第201話 問題チーム
「えーっと……」
なんか部屋の空気が悪い。
シャルとユキ、ロナルドが対立しているっぽいし、ミシェルさんはただ外を眺めている。
ジェニー先生は気配を消してパソコンを見ており、けっして顔を上げない。
「……イルメラ、何とかしろ。俺は当事者すぎて動けん」
「はいはい……会長、ユキ、そういうのは後にして。今は明日の市街地戦の話でしょ」
イルメラが2人の間に入ってくれる。
「そうね」
「確かにそうだ」
2人から緊張がなくなった。
「シャル、リーダーとして仕切ってくれ。ミシェルさんはお疲れのようだ」
「みたいね……」
シャルは外を眺めながらため息をついているミシェルさんを見ながら呆れる。
「一応、私の意見を先に言っておこう。さっきも言ったが、今回の対抗戦で動きはないと思う。だから我々は確実に勝利の道を選ぶべきだ」
ユキが意見を述べた。
「そうね、武家の家の子が消極的ではいけない」
「え?」
「……何よ?」
シャルがジト目で睨んでくる。
「ううん。とにかく、普通に戦うってことでいいな?」
「ええ。具体的な作戦は森チームが帰ってきてからね。待ちましょう」
俺達は待つことにし、思い思いに過ごしていた。
俺は黄昏れているミシェルさんのもとに向かう。
「ミシェルさん、さっきの話ですけど、ユキの家を派閥に入れたんですか?」
「あー、それね。ほら、ユキさんとユイカさんはトウコさんの救出作戦に参加してくれたでしょ? そのお礼にエリク君が両家に行ったのよ。その際にちょっとお話をしただけ」
お話ね。
「金ですか?」
「そんな直接的なことを言わないでよ。少なくとも、赤羽はお金持ちよ」
別荘持ってたしな。
「ユキの家は?」
「……援助」
金ね。
「そんなに派閥強化が大事なんです?」
「まあ、そうね。でも、向こうも二つ返事だったみたいよ。ユキさんの家はともかく、赤羽も繋がりが欲しいみたい。まあ、こればっかりは日本の魔法使い事情ね。長瀬の家と一緒」
日本の魔法使いは他の家と交流がなさすぎて衰退しかけているって父さんが言ってたしな。
「ミシェルさんが嫁に行くんですか?」
「なんでよ……そういうのじゃないわよ。とにかく、その両家は味方と思っていいから学校で何かあったら頼って」
「目を閉じているボケ担当と平均点を下げよう委員会の会長ですけど……」
「トウコさんもボケ担当だし、あなたも平均点を下げてるでしょ」
まあ……
「ラ・フォルジュ派ばっかりですね」
「逆よ、逆。この学年はイヴェール派が多いの。というか、ラ・フォルジュ派が皆無なのよ。だから私が先生になったし、あなた達と同郷の両家を取り込もうってことになったの」
へー……
「ロミジュリ派っていうのがあるらしいですよ」
ノエル。
「……空が綺麗ね」
ミシェルさんがまたもや窓の外を眺めだした。
冗談だったんだけど、どうやら本当に笑えないらしい。
俺達がそのまま待ち続けていると、3時を回った。
「結果が出ました」
ジェニー先生がそう言うと、皆が集まり、ノートパソコンを覗く。
「2人撃破でこっちの脱落者はなしか。まあ、及第点か?」
「どうだろう? フィールド的に相性が良くなさそうなトウコはともかく、ユイカがいてこの成績は不満が残るな」
ロナルドとユキがパソコンを見ながら感想を言い合う。
「揉めたみたいね」
なんでイルメラはちょっと笑ってんだ?
「ハァ……多分、そうでしょう。ミシェル先生、5人が帰ってきたら別室に行って、アーサー、ヘンリー、オスカーの3人に説明してください。トウコさんとユイカさんは知っていますし、ケンカしそうなので離しましょう」
シャルがため息をつき、提案する。
「それがよさそうね。あ……」
ゲートから5人が帰ってきた。
一応、2人を撃破し、こちらの損害はないという暫定トップの成績を収めたというのに笑顔がない。
それどころか、皆、険しい顔だ。
「お疲れ様。結果はこっちでも見たわ。詳しい話を聞きたいところだけど、それ以上に大事な話があります。アーサー、ヘンリー、オスカーの3名はついてきて」
ミシェルさんがそう言って部屋を出ていくと、3人が困惑しながら顔を見合わせる。
「3人共、本当に大事な話だからついていってちょうだい」
シャルが3人を促した。
「わ、わかりました」
「俺ら、何かしたか?」
「さあ?」
3人はシャルに急かされて、ミシェルさんを追うように扉の方に向かう。
「アーサー、ヘンリー」
シャルが自分の派閥の2人を呼び止めた。
「何でしょう?」
「あまり良い予感はしないんですが……」
どうでもいいけど、この2人、なんで敬語なんだろう?
あ、でも、マチアスもそうだった気がする。
「ここは学校であり、あの女は教師であることを忘れないで」
「わ、わかってます」
「マチアスのバカとは違うんで」
いやー、アーサーは怪しいぞー。
2人は頷き、オスカーと共に部屋から出ていった。
「トウコ、どうだった?」
3人がいなくなったのでトウコに聞いてみる。
「いやー、森だった。しかも、何故か夜。午前中の対戦であまり動きがなかったのがよくわかった」
夜?
「どういうことだ? 時差か?」
「知らない。でも、本当に真っ暗で火を起こすところからだったよ。その時点で揉めに揉め、状況確認というか、偵察を出そうという結論に至るまでに1時間かかった」
半分の時間を使ったのか。
こりゃ相当、揉めたな。
「偵察は?」
「ユイカ。そして、このバカは30分帰ってこなかった」
さらに半分を消費し、残りは30分か。
「そうは言うけど、知らない場所で適当な諜報はできない。ウチの沽券にかかわる」
そういう忍者の家だもんな。
しかも、ユイカはそういうのが苦手ときている。
それは時間がかかるわ。
「それで?」
「ユイカから敵の位置を聞いたからどうしようかと話し合いになり、また揉めた」
揉めてばっかり。
「見事にアーサーとヘンリーと対立したわけだな」
「ラ・フォルジュ派とイヴェール派。そして、自由派のDクラスと血統派のCクラス……揉めないわけがないか……オスカーは大変だ」
ユキが苦笑いを浮かべた。
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