第196話 ジェニー「うわぁ……本当にロミジュリだ」
「ツカサ、どうせあなたは説明を見ないだろうから今、説明しておくわ。座って」
シャルがそう言って、立ち上がったのでソファーに腰かける。
すると、シャルが対面に座ったタイミングで扉が開き、ジェニー先生が部屋に入ってきた。
「あ、ご、ごめんなさいっ!」
何故か部屋の主であるジェニー先生が謝る。
「あ、いや、こちらこそすみません」
「もう集まりは終わりましたので出ます」
俺とシャルがそう言って立ち上がった。
「いや、いいの。それよりも2人で何を?」
「ツカサに対抗戦の説明をしようと思ったんです」
「ああ、そういうことですか……どうぞ。外で話すのも外聞が悪いでしょうし」
いや、別に電話でもいいし、ウチかシャルの家で話せばいいんだが……
「じゃあ、少しだけお借りします」
シャルが頷く。
「どうぞ、どうぞ。先生のことは気にしないでいいですからね」
ジェニー先生がそう言って、自分のデスクに向かったので俺とシャルもソファーに腰かけた。
「シャル、説明って?」
「来週の日程やルールなんかよ。どうせ見ないでしょ」
シャルがそう言って、配った紙をひらひらさせる。
どうやらその紙には詳しい内容が書いてあるようだ。
「見ないね」
「でしょうね」
シャルが笑った。
「日程は?」
「前にも言ったけど、来週から。具体的には月曜から中央に行って、開会式があるわ」
開会式まであるのか。
「先生、授業は?」
デスクで何かの作業をしているジェニー先生に聞く。
「ありません。1週間は休みです」
「そのせいで冬休みとかが短くなるとかありませんよね?」
「ないですけど、授業を詰める必要がありますね。先生達はそのカリキュラムの見直しで大変です」
あー、そうなるのか。
冬休みが短くならないのは良かったが、授業内容を詰められて俺とユイカはついていけるのかね?
家庭教師にお願いするか。
「お疲れ様です」
「いえいえ。あなた達も頑張ってくださいね。先生方も応援しています」
「ありがとうございます。シャル、月曜の何時から?」
「8時から。それですぐに第一試合よ」
1週間であれだけの試合をするならかなりの過密日程だろうな。
「ウチ?」
「いや、別の学校同士ね。私達の学校は午後から。といっても森だからトウコさん達ね。市街地は火曜の朝からだから私達はそこ」
なるほど。
「校内は?」
「木曜の昼一ね」
俺は火曜の朝からと木曜の午後からか。
「他の試合って見れるのか?」
「それは見れないみたいね。前半の人達が不利になるし、何よりもフィールドが広いからカメラ類は難しいんでしょう。ただ、土曜に開催される決勝のペア戦は中継されるらしい」
そこまで進んだら俺は出ることになっているからどうでもいいな。
「対策は無理ってことか」
「そういうことね。だからこそ、火力特化のトウコさんと防御に長けたあなたで全勝してもらいたいのよ」
トウコも防御ができないわけではないんだけどな。
挑発に弱いし、すぐにキレるが、魔法を使わなかったらちゃんと守る。
「わかった。ルールの方は?」
「まずペア戦はこの前の魔法大会とまったく同じだから説明はいらないわね」
勝てばいいわけだな。
「寝技だな」
「あの……それはやめた方がいいわよ。今だから言うけど、トウコさんをそれでギブアップさせた後、女子寮で結構言われたから」
マジかよ……
「女子相手にはマズかった?」
「ええ……ちょっとね……さすがに今は兄妹だったからかーってなってると思うけど、客席から見た感じがちょっとよくなかった」
うーん……
「先生もそう思います?」
ジェニー先生は審判だったから一番近くで見ていた。
「すごく悪かったですよ。先生は子供の頃に柔道をやっていましたからそういうこともあるだろうと思いますが、そういう格闘技に詳しくない女生徒は痴漢野郎って思っても不思議ではない光景でした。まあ、トウコさんの裸絞めも相当でしたけど」
痴漢野郎になっちゃうのか……
というか、ジェニー先生って弱そうだけど、柔道経験者なんだ。
「そう思った?」
シャルに聞く。
「いや、私はあなた達が兄妹なことを知ってたから……それにあなたに体術を教えてもらっているからわかっている」
寝技は教えてないけどな。
「じゃあ、普通にやる。チーム戦は?」
「それはちょっと複雑ね。これは勝ち負けというよりポイントを稼ぐ戦いになる」
ポイント?
「何それ?」
「敵を倒したら3ポイントを獲得、逆に味方を失ったら1ポイント減る。そして、すべての試合を終えて、より多くのポイントを稼いだ上位2組が決勝ラウンドに進出するってことね」
ほうほう……
「シャルが自爆したら2ポイント得るわけ?」
敵を倒して3ポイントだが、シャルが死ぬのでマイナス1ポイント。
「例えは嫌だけど、そういうことね」
「それは攻撃した方が良いな。ロナルドでなく、イルメラを入れるべきだったか?」
「それはどうかしら? 5対5だから1人失うとバランスが崩れる恐れがあるわ。例えばだけど、市街地戦であなたが死ねば私も死ぬ」
いや、頑張れよ……
まあ、ユキとイルメラは守ってくれないだろうし、ロナルドもユキのフォローで精一杯だとは思うけど。
「うーん、まあ、相手が見えないから何とも言えないか。今のでいこう」
「そうね。それで試合時間は2時間。もちろんだけど、全滅した時点で終わりね」
2時間は長いな。
「フィールドって事前に見れないのか?」
「見れないみたい。ただ、広さは決まっていて1キロ四方らしいわ」
広いな、おい……
「それって逃げ切れんか?」
「そうね。その選択肢もある。だからこそ撃破の3ポイントが重いのよ」
これ、どっちみち、後半が有利じゃない?
他のチームのポイントを見て、作戦を立てられるし。
「うーん、難しいな」
「それはどこも一緒よ。これが初めての試みなわけだからね」
「シャル、とことんついてないな。そんな時に生徒会長でリーダーなわけだ」
「本当にそうよ。同級生にトウコさんがいるだけでも最悪なのに……1年遅れたかったわ」
もどかしいねー。
「でも、そうなると俺は勉強についていけずに退学してたかもな」
さようなら、俺の腕。
「そこは頑張ってよ」
シャルが笑う。
「俺はシャルが同学年で良かったわ」
「まあ、そうね。良いこともあったわ」
俺もそう思う。
というか、トウコが遅れて生まれてくれば良かったんだよ。
なんで一緒に生まれてくるかね?
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