謝ることじゃないけど……どうすんの? なかったことにできない?」

「それだけはできない。私が決闘を申し込んだし」


 トウコに言っても取り消さないだろうな……


「ラ・フォルジュさんとやるん?」

「そうなるわね……」


 やるのか……


「正直に聞いていい?」

「どうぞ」

「勝てる見込みは?」

「ほぼない……魔力も魔法の腕も向こうが上。魔法では勝てない」


 魔法で勝てない……


「接近戦?」

「勝てる見込みがあるならそこになるわね。魔法使いは接近戦に弱いから」


 シャルが接近戦……

 運動神経皆無のシャルがトウコと接近戦……


「シャル……俺はラ・フォルジュさんと同じクラスだから知ってるけど、ラ・フォルジュさんって接近戦にめちゃくちゃ強いぞ」


 あいつも俺と同じ格闘術を習っているし。


「そう……さっきのセリフは訂正するわ。勝てる見込みはない」


 魔法でも体術でも勝てないならそうなるのか……


「やっぱりなかったことにしたら? もしくは、代理人とか立てられないの?」

「なかったことにはできない。イヴェールとラ・フォルジュの関係でそれだけはできない。あと、決闘で代理人は立てることもある。でも、ウチは武家だから……」


 それは許されないわけだ。


「そうか……」

「ええ……」


 トウコとシャル……

 妹と友人……

 人を強化魔法しか脳がないバカと言った生意気な双子の片割れと美人で優しくて勉強を見てくれるシャル……

 うん、比べるまでもないな。


「シャル、決闘は土曜日だ。あと5日ある。それまでに武術の対処を教えることはできる」

「え?」


 シャルが顔を上げた。


「それで勝てるとは言えんし、シャルがマスターするとは思わん。だが、知っていると知らないとでは大違いだ」

「でも……」

「何だ?」

「いや、いいの? この決闘って私とマチアス、トウコさんとあなたの2対2の言わばCクラスとDクラスの戦いよ?」


 え? そうなの?


「んなもん知るか。俺はマチアスをぶっ飛ばすだけでシャルと敵対した覚えはない」


 敵同士ならなんで決闘を決めた日に仲良く公園で話してんだよ。


「そう……本当にいいの?」

「いいの、いいの」


 トウコに何か言われても爺ちゃんにもらった小遣いを分けてあげればいいだろう。

 あいつはそれで機嫌が直る。

 ソースは俺がそうだから。


「ありがとう……」

「よし、そういうわけで特訓だ。着替えてこい」

「わ、わかった」


 シャルは立ち上がると、走って公園を出ていく。

 俺はそんなシャルの後ろ姿を見つめた。


「やっぱり足遅いな……」


 大丈夫か?

 こうなったら前日にトウコの部屋に行って、寝させないようにするしかないな。


お読み頂き、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うーんパニクって決闘とかポンコツやなw
[良い点] 自分も寝ないけどマチアスをぶちのめすのに問題はない想定なのか
[一言] 男は美人に弱いからね
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