第203話 汚れた!
家に帰り、夕食を食べる。
何故かユイカもいたが、スルーし、夕食を終えると、この日は翌日に備えて早めに就寝した。
翌朝、朝食を食べると、まだ4時過ぎだが、トウコを起こしに行く。
「トウコー、朝だぞー」
そう言って、部屋に入ると、トウコはすでに起きていた。
いや、起きていたのではなく、まだ寝ていないの方が正しいだろう。
その証拠にトウコと一緒にユイカがおり、2人でゲームをしていた。
「ノックがなーい」
「あわわ、女子寮に男子がー」
「長瀬さんちだよ。お前ら、戦いを共にするチームメイトが決戦に赴こうっていうのに夜更かししてゲームか?」
薄情なコンビ。
「逆、逆。私達はチームメイトを信じているの」
「あ、それ。クラスメイト、そして、一緒に海に行き、友情を深めたユキや会長を信じている」
ロナルドは?
「そうかい。じゃあ、俺は行ってくる。お前らもさっさと寝ろよ」
部屋を出ると、自分の部屋に戻り、着替えた。
そして、ゲートをくぐり、部屋を出る。
すると、ロナルドが休憩スペースで待っていた。
「よう。わざわざ待ってたのか?」
ロナルドに声をかける。
「ああ。女子の中で待つのもあれだし、一緒に行こうじゃないか」
こいつがそんなことを気にするかね?
いや、護衛かな?
「じゃあ、行くか」
俺達は1階に降り、寮を出ると、丘を降りていく。
「ロナルドもラ・フォルジュの派閥なのか?」
ちょっと気になったので聞いてみる。
「まあ、そんなところだ。ユキの家は没落したが、魔法使いの家柄的にはかなり上なんだ。ウチは白川家に従う」
なんとなく、上下関係があるなとは思っていたが、やはりユキが上か。
「シャルと敵対せんでもいいだろうに」
「敵対なんかしないさ。ラ・フォルジュともそこまで深い関係じゃない。そもそも国が違えば知らんよ。ユキ的にはむしろ、間接的にといえど長瀬や赤羽と繋がりが持てるようになったことの方が嬉しいんだろう」
「日本って本当に横の繋がりがないんだな」
「小さい島国だから色々とあるんだろ。日本は歴史が長いうえに複雑だからな」
へー……全然、知らん。
でも、歴史は取らない。
「ロナルドも大変だな」
「それはおたく。マジで会長さんとどうなりたいんだ?」
どうって言われてもな。
「知らん」
「自分のことなのに知らんの? 男子的にあるだろ。ここには俺とおたくしかいないぞ」
「男子的に言えば、俺はシャル以上の女子を知らない」
顔もスタイルも良く、優しい。
「ひゅー。マジで結婚しちゃえよ」
「この歳で結婚なんか考えんわ」
ロナルドにもガキっぽいところがあるんだなと思いながら丘を降り、ジェニー先生のもとに向かう。
すると、すでにジェニー先生とミシェルさんと共にシャル、イルメラ、ユキが待っていた。
「おはー。シャル、しかめっ面でどうした? まーた、ミシェルさんとケンカか?」
「おはよう。ミシェル先生とケンカしたことなんてないわよ。昨日、色々と対応に追われたの」
あー、アーサーとヘンリーに話したからか。
錬金術ができなかったようだ。
「ミシェルさんも大変でした?」
「いや、そこまでじゃないわよ。ちょっと睨まれた程度」
シャルの言葉が効いたか。
「シャル、お疲れ様」
「仕事みたいなものだから良いわよ。それよりもトウコさんは? 私達の試合が終わった後に木曜に向けて話をするんじゃないの?」
市街地戦の結果を見て、次の校内戦に向けて作戦会議をするのだ。
「トウコとユイカはウチでゲームしてた。多分、これから寝るから起きてこない」
「休みを満喫してるわね……」
俺も今日はそうする予定。
「ジュリエット、校内戦のメンバーは明日にでも招集して、こちらで作戦を立てておこう」
そういやユキがリーダーだ。
「ジュリエット言うな。じゃあ、お願いね」
「任せるがいい。さて、そろそろ行くか。まずは顔合わせだったな。ジョアンが出てくるか……」
あの人が出てきてもなー……
「気を付けてね」
「頑張ってください」
俺達はミシェルさんとジェニー先生に見送られ、ゲートをくぐった。
すると、昨日の開会式と同じ場所に出たのだが、知らない若い男性と共にコンテの町の学生さんであろう黒い制服を着た男女が5人並んでいた。
5人の生徒は男性3人で女性2人であるが、そこまで魔力を感じない。
しかし、女性2人の内の1人はジョアン先輩だ。
「アインの町の生徒もこちらに並んでくれたまえ」
男性がそう指示してきたのでコンテの町の生徒の前に並び、相対する。
「ふっふっふ、まあ、こんなものか……」
ユキが不敵に笑った。
「私語は慎みなさい」
男性がユキを窘めた。
「君は審判かな? 名乗りもせずに白川家の当主に指示をするな。戦いはすでに始まっているんだよ。敵の言葉1つ1つが毒になり、相手を蝕む。戦争の基本だ」
ホント、かっこつけ……
「私が審判だ。これからフィールドの説明とルール変更をする」
ルール変更?
「今さら?」
「ああ。昨日、森で4試合行われたのだが、状況が把握できずに動けないという苦情が相次いだ」
ウチもそうだったな。
まあ、揉めたのが原因だけど。
「ウチはそんな苦情を出してないはずだが?」
「君らのところ以外だ。夜の森では状況把握ができないし、戦いにならないということだ」
「素人共め。戦争で場所を選べると思っているのか」
「これは戦争じゃない。演習だ」
それはそう。
でもねー……
「戦争だよ。演習だろうが遊びだろうが戦うからには皆殺しにする。白川家は敵の首を取るまで引かん」
こら! お前のせいで日本人が蛮族と思われるだろ。
「ユキ、話が進まんだろう。あと数分で皆殺しにできるからちょっと待ってろ」
でも、乗っとこ!
「審判、続けたまえ」
ユキが促すと、審判さんが『なんだこいつら?』っていう目で見てくる。
なお、それは対戦相手も。
「そういうわけでこれからは森に限り、昼に行われる」
森に限り?
「森以外は夜ということですか?」
対戦相手の男子が聞く。
「そうなる。すでに対戦を終えているところもあって、不公平になってしまうが、それは申し訳ない。こちらも初めてのことなのでそういう不備が出てしまった」
審判さんが俺達を見る。
俺達はすでに森を終えているからだ。
「構わんよ。昼だろうが夜だろうがウチの結果は変わらなかった。さっさと皆殺しにすればいいのに内部で揉めてしまってね。あと2戦で30ポイント取るし、問題ない」
ユキが目を開けて、5人を見渡す。
ジョアン先輩じゃない女子がビクッとした。
「そうか……それともう一点、ルール変更があり、倒した結果なんかもアナウンスされることになった。味方が何人残っていて、敵が何人いるのかを把握できないと動けないだろうという意見もあったからだ」
なんか本当にゲームみたいになってきたな……
「好きにするといい。味方が一人一人消える恐怖を味わわせてやろう」
いやー、ユキさん、悪役ですわ。
「……ルール変更は以上だ。では、市街地戦のルールを説明する。先に知らせていた通り、広さは1キロ四方。そこにチームごとにランダムで配置される。時間は2時間。そして、市街地戦に限りだが、地図が渡される。代表者は前に」
審判さんがそう言うと、さっき発言した男子とシャルが前に出て、地図を受け取る。
「では、コンテの町のチームから先にゲートをくぐってくれ」
審判さんが奥にあるゲートを指差すと、コンテの町の生徒達はそちらに向かったのだが、ジョアン先輩だけは笑みを浮かべながら残った。
「ツカサ君、殴るのだけはやめてね」
「あ、俺、女子は殴らないです」
殴らないだけだけど。
「そう。じゃあ、お手柔らかに」
ジョアン先輩は前と変わらない笑顔で歩いていき、ゲートをくぐった。
「次は君達だ。君達がフィールドについたと同時にスタートされる」
審判さんにそう指示されたので俺達もゲートに向かう。
「ユキ、良かったぞ。相手はビビりまくってた」
「だろう? こういうのは最初が肝心なんだ」
ユキが満足そうに頷いた。
「私は恥ずかしくてしょうがなかったわ」
シャルが呆れる。
「ジュリエットも何か言って欲しかったな。イヴェールの敵じゃない的なことを言うべきだろう」
「イヴェールの名を汚すわけにはいかないの」
「まるで白川が汚れたように言うな……」
汚れたと思うぞ。
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