第202話 ユ・ロ・イ・ジェ「付き合ってる……」
「そのオスカーも最後の方は匙を投げちゃったね。というか、残り時間が10分を切ったからもうどうしようもないだろう、と」
「お前ら、何しに行ったんだ?」
キャンプか?
「私もそう思ったから残り10分でユイカに突撃させた」
悪くない。
その状況なら俺もそう指示する。
敵は残り10分を切って、気が緩んでいるだろうからだ。
「それで2人撃破か?」
ユイカに確認する。
「音もなく忍び寄って2人の首を切った。まさしくアサシン。皆に見せたかった」
見たかねーよ。
「時間がなくて2人までって感じか?」
「そう。敵は5人で固まっていたんだけど、1人を倒し、動揺している間にもう1人を切った。でも、さすがにそこで態勢を整えられた。そこからは1対3。時間があれば森に潜みながらやれたけど、粘られてそこでタイムアップ」
「最初からユイカに突っ込ませれば良かったのよ。そこで敵が混乱しているところをこのスーパーエリートウコ様がとどめを刺してあげたわ」
まあ、話を聞いていると、それで勝てるかもな。
「アーサーとヘンリーは?」
「チーム戦なのだから協力すべきという意見。協力する気なんかないくせに」
「あの2人は口ばっかりで消極的なんだよね」
うーん、敵がわからないうえに土地勘もない状況ではアーサーとヘンリーが正しいな。
でも、あいつらって本当に教科書通りだ。
それではこの2人と合うわけがない。
「まあ、仕方がない。シャルとチームを決めたが、ここが揉めるのは最初からわかっていた」
「可愛い妹に感謝しなよ。お兄ちゃんだったらそれ以上に揉めたからね」
「だと思う。その場にいたくない」
「私も嫌。からかうこともできないレベル」
「私もごめんだ」
「あの2人と長瀬の坊ちゃんはな……絶対に組ませたらダメだ」
全員が否定したのでジェニー先生を見る。
すると、ジェニー先生が苦笑いで首を横に振った。
「俺、そんなに嫌われてるのかね?」
シャルを見る。
「うーん、1人で2人を倒したからじゃないかしら? プライドの高い子だし」
いや、アーサーを降参させたのはシャルなんだが……
「何、こいつら?」
イルメラが俺達を指差しながらトウコに聞く。
「2人共、自分達の世界しか見てないんだ」
「お幸せに……話を戻すと、とにかく、6ポイント取ったわけね」
イルメラがバカにしたような顔で俺達を見た後に話を戻す。
「うん。ユイカの功績が100」
「いや、40。もっとやれた」
5人撃破で100ってことね。
「トウコさん、ユイカさん、揉めたのは仕方がないとはいえ、褒められたことじゃない。でも、6ポイントを取ったのは良かったわ。今日はもう帰って休んでちょうだい。ご苦労様」
シャルが2人をねぎらった。
「ジュリエット、私が戦った感じだけど、相手にはあまり戦意がないと思う」
ユイカが珍しくアドバイスをする。
「ジュリエット言うな。戦意がないとは?」
「シャルリーヌ……恥ずかしいな。えーっとね、多分だけど、他の学校も急に決まったことが影響しているんだと思う。私と対峙しても私を倒そうという思いより、守ろうという思いを感じる構えだった」
3対1でそれはないわ。
しかも、すでに2人も失っているというのに。
「なんで恥ずかしいのよ。会長でいいわよ……もしかしたら他校はモチベーションが低いのかもしれないわね」
「うん、そんな感じがした。じゃあ、会長、私は帰る。トウコ、行こう」
「そうね。じゃあ、お先に。明日、6ポイント以下だったら会長は罰ゲームでマヨネーズ納豆ね」
ユイカとトウコはそう言って帰っていった。
「なんでマヨネーズ納豆が罰ゲームなの?」
シャルが聞いてくる。
「ウチの母親の好物なんだ。納豆が見えなくなるまでマヨネーズをかける」
「邪道すぎだろ」
ユキがツッコんできた。
ユキがツッコむことなんかないのにさすがは母さんだ。
「まあ、6ポイント、すなわち、2人以上倒して、被害をゼロにすればいいわけだろ」
「そうね。しかし、夜の可能性があるのよね……さすがに想定してなかったわ」
俺もしてなかった。
「どっちでもいいだろう。昼も夜も変わらん」
「そりゃあなたはね……」
「目を開けろよ」
俺とシャルがツッコむと、ユキが口角を上げた。
「実際のところ、条件は向こうと同じだから有利不利はない。それよりも会長さん、作戦とやらはどうする?」
ロナルドがシャルに聞く。
「正直、この5人は安定しているのよね。何がって5人が5人共、戦闘面では自分で考えて行動できる。下手な作戦を立てない方がいいんじゃないかしら?」
できないのは突っ込むことしか能のないお粗末チビコンビだけだよ。
「シャル、倒すこともそうだが、誰かが落ちるのも避けるべきだ。落ちそうなシャルには俺とイルメラが付くからユキにロナルドを付けよう」
「それが良いかもね……」
「私は落ちんぞ。あんな連中に後れはとらん」
ユキがムッとして異を唱えてきた。
「じゃあ、言い方を変えてやる。防御はロナルドに任せて、敵を殲滅することだけに集中しろ。下手をすると、千剣だけで敵の5人が落ちるし、それが理想だ」
敵に近寄らせずに勝つ。
これに勝る戦略はない。
「わかった。それでいこう」
「長瀬の坊ちゃんは絶対に生まれてくる時代を間違えたな」
俺はこの時代で良いわ。
「イルメラ、そういうわけだから頼むぞ」
「あんたらと一緒か……」
嫌な顔をするなよ。
「イルメラさん、一緒に行動はするけど、あなたはあなたの考えで動いていい。私達はあなたの奇襲能力を買って市街地戦に入れた。いけると思ったらいってちょうだい」
「はいはい。じゃあ、そんな感じでいきましょう」
このチームは楽だなー。
ホント、トウコとユイカがいなくなると精神年齢がぐっと上がるわ。
「じゃあ、今日は解散。明日は朝8時からだから遅れないように……遅れないように」
シャルが俺を見て、再確認してきた。
「言っておくけど、俺は遅れたことないからな。むしろ、シャルの方が遅れる」
「ウチにはクロエがいるわよ……あ、寝過ごしてた時があったわね」
その時にクロエに連れられてシャルの家に行ったのだ。
「錬金術をするなよ」
「……しないわよ」
これはするな。
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