第192話 ったく……
イルメラとユイカに了承してもらい、この日を終えると、翌日から普通の授業が始まる。
対抗戦についてはまだ発表されていないのでその話はできないが、ユイカは毎日のようにウチに来て、トウコとミシェルさんのレッスンを受けていた。
良いことだと思いつつ、ミシェルさんが働きすぎて大丈夫かなと心配になる。
そんなこんなで金曜になり、シャルと一緒に呪学を受ける。
相変わらずのチンプンカンプンさだったが、それでも真面目に授業を聞き、今週の授業を終えた。
「疲れる……」
「そうね……」
ん?
「どうしたん?」
俺はともかく、シャルにも疲れが見えるのは珍しい。
「例の件よ」
対抗戦ね。
「何かあった?」
「人選に異議が……」
あー、なるほど。
「アーサーとヘンリー?」
「そうね……イヴェール派で固めるべき、と……」
イヴェール派のトップが人選権を持っているわけだし、まあ、わからないでもない。
少なくとも、ラ・フォルジュの俺とトウコは外したいんだろうな。
「その2人、ノエルに嫌われそうだな」
ノエルもイヴェール派なのだ。
「さすがにノエルは外すわよ」
シャルが苦笑いを浮かべた。
「自分も外れたい?」
「うん。ちょっと明日、相談に乗ってくれる? 実は競技内容が判明した」
おー!
「あの女も呼ぶ? 隣の部屋でレッスンしていると思うけど」
明日はウチで勉強会の予定なのだ。
「ミシェル先生でしょ」
シャルが怒ったような表情になる。
もちろん、シャレだ。
「あの人、一応は先生だし、審判もしてたから良いアドバイスをくれると思うんだ」
「確かにね。クロエも呼ぼうかな……」
「良いと思う」
六連覇さんはやはり強いだろう。
「クロエも行っていいかしら? 今さら過ぎることを言うけど、イヴェール派の腹心の家の子よ」
そのイヴェールの次期当主が本当に今さらなことを言っている。
「まあ、いいでしょ。母さんも知っているし」
海に行く時に運転手をしてもらったから会っている。
「じゃあ、クロエと行くわ」
「了解。帰ろうぜ」
「そうね」
翌日、朝から公園でシャルと武術の練習をした後に家に戻ると、シャワーと朝食を済ませる。
すると、ミシェルさんがやってきたので部屋に招いた。
「休みなのにすみませんね」
「これくらいいいわよ」
良い人だ。
「お粗末チビコンビのレッスンは?」
「午後からにした」
「どうです?」
「お嬢様の武術が上達しないのと同じ感じ」
朝も見てたわけか。
「受け身は上手ですよ」
「やられてどうするのよ……」
ミシェルさんが呆れていると、チャイムが鳴った。
「あ、シャルだ。ちょっと待っててください」
「いや、私も降りる。お茶を用意するわ」
「わざわざすみません」
「いいの、いいの。お嬢様にツカサ君と部屋で2人きりだったって思われたくないし」
そっすか……
1階に降りると、ミシェルさんがリビングに向かったので玄関に行き、扉を開ける。
すると、シャルとクロエが立っていた。
「お待たせ」
「ちょうどミシェルさんも来たところだわ」
「先生も大変ね」
ホントにねー。
「ツカサ様、ミシェルはどこに?」
クロエが聞いてくる。
「お茶を用意するって言ってたからキッチンだと思う」
「やはり……いけません。それは私の仕事です」
クロエが靴を脱ぎ、リビングに入っていった。
「これは奥様。お邪魔しております。本日もお綺麗ですね――ミシェル、私の仕事を取らないでください」
いや、母さんの仕事では?
「まあいいや。上がろう」
「そうね。トウコさんは?」
「寝てる」
まだ9時前だもん。
あいつは10時まで起きてこない。
「いつも寝てるわね」
「しゃーない」
俺達は階段を上がると、部屋に入る。
そして、シャルと待っていると、クロエとミシェルさんが部屋に入ってきた。
「どうぞ、どうぞ」
クロエがお茶をテーブルに置く。
「どうも。母さんは何て?」
「私なんてもう若くないですよーって言っておられましたね」
絶対に若いって思ってる。
「実際、ジゼルさんは若いけどね」
「ミシェルさん、そういう話はやめて。逆算されるじゃん」
あれがいつ俺達を生んだのかがバレてしまう。
「え? お母様って何歳……?」
ほらー、シャルが興味を持った。
「ジゼル様は34歳ですね」
「若っ!」
メイドはなんで知ってるんだ?
いや、ラ・フォルジュの人間相手だし、知ってるか……
「シャル、脳裏でしているであろう計算をやめるんだ」
「そ、そうよね……」
まったく……
「変なことを言ってごめんね。じゃあ、本題に入りましょうか。お嬢様は校長先生から競技内容を聞いたのよね?」
ミシェルさんがシャルに確認する。
「はい。ミシェル先生も御存じで?」
「一応ね……説明してあげて」
ミシェルさんが説明好きのシャルに振った。
「わかりました。えーっと、競技は2つね」
「あれ? 少ないな」
「最初の試みだからね。シンプルなものにしたんでしょ」
なるほどな。
となると、殴り合いだ。
「その2つは?」
「1つはチーム戦かしら? 広いフィールドで5人が1チームになってランダムで選ばれた魔法学校と3戦する。それで成績上位の2校が次の競技に進めるらしいわ」
「決勝ってこと?」
「そうね。その決勝は魔法大会と同じでペア同士の戦い。これは勝ち抜き戦。先に3勝した方が勝利」
なるほどね。
確かにシンプルだ。
「決勝ラウンドは後だな。最初のチーム戦に勝てないと話にならない」
「ええ。そういうわけでチーム戦の方を説明するわ。フィールドは3つ。森、市街地、校内」
んー?
「そんなところがあるのか? ボロボロになるぞ」
魔法使いが戦うんだからヤバいだろ。
「空間を作るのよ。原理はアストラルと一緒。そして、そこに演習場と同じような結界を作る。当たり前だけど、今回の対抗戦はあくまでも演習であり、競技だから死んだらマズいのよ。じゃないと、それこそ戦争じゃないの」
ふーん……
「そんなにホイホイ作れるものなの?」
「作れないわ。運営委員会は今回のイベントをそれだけ重要視しているってことね」
「そっかー。ちなみに、優勝賞品は?」
「ない」
そこに金と労力を使えよ……
これだから大人は……
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