第200話 しーらない!
5人がいなくなったこの場には生徒5人と先生2人が残っている。
「ミシェルさん、午前中にシャルとユキと話したんですけど、向こうにジョアン先輩がいる以上、他の生徒にも話すべきではないだろうかという結論に至りました。少なくとも、シャルはアーサーとヘンリーに、ユキはロナルドに話すそうです」
というか、ロナルドにはもう話しただろうし、何ならトウコ誘拐未遂事件も知っているだろう。
「わかってるわ。校長先生とお偉いさんと話をした結果、この対抗戦が終わった時に全生徒だけではなく、町全体にそういう事件があったことを発表することに決まった。もちろん、対抗戦に参加する生徒にはこれから伝える」
そうなったか……
「ねえねえ、何の話?」
この中で唯一、事情を知らないイルメラが聞いてくる。
「ジョアン先輩って知ってるか?」
「春に転校したDクラスの1個上でしょ。寮で話したことあるし、知ってる」
さすがは顔が広く、分け隔てなく接するイルメラだ。
「その人なんだけどな、実は……」
俺はイルメラに春の事件から夏休みのトウコ誘拐未遂事件まで説明していく。
もちろん、トウコが俺の部屋から帰ることになった経緯も説明した。
説明が終わると、イルメラが腕を組んで険しい顔になる。
「これ、ちょっとひどいわよ。かなりの大事な話なのに今まで黙ってたわけ?」
イルメラがジェニー先生とミシェルさんを睨む。
「すみません……」
「ごめんなさい」
ジェニー先生とミシェルさんが謝罪した。
「イルメラ、先生に当たるな。上の決定だ」
「わかってるわよ。でも、ちゃっかりラ・フォルジュだけは守るわけね」
ミシェルさんね。
「被害者なんだから仕方がないだろ」
「ふーん……まあいいわ。責めるのは私だけじゃなくて、町の人全員でしょうしね。親も黙ってないわよ」
まあ、そうだろうな。
「お前、学校辞める?」
「辞めるわけないでしょ。ただ覚悟が変わるわ。特にこの対抗戦へのモチベーションが変わる」
先生達はこれを避けたかったんだろうな。
本当に代理戦争っぽくなりそうだ。
「気負うなよ。確実に潰せ」
「大丈夫。私はお粗末チビコンビとは違うから。しかし、ジョアン先輩がいたとは……」
イルメラがまたしても悩みだした。
「ジェニー先生、ウチはどこと当たるんです?」
ノートパソコンの前にいるジェニー先生に確認する。
「今、森で戦っている対戦校はダーレンの町です。ここはかなり遠方ですね。そして、市街地がコンテの町で校内がノイズの町です」
コンテ……
「ね? ひどいでしょ? 確実にそのコンテとウチが当たらなかったら黙ってたわよ」
うーん、そう思う。
「ユキ、知ってたか?」
「君以外、皆、対戦相手の町の名前は頭に入れてるからね」
あ、そうなんだ。
「ごめん、ツカサ。言っても興味ないと思ったから説明してない」
シャルが謝ってくる。
「いや、いい。今でもそのコンテの町以外はどうでもいいって思ってるから」
町の名前を知ったところで相手がわからないのは変わらないのだからどうでもいい。
「というか、君がちゃんと書類を読めばいいんだよ。もはやジュリエットがお母さんに見えてくるよ」
誰がダメ息子だ。
「ほっとけ。それでミシェルさん、明日はどうすればいいの?」
「それをこれから話し合うわ。まず、どうするか……一番は5人で固まって2時間待つ」
「何それ? 後手に回れって?」
悪手にもほどがあるわ。
「わかってるわよ。正直ね、学校も上の方も敵が今回の対抗戦で動いてくることはないって思っている。そもそも動きようがないもの」
「なんでです?」
「お嬢様が説明してくれたと思うけど、フィールドは演習場と同じ特殊な結界が張ってあるからフィールド内でどうにかすることはできない。何かしようにも戦闘不能になったらただ元のホールに飛ばされるだけだもの。だから何かをしようとしたらホールで動くことになるんだけど、中央の監視があるホールでそんなことはできない」
なるほど。
「私もミシェルさんというか、学校や町の意見に賛成だな。何かをしようにもそのためには双子を撃破する必要がある。しかし、まず無理だろう。他校の生徒達、たいした魔力じゃなかったぞ。高くてもせいぜい魔力値70程度。双子やユイカどころか私の敵にもならん」
出た、謎の魔力値。
「ユキ、その魔力値って何だ?」
「私が作ったただの指標だよ。70っていうのはミシェル程度だ」
「程度……」
あー……ミシェルさんがー。
「高くないか?」
「高いな。ウチで言えばロナルドやイルメラ、それにジュリエットよりも上だ。だが、それが最上位……もちろん、魔力だけで実力は測れないが、たいして強そうなのはいなかったし、我らの敵ではないだろう」
ユキってホントに強者感がすごいよな……
「他校は弱いってこと?」
シャルがユキに聞く。
「弱いとは言わんが、負けるような相手ではない。ましてや誘拐なんてまず無理だ。なんでジョアンが姿を現したのかはわからん……いや、多分、扇動だろうな。結果だけ見れば上の連中が隠したかった前の事件を発表せざるを得なくなった。ラ・フォルジュは町でも相当な権力と影響力を持つ家だ。その中でもラ・フォルジュの至宝である長瀬の双子が狙われたとなると、色々とうるさくなるぞ。これ以上はイヴェールの次期当主様がいるから言わんがな」
「十分に言ってるわよ」
言ってるね……
「まあまあ……ユキ、あまりしゃべるな」
珍しくロナルドが言葉を発した。
「わかってる。でも、これは友人への忠告さ。シャルリーヌ、これだけは言っておこう。私はツカサ君やトウコの味方をするよ?」
「ユキ!」
ロナルドがユキの肩を掴んだ。
「そう……白川の当主はラ・フォルジュについたわけね」
え? そうなの?
「イルメラ、俺、全然わかんないんだけど?」
「ラ・フォルジュは今回の事件の裏に憎きイヴェールがいると思ってるんでしょ」
「そうなの?」
「知らないわよ。ラ・フォルジュも実際はわかってないでしょ。それでも派閥を強化するために没落した白川家に援助をして、ラ・フォルジュにつかせたのよ。多分、ユイカの赤羽にも手を回しているわよ。ラ・フォルジュは長瀬に直系の娘を嫁入りさせ、日本の魔法使いの家と繋がりを手に入れた家だからね」
ほうほう。
「俺、イヴェール派なんだけど?」
「あんたと会長のロミジュリレベルがどんどん上がってるのが第三者の私はものすごく面白いわ。ミシェル先生は一切、笑えないでしょうけどね」
そう言われてミシェルさんを見ると、窓の外を眺めながら途方に暮れていた。
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私が連載している別作品である『最強陰陽師とAIある式神の異世界無双』のコミカライズが連載開始となりました。
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