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バカと呪いと魔法学園 ~魔法を知らない最優の劣等生~   作者: 出雲大吉
第1章

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20/207

第020話 空間魔法


 どうやら俺とシャルは優れているところと劣っているところが逆らしい。


「見捨てないで」


 腕が飛んじゃう。


「そんなことしないわよ。よし、もう一回、一から教えるわね」


 根気すごいな。


「お願い」


 その後もシャルから基礎学を教わっていくと、徐々にだが、わかるようになってきた。


「ふむふむ」

「いける? 空間魔法くらいはわかるでしょ」


 わかる気がする。


「どれ……」


 テーブルに置いたスマホに手を重ねる。

 そして、魔法を発動させると、スマホが一瞬で消えた。


「ハンドパワー」


 きてるね!


「良かったわね……」


 シャルは疲れ切った顔をしている。


「えーっと、どうやって出すの?」

「今度はこっち」


 シャルがノートに書いてある術式を指差したので書いてある通りに魔法を発動させる。

 すると、スマホが一瞬にして出てきた。


「すげー! 魔法だ!」


 強化魔法以外の初めての魔法だ。


「まあ、これはあなたが苦手な魔力を外に出す魔法じゃないから使えると思ったわ」


 なるほどー。


「先生、ありがとう」

「いえいえ…………疲れた」


 バカでごめんね。


「昼御飯にしようか。好きなもん食べていいよ」

「自分で出すわよ…………私、このパスタ」


 シャルはメニューを開き、即決する。


「ワイン飲む?」

「飲まない。私、飲めないもの……っていうか、未成年でしょ」


 フランス人だからワインを飲むかと思ったが、飲まないらしい。

 まあ、半分フランス人の俺も飲まないけど。


「俺、竜田揚げ定食にしよー」


 俺達は昼食を注文すると、すぐに来たので食べだす。


「美味しいわね」


 シャルがカルボナーラを食べながら頷いた。


「あのさ、シャルって、イヴェールっていう名門のお嬢様でしょ? 今さらだけど、ファミレスでいいの?」


 ファミリーじゃないレストランでコースを食べているイメージがある。


「学生だからファミレスでいいでしょ。それに普通に美味しいじゃないの」


 まあ、俺の竜田揚げも美味しい。


「学園の連中、庶民感がないからさ」


 コンビニの唐揚げが好物のトウコですらすましている。


「まあ、そうかもね。実際、学園に入るのはお金もかかるし」


 お金……

 ラ・フォルジュの婆ちゃんが払ってくれたのかなー?


「だからシャルがファミレスにいるのが意外」

「うーん、まあ、確かにあまり来ないわね。一人で来づらいし」


 一人……


「友達は?」

「いない」


 断言しおった。


「そうなの?」

「パリに戻れば中学の時の友達がいるけど、日本にはいないわね。こっちに来たのは魔法学園に入ってからだし」

「魔法学園の友達は?」

「いない」


 また断言しおった……


「えーっと……」

「ハァ……ツカサ、Dクラスの子達は私のことを何て言ってた?」


 言っていいもんか?


「生徒会長」

「正直に言いなさい。どうせ怖いとか、高飛車とかプライドの塊とかでしょ」


 まあ、そんなことを言ってたような……


「あのさー……どこが怖くて、どこが高飛車なの?」


 見えませんが?


「私はイヴェールという名門の跡取りなの。だから家の名に傷が付かないようにあまりしゃべらないようにしている」


 どっかの誰かさんと同じことを言っている……


「それで?」

「私は1年で生徒会長になった。もちろん、実家の力ね。どう思う? 嫌な奴じゃない?」


 いえ、優しい美人だよ?


「もしかして、色々な噂というか陰口もあるけど、それを否定してないわけ?」

「そうね。おかげで、皆が私を嫌なエリートと見ている。名門イヴェール家の跡取りにふさわしい完全無欠の生徒会長ってね…………でも、中身は魔法の才能がない根暗な錬金術師」


 シャルが苦笑する。


「根暗ではなくね?」

「趣味が部屋に閉じこもって薬品を眺めながらニヤニヤすることよ? 根暗でしょ」


 錬金術か……というか、怪しい魔女だな。


「まあ、言葉にするとそう聞こえるな……ラ・フォルジュさんとは? 犬猿の仲って聞いたけど……」


 この際だから聞いてみよう。


「同い年だから仕方がないけど、最悪なタイミングで重なってしまったと思ってるわ。あれ、ラ・フォルジュの天才児よ。私とは持って生まれたものが違う」

「そうか?」


 シャルも十分にすごいと思うけど……


「魔力はもちろん、魔法の腕が圧倒的に違う。彼女、魔法使いになってわずか1年で上級魔法を覚えたバケモノよ。そして、何が最悪って、ラ・フォルジュとウチのイヴェールは仲が悪いから立場上、私は絶対にトウコさんを認めるわけにはいかないってこと……きっつい」


 うーん、何とも言えねー……

 確かにトウコは優秀だと思う。

 子供の頃からすぐに簡単な魔法を覚えたし、学校の成績も良かった。

 でも、あいつ、バカなんだよなー……


「なんで俺には普通なの? 案内してくれた時も普通にしゃべってたじゃん」

「……なんでかしら? ツカサがこっちの世界に詳しくなかったか、もしくは、バ……人柄かしらね?」


 バカって言いかけたな?


「まあ、確かにその辺の家のことはわかんないけどさ」


 当事者だが、ラ・フォルジュの家は完全に田舎の爺ちゃん婆ちゃん家の感覚だ。

 フランスは遠すぎるもん。


「ねえ、あなたって名門の子だったりする?」

「だったりするな。興味ねーけど」


 長瀬も一応、名門らしい。

 ラ・フォルジュは言うまでもない。


「興味ないの?」

「自分のことで精一杯」


 腕輪のことね。


「まあ、そうよね……」


 シャルが横を向き、窓の外を眺めた。

 本当に横顔が美人だ。


「シャルさー、また勉強を教えてよ。俺、どうしても解呪を覚えたいんだよね」

「ふーん……理由は? なんで勉強嫌いで魔法にそこまで興味がなさそうなあなたが解呪にこだわるのかがずっと気になってた」


 シャルが横を向いたまま聞いてくる。


「シャルが日本にいる理由を教えてくれるなら教える」


 多分、絶対に言いたくないことなのは雰囲気でわかる。


「じゃあ、聞かないわ。勉強ね……別にいいわよ。その代わり、武術を教えてね」

「シャルに武術がいるか?」

「いる。少しでも強くなりたいし、あれは健康にも良いと思う」


 歩くよりかはダイエットにいいかもな。


「まあ、健康法の一つだしな」


 太極拳的な。


「オッケーね? そういうわけであなたが嫌いな勉強を再開しましょうか」


 シャルが食べ終わった食器を横にずらし、教本を取り出した。


「うん……」

「次は昨日の呪学ね」

「うん……」


 頭が痛くなってきた……


 俺達はその後もお互いに疲弊するまで勉強し、夕方に解散した。

 そして、家に帰り、リビングに入ると、母さんが料理をし、父さんがパソコンで何かの作業をしていた。

 さらにはトウコがテレビを見ながらスマホを弄っており、家族が揃っていた。


 俺はまず、トウコのところに行き、無言で頭を叩く。


「痛っ! 何!? なんで叩くの!?」


 やっぱりこいつが悪いわ。


「反省しろ」

「何が!? お父さーん、お兄ちゃんがイジメるー」


 トウコが父さんに泣きつく。


「ツカサ、仲良くしなさい」


 父さんはパソコンで作業をしながら苦言を呈してきた。


「父さん、ちょっといい?」


 苦言を無視して、父さんのところに行く。


「何だ?」


 父さんはパソコン作業をやめ、俺の方を向いた。


「毎週、1000円くれ。ファミレスで勉強する」

「本当に勉強か?」


 そう聞いて来たのでポケットからスマホを取り出すと、空間魔法に収納する。


「教えてもらった」

「……わかった」


 俺の空間魔法を見た父さんが神妙な顔で頷く。

 直後、父さんがキッチンの方を向いて、驚いた顔をした。


「え? 何? えー……」


 父さんにつられてキッチンの方を見ると、母さんが俺を見て、泣いていた……


「魔力だけで魔法のセンスのかけらもないバカのツカサが空間魔法を……」


 そこまで言うか、このババア?


「美人の魔法使いが教えてくれた」

「そうですか……きっと心が清らかな素晴らしい女性なんでしょうね」


 あんたが嫌いなイヴェールの跡取りだけどな。


お読み頂き、ありがとうございます。

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