第198話 久しぶり
俺達は一番右端に行き、一列で並んだ。
すると、壇上に髭を生やしたおっさんが立った。
「……ツカサ、あれが運営委員会の重鎮の一人のハンネス・ヘルダーリンよ」
前にいるシャルが小声で教えてくれる。
「……ドイツ?」
後ろのトウコがシャルに聞く。
「……ええ。イルメラさんは知っていると思うからそっちに聞いた方が良いわよ」
同郷だしな。
「……ほうほう」
トウコが後ろのイルメラと内緒話を始めた。
「皆さん、よく集まってくれました」
なんかハンネスさんの話が始まった。
「……シャル、他の学校の生徒はどうだ?」
「……皆、強そうね。でも、あなた達兄妹の敵ではないと思う」
それはそうだと思う。
そこまでの魔力を持っているようには思えない。
でも、俺が気になっているのは……
「……3つ隣の一番後ろを見てくれ」
3つ隣の列は黒を基調とした制服だ。
「……一番後ろ……っ! え? ジョアン先輩!? なんでいるのよ……」
3つ隣の一番後ろにいるウェーブがかかった茶髪の女生徒はかつて、俺達の学校に在籍し、ウォーレス先生と共に裏切ったスパイのジョアン先輩だった。
「ミシェルさんと話してくる」
俺は後ろでハンネスさんの話も聞かずにイルメラとペチャクチャとしゃべっているトウコの両肩を掴むと、くるりと回転し、場所を入れ替えた。
「あれれ?」
アホっぽいリアクションをするトウコを無視し、イルメラ、ユイカと同じように位置を入れ替え、一番後ろにいるミシェルさんのもとにやってきた。
「……ねえ、あなた達は人の話を聞かないの? ペチャクチャ、ペチャクチャと……」
ミシェルさんが呆れ切っている。
「……ああいう長話は不要です。それよりも3つ隣にジョアン先輩がいますよ」
「……え!? ホ、ホントだ……ジョアン……」
俺達がじーっと見ていると、ジョアン先輩がこちらを見ながら笑顔で手を振ってきた。
「……舐めてます?」
「……そうとしか思えないわ。とはいえ、ここで事は起こせない」
それはそうだろうな。
「……あそこの町は?」
「……コンテの町よ……あそこがあなた達兄妹を狙っている町ということかしら? いや、それは早計か。またスパイもあり得る」
ミシェルさんが考え込む。
「……ジョアン先輩は戦闘タイプの魔法使いじゃないです。シャルと同じ錬金術師ですよ。そんな人がこの対抗戦に選ばれますかね?」
「……思惑があるってこと?」
「……さあ? でも、少なくとも、転校して間もないのに戦闘タイプじゃないジョアン先輩は選ばれないと思います」
ただあの人は悪い錬金術師でもあるからウォーレス先生が使っていた強化薬を使ってくるという線も十分にあり得る。
「……帰ったら緊急会議だわ。全員に通達すると思うけど、ツカサ君とトウコさんは絶対に一人で行動しないでちょうだい」
「……わかりました。ユイカ、トウコにこっちに来るように言ってくれ」
前にいるユイカに耳打ちする。
「……あい」
ユイカは前にいるイルメラに伝言ゲームのように耳打ちをし、イルメラもトウコに耳打ちをした。
すると、トウコがイルメラの両肩を掴み、くるっと回転して位置を入れ替える。
さらにはユイカとも入れ替わり、こちらにやってくる。
なお、左隣の列にいる他校の生徒達は『こいつら、何をしてるんだ?』という怪訝な表情で俺達を見ていたがスルーだ。
「……何?」
トウコが聞いてくる。
「……あそこにこっちを見ている茶髪の女子がいるだろ?」
「……いるね。あれ? どっかで見たような?」
先輩とはいえ、同じDクラスだし、女子寮でも会うことはあるだろう。
「……あれがジョアン先輩だ」
「……敵か」
春先のウォーレス先生事件はトウコにもミシェルさんが説明している。
「……顔と魔力を忘れるな。それとあの学校は注意だ。対抗戦でぶつかる時があったらユイカと一緒に動け」
「……了解。ユイカ、将来性コンビの力を見せるよ」
将来性?
諦めろ。
「……おー」
ユイカが拳を上げたので周りの生徒だけでなく、話をしているハンネスさんが一瞬止まった。
「……俺ら、目立ってません?」
ミシェルさんに聞いてみる。
「……悪目立ちね。好き勝手しすぎ」
それは悪かったと思い、ハンネスさんの話を聞いていく。
内容は『今回のことは授業の一環』とか『交流が目的』とかやっぱりたいしたことじゃなかった。
大事なことと言えば、試合がある時はここに来て、対戦相手と顔合わせをしたのちにゲートで会場に飛ぶということくらいだ。
その後も話を聞いていくと、数分で話は終わり、解散を告げられる。
終わった瞬間にジョアン先輩の方を見たが、先輩はニコッと微笑むと、そそくさと自分のところのゲートをくぐってしまった。
「ツカサ、どうだった?」
シャルがこちらに来て、聞いてくる。
「ジョアン先輩で間違いない。ただ、思惑がちょっとわからない。シャルも気を付けてくれ。向こうからしたらシャルも関係者だ」
シャルもあの場にいたのだ。
「わかった。とにかく、戻りましょう。ここはすぐに第一試合が始まるわ」
他校の生徒達は続々と帰っていっているが、2校の5名だけは動く気配がない。
「そうだな」
俺達は通ってきたゲートをくぐると、ジェニー先生の部屋に戻ってきた。
「今日は午後から森での試合がありますから参加する5名は残ってください。他は解散していいわ」
ミシェルさんがそう言ったのでトウコに近づく。
「頑張れよ」
「言われないでもそうする」
「……鍵を寄こせ」
「……はい」
トウコから鍵を受け取ると、ミシェルさんと午後から試合がある5名を残し、退室する。
「明日の作戦会議をするから午後から集まってちょうだい。じゃあ、それまで解散ね」
シャルがそう言うと解散となった。
とはいえ、皆、帰る方向は一緒なので5人で寮に向かう。
「……ユキ、ちょっと」
ユキの近くに行き、声量を落として声をかける。
「んー?」
ユキは首を傾げたものの、歩くスピードを落としてくれた。
「……この後、トウコの部屋に来てくれ」
「……愛の告白ではなさそうだね?」
すぐボケる……
「……ないな。とにかく、来てくれ。そこで話す」
「……わかった」
ユキが頷いたのでシャルを見る。
すると、シャルもこちらを見ていたので頷くと、わかったようで頷き返してくれた。
「ツーカーだねぇ……」
いや、それだけのことがあったんだよ。
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