第204話 市街地戦
ゲートを抜けると、市街地だった。
ただし、夜で暗いうえに廃墟だ。
「何ここ? 薄気味悪いわねー」
イルメラが嫌そうな声を出す。
「雰囲気があって良いじゃないか」
「そうかしら? ユキの感性はわかんないわ」
独特らしいからな。
「さて、どうしましょうか。作戦はやはり二手に分かれるで良いと思う。ユキさん、あの5人をどう思った?」
シャルがユキに聞く。
「最大でも魔力値60。ジュリエット程度だ。イルメラより低い」
「ジュリエットっていうのと程度っていうのをやめてくれない?」
「十分、褒めているさ。でも、私やツカサ君の敵ではない」
魔力的にはね。
「魔力だけでは測れないんでしょ?」
「それはそうだが、ツカサ君、どう思った?」
ユキが聞いてくる。
「そこまでだと思う。それに全員、制服だったな」
「君達もだけど、やる気が感じられないな」
3人は制服だが、俺は運動着でユキは剣士らしい和服だ。
もっとも、シャルは制服の上に外套を羽織っており、ちゃんと戦闘モードだが……
「いや、学校対抗だから制服かなと」
「私もそれ思った。というか、あんたら、日本人だけよ」
トウコも運動着だったし、ユイカも体操服だった。
「私達は真剣なんだ」
「ユイカの体操服はどうかと思うわよ? しかも、中学のでしょ」
戦闘服がえっちらしいから仕方がない。
「服装はどうでもいいけど、十分に勝てる相手ってことでいい?」
シャルが話を戻す。
「そうだな。シャル、地図は?」
そう聞くと、シャルが地図を広げたので皆で見る。
地図は建物や道路が描いてあった。
「ここ、どこだ?」
ロナルドが周りと地図を見比べながら首を傾げる。
「わからないわね……」
「ジュリエット、飛べるのは君だけだ」
俺らは飛行魔法を使えないからな。
「飛んで見てこいと?」
「場所を把握するだけでいい。まずは位置を把握しないと意味がない」
「わかったわよ」
シャルが頷くと、少し浮いた。
「シャル、気を付けろよ。いい的であることは確かだからな」
「その時は転移で逃げるわ」
シャルは頷くと、徐々に上に上がっていった。
俺達はそれを追うようにじーっと見る。
「ロナルド、日本男児は下を向くものだぞ」
シャルは制服なのでスカートなのだ。
「わかってるけど、日本人じゃないっての」
ロナルドはさすがに俯くことはしなかったが、見上げるのをやめ、周りを警戒する。
「アンスコを穿いてるでしょ。私だってそう」
「まあ、そうだろうな。でも、やっぱりこういう場で制服はないと思う」
俺は2人のどうでもいい話を聞きながらやっぱり足が綺麗だなーと思っていると、シャルはそのままぐんぐんと上昇し、周りの建物以上まで飛んだ。
「攻撃はないか……」
「ユキに委縮したか、バカじゃないかだな」
「攻撃したら居場所がバレるものね」
トウコとユイカは絶対に攻撃するだろう。
「そうなると、我々の居場所だけバレたってところか」
そうなるね。
まあ、こっちは攻める気だから関係ないけど。
ずーっと見上げていると、シャルの姿が消える。
すると、転移を使ったようで目の前に現れた。
「だいたいわかったわ。ここよ」
シャルが地図の左端の方を指差す。
「ふむ。悪くない位置だな。1キロ四方と決まっているのだから攻める我々は前進のみだ」
「ユキ、ロナルド。地図を渡すから行ってちょうだい。私は覚えたし、空から見ればいいから大丈夫」
シャルがユキに地図を渡す。
「わかった。我らは北の方からに行く。では、2時間後に合流しよう」
「2時間も待たなくていい。あなたが言ったように5人を倒すつもりで行ってちょうだい」
「了解した。ロナルド、行こうか」
「あいよ」
2人は北の方に向かって歩いていった。
「じゃあ、俺らは西か?」
「そうね。私が飛んだことで向こうに気付かれた可能性が高い、動きましょう」
俺達は西の方に向かって歩き出す。
「ん?」
「千剣ね」
「早速みたい」
ユキ達が歩いていった方向の上空に無数の白い剣が現れていた。
「思ったより、近かったか。イルメラ」
「了解。裏に回って奇襲を仕掛けるわ」
イルメラが頷くと、走っていく。
「私達はどうする?」
「元の位置に戻ろう。逆に敵がユキ達の後ろに回ってくる可能性もあるから待ち伏せ」
「なるほど。そうしましょう」
俺達はくるりと振り返り、来た道を引き返した。
『コンテ魔法学校のアロイス君が脱落しました。コンテ魔法学校はマイナス1ポイント、アイン魔法学校はプラス3ポイントです』
女性の声でアナウンスが聞こえてくる。
「ユキさん達ね」
「ウチってアイン魔法学校なの?」
「正式名称はね。大体の施設はアインが頭に付くわ」
へー。
『コンテ魔法学校のディルク君、アレクセイ君が脱落しました。コンテ魔法学校はマイナス2ポイント、アイン魔法学校はプラス6ポイントです』
もう3人か。
「本当に固まってたところに遭遇したな」
「もう決まったんじゃない? 2人でしょ? しかも、名前的に残っているのは女子」
内1人がジョアン先輩。
ユキ、ロナルド、イルメラに勝てると思えんな。
「俺ら、やることないな」
「良いことじゃない」
シャルはそう思うか。
ましてや、シャルはこの戦いでお役御免だし。
「まあなー……ジョアン先輩、その位置は俺の間合いですよ」
「そう?」
後ろを振り向くと、杖を持ったジョアン先輩が立っていた。
「ジョアン……いつの間に……」
シャルが杖を構え、俺の後ろに下がる。
「おかしいなー? 魔力を消す薬を使っているんだけど?」
「気配を消す薬を作りましょう」
「君、劣等生だけど、本当にバケモノよね。いや、バケモノはあっちもか……」
ジョアン先輩が向こうの方に見える上空の千剣を見る。
「俺らの勝ちですよ」
「みたいね。というか、あなた達、マジになりすぎ。他校は皆、様子見よ? 手の内を晒したくないし、こんなよくわからない大会なんか適当にやり過ごそうって考えている」
「手は抜いてますよ? 俺ら、1年だけだし」
「いや、あなた達1年がバケモノ揃いなのよ。特に日本の4名」
俺、トウコ、ユイカ、ユキか。
「やります? どうせ泥人形でしょうけど」
「うん。泥人形。私が戦えるわけないじゃないの。隠れてます」
ジョアン先輩がどろどろの腕を見せてくる。
「何か話ですか?」
「うん。せっかくの機会だからもう一回勧誘しようと思って」
勧誘ね。
「いや、家族がいますって」
「あっちで作ればいいんじゃない? ほら、シャルリーヌさんと一緒に亡命しようよ」
亡命って言うのか?
「だってさ」
シャルに振ってみる。
「なんでイヴェールの私が他所の町なんかに行かないといけないのよ」
「俺も同感です」
メリットなさすぎ。
「すんごいメリットがあるよ」
「ねーよ」
「このままだと本当に悲恋の戯曲になっちゃうわよ?」
ロミジュリか……
「そっちに行ってもそうなりそうですよ。最初に勧誘した人が良くなかったです」
ウォーレス先生ね。
「あの人は本当に邪魔ばっかりね」
「それとトウコを攫ったのも良くない。殺すぞ」
「ハァ……ヨハンも使えないわ。じゃあ、もう一個だけメリットを提示しましょう」
「金はいらないですよ」
爺ちゃんと婆ちゃんにねだればいい。
「いやいや、お金じゃない。その腕をどうにかしてあげましょう」
ジョアン先輩がそう言って、俺の左腕にある黒い腕輪を見た。
「へー……できるんです?」
「方法は選ばせてあげる。私は悪魔に魂を売った錬金術師だからどうとでも」
それは確かなメリットだ。
「結構です。自分でどうにかしますし、やっぱり家族が大事ですから」
「そう? うーん、じゃあ、別の道を探してみるわ――ッ! イルメラさんっ!? あ、ダメだこりゃ……ツカサ君、シャルリーヌさん、ばいばーい」
ジョアン先輩が笑顔で手を振ると、消えていった。
『コンテ魔法学校のジョアンさんが脱落しました。コンテ魔法学校はマイナス1ポイント、アイン魔法学校はプラス3ポイントです』
イルメラが仕留めたか。
「あと1人ね……」
「そうだな。時間の問題だろうけど」
「ねえ……いや、なんでもない」
シャルは何かを聞こうとしたようだが、やめた。
『コンテ魔法学校のソニアさんが降参しました。コンテ魔法学校はマイナス1ポイント、アイン魔法学校はプラス3ポイントです。残っている両校の生徒は元の位置に戻り、ゲートから帰還してください』
降参ね。
「追い詰められたってところかな?」
「でしょうね。ユキさんとイルメラさんに詰められて逃げることもできなかったんでしょ」
可哀想に。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
来週は火曜も投稿します。
よろしくお願いします!




