第205話 勝利の凱旋?
俺とシャルが出発地点のゲートまで待っていると、3人が戻ってきた。
「やあ、御二人さん。2人の廃墟デートのために頑張ったよ」
ユキがいつもの調子で手を上げた。
「しょうもない冗談は結構。どうだったの? こっちはアナウンスしか聞こえなかったけど」
「向こうは飛んでいたジュリエットを視認していたようだ。バカ正直にまっすぐ突っ込んできたよ。罠とも知らずに……」
それで千剣の餌食か。
「罠? 私が飛んだやつ?」
「もちろんそうだよ。このフィールドでは空を飛べるっていうのは厄介だ。だから確実に潰さないといけない。絶対に近づいてくると思ったよ。向こうの誤算は私達がこんなに早く攻勢に出てくるとは思ってなかったことだろうね。普通はまず距離を取ると考えるだろうから」
残念ながら俺達はそんなことを考えない。
「ふーん、ジョアンはイルメラさん?」
「ん? なんでわかったの?」
イルメラが首を傾げる。
「こっちにジョアンの傀儡が現れて勧誘してきたのよ。その際にあなたに襲われて消えちゃったの」
「そういうことか……こっちはユキに襲われて男子生徒が次々と餌食になり、女子生徒が逃げたところを襲ったわけ」
なんか完全にこっちが悪役だな。
「まあ、そこそこだったな。千剣を潜り抜けた勇者もいたが、ロナルドの敵ではない」
ユキがドヤ顔になる。
「それで最後の1人が降参か?」
「ジョアン先輩を撃破したところで戻っていっちゃったのよ」
「なんか我々の前に来たな」
前門のユキとロナルド、後門のイルメラか。
「そりゃもう無理だな」
「うむ。へたり込んで降参しますって言われたからどうしようかと思ったが、アナウンスが鳴って、撃破扱いになった」
そうしないとお構いなしに攻撃しそうだからだな。
審判もユキの最初の皆殺し発言を聞いているし。
「なんかウチの評判が著しく落ちてそうな気がするわね……」
「シャルがリーダーだな」
「名門ラ・フォルジュのトウコさんに譲れば良かったわ」
「秒で崩壊するわ」
人のことを言えないけど、あいつは人の上に立つ器じゃないのだ。
「それもそうね。とにかく、5人撃破で15ポイントは最高の成果よ。帰りましょう」
俺達はゲートをくぐり、元のホールに戻った。
一応、何かあるかなと警戒していたが、コンテ魔法学校の生徒はおらず、審判さんだけがいた。
「戻ったか。コンテ魔法学校の生徒はもう帰った。君達も帰りなさい」
「わかりました」
シャルがそう言ったのでさらにゲートをくぐり、ジェニー先生の部屋に戻ってくる。
「あ、おかえりなさい」
「見事でしたね!」
ミシェルさんとジェニー先生が立ち上がり、嬉しそうに迎えてくれた。
「俺とシャルは特に何もしてないけど、3人が頑張った」
「ジュリエットは飛んでエサになってくれたよ」
あれ?
そうなると、何もしてないのは俺だけ?
「ユキ、あなたは言葉を選びなさい。ジュリエットもエサもないわ」
「それはすまない。ミシェル先生、ジョアンがいましたし、ツカサ君とシャルリーヌのところに現れたようだよ」
ユキがそう言うと、ミシェルさんが眉をひそめた。
「やはり来たわね。ツカサ君、ジョアンは何て?」
「ただの勧誘でしたね。シャルと一緒においでーって」
「くっ、そこをついてきたか。ツカサ君、駆け落ちはダメよ」
こいつ、何言ってんだ?
「クロエじゃないんですからアホなことを言わないでください」
「私はかなり真剣に言ってるけどね」
ならアホだ。
「なんで他所の町とやらに行かないといけないんですか。ロクな奴らじゃないでしょ」
何されるかわからんわ。
「まあ、そうよね……ジョアンはそれだけ?」
「ええ。何かを起こすならホールかと思っていたんですけど、俺達が帰った時にはすでに帰った後でした」
「仕掛けるならそこなのに何もない……次の校内戦はノイズの町だし、5ポイントも失ったコンテがペア戦に上がってくる確率は低い。本当に扇動だけ?」
「さあ? どちらにせよ、あんな戦力ではどうしようもないと思いますよ」
ユキの千剣になすすべなしって感じだし。
「それもそうね……引き続き、警戒はするけど、あなた達は次の校内戦に備えてちょうだい。明日、作戦会議をするんだっけ?」
ミシェルさんがユキを見る。
「ええ。そのつもりです」
「大変だと思うけど、頑張ってね」
2名ほど野犬がいるからね。
「ユキさん、悪いけど、校内戦は完全にあなたに任せるわ。私はちょっと派閥を集めて話をしないといけない」
シャルは大変だなー。
「わかった。後のことは任せるがいい」
「よろしく。ツカサ、頑張ってね」
シャルはそう言って、手を上げると、部屋から出ていった。
「トウコが言っていたあからさまってのがよくわかるわ」
イルメラがうんうんと頷く。
「何がだよ?」
「ユキとロナルドも校内戦には参加するのにあんたにしか頑張ってって言わないところ」
「イルメラ、私も海に行ったが、ジュリエットはびっくりするほどにそういう女だ。気遣いができる女だと思うが、まずは旦那優先。それから取ってつけたように私達だ」
「ツカサ君もだけどね……」
ミシェルさんがぼそっとつぶやいた。
「ほっとけ。それよりもユキ、明日は何時からだ? 俺達の時差も考慮しろよ」
まあ、ユキも通いらしいから同じなんだけど。
「午後からでいいだろう。まあ、作戦なんてほぼないがな。校内戦こそ精鋭」
そうかも。
「じゃあ、午後からな。イルメラはお疲れさん」
イルメラは今日だけなのだ。
あとはペア戦。
「ええ。まあ、楽しかったわ」
「冬はやっぱりノエルと組むのか?」
転移があるし、ユキに勝てるかもしれない。
接近戦ができるイルメラはユキに近づけるし、そうなると完全に千剣が死ぬ。
「今さら他の人と組めないわよ。ノエルが泣いちゃうじゃない」
泣きそうだな……
王子様って言ってたし。
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